第285話 霧の世界

船の護衛をしていたら、敵船の接近を告げられた。


船員たちは再び忙しなく動き回りはじめた。

護衛組は自室で、いつでも戦闘に入れるように待機する。


俺たちも逸る気持ちを抑え、狭い部屋で各自が鎧を着込み、武器を点検したりしている。

カチャカチャという音が静寂に響く。

もう何時間になるだろうか、船を叩く雨音も、いつしか聞こえなくなっている。


敵らしき船の接近を発見したといっても、すぐすぐに接敵するほど近くはなかったのだろう。時間も余っているので、皆のステータスを改めてチェックしておく。


先日30レベルにレベルアップしたアカーネに続き、ここのところ俺も2つほど30レベルに到達したジョブがある。『魔法使い』と『警戒士』だ。『魔法使い』などは、まさに今朝レベルアップに気付いた段階である。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(29)魔法使い(30↑)警戒士(30↑)※愚者

MP 67/70

・補正

攻撃 E−

防御 E

俊敏 E+

持久 D−

魔法 C+

魔防 D+

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加、サブジョブ設定

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法、溶岩魔法、性質付与(new)

気配察知Ⅱ、気配探知、地中探知、聴力強化Ⅰ、レストサークル(new)

貫く魂、盗人の正義、酒場語りの夢、奇人の贈り物

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ、ルキ、ジグ、アカイト、ゲゲラッタ、アレシア

隷属獣:ドン

*******************



ステータス補正はあまり変わらないが、2つのジョブが30の大台に乗った満足感よ。

『干渉者』はまだのようだが。


そして、それぞれレベル30でスキルを会得している。

『魔法使い』は「性質付与」。これのスキル説明の文章はこうだ。


『性質付与:魔法的介入により、対象物に任意の性質を付与する』


これはやばい。

最初に見た感想がそれである。


流石に何でも自由自在というわけではないだろうが、また自由度が半端なさそうなスキルだ。まだ会得したてで研究できていないが、既に「魔力を使って水をちょっとぬるくする」ことは出来た。

……まあ、それくらいは普通に火魔法で温めろという話なのだが。それに、こういった自由度の高いスキルに特有の、スキル燃費の悪さはしっかり発揮していた。

正直、今日の戦いで役に立つとは思えない。


それでも、熟達していけば、対象を自由に熱くしたり硬くしたり、軽くしたり。

そんなことが出来てしまうのではないだろうか。


一方『警戒士』の「レストサークル」は即戦力になりそうなスキルだ。


『レストサークル:任意の空間に設定する。侵入検知および体力回復補助効果がある』


これである。

範囲は魔力によって調整できるようだが、効果そのものは固定されているようだ。

こういったスキルは拡張性がない代わりに、扱いやすい。

しかもこの「レストサークル」は固定された効果そのものがかなり有用だ。


侵入検知効果は、気配察知のスキルに似ている。

設定した空間内に侵入した存在がいる場合、それが分かるという効果だ。

気配察知と違い範囲は限定されるが、その分確実に情報が伝わってくる。

スキルによって「侵入があった」ことが直接頭に書き込まれるような感覚に近い。


体力回復補助効果は、文字通り空間内にいる存在の体力の回復を補助するようだ。

この場合の「体力」は、ゲームのHPのような意味ではなく、身体の疲れがない意味での「体力」だ。レストサークル内で休憩すると筋肉痛が少しだけ早く治り、劣悪な環境でも快眠しやすいといった効果のようだ。

地味だが有用。数日前に会得を確認してから、船での睡眠時には設定するようにしている。


優秀なのは、俺が寝ていても残るという点だ。

意識的に解除するまで魔力を使い続ける仕様で、俺がそのまま寝てしまっても残り続けていた。

ただ、設定時にいなかった誰かや、一度外に出た誰かがサークル内に入ってくると、強制的に情報が頭に流れ込んできて起こされてしまう。仲間が出入りするだけで起こされてしまうのは欠点だが、警戒用という意味では便利だ。

