第220話 地を這うもの







探査艦の上部ハッチから外を覗くと、雨粒が周囲を殴るように降っている。

ざーざー降りだ。


「丁度いいかもな」

「主様、行きましょう」


準備万端なルキに促される。

雨だからというわけでもないが、今日は周囲の探索ではなく新たな転移先に向かう。

新たな冒険の気配に、ルキはウキウキだ。


すっかり元気になったように思うが、探査艦にいるときは1日に1度は上部ハッチから上に出て、お姉さんの遺骨を埋葬した墓替わりの物を見詰めている。

ルキは1人では行動するなと言っているのを真面目に守るため、俺が誘われることも多い。


ルキなりにふっきろうとしているのかもしれない。

……半分くらいは、ただの冒険好きな気もするけれど。



昨日ゆっくりとステータスチェックもしたが、レベルアップしていたのは『魔剣士』と『愚者』。


*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(26)魔法使い(27)魔剣士(17↑)※警戒士

MP 52/57

・補正

攻撃 E+

防御 F−

俊敏 E

持久 F+

魔法 C

魔防 D−

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加、サブジョブ設定

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法、溶岩魔法

身体強化魔法、強撃、魔剣術、魔閃、魔力放出

気配察知Ⅱ、気配探知、地中探知、聴力強化Ⅰ

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ、ルキ

隷属獣:ドン

*******************


*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(26)魔法使い(27)愚者(17↑)※警戒士

MP60/65

・補正

攻撃 F(+)

防御 F(+)

俊敏 F+(+)

持久 F+(+)

魔法 D+(+)

魔防 D−(+)

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法、溶岩魔法

貫く魂、盗人の正義、酒場語りの夢

気配察知Ⅱ、気配探知、地中探知

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ、ルキ

隷属獣:ドン

*******************


こうして比べてみると、『愚者』のステータスは『魔剣士』の劣化版になっている。

レベルが同じだからこそ比較しやすい。

「貫く魂」のステータスアップ効果があるから、単純には比較できない部分もあるが。


仮にステータスで劣っていても、『愚者』は使いどころがある。

周囲の魔力を奪う「盗人の正義」も、自分の異常状態を回復してくれる「酒場語りの夢」も、使える場面は限られてくるが、場面がばっちりハマれば、切り札になるスキルだ。


従者組は、サーシャとルキがレベルアップ。


*******人物データ*******

サーシャ(人間族)

ジョブ 十本流し(12↑)

MP 4/17


・補正

攻撃 F

防御 G+

俊敏 G+

持久 G+

魔法 G−

魔防 G−

・スキル

射撃中強、遠目、溜め撃ち、風詠み、握力強化、矢の魔印、魔法の矢(new)

・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************


サーシャは新たなスキルを会得した。

「魔法の矢」とは、またストレートな名前のスキルが来たものだ。


朝イチでサーシャは壁に向かってああでもない、こうでもないとスキルを試射していた。

結論としては、「魔法で創った矢が放てる」ものらしい。


……すごくね?

矢が尽きても戦えるし、魔法が弱点の魔物にも対処できるわけだ。

1発で5以上の魔力を消費するということで、燃費が悪いのが欠点。

ただ、消費魔力は変動するようなので、俺の魔法と同じく練習次第で省エネできるタイプのスキルの可能性が高い。


*******人物データ*******

ルキ(月森族)

ジョブ 月戦士(24↑)

