第325話 倉庫

 湧き点の発生に遭遇しながらも、何とかリックスヘイジまで辿り着いた。


「……ここまで来れば、ひとまず安心か」


町は丘の上にある。

入り口にたどり着くには、最後に斜面を上っていかなければならない。

夜通し歩いたせいで、流石にへとへとだ。


「生きた気がしなかったわい」


ジャロウがかすれ声で呟いている。


「ジャロウほどのベテランでも、湧き点の発生に立ち会ったことはないのか?」

「ない。普通はヒトの往来がある道には出来にくいんじゃが……」

「そうなのか」

「知らんのかえ? 町の周辺で魔物狩りが徹底されとるのも、そのためじゃぞ」


町の周囲にヒトが立ち入らない場所があると、湧き点が出来る可能性があるということか。


ヒトが増えて、地に満ちたら魔物は出なくなるのか?

そう思うが、どうやらそれも違うらしい。

ヒトが通る場所と通らない場所を比べたら後者に湧き点ができやすいというだけで、湧き点ができなくなるということではないのだとか。


「ところで、報告は誰がするんじゃ?」

「報告が必要か」

「無論じゃ」

「報奨金とか、出たりしないのか?」

「……多少は出るかもしれんの」

「それなら、ウリウかジャロウに任せても?」

「ふむ。儂がしておこうか?」


ジャロウが湧き点発生の報告をしてくれるようだ。

どれほどの手柄になるか分からないが、ここは任せるか。


「ウリウと話して決めてくれ」

「構わないっすよ、俺も」


ウリウもジャロウに任せることで異論ないようだ。


「しかし、しばらくは霧降りには向かえないっすねぇ」

「商売は大丈夫か?」

「霧降りに売れないのは、ちょい痛いですがね。でも大きな商いになるのはやっぱ、ここみたいな大きな町っすから。何とかなりまさぁ」

「そうか。リックスヘイジで商売した後はどこにいく予定だ?」

「そいつは今から考えるとこっすよ。旦那に頼まれた商会準備の件もありやすし、しばらくはここにいるでしょうが」

「ああ、頼む。損失が出たばかりだろうから、無理はするなよ」

「へえ。それで? 旦那は次、どこ行くんです?」

「俺たちも今から考えるよ」

「ひとまずお別れっすかねー、旦那が護衛に入ってくれて命拾いしましたぜ!」


俺も、ジャロウとかが一緒のときで助かった。

湧き点の発生など、俺たちだけで遭遇してたらどうなっていたことか。



「ウリウじゃねえか。調子はどうだ?」


門衛は赤銅色の顔色をした、かなり身長の大きい人物で、ウリウを見ると親しげに話しかけてきた。


「悪くないと言いたいところだけど、今回は色々あってね」

「あん?」

「湧き点が出来たみたいだぜ、西の森の方」

「おいおい、マジかよ」

「詳しくはジャロウのじいさんに報告してもらうつもりなんだが、お前らも気をつけろよ」

「何の魔物が出た?」

「見たのはヒトツメだ」

「森でヒトツメか、厄介そうだぜ」


気になる話題だったのだろう、他の門衛も寄ってきて質問攻めにされるウリウ。


「あー、俺たちはウリウの連れなんだが、先に門を通っても?」


門衛の1人に声をかけてみる。


「ん? ああ、構わねえぜ。空いてるから勝手に入りな」

「おう」


なんか適当だな。

辺境だからこそ、魔物以外への警戒は低いのだろうか。

ウリウたちは顔見知りの門衛たちに捕まっているし、これから湧き点発生の報告などもある。

俺たちは先に門を潜って中に入ることにした。


ウリウの護衛メンバーとは、また顔を合わせることもあるだろう。



中に入ると、今度は下りの階段が目の前に広がる。

降った後は正面に上りの斜面が広がり、左右に道が通っている。その道の左右にも斜面があり、それらの斜面を利用するように多数建物が作られている。


階段を下りて左右のどちらかに進むと、斜面の低めの所はお店エリアのようだ。そんなに数も種類も多くはなく、食べ物、武具、雑貨用品の店あたりが並んでいる。

宿の場所を尋ねると、空き倉庫を貸してくれる店があり、それが宿代わりのようだ。


「何日か使うなら、穴銭20ってとこだな」


貸し倉庫を借りに行くと、猫っぽい顔をした小柄な人物が値段を提示してきた。


「20か、はいよ」

「この街は初めてか?」

「まあ、そうだな」

「あんたらもクダルの関係者かい?」

「クダル家か? 違うが、興味があるな。連中はどこに行けば会えるんだ?」