また、どうやら小さい虫などは無視する仕様のようなので、小さな刃などで攻撃されたらスルーしてしまうかもしれない。設置したとしても、油断はできない。


他のジョブもちょこちょこレベルは上がっているが、新しいスキルはない。

俺はこんなところだ。



*******人物データ*******

サーシャ(人間族)

ジョブ 十本流し(19↑)

MP 21/21


・補正

攻撃 E-

防御 F-

俊敏 F

持久 F

魔法 G

魔防 G−

・スキル

射撃大強(↑)、遠目、溜め撃ち、風詠み、握力強化、矢の魔印、魔法の矢

・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************



すっかり弓を構えた姿が似合うようになってきたサーシャ。

『十本流し』もレベル19までジャンプアップ。

活躍するたびに、気付いたらレベルアップしているイメージがある。


そしてレベル19で、「射撃中強」が「射撃大強」に変化した。

地味だが、弓での全ての攻撃の威力が増すと考えれば強力である。


そういえば、何故かお喋り会に招待してきたパーティ『マッドデーモン』だが、リーダーの後ろにいたぐるぐる巻きの奴が、帰り際に「聖クリフィの加護がありますよう」とか言ってきた。

確か『十本流し』の元ネタになった過去の偉人だった気がするのだが、サーシャのジョブに感付いての発言だったのだろうか?

それなりに有名な偉人らしいから、たまたまの可能性が高いか。


そして、レベル30に達したのがもう1人。


*******人物データ*******

ルキ(月森族)

ジョブ 月戦士(30↑)

MP 22/22


・補正

攻撃 F+

防御 E+

俊敏 G

持久 F

魔法 G

魔防 E+

・スキル

覚醒、夜目、打撲治癒、柔壁、シールドバッシュ、スタンプ、見えざる盾、視認低下(new)

・補足情報

ヨーヨーに隷属

隷属獣:シャオ

*******************


最近活躍著しいルキもレベル30に至った。

レベル29からはひと月くらい時間がかかっているが、それでもルキは「早すぎる」と感じたらしい。レベル30の壁というのは、それくらいで超えられるものではないと。

俺の『魔法使い』もレベル29からなんだかんだで2~3カ月は停滞していたから、確かにそうなのだろう。

それだけルキの経験が濃厚だったということの証左である。


さて、ルキもレベル30でスキルを会得している。

「視認低下」だ。

隷属者であっても、俺以外には「スキル説明」が使えないのでその効果はテストして研究するしかない。

とはいえ、今回は名前からして推測しやすかった。「視認」を「低下」させるということだから、使用者を敵が「視認」することを「低下」させるのだろうと。「阻害」ではなくて「低下」ということは何か意味があるのだろうが、まあ似たものと推測できる。

