第274話 外道
屋敷地図
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屋敷への襲撃が始まり、忍者っぽい敵を排除した。
しかし想定外なことに、敵は窓から外に出ているらしい。
このまま逃げられてしまうと……いや、別に良いか。
なるべく殺すと約束したが、なるべくだし。
残りの敵は、1階に残された玄関方面の敵だけだ。
そちらに向かいながら気配探知をしていると、アカイトが言う。
「むっ!? 奴ら、降りてまた入ってきた」
「何だと? どこだ」
「正面玄関から入ってきている。む、そこから西に向かっているぞ!」
「全員か?」
「そのようだ。まとまって向かっている」
「シャオが働いたかね」
もともと敵は主に1階から侵入してくるものだと思っていたので、その前提で作戦を立てていたのだ。
俺とアカイトは隠密行動をしながら敵を狩り、あるいは分散させる。
そして、一度に処理できる程度の敵を地下に送り込む。地下にはキスティとルキが待ち構え、サーシャとアカーネ、ジグが横から攻撃する準備を整えている。少数相手であれば完封できるはずだ。
そして、地下に向かう階段にはヌルヌルや糸を使った転ばせるための単純な罠があり、足を取られて落ちていったところにはキスティのハンマーだ。
敵が来ない場合は、シャオの幻影で俺たちを見つけたと思わせて、地下にご案内する算段だったのだ。
しかし、実際は2階から侵入する敵が多かったうえに、1階の敵も2階への階段前を固めることに多くの人員を割いた。
結果として少しずつ地下にご案内する策は空振ったわけだが、ここで再度侵入してきた敵相手に、シャオが幻影を見せた可能性がある。
「何人くらいだ?」
「6人……だと思うぞ!」
「一度に6人はちょっと、地下が危ないな」
後ろから攻撃するなりして、注意を惹きたい。急ぎ俺たちも西に向かう。
地下への階段の前まで辿り着いた時、敵は2人目が降りようとしているところだった。
「ぐ、うわあああ!」
階段の方から、悲鳴と大きな物が落ちる音がする。
降りていた奴が罠に掛かったのだろう。
上に居る4人の耳目も、階段に集中する。これは好機。
敵の配置は、手前左に1人、少し右奥に1人、残り2人が階段の上から下を覗いている。
近付きながら魔剣術を発動、魔力波を右奥の敵に飛ばす。
返す刀で左手前の敵の首を後ろから斬り付け、顔を掴んで至近距離でラーヴァボールを浴びせる。
階段の近くにいた敵のうち、手前に居る方がボウガンをこちらに向ける。
エアプレッシャーで横にズレながらそれを躱す。
敵が次の矢を装填しようとしたボウガンごと斬り上げて破壊する。手の動脈でも傷つけたのか、血飛沫が上がる。
構うことなく体当たりをして、敵を階段の方に突き飛ばす。
もう1人はその間に体勢を整えていた。
手をクロスするように構え、両手には短剣。
斬りかかってくる気配がなく、こちらの出方を窺っている。
右手だけで剣を持ち直し、突きを入れるとくるりと身を翻すように避けられる。
そして、一気に距離を詰めてくる。
その攻撃を受け止めようと考えるが、そこで後ろに気配を察知して、エアプレッシャーで強引に離脱。
最初に魔力波を打ち込んだ敵が、生き残っていたようだ。敵は相打ちになる直前で踏みとどまり、身体が衝突するに留まった。
2対1の構図になってしまったか。
シュッ
次の展開に頭を巡らせた刹那、空気が擦れるような音がして、短剣使いの首に矢が立つ。
サーシャか!
