第276話 目録

襲撃の際に、死んでなかった下っ端を配下に加えることになった。


1人は獣耳族の少年で、ゲゲラッタ。

耳の形は垂れ耳で、犬っぽい形だ。

おどおどしているように見えるが、食欲は旺盛なようだ。

ジョブは『ごろつき』。



*******人物データ*******

ゲゲラッタ(獣耳族)

ジョブ ごろつき(22)

MP 6/6


・補正

攻撃 E-

防御 G+

俊敏 G+

持久 G+

魔法 G-

魔防 G-


・スキル

威嚇、筋力増大、徒党、なわばり


・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************



レベルは案外高い。

スキルの「徒党」は仲間と一緒にいるときステータスが強化されるらしい。が、体感できないくらいの差だという。

「なわばり」も似たような条件付きの強化スキルで、こちらはなわばりとして設定した場所だと少しステータスが強化されるらしい。

「威嚇」はデバフのような効果だし、『ごろつき』ってのは案外、バフやデバフを駆使して有利を勝ち取っていく地味なスタイルなのかも。


他のジョブもろくに育っていないので、こいつはこのまま使うのが無難そうだ。

だが『ごろつき』かあ。


もう1人は竜紋族の少女で、アレシア。

皮膚が鱗のようになっている部分があるほかは人間族の見た目と似ていて、赤毛で短髪なこともあって、中性的な印象。顔立ちも整っていなくはないのだが、男性と言われたら「そうかも」となる感じ。頬から首にかけて鱗があり、眉間から頬に向けて紅い文様があるので、神秘的な美しさがあるかもしれない。まだ子どもっぽさがあるので、もう少し成長したら格好良い感じになるかもしれない。

ジョブは『殺人者』だった。ただレベルが5と低く、今後役に立たなそうだったので、誓いの儀で初期ジョブらしい『格闘家』に変えておいた。



*******人物データ*******

アレシア(竜紋族)

ジョブ 格闘家(16)

MP 4/5


・補正

攻撃 F-

防御 G+

俊敏 G+

持久 G+

魔法 G-

魔防 G


・スキル

血の高まり

打撃小強、魔破、強打、制動補助


・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************



レベルの割にはスキルが揃っている。

「魔破」はオーラ系の基本スキルの1つで、魔力を使うもの、特に魔法を打ち破ることができるという代物だ。ただ自身のMP消費も激しいうえに、使用者自身の技量によるところが大きいという。使いこなせば強いが、そうでないと燃費が悪すぎるだけという自由度の高いスキルにありがちな設計だ。是非とも使いこなして、魔法キラーになって欲しい。


しかも、ジョブスキル以外のスキルがひとつ。ジョブに関係なく最初から持っている初期スキルだ。話には聞いたことがあるが、仲間になるやつが持っていたのは初か?

効果は何となくだがアレシア本人が把握しているようで、発動すると魔力が回復しなくなる代わりに、増血や回復の効果があるらしい。回復といっても傷の治りが早くなるような効果で、致命傷を受けたり部位の欠損をどうにかするようなファンタジー効果はないそうだ。残念。


俺に手首を斬られて血を噴き出していたわけだが、生きていたどころか今ではケロッとしているのは、こいつのおかげらしい。

竜紋族にはたまに現れるスキルなのだとか。残念ながら本人にしか効果はないらしいので、回復役にすることはできない。便利だが、死ににくいというだけなのでレベルを上げていかないとあまり意味がないように思う。



2人には早速、掃除などの指導がサーシャから行われることになっている。

一通り終わったら、2人を残して出掛けるつもりだ。

そのうちゾラックも、2人のことに気付くかもしれない。しかし、彼の目的が勢力の拡大、敵対組織である『黒水』の戦力を削ぐことだけだったなら、ぶっちゃけ2人の生き死にはもう関係ないはずだ。金バエの頭領も死んだわけだし。