「知らねえがよ、東門の方にいきゃいるかもな。何度も来ては、色々取引もしてるみたいだから」

「へえ。東門ね」


俺たちが入ってきたのは西門だから、ちょうど逆の方になる。


鍵を借りて貸し倉庫を開くと、何もないがらんとした倉庫だ。斜面の端っこを上り切った場所にあり、立地は良くない。しばらく使用されていないのか、埃っぽい。


「……少し掃除が必要ですね」


サーシャがそう言って、早速窓を開けて回る。

掃除の指揮はサーシャに任せて、俺は水魔法で汚れを流す係に徹する。

ひと段落したところでテントや寝袋を広げる。

本当に何も設備がないので、寝具も自前のものを使わざるを得ないのだ。


「明日にでもクダル家の者に会いにいくか?」


キスティが尋ねてくる。


「そうしても良いが、少し休みたいな。皆の疲れが取れたら、東門に行ってみよう」

「急ぐ用事でもないし、それが良いか」


準備がひと段落したら、自由時間にする。

サーシャは食事準備、アカーネは魔道具いじり、キスティとルキは訓練……とそれぞれの趣味に走るのが常だが、珍しくまとまって何やら紙を取り出して勉強を始めた従者一行。


何をしているのか尋ねると、この辺りの言葉を勉強しているのだとか。

今のところ両方問題なく話せるのはジグくらいだが、アカイトも地味に共通語を操り始めている。長いこと東の家に放置したから。

今はジグが別行動のままだが、少し喋れるようになってきたサーシャを中心に、アカイトが補佐して勉強会を行うらしい。

熱心なことだ。


白ガキのおかげで、自然と喋れるようになっていた俺はズルしたようで申し訳ないな。

正規の学習をしなかったわけで、俺が教えられる気はしない。


眉を寄せるキスティたちを眺めながら、久しぶりにゆっくりステータスチェックでもするか。


*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(31↑)魔法使い(33↑)魔剣士(24↑)※警戒士

MP 58/66

・補正

攻撃 D

防御 F

俊敏 D-

持久 E

魔法 B-

魔防 D+

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加、サブジョブ設定、天啓

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法、溶岩魔法、性質付与

身体強化魔法、強撃、魔剣術、魔閃、魔力放出、魔創剣、受け剣(new)

気配察知Ⅱ、気配探知、地中探知、聴力強化Ⅰ、レストサークル

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ、ルキ、ジグ、アカイト、ゲゲラッタ、アレシア

隷属獣:ドン

*******************


ティルムとの戦いとか、それなりに修羅場も潜っているからか、レベルはぼちぼち上がっている。

『魔剣士』が24になったのは今気付いたが、何やらスキルが生えたな。

さっそく「スキル説明」で表示してみよう。



『受け剣:両手に装備した剣に一定の防御補正を適用する』



「受け剣」か、これはシンプルそうなスキル。

剣が壊れにくくなるということだろうか。


「魔創剣」で創った剣にも適用されるのかが気になるので、いくつか創り出しては打ち合わせてみる。

……おそらくだが、前より硬くなったような?


強度不足になりがちな「魔創剣」が受けにも使いやすくなったとなると、まあ悪くないスキルだ。



他にも、戦闘中はなかなかメインでは付けられないが『警戒士』はレベル32、『隠密』もレベル25に上がっている。

『愚者』さんはレベル24に。


『愚者』はスキルが便利なので『魔剣士』と切り替えて使っているが、『魔剣士』構成が攻撃D・防御F・俊敏D-と伸びてきているのに対して、『愚者』に切り替えると攻撃F+・防御F+・俊敏E-となって、白兵戦で見劣りする。

魔力量は『愚者』の方が多いし、魔法戦している時は問題ないのだが。



自分のステータスをしばらく眺めた後、サーシャたちも順番に見ておく。

ペタペタと首筋をタッチする俺に、一瞬目線をくれる従者たちだが、すっかり慣れたものだ。すぐにステータス確認だと合点して作業に戻ってしまう。



*******人物データ*******

サーシャ(人間族)