反射的に駆け出し、両者の出方を窺う。
短剣使いは負傷しながらも、こちらを眼で追っている。が、後ろから飛び出した小さな影には気付いていないようだ。
「おりゃー!」
矢とは別角度から細剣で首を刺され、流石に俺への意識が吹き飛ぶ。
俺の方は、もう1人の方に剣を上から下へと振る。
短槍を構えた敵が、後退りしてそれを躱そうとする。
その直後に突きで反撃か。
させるか。
威力を抑えた魔力波が飛び、槍使いを襲う。
籠手でそれを受ける敵、その間に身体強化を最大限にかけ、下から上に剣を返す。
身体の中央の線に、モロに斬撃を浴びせる。
絶望に沈む敵の顔が見える。
どこか幼さがある男で、青年というよりは少年のようだ。しかしここで手を抜くこともない。
顔を掴み、ラーヴァボールを浴びせる。
ビクビクと震えて動かなくなる少年。
隣では、アカイトが短剣使いにトドメを刺すところだった。
「よくやったぞ、アカイト」
「蜂のように刺す! 出来ていたか、殿?」
「ああ……むっ、キスティか?」
地下から上がってくる気配が1つ。
「主! 地下は問題ない、あっけなく片付いたぞ。仲間に被害はなし、だ」
「よくやった。キスティ、最後は一緒に来るか?」
「まだ居るのか?」
「ああ……アカイト、訓練場の方に2人来てるな?」
「そうであるな! 他にはいないようだぞ」
「俺の探知でもそうだ。さて、どうするか」
全員で向かうのも、屋敷の中では却って動きづらい。それに地下を籠城の拠点として、いざという時の選択肢は確保しておきたい。
「キスティ、ルキを呼んできてくれるか。3人で訓練場へ向かう」
「承知」
「アカイト。お前は地下に合流してくれ。他にも侵入者がいないか、樹眼を使い続けろ。もし新手が出たら、ジグに伝えろ」
「畏まった!」
キスティと、ルキと合流する。
2階から降りて、裏から入ってきた奴らは訓練場で立ち止まり、動かない。
まるでこっちを待っているかのようだ。
訓練場を覗くと、道着のようなものを着た中年の男と、顔がもやっとした……おそらく霧族が立ち並んでこっちを見ている。
「どうした? 恥ずかしがらず、入ってこいよ」
なんだこいつら。
今更話すこともないが、落ち着き払ったその様子につい口を開く。
「お前が襲撃犯の親玉か?」
「そうだ。闇斬りと呼ばれている。名前は無ぇ」
「隣のお友達は?」
中年は霧族を振り返るが、霧族は名乗らない。
「お前らに名乗る名前は無えってよ」
「この屋敷には、まだロクに金もなかったろう。何故襲って来る?」
「他所者はすぐに金の話をするもんだ」
「他所者が嫌いだから襲うってのか?」
「そんなところさ。しかし、担がれたねこりゃ。どこが平凡な『魔剣士』だよ? なあ、お前本当のジョブは何だったんだ?」
「しがない『魔剣士』だ」
「はっ。お前らがこの短い時間で殺した俺の部下どもはな、あれでも、どれだけ育成に手間を掛けたと思ってやがる? そいつをこうもまあ……。もし襲撃がバラされて、罠を張られてなかろうと、お前を殺せたかは怪しい」
「過大な評価に与り、恐縮だがね。襲撃もバレて、部下も死んだ。それで尚、ここにいるお前の目的はなんだ? 闇斬り」
闇斬りは、腰の剣を抜く。右手に長剣、左手に短剣のスタイルだ。
「テメェと殺り合うため以外にあるかよ?」
「……そこまで恨まれる理由は分からないんだがな」
「本気で言ってんのか、てめぇ? 俺が手塩にかけた部下どもを粗方殺し尽くした直後だってこと、忘れたか?」
「……」
そうだった。
まあ、勝手に襲ってきて殺されたのだから、自業自得でしかないのだが。
「キスティ、ルキ。霧族の方を任せる」
「はっ」
訓練場の北側にキスティ、ルキと霧族。南側に俺と闇斬りが対峙する。
「マスター、女どもはお任せください」
「ルオ、お前は死ぬなよ」
「ご命令とあれば」
闇斬りと名乗った中年は、マスターときたか。
ルオと呼ばれた霧族も、両手に剣を構える。
こちらはどちらもそれなりの長さの剣で、剣身が紅く光っている。
ジョブは『魔法使い』に『魔剣士』、サブジョブに『警戒士』を選択。
デバフに備えて『愚者』も入れておきたいところだが、仕方ない。
戦闘中も随時切り替えられるとはいえ、相手のレベルが高くなってくるとそのタイミングが難しい。デバフが来たらすぐに切り替えられるように、マインドセットしておくしかない。
「どうした? 来ないなら、こちらから行くぞ」
闇切りが人差し指と中指を立てて振る動作をすると、雷玉が周囲に出現し、襲いかかってくる。ファイアウォールを展開して構えるが、雷玉はいずれもファイアウォールと当たると、何もなかったかのように霧散する。
その間に闇切りは至近距離まで接近している。
あの忍者もどきより、闇切りの方が雷玉の威力が弱いのか?