それでも2人を消しに来たら、それ以上の何かを隠していることの証左にもなる。

その場合も出来れば殺されてほしくはないので、戦闘訓練もキスティとルキがなる早で実施するつもりだ。


その後は、2人のことはとりあえず様子見だ。

別の場所に転移で移しても良いし、屋敷の留守番役として残しても良いし、信頼が置けるようなら旅に連れて行っても良い。



それよりも考えるべきは、2人のことより俺たちの今後の行動だ。

残っている仕事はエモンド商会と『もがれた翼』の仲介だが、それは俺が何かをしなくても進む気配がある。展開次第では、敵討ちを手伝うように依頼されるかもしれないが。

今のところエモンド商会から護衛契約の延長といった話も出ていないし、そろそろ次の目標も定めておかないと。


屋敷がようやく落ち着くので、改めてオーグリ・キュレスを拠点として転移先を繋いで何ができるかを考えるのが1つ。

そもそもオーグリ・キュレスで色々やっていたのも、この屋敷をゲットして転移装置を自由に使えるようにするためだった。

晴れて屋敷が俺たちのものになり、襲撃されることもなくなれば、いよいよ転移し放題だ。

物資の豊富なオーグリ・キュレスで色々揃えて、他の転移地点に持ち込めば色々とできるだろう。たとえばダンジョンの転移装置の場所に色々持ち込んでおけば、いざという時のセーフハウスとして使えそうだ。


あるいは、せっかくオーグリ・キュレスまで戻ってきたのだから、ピカタやエリオットに会えるまで粘ってみるのもアリだ。

キュレス王国がキュレス帝国になって、環境がどう変化するのか見極める必要がある。その間、下手に動くより旧知に会って情報交換する方が有意義とも思える。


もしくは、激動のキュレス帝国の波に乗るべく、仕事を探してみるというのも一手。

世の中が乱れれば、手が足りなくなった領主や戦士団からの仕事が増えるのが傭兵業だ。

今回エモンド商会とのツテが屋敷の購入に役に立ったが、他のツテを作るには絶好のチャンスなのだ。


帝国のゴタゴタに巻き込まれないという意味では、テーバ地方に舞い戻る選択肢もある。

あそこで魔物狩りしている分には余計なことには関わらずに済む。

何やらヤバい魔物が出て混乱中らしいから龍剣騒動の余波は吹き飛んだようだし、むしろ魔物狩りは歓迎されるだろう。



***************************



せっかく屋敷のこともひと段落したし、応接間に皆を集めて、今後の話し合いをする。

新入り2人には2階の掃除をさせている。2階は戦闘の跡と血で汚れた1階と違って、作動した罠が放置してあるくらいだったので、後回しにしていたのだ。

2人が寝泊りする寝室は2階になるから、しっかり自分たちでキレイにして欲しい。


応接間には古びた木製の長机が2つ並べられた列が2列ある。もともとは色々な物が置かれていた形跡があるのだが、今のところ応接する予定もないので、とりあえず地下にあった長机を引っ張り出して並べている。

それぞれの机には左右2つずつの椅子が置かれており、全部で16人まで着席できる。

新入り2人を除いて7人で、護獣2匹は椅子を使っていない。そしてアカイトはシャオの上に乗っているので、椅子だけ他の場所から持ってきて、列の半分である1つの机をちょうど囲む形だ。


俺はお誕生日席の位置に座り、左にはサーシャ、キスティ。右にはルキ、アカーネ、対面にはジグが座る。

机の上にはシャオとアカイトがおり、ドンは部屋の隅で寝ている。

護獣とアカイトはともかく、他のメンバーは最近この並びが多い。どうやらサーシャを中心に何やら決めたらしい。


風魔法で音遮断の風壁を作り、会議を始める。


「サーシャ、戦利品の整理はできたか?」

「はい。メモ程度ですが、目録も作りました」

「おお、そうか」


別に仲間内のことだから、口頭報告でも良いのだが、マメだ。

渡されたメモを見ると、サーシャの丁寧な字で襲撃してきた奴らから奪った戦利品が書かれている。


銀貨2枚、銅貨31枚、その他屑銭

鑑定依頼中の武器(紅く光る剣、闇斬りの剣、忍者っぽい奴の爪ナックル、投げナイフ12本)