MP 19/19


・補正

攻撃 F

防御 E−

俊敏 G

持久 F−

魔法 G

魔防 E−

・スキル

覚醒、夜目、打撲治癒、柔壁、シールドバッシュ、スタンプ、見えざる盾

・補足情報

ヨーヨーに隷属

隷属獣:シャオ

*******************


ルキはレベルが1つ上がっただけで、特に追加のスキルはない。

23レベルで会得した「見えざる盾」だが、「柔壁」と役割が被ると思っていた俺の心配をよそに、本人は便利に使えているらしい。


俺がアドバイスした「組み合わせて使う」方法のほかにも、発動できる場所や範囲もそれなりに違うようで、その理解が進むにつれ便利に使えているということだ。

特に、「見えざる盾」は「柔壁」と異なり、動かすことができるのが大きな利点のようだ。

あまり複雑な動きをさせることは難しいようだが、例えば味方がいるほうに直線に飛ばすことで、狙われている味方のフォローができるとか。


ルキは割と無言でスキルを使うタイプなので、戦闘中にどれをどう使っているのか詳細は不明だ。

攻撃に重みを持たせる「スタンプ」も結構使っているそうだが、分からないし。


そんなレベルアップした従者も含めて全員で、転移装置に集まる。



魔力を流して起動してみると、なるほど。

うっすらと、別の選択肢があることが分かった。

今までの転移が「白い霧の中を進んでいる」イメージだとしたら、方向を変えることで「薄紫色の霧の中を進んでいる」ようにできる、というか。

もともとの仕様なのか、白いガキの干渉があったのかは分からないが、とにかく俺でも使えそうだ。

新しい「薄紫色」のイメージの方に進み、作動させる。



***************************



真っ黒だ。

火魔法を軽く発動し、周囲を見渡す。

転移装置の場所に並んでいた従者組と護獣は、皆無事に転移できたようだ。


壁が見えない。

探知を巡らせてみるが、転移装置の他には何もない空間のようだ。


俺の後ろの方向にずっといったところに、階段がある。

そのうえは蓋が閉まったようになっているが、行ってみるしかあるまい。


「確かに、危険はないようだな」

「少し肌寒いですね」


サーシャがぽつりと呟く。

確かに。

周囲を石造りで囲まれた密室にいるせいもあるだろうが、少し寒い。


慎重に進み、石階段を上る。

その途中で石の天井に阻まれるような形だが、それを押してみるとあっさりと上に開いた。

上の階に繋がっているようだ。


慎重に上半身だけ上に出すと、気配探知。

む、反応があるな。これは魔物か?


「魔物らしき気配がある。ルキを先頭にして付いてこい」


そう言って、上に飛び出す。

気配のする方に牽制で、ファイアボールを一発。


「ギキィーーーッ!」

「うおっ」


つい声が漏れてしまった。

そこにいたのは、コウモリ。

ただし、人間サイズの。


「……気持ち悪っ!」


ラーヴァフローを連打して消毒する。

身体をぐずぐずに焼かれた巨大コウモリが倒れ伏す。


ただその攻撃で気配に気付かれたのだろう、周囲の気配が蠢きだしたのが分かった。


もう一度気配探知。

気配は疎らだが、かなり広いことが伺える。

総数はそれなりにいそうだ。


「ひと塊になって移動するぞ」

「おう!」


キスティの元気の良い返事。

とりあえず、まっすぐ進むか。


隊列を整えているうちに、背後から襲ってきたコウモリを魔剣で斬り付ける。

横から、キスティのハンマーが振るわれて全身で吹っ飛ぶ。

一応、出てきた転移装置への入り口を戻してから、場を離れる。

また戻ってくるときに、場所が分かるのかが不安である。

一応外部キーに反応するようなので、手当たり次第にかざしていれば、そのうち辿り着くだろうか……。


「ギキーー!」


横から近付いてきたコウモリにルキが槍を突く。

そうしている間にも、アカーネが魔力波を放ち、サーシャが同じ方向に矢を放っている。

どうやらアカーネの魔力波を灯り代わりにしているようだ。


「コウモリのような魔物は分かりませんが、もう1種類はヒトツメ牙蜂のようです」


サーシャが報告する。

少し遠巻きに様子を伺っていたのは、虫型の魔物だったようだ。

これも大きくても人間程度なので小型の魔物ではあるが、こうも暗闇の中で戦うのは面倒だ。


「キスティ、ルキと前進しろ! 俺は殿をやる」


サテライトマジック発動。攻撃の予備動作というよりは、火魔法の多重発動による灯りの確保が目的だ。


サーシャとアカーネも発光の魔道具を点けたようだが、それでも全域を見通すことはできない。


移動しながらしばらく迎撃していると、魔物の襲来が疎らになってきた。

こちらを見失っただけなのか、それとも敵わないと悟ったのかはよくわからない。

しばらく進むと、壁があるのが分かった。その一画に、また上に進む石階段がある。


ドンが「キュキュ」と心配するように鳴いた。

何かあるか。


覚悟して、上る。


上がった先は、人が10人は横に並んで進めそうな、真っすぐな通路。

火魔法を放って奥を確かめると、何かが見えた。


「……ガァー!」


人が10人は並べる通路に狭そうに口を広げた、何かが。

おいおい。


「あの魔物はなんだ?」

「さてな。手強そうな魔物だ!」


キスティがそう吐き捨てた。


「あれは……地這いですね」


ルキが呟いた。


「知っているのか、ルキ」

「ダンジョンにも出ることがある魔物です。人肉を好みます」

「なるほど、最悪だな」


身体は細長く、そこだけ見ればワニのような形。

だが頭は付いておらず、胴体全体が口になったかのように、巨大な口が避けている。

そこから鍛え上げたマッチョみたいな手足がいっぱい生えている。爪は異様に長い。

良く見えないが、6本か8本くらいか?