それとも……。
思考がまとまる間も与えられず、闇斬りの斬撃を受ける。
避けるには既に遅く、剣で受けるしかなかったが、その際に何か妙な感覚がする。
この感覚は、魔力が動いているような……。
闇斬りは長剣の方で何度も斬りかかってくるが、それを受けるたびに違和感が走る。
危険だが、あえてステータスを開き、少しだけ意識を移す。
*******人物データ*******
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(29)魔法使い(29)魔剣士(20)※警戒士
MP 24/60
・補正
攻撃 D−
防御 F
俊敏 E+
持久 E−
魔法 C+
魔防 D
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加、サブジョブ設定
火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法、溶岩魔法
身体強化魔法、強撃、魔剣術、魔閃、魔力放出、魔創剣
気配察知Ⅱ、気配探知、地中探知、聴力強化Ⅰ
・補足情報
隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ、ルキ、ジグ、アカイト
隷属獣:ドン
*******************
ついさっきまで、半分近くあったはずのMPが24まで減っている。
魔力を吸われているのか!?
「クソが」
「少し、本気を出そうか」
闇切りが言うと、まるで闇切りの周囲だけ空間が捻じれたように、うまく認識できない。
そこに闇切りがいるということは分かるのだが、動きが掴めない。気配探知と察知をフルに活用しても、細かい動きが見えない。
何とかこちらに届く直前で受け止めたと思ったが、それは短剣であった。
即座に身体全体を捻るような動作が入り、魔導剣を取り落としそうになる。
それを何とか防いでいる隙に、長剣が伸びて来る。
身体を捻り、何とか斜めに受けることが精一杯。
ギャリギャリと音がして胸甲を刃が削る。
「ぐっ」
「チッ。身軽に動く割には、硬いものを着てるじゃねぇか」
こいつ相手に、長期戦は危険だ。
しかし、防戦一方でそれどころでもない。
「ふぅ……家の被害とか、そんなことを考えている場合じゃなさそうだな」
「はっ、本気を出してくれるってか?」
こっちから攻めなければまずい。
魔力に心配があるからといって、出し惜しみできる場面でもない。
それに、こいつがボスなら、もう魔力を節約する必要もないのだ。
サテライトマジックを展開。身体強化もフルで掛ける。
一気に距離を詰めて、エア・プレッシャーで跳び上がる。
天井を蹴るようにして、闇切りの背後へ。
その直後に、残したサテライト・マジックが闇切りに殺到する。
流れ弾が当たるかもしれないが、そもそも威力はそこまでじゃない。意識が逸れれば良いのだ。
そこからすかさず斬り付ける。闇切りは上半身だけで半分振り向いた姿勢で、俺の剣を止める。
一瞬遅れて、魔力の奔流が迸る。
それは闇切りを直撃したかに見えたが、少し動きを止めただけで、健在だ。
「おいおい。これでも俺は、室内戦のスペシャリストだぜ。ぴょんぴょん跳ねた程度で、どうにかなると思ったのか?」
「……」
距離を詰めて、打ち合ってすぐエア・プレッシャーで離脱する。
また、魔力を吸われた感覚。使った分も合わせると、もう確実にMP20は切ったはずだ。
「無駄だぜ。お前はなかなか興味深い動きをするが、発展途上だな」
「……」
こっちの魔力を枯らせるのが敵の狙いか?
