第327話 棒
ウリウの護衛であったダースタの妹に魔法を見せるなどした。
長屋を離れる前にウリウたちの話も聞いた。
湧き点についてはジャロウのじいさんが報告に行って小金を貰ったそうだ。
ウリウやダースタたちにも軽く聞き取りが来たらしい。
もしかすると俺たちにも確認が入るかもしれないということだが、来たとしても大したことは聞かれないそうだ。
ここの領主がどうするのかは分からないが、おそらく調査隊を派遣して、湧き点の位置や規模、出現する魔物の調査などが行われる可能性が高いとのこと。
それらをどこまで公開するかはまちまちのようだが、おそらく湧き点が出来たということ自体は市民にも共有されるようだ。
そこで何かしら情報が入るかもしれない。
ウリウたちの今後だが、彼らもしばらくゆっくりするようだ。
ダースタたちが家に帰ったりなどしている間、ウリウは何をしているかと言えば、命を落とした巨人族の家族に挨拶に行っているそうだ。
……護衛置いて行って大丈夫なのかね?
西門近くまで帰ってきて、貸し倉庫に帰還する。
入り口で木の棒を振るって鍛錬しているキスティ、奥で何かいじっているアカーネ、そしてチョロチョロしているアカイトが中にいた。
「ただいま。サーシャたちは? おっと!」
「ふっ! 買い出しに出たぞ!」
手を止めないキスティの棒を籠手で受けながら話す。
ニヤリとしたキスティは再度斜め上から斬り落とす形で棒を振り、それを半身になりながら避けた俺に、棒の反対側を押し出すようにしながら追撃態勢に入る。
俺は棒ではなくキスティの腕を掴んで動きを制する。
「体術もなかなかサマになってきたではないか!」
「ステータス補正だよりな気もするがな。で、サーシャは何を……まあ、食材か」
「食い物もそうだが、ついでに町の様子を見てくるそうだぞ!」
「ほー。ルキが付き添いか」
「ドン殿もな! あの2人がいれば、そうそう心配はなかろう」
「キスティとドンの上下関係ってどうなってんだ……」
「む。上下関係などないが、最近はドン殿というのがしっくり来てなあ」
ドンがウチのメンバーを攻略しつつある。
本物の首領になる日も近いのかもしれない。
「あいつの好物の実が残り少ないからなあ、この辺でも何かあればいいが」
「サーシャ殿が一緒なのだ、あるならきっと気を回しているはずだぞ」
「そうだな」
まだ訓練を続けるらしいキスティの肩を叩いて奥に進む。
アカーネはすり鉢に入れた魔石粉を鉄の棒に振りかけて何やら作業している。
その周囲ではアカイトがチョロチョロしている。
邪魔しているようなら注意が必要だが、どうもアカーネの汗を拭いたりと助手気取りのようだ。
「アカーネ。今は何してるんだ?」
「ご主人さま。良いところに来た」
アカーネはパッとこちらを向いて嬉しそうにした。ドキッ!
「なんだ、俺が必要か?」
「気配探知、使ってみて! この棒を持って!」
目当ては俺のスキルか。
仕方ない、棒を持って集中して気配探知を放ってみる。
「ありがと!」
アカーネは感謝の言葉を言う時間すら惜しいようで、口早にそう言うと鉄の棒を抱えて集中しだした。
「うむむ、凄まじい集中力でござる!」
俺の側まで来たアカイトが、自分のヒゲを弾きながら唸る。
「アカイト。邪魔はするなよ」
「失敬な! 殿と言えど抗議いたしますぞ! 拙者、アカーネ殿の世話をしていたまで」
「そりゃ悪かったな、ありがとう。今日はずっとあんな感じか?」
「そうですな! 少し前から準備しておったようでしてな!」
「そうか」
俺も修行するか。
アカーネを邪魔しないように気を付けながら、氷魔法を創ってはアカイトに放って修行する。
別にいじめではない。アカイトはアカイトで、その氷魔法を避けたり打ち落としたりして訓練しているのだ。
チョロチョロと動き回るアカイトを魔法で追うのは大変だし、結構良い練習になる。
それにしてもこいつ、意外と戦闘センスがある気がする。逃げ方も即興の割に迷いがないし、予測しにくいのだ。
逃げ回って蝶のように舞いながら、隙を見つけて蜂のように刺す。
以前、アカイトに適当に言った助言だったが、本気でアカイトに合っている戦法な気がする。
「殿、このスキルは便利ですな!」
「ん? ああ、この前会得した『体重操作』か?」
「さよう! 跳びたいときと、ブレーキをかけたいときと……とにかく動くのが楽しいのでござる!」
「ほー。もうコツを掴んだか。良いスキルだったみたいだな」
「まだ掴みかけているくらいでござるが、楽しいのですぞ」
それは何よりだ。
俺が氷魔法で新しい技にチャレンジして、アカイトは新しいスキルを試しながら辺りを動き回る。
ウィンウィンの訓練になったな。
いつの間にか時間を忘れて没頭していたようだ。
気配察知に反応があり、入り口を見ると麻袋を抱えたサーシャが帰ってきていた。
「おう、おかえりサーシャ」
「……はい。見事に各々、散らかしてますね?」
これは、ちょっとキレてる。
「あー、アカイト。ちょうど片付けようとしてたんだよな?」
「むっ? あ……。うむ、もちろんですぞ!」
アカイトが空気を読んだ。成長を感じる。
「ええ、お願いしますご主人様。キスティ! アカーネ! ちょっと来なさい!」
キスティとアカーネはサーシャに呼ばれてすごすごと集まっていく。
俺とアカイトの周りは、氷魔法の残滓が転がっているくらいだ。
掃き集めて、魔素帰りまで邪魔にならないようにすれば良いだろう。アカイトから飛び散った汗は自分で拭かせよう。
ひととおり氷魔法を掃き集めた後。
アカーネたちが掃除に駆り出されているのを見ながら、サーシャの買い込んできた食料を漁ってみる。
近くにはドンが座り込んで、何やら食っている。
見た目は豆っぽい……落花生か?