そして胴体にはトゲトゲが無数にある。当たったら痛いだろう。


「弱点は特にありません、生命力が強いので注意してください」

「そいつは有用な情報だ。泣きたくなるな」


巨体でありながら、カサカサカサと気持ち悪い動きで近付いてくる。

一本道でそれを塞ぐような巨体だ。逃げ場がない。

下の階に行ってもいいが、どこまでも追ってきそう。


逃げ場がないのは敵も同じか。

ラーヴァフローを放つ。


ジュウウと体皮を焼く音がするが、歩みは止まらず。


「グェーー---グェッギャギャギャ!」


まるで体当たりするように突進してくる敵。

サーシャの矢や、アカーネの魔力派、それにシャオのウィンドカッターまで飛んでいくが、どれも突進を防げない。

ルキが一歩前に出て、盾を構えた。


衝突の瞬間、せめてもの援護として魔剣からあらんかぎりの魔力放出。

結果、敵は突進を止めたが、ルキも少し吹っ飛ばされる形で転んだ。


「ルキ!」

「平気です、攻撃してください!」


近くで見ても、目も見当たらないし、口の中にもトゲトゲが生えている。

どこが急所か分からん。


「うがああああ!」


キスティが狂化し、ハンマーを振り下ろす。

歯が砕け、下あごの一部も粉砕される。


それでも構わず動く地這いだが、ハンマーに縫い付けられる形で口が開いたままだ。


「そのまま抑えてろキスティ!」

「うがぁぁぁ!」


魔剣を振り、魔力放出を口に流し込む。

上あごが裂けるようにダメージを受け、体液が吹き出る。

と、口の中から何かが飛び出してくる。

剣で受けようとすると、そのまま剣に巻き付いた。


緑色のそれは……舌、か?


舌は剣に巻き付いて一周し、その切っ先を俺に向けた。


「何っ?」

「キュキュ!」


ドンから鋭い警告。

とっさに魔剣を手放し、エアプレッシャーで緊急回避。

俺のいた場所に、緑色の液体が付着する。

舌の先から消化液的なものを出したらしい。

腰から、アインツから貰った短剣を取り出す。


『魔剣士』の魔力放出のためには、別に短剣でもいいのだ。

また思わぬ反撃を受けてもつまらない。

エアプレッシャーで左右に動きながら、ラーヴァフローと魔力放出を浴びせていく。


上あごを閉じてキスティを嚙み潰そうとする動きは、ルキの「見えざる盾」で阻止されている。

こうなったら我慢比べか。


これだけ魔法を打ち込んで、サーシャの矢も受けているのに倒れる気配がない。

どれだけタフなんだ。


そんなことを思っていると、何かが口の中に投げ込まれた。それも1つや2つではない。

それは眩い爆発を起こし、敵の胴体に大きな空洞を開けた。アカーネか!


「ギ…ゲェ」


バタバタと脚を動かした後、バタリと力を失い倒れた。


「やったか?」

「ご主人さま、ごめん。切り札使っちゃった」

「いや、あのままだと危険だったかもしれないからな。よくやった。雷の改造魔石か?」

「そう」


ダンジョン用にアカーネが改造していた魔石たちだ。

相当数用意していたが、結局ダンジョンではほぼ使わなかった。

それを更にちまちまとアカーネが改造していたが、相当に威力アップしていたようだ。

残りの改造魔石を、一挙に投げ入れたからかもしれない。


「……何個投げたんだ?」

「えっとー、8個? 残ってるの全部」

「そうか」


勿体ないが、仕方ない。


「それより、今のが他にもいたら面倒くさいな。特に、さっきみたいな広いところで襲われると対処が難しそうだ」

「おそらく大丈夫だとは思います。地這いは縄張り意識が強いですから」

「そうなのか」

「ただ、ここの広さ次第では何体いるか分かりませんし、湧き点があると分かりません。戻りますか?」

「……慎重に進んで、まだ先が長そうなら引き返そう」


というか、流れで上を目指しているが、正しいのだろうのか?

実は下に出口があるとか言わないだろうな。

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