頃合いだな。
エア・プレッシャーを発動。
また天井を蹴るようにして、思いっきり距離を詰める。
そして、その霧状の頭を薙ぐようにして、全力で斬り払う。
それは、紅く光る剣に辛うじて受け止められたが、続く魔力の奔流が敵の頭を直撃する。
そして、動きの止まった敵に、黒鉄のハンマーが振り下ろされる。
断末魔を上げる時間すらなく、霧族は潰されて死に絶えた。
「テメェ……テメェの相手は俺だったろうがぁ!? 何してやがる!」
「約束をした覚えはねぇよ、マスター? ま、約束をしていても破ったろうがな」
不法侵入者との約束を守る理由などありはすまい。
俺だけでは、闇斬りには勝てない可能性がある。
なら、仲間を自由にすればいいだけだ。
最初の跳躍で敵と位置を入れ替えたから、距離的にはいつでも、霧族の男も狙えたのだ。
後は、戦っているキスティたちの様子を見て、不意打ちできるタイミングを探るのみ。
ついでに、こっちが跳躍で動いたら、あっちが待ち構えてくれるように誘導できたら最高だった。
「俺たちなんかより、よっぽど外道だぜ、テメェよ。絶対に、絶対に殺す」
「怒るくらいなら、最初から襲ってくるんじゃねぇよ」
裏で何があったのか、誰がこいつらを担いだのか知らないが。
何でこんな強敵と戦う羽目になってるんだ、ムカつくぜ。
「死に晒せ!!」
「命令されても、聞けねぇな。キスティ、準備はいいな? 狂え」
「ぐがああああ!」
飛び込んで来る闇斬りの横から、キスティがとんでもないスピードでハンマーを振り下ろす。
「チッ!」
闇斬りが跳んで避け、床にハンマーが衝突し大穴を空ける。
修理代はいくらになるんだ、これ。
賠償金とかほしい。
「よそ見してんじゃねぇよ」
避けた先を俺が追う。
こっちの魔導剣は、敵の長剣より長い。それならと、突きを連続で繰り出す。
ついでにサテライトマジックで浮かべた溶岩球を時間差で撃ち込む。
突きは避けられるが、溶岩球の1つが肩に当たり、ジュッと道着のような防具が焦げる。
これが効くということは、さっき魔力波を無効化したのはスキルかな?
「ぐうっ!」
「お前、さっきの動きはどうした? やはり時限型か」
さきほど、動きが掴めなくなった時、動き自体も急に速くなった気がした。
その動きの変化には見覚えがある。
テーバ地方の闘技大会で、白肌族の双剣使いが使っていたスキルだ。
多くの身体強化系のスキルは、短時間で切れて、使用後にはクールタイムが必要だと聞いた。
「はっ、ナメんじゃ……」
ごきゃ、と音がして、闇斬りが吹っ飛ぶ。
横から、盾ごと突っ込んできたルキに突き飛ばされたのだ。
転がった闇斬りに、キスティがハンマーを振り下ろす。
すんでのところで転がって避けた闇斬りは、飛び起きて横に逃げる。
そこには俺が先回り。
切り結んだところを、散弾型の火球を浴びせる。
動きが硬直したところで、またルキの突撃で転がる。
転がる先を調整したのか、今回はキスティのハンマーで追撃はできなかった。
「……クソがよ。女どもまで強いなんて、聞いてねぇ」
「ただの情婦だとでも思ったか? あの世で反省しとけ」
今ならいける。
敵に近付く時間を利用して、『魔剣士』を『愚者』に切り替えて、「奇人の贈り物」を発動。
これは逆効果もあり得るのだが、ごく短時間の勝負であればあまり気にしなくて良い。
たとえこれで逆に動きが軽くなったとしても、動きに慣れるまでは違和感にしかならないはずだ。
そして、サテライトマジックで、大量の溶岩球を浮かべる。
「どんだけ魔力がありやがる……」
「嘘を吐いてたことを謝ろう。俺は『魔剣士』じゃない。ただの『魔法使い』なんだよ。飛び込め」
大量の攻撃に対処する敵に、ルキが再度シールドバッシュをする、と見せかけて横に跳ぶ。
そして、防御のために身を固めた闇斬りの後ろから、キスティが飛び込んで来る。
「があああ!」
「そこだ、潰せ」
再び床が砕かれ、破片が舞う。
その側には、左肩が無残に砕けた闇斬りが転がっていた。
「……ここまでかよ」
「キスティ、右肩も砕いておけ」
「ぐがあああ!」
3人で油断なく囲んで、闇斬りに詰問する。
「で、お前らが襲ってきたのは、何故だったんだ?」
「さあな。あの世に来れば、教えてやるぜ」
闇斬りは不敵に笑った。
そうか。
「キスティ……いや、いい」
俺は魔導剣で、闇斬りの首を撥ねた。
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