第212話 長文

異世界の探査船にたどり着き、日本語で残されたメッセージを聞いた。

同じく日本語に対応しているヘルプAIとやり取りをして、情報を収集しておく。



この艦がこの場所に移されたのは、恐らく数百年以上前。ヘルプAIがカウントできるのが100年間だけで、それは優に過ぎているらしい。

これまでにこの艦を訪れたものはいる。ただしこの球体を起動させてはいない。

武装の類は、個人武器だけでなく、艦の武装まで取り外されている。

ただし自己メンテナンス用のロボットは数体稼働しており、それらが一応戦うことはできる。戦闘力は微妙だが。

この艦を起動して移動することや、解体することはできない。移動したり、解体して調べようとした場合、即座に自壊して鉄屑となるようにプログラミングされているから。



って、あっぶねー!

アカーネに、キツめに艦の中にあるものを解体しないように言っておく。


さて、続き。



乗員の活動記録や、その他膨大なデータはロックもしくは削除されている。

外から侵入者があった場合、警戒システムが作動して、中にいる者にもすぐ分かる。



ん? 俺はすんなり入れたが。


「貴方がたは、正規のルートで乗艦したのでシステムが作動しない」

「正規のルートというのは?」

「外部キーを所持し、資格を有している乗員またはその候補」

「外部キーは分かるが、俺に資格があるのか」

「あります」


あるらしい。

まあいいや、続き続き。



資格を持っていれば、何度でも出入りは可能。

内部に人が居れば、キーがなくても扉を開ける操作は可能。

俺以外の人も、ゲストとして登録すれば一定の操作が可能。

(さっそく従者を全員ゲストとして登録してもらう。)

現在動力はほとんど確保できていないため、急激なエネルギー消費をすると環境維持システムが維持困難になるおそれがある。艦内設備の利用はほどほどにと念を押された。

これまでに外部から侵入者があった例はない。

現在でも使える設備は、キッチン、野菜栽培室、寝室、シャワー室、トイレ。

動力室、通信関係設備、武器庫は使用不能。

娯楽室は電気不足で動かない。

動けばアナログビデオゲームなどが稼働可能。



アナログビデオゲームというのは、2次元の画面に投影する形で、画面上で遊ぶゲームのことらしい。

なるほど、VRよりも前のゲームということだな。たしかに古い。

まあ、ゲームには日本語訳はないらしいので、やったとしても説明が理解できないだろうが。


使用可能言語には、日本語の他に英語、中国語、ロシア語、アラビア語があった。

何故使用可能かは不明。

ヘルプAIによると、「使えるのだから使える」としか説明しようがないとか。

言葉のことはいいか。質問を続ける。



ホログラムが言っていた、「追跡者」だの「委員会」だのは、不明。

ここを出た乗員たちのその後は不明。

次元関連技術についても不明。



ヘルプAIに艦のこと以外を訊くなって? そりゃ、すまん。

さて、そろそろ思いつく質問もなくなってきた。

気になるのは……セキュリティ的に本当に安全なのかと、キッチンとかの設備だな。

セキュリティ面はヘルプAIが大丈夫だと豪語するし、実際に気配は探知されない。


ただ、これまでに何人か辿り着いた人がいるってところが気になる。

万全ではないってことだ。今のところ、なるべく複数で行動した方が良いだろう。


キッチンはこのブリッジのすぐ近くらしいので、サーシャを連れて行ってみる。



「これは、凄いですね」

「IHってやつかな」


使いやすそうなシステムキッチン。そんなに広くはないが、料理に必要な装置がギュッとまとめられている印象。

ただ知らない世界のキッチンだけあって、どう使うか謎な機器もちらほら。


とりあえず、物を温める場所はIHのように電気を通して加熱することは分かった。

早速鍋を出す。

おっと、水はあるかな?


「濾過・消毒した水の残りがあります。飲用にしても問題ないレベルとなっておりますが、使用しますか?」


おや。キッチンにいても、上から吊るされた小さな端末がヘルプしてくれるらしい。


「頼む」

「それでは給水します。給水口の下に容器をセットしてください」


お米でも出るのかと思っていた何かの装置は、給水装置だったらしい。

鍋をセットして、水を出してもらう。


ジョボジョボ……


うん、綺麗な水っぽい。舐めてみても、とくに変な匂いはない。


「そういえば、水だけじゃなく、食糧のパックも残してくれたんだよな?」

「いえ、そちらは以前の乗艦者が全て消費しました」


マジかよ。


「どこにあるんだ?」

「左舷の奥にある倉庫エリアです。我々には乗艦者を勝手に埋葬する権利が与えられておりませんので、ご注意ください」

「……ん?」

「ここで亡くなられた乗艦者の亡骸が、そのまま残っております」

「マジかよ」


最初に、右を選んでなくてよかった。

左舷の奥に行っていたら、いきなり死体と対面していたかもしれん。


ここに辿り着いて、食糧だけ美味しく召し上がって、力尽きたと。

なんだろうね、ダンジョンの奥で迷ってここに辿り着いたのか。

でも怪我を治しきれず、ここで倒れてしまったとかだろうか。


そいつらも、ルキの姉ついでに弔ってやるか。


「ルキ、こっちでサーシャの手伝いと護衛を頼む」

「はい」



ルキとスイッチして、ブリッジに戻る。

アカーネがウキウキで、球体をいろんな角度から眺めている。解体しない限度で好奇心を満たしているようだ。ヒヤヒヤするぞ。


「アカーネ、くれぐれもむやみに触らないでくれよ」

「うん、分かってるよ。でもこれ、すごいねー。魔道具だとは思うんだけど」

「魔力が出てるか」

「うん。でも、なんだろ? 魔力だけで動いてないみたいな?」


次元航行とかしちゃう世界の艦だからなあ。

さぞ科学も発展してるんだろう。というか、むしろ魔力も使っているというのが驚きなんだが。


少なくともこの艦を作った世界では、魔力を使った機械を作ることは普通だったわけだ