「ドン、そりゃ何だ? 美味いのか?」
「ギュ。ギーギー」
美味いが俺にはくれないっぽい。
「好物だった何とかの実とどっちが美味い?」
「キューン」
「そうか、同じくらい美味いのか」
「キュキュ」
何やら視線を感じる。
振り返ると、キスティに代わって入り口付近に陣取ったルキがこちらを見ていた。
「なんだ? ルキ」
「主様。前々から少し思っていたのですが……ドンちゃんと会話できるのですか?」
なんだ、そのことか。
「最初はノリというか、まあこいつ感情豊かだし、賢いだろう? 何となく言いたいこと分かるかもという感じだったんだが……なんかいつからか、普通に言いたいことが分かるような気がしてきてな」
「すごい。シャオの言うことも分かりますか?」
「いや、そっちは分からん。ルキの方が分かるんじゃないのか?」
「鳴き方で少しは分かるつもりですが。主様とドンちゃんのように会話は出来ません」
うむ。
もしかすると、隷属させた効果かとも思ったのだが。ルキとシャオも隷属契約はあるので、この違いはなんだろうな。
ドンの方が知能が高いからか。
あるいは『干渉者』の仕業か。
もしくは……言葉と言えば、白ガキの仕業か。
「それはそうと。ルキ、市場では何かあったか?」
「いえ、特にこれといったことは。色々とサーシャさんの気になる食材があったようでして、この量になりました」
麻袋は一つ一つが抱えるような大きさだが、それにパンパンに入ったものが3つある。
なかなかの大漁だ。
「そうか。ルキにも迷惑をかけたな」
「新しい土地に来るとワクワクするので気持ちは分かります。東の方では見たことがない種族の方も見掛けました」
「ああ。俺としては、ネコっぽい顔の人種が気になるな。結構居るよな?」
「確かに多いですね。何と言う種族の方なのでしょうね」
ネコっぽい特徴の種族というのは東でもたまに見た。しかし、もうまんまネコ顔の種族という東では珍しかった種族があちこちに歩いているのだ。ケモナー歓喜。俺は違うぞ。でもモフりたい……。
「主様は獣耳がお好きですね」
「……別にそういうわけではない」
夜のキャットファイトではルキのケモミミを弄びがちなので、誤解されたようだ。
誤解だよ?
「ご主人さま〜。これ見てー」
片付けを終えたアカーネが鉄の棒を持ってこちらに来た。
「さっき作ってたやつか」
「ご主人さまの『気配探知』を付与してみたの」
「ほう」
「魔力流してみて」
「俺が流した方が良いのか? まあ、やってみるか」
慎重に魔力を棒に流す。
若干詰まりがあるが、大きく乱れることはなく魔力が流せた。
棒がドンの方をくいっと向いた。
「……なんだこれ?」
俺の「気配探知」とは別物じゃねえか。
「おおーすごい、すごい! やっぱり天才かも、ボクってば〜!」
「少し説明を頼むぞ」
「う〜んとね。魔力を飛ばして、探知するってとこまで再現できてるわけ。でも、帰ってきた情報をキャッチするとこができなくて。だから……とりあえず反応があった方を向く感じで試してみたの」
「ほう。つまり、探知して一番近くにいるヒトの方を向くってことか?」
「ヒトだけじゃないと思うけど、まあそんな感じ!」
「そりゃ地味に凄そうだ」
……何の役に立つかは謎だ。
大いに謎だが、それは言わぬが花ってやつだ。
「これ、どうしたら役立つようになるかな〜? 魔物の気配だけ拾って、そっち向くとか?」
そのままでは使えないことは、言わぬまでもアカーネも自覚していたようだ。
魔物の方を向くとかなら、確かに使いようはありそうだ。
「それが出来たらすごいぞ。アカーネは天才だな」
「えへへ〜、まあ、それほどでもある?」
ウリウリと頭を撫でておく。
「これから、魔石粉が余ったらどんどん作ってくよー! ご主人さまも協力してよね」
「あー。そうなるか」
俺のスキルを元に術式化したのだ。
俺のスキルが必要になる。
しかも、毎回術式は違って出てくるらしいから、一回やれば良いというわけでもないっぽいのだ。
「どうしても、スキルの核の部分はコピーするしかないみたいだから。ごめんね?」
「まあ、構わん。気配探知ならいつも定期的に使ってるしな」
気配察知と探知を打つのは、すっかり手グセのようになっている。
それで周りに大きめの虫とか見つけてしまってゲンナリする場合もある。
意外な使い道もあるかもしれないし、これもウリウに売ってみて貰おうかね?
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