ジョブ 十本流し(23↑)

MP 19/23


・補正

攻撃 E

防御 F

俊敏 F+

持久 F+

魔法 G

魔防 G

・スキル

射撃大強、遠目、溜め撃ち、風詠み、握力強化、矢の魔印、魔法の矢

・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************


サーシャの『十本流し』は23まで上がってきた。

元の『弓使い』がレベル22まで上げたはずだから、ついに抜かした。


サーシャは『十本流し』の元ネタである聖グリフィについてたまに調べているようだが、伝承以上のことはなかなか分からないようだ。

古代帝国以前の人物ということだから、流石に死んでいるのだろうが。


ジョブとスキルを活かすヒントになるかもしれないと、たまに調べているらしい。



*******人物データ*******

アカーネ(人間族)

ジョブ 魔具士(33↑)

MP 26/26


・補正

攻撃 G+

防御 G+

俊敏 F-

持久 F+

魔法 E+

魔防 E-

・スキル

魔力感知、魔導術、術式付与Ⅰ、魔力路形成補助、魔道具使用補助Ⅰ、魔撃微強、スキル術式化

・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************


アカーネの『魔具士』はレベル33になった。

「スキル術式化」を会得したのがレベル30だったはずだ。


それ以降、色々実験しているようである。

俺も魔法スキルを使わされて、術式化できないか実験台にされることが多い。


相当苦戦しているようだが、少しずつ前進しているようではある。



*******人物データ*******

キスティ(人間族)

ジョブ 狂戦士(33↑)

MP 16/16


・補正

攻撃 C

防御 N

俊敏 F+

持久 F+

魔法 G−

魔防 G−

・スキル

意思抵抗、筋力強化Ⅱ、強撃、大型武器重量軽減、身体強化Ⅰ、狂化、狂犬、不屈

・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************


キスティの『狂戦士』は結構前にレベル33に上がった。

そろそろ新スキルが生えても良さそうだが……。



*******人物データ*******

ルキ(月森族)

ジョブ 月戦士(32↑)

MP 22/23


・補正

攻撃 E-

防御 D-

俊敏 G+

持久 F+

魔法 G+

魔防 E+

・スキル

覚醒、夜目、打撲治癒、柔壁、シールドバッシュ、スタンプ、見えざる盾、視認低下

・補足情報

ヨーヨーに隷属

隷属獣:シャオ

*******************


最近頼りになるルキさんは、レベル32。

狙ったわけではないが、キスティのレベルと一進一退で、バディ感が出ている。


レベル30で会得した「視認低下」は普段から積極的に使っているようだ。

回り込んだルキが敵を奇襲するような挙動が成功することが多いのは、これのおかげのようだ。


地味だが重要なスキルで、ティルムと渡り合った際も少なからず貢献していたかもしれない。



*******人物データ*******

アカイト(ラキット族)

ジョブ 森の隠者(22↑)

MP 18/28


・補正

攻撃 G-

防御 G-

俊敏 F

持久 F

魔法 E-

魔防 E


・スキル

隠者の知恵、樹眼、隠形魔力、戦士化、地形記録、体重操作(new)


・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************


そして最後にアカイトだ。

……ん?


「アカイト。新しいスキルを会得しているが」

「拙者が!? 殿、何と言うスキルでござるか?」


本人にも自覚がなかったようだ。


「『体重操作』だ」

「ほうう。身体を重くしたりできるでござるか?」


何気に凄いスキルじゃないか、これ。

重力に干渉するとか。


いや、既に重い武器を軽くするスキルがキスティにあったか。


「『体重操作』を発動しようとしてみろ。魔力が動いた感じはするか?」

「むん! ……むうう、おそらく発動しているような、そうでもないような……」

「最初は慣れることからだな。ラキット族の長老にでも訊けば、何かスキルについて知っているかもしれんが」

「機会があれば訊いてみまずぞ!」


アカイトはひとしきり騒いだ後、ルキの傍で寝ているシャオに突撃をかましている。


もしかして、もっとシャオに乗るためにスキルが生えた、とかじゃないだろうな。

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