事実、実際にスキルを発動させてみると、まるでルキの全身が背景の保護色になったかのように、「見にくい」感じになった。

更に面白いことに、ルキだけではなく、「ルキが防御スキルで覆ったもの」も同じように見にくくなった。


自分が見にくくなるだけなら『隠密』のスキルのようだが、なるほど護っている者も隠せるのなら、守護職系っぽいスキル効果だ。



『あーあー、こちら船長のリグニです。僚船より戦闘号令を確認。護衛戦闘員は準備を整え、総員戦闘機動に備えて』



部屋の上にある管から、船長の声が響いた。来たか。


魔導剣を持ち、背中に装着する。

そして壁に取り付けられた縄を握る。


ほどなく、横向きに重力がかかり、揺れが激しくなる。

これが戦闘機動か。


『杭撃ち、左舷照準! 小型船を狙え!』


既に丁寧語ではなくなった船長の号令が、伝声管から断続的に響いてくる。

これはうっかりではなく、事前に説明があった。

伝える先をある程度切り替えられるらしいが、あえて戦況を伝えるために流したままにすると。


緊迫した様子が伝わってくるが、聞こえてくる声だけから判断すると、互角以上に戦っているように思う。


『よしっ! 引っ張った。杭打ちは待機。漕ぎを止めろ。ミレイ、動け!』

『こちら副長のミレイ。戦闘要員は甲板に集合せよ。急げよ、遅れた者は減給だぞ』


お呼びがかかった。


状況は良く分からないが、上手くいっているように聞こえた。

揺れは最初よりだいぶマシになったが、まだいつもよりは動く。

壁に掴まりながら、なるべく急いで上に向かった。



外は、霧の世界だった。

雨は降りやんだ代わりに、周囲に霧が立ち込めている。

それほど濃い霧ではないが、視界は制限されている。


俺たちは到着が遅い方だったようで、『マッドデーモン』や『大鰐の牙』は既に揃っていた。

傭兵団『渡り風』はバラバラと集まり始めているところ。


エリオットは、マリーと一緒に最初から甲板で待っていたようだ。


「諸君、出番だよ。右舷方向から敵戦艦が近付いている。合図があるまでは防戦。その後乗り込んで制圧だ」

「エリオット。のんびりしていて良いのか? その……」


エリオットが出てきた俺たちに説明しているうちにも、甲板の右舷方向に船員が弓を放っている。そして逆に弓が飛んできてやられたりもしている。ほとんどは盾で防いでいるようだが、早々に加勢すべきではないのか。


「ああ、もどかしいが待ちたまえ」

「そうか」


作戦の一環ならいいんだが。


「ぐあっ!」

「水の種族だ! 乗り込んで来てるぞ!」

「鉤爪だっ切れ!」


にわかに船員たちが騒がしくなる。


「……どうやら、出番のようだね」

「おおっ! いつでも出られるよ!」


エリオットが目を細めたのに反応して、傭兵団長のブライズが声を上げた。


「うん、『渡り風』と『マッドデーモン』は右舷の乗り込み部隊を排除して。残りは僕と一緒に、左舷の掃除だ」

「了解!」

「分かった」

「……」


1つの傭兵団と2つのパーティのリーダーがそれぞれ反応して、戦いが始まる。

俺たちは、『大鰐の牙』の面々と左舷の掃除らしい。

まさか、モップ掛けでもするということはあるまい。

何やら乗り込んできた敵を排除するお掃除だ。



行動を共にする『大鰐の牙』は、ほとんどが弓装備だ。こうなってくると、前線で戦うのは俺たちってことになるか。


「サーシャ、アカーネ、ルキはドンとシャオと『大鰐の牙』と一緒に行け。キスティ、俺と一緒に敵を海に叩き返すぞ」

「おお!」


キスティはやる気満々だ。

キスティと傭兵団長のブライズって、気が合いそうだよな。


「ルキ。例のスキルを使ってみろ。乱戦にサーシャを巻き込ませるな」

「承知しました」


ルキの「視認低下」はどこまで効果があるかな。

霧の戦場で更にスキルで隠れたとなったら、そうそう狙い撃ちはされないはずだ。

視界が悪いのでサーシャの狙撃の効果も限られるという側面もあるが。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(29)魔法使い(30)魔剣士(21)※警戒士

MP 61/62

・補正

攻撃 D−

防御 F

俊敏 E+

持久 E−

魔法 C+

魔防 D

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加、サブジョブ設定

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法、溶岩魔法、性質付与

身体強化魔法、強撃、魔剣術、魔閃、魔力放出、魔創剣

気配察知Ⅱ、気配探知、地中探知、聴力強化Ⅰ、レストサークル

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ、ルキ、ジグ、アカイト、ゲゲラッタ、アレシア

隷属獣:ドン

*******************


ジョブセットは、『魔法使い』と『魔剣士』のセットだ。

あとは霧の中での戦闘だ、『警戒士』は外せないのでサブジョブに。

戦闘中は『魔剣士』を付け替えながら戦うことになるだろう。


ちょっと前から魔力は使わないようにしていたが、完全回復には少し足りなかった。

まあ、敵船に乗り込んだら『愚者』の「盗人の正義」で節約しながら頑張ろう。


「僕は右舷に向かう。ヨーヨー君、そっちは頼んだよ」

「ああ、なるべく頑張るよ」


エリオットは敵船が近付いている右舷で指揮するらしい。

逆側から乗船してきた水棲種族たちが俺の開幕戦の相手になった。

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