影蜘蛛布の着物

血紅石の籠手×1セット

音消しの足袋×4セット

閃光の魔道具×8

吸光の魔道具×4

止血ポーション×5

瓶入りの毒×3

その他武器(剣・槍・ナイフ)など


とりあえず武器っぽいものは全て没収し、他の持ち物もアカーネの見立てと直感で魔道具っぽいものは全て取っておいてある。

武具で魔道具っぽいものは魔道具屋の鑑定に回している最中だ。


武具で言うと、影蜘蛛布の着物と血紅石の籠手、音消しの足袋をゲットしている。

影蜘蛛布の着物は霧族のやつが着ていたもので、探知系スキルを阻害する効果のある布を使っているらしい。

血紅石の籠手は地下に滑り落ちたやつが着けていたらしいのだが、良い素材のものらしいので回収。

音消しの足袋は靴下のようなもので、あまりサイズに関係なく使えそうなので回収しておいた。


何か付与された効果がありそうというアカーネの見立てで回収しておいたのだが、アレシアによって音を立てにくくする効果のものだと判明している。


そして使い捨ての魔道具。改造魔石のようなものだが、奴らは閃光と吸光の魔道具を各メンバーが持っていた。吸光の魔道具は、黒いモヤのようなものが広がり、視界が奪われるものだ。

夜間急襲だったから、俺たちを見つけたら使おうとしていたのだろう。


他にも、毒を持っていた奴も散見された。仲間になったアレシアもその1人で、そんなに強い毒ではないらしいが、正常に動けなくなる程度の毒を矢に塗っていたらしい。


影蜘蛛布の着物は、俺が鎧下として使う予定。

血紅石の籠手は、魔力を阻害する性質があるのでキスティに使わせるか。

音消しの足袋は俺、サーシャ、アカーネにルキあたりが着けておこう。


「金は銀貨2枚か。家の修理代にもならんな」

「仕方ありませんね、通り魔に襲われたようなものですから」

「閃光の魔道具なんかは買おうとすると高いからな。これで賠償金代わりと思っておこう」

「はい」


サーシャの整理してくれた目録は一度、机の上に置いておく。

特に良い物でもない武具は後で売り払う予定だが、そのときに売却額などもサーシャがまとめておいてくれるだろう。


「さて、キスティ。前にも聞いた話なんだが、帝国宣言したこの国に対する、周辺諸国の反応について教えてくれるか」

「承知した」


教えてもらうといっても、実際の反応を教わるわけではない。そんな情報網を俺たちが持っているわけでもないからな。

キスティの知識と常識の範囲内で、どういう影響があるのかを教わるのだ。


「この辺りの常識に疎い者も多いからな、基礎から改めて教えよう」


キスティは立ち上がって胸を張り、説明を始める。

いつもの粗暴さがないので、美人教師って感じで良いな。

キスティの説明は、こうだ。


近年「三大王国」と呼ばれた大陸東岸の勢力と言えば、キュレス王国、エメルト王国、ズレシオン連合王国だ。

これらはいずれも「古代帝国の後継国家」を自称している。古代帝国は、大陸全体の覇者として君臨していた国家であり、その後分裂して各王国が形作られた歴史がある。

各王国が帝国の後継国家を名乗るのは自然な流れであるし、自らの正当性の根拠となる主張でもある。だが、そんな大陸東岸、いや大陸東側全域においても、帝国を名乗る国家はなかった。何故か。それは外交上の理由が大きい。

帝国以後に多くの王国が成立し、時に相争い、時に協力してきた。そこで「帝国」を名乗るということは、自国こそが覇権国家であると主張し、他の王国の正当性を否定する行いなのだ。

この論理は何か条約などで定められていることでもないし、帝国以後の歴史の中で形作られてきた暗黙の了解に近い。だが帝国時代が一種の理想郷として語られる各国の歴史観の中で、貴族家はおろか戦士家であれば誰でも了解しているような、普遍的な認識になっている。

帝国宣言によって、キュレス帝国は三大王国の他二国に、宣戦布告したと取られてもおかしくはない。もともと両国と抗争はあったわけで今更とも思うが、あくまで国境貴族同士が小競り合いをしているだけの状態と、王家レベルで動く本格的戦争ではレベルが違うということらしい。


それ以外の国にも影響はある。

旧三大王国であり、現在分裂中のテラト王国も同様の歴史観を持っているし、キュレスの北の同盟国や、西の準同盟国であるソラグ公国、そしてサラーフィー王国などの小王国にも裏切りや攻撃の口実を与えてしまう可能性がある。

周辺国が一斉に反発し、キュレス包囲網が構築される危険があるのだ。


ここまでの説明は、俺は予めテッド会長や、キスティから断片的に聞いてきた話で知っていた。今日改めておさらいできたのだが、こうして整理して聞いてみると疑問も出る。


「キスティ。質問して良いか?」

「何だ、主?」

「それだけ危険な外交カードを、なぜ帝王は切ったのかね? しかも、このタイミングで」


帝王は、自分に反対し、クーデターまで用意していたっぽい勢力を粛清し、この国は王都、いや帝都ですらドンパチしている状態だ。

そんな粛清と内戦の危険があることをするのに、わざわざ帝国宣言で諸外国の怒りまで買った。どんだけ好戦的なのだという話だ。


「自信が、あるのだろう。戦争をすると言っても、準備期間が必要となる。それまでに内戦を終結させ、諸外国に対抗する。むしろ国内の諸侯にその危機感を持たせるために、帝国宣言をしたのかも」

「ダラダラと内戦している時間はないと、そう思わせるためか」


俺が地方領主の1人だと思って考えると、今回の内戦でまず考えるのは、様子見。つまり中立の立場だ。

しかし、帝国宣言があった。様子見なんて悠長なことをしていると外国から軍隊が出てきて、全てをひっくり返すかもしれない。そうなると、最善手は初手から「勝ち馬っぽい方に乗る」ことだ。

では今、帝王勢力と反対勢力のどちらが勝ち馬に見えるか?

決まっている。軍が丸ごと味方しているらしい、帝王勢力だ。何せ、この世界で軍は対人戦闘と、そして戦争のスペシャリストなのだから。


「……対内的な効果を考えると、意外と安定した手なのか」

「かもしれん。それに諸外国のことも、間違いなく諜報と調略をしているだろう」

「必ずしも敵に回るとは限らないってことか?」

「そうだ。特に北の同盟国と、西のソラグ公国。この3国は変わらずに友好的か、または中立に留まる可能性は高い」

「現実的に問題は、南北の王国を抑えられるかどうか、か」

「ああ。2対1となるが、勝算がないわけではない。もともとキュレスの西部貴族は北のエメルト王国の南進を自分たちの力だけで抑えて来た実績がある。ここが寝返らなければ、勝てなくとも負けない戦いはできるだろう」

「そして南は、最近勝っていたしな」

「流石に南も、ズレシオンの王家まで出張ってきては国境貴族に抑えられるものでもないだろうがな。しかし、謀反者を討伐した後の軍をそのまま南に送れば、キュレスの戦争準備は整う」

「なるほど。内戦が下手に長引かなければ、対処可能だと踏んでいるのか」

「その可能性はある。もちろん、内々に本格的な戦争としないように交渉している可能性もあるがな。しかし、今の王家が乗るとも思えない」

「直近で、キュレス側の貴族にやり込められているからか?」

「いや、それもあるが、次の王になられる王子が極めて好戦的なのだ」

「ああ、なるほど」


イケイケ王子がいて、今までは国内の慎重派に抑えられていたのだろう。

しかし、帝国宣言という誘い水があったとなれば、乗らないことは考えられないと。


「どう転んでも、戦争にはなりそうだな」

「それは間違いないと思う。その規模や時期は読めないが……」


うーむ。

キュレス帝国から攻め込む戦争なら、後方任務を請け負って金を稼いだり、コネを創るのも悪くないんだが。

攻め込まれる戦争だとすると、ちょっと危険が大きすぎるかね?

テーバは安全なのだろうか。


「今やっていることがひと段落したら、いったんこの国を出た方が良いかね?」

「……私としては、西に行くべきだと思う」

「お? キスティ、珍しく慎重意見だな」

「個人的な感傷だよ、主。キュレスの主敵は、ズレシオンになる可能性が高い。王家への忠誠心はもうないが、同郷の者と戦う可能性があるのは、な」

「ああ、それもそうか。とりあえず南に行くのは止めておこう」


南で出会った人々、共闘した戦士団のヒトたちやエモンド家のジシィラ隊なんかも戦争に巻き込まれそうだ。

無事で居てくれると良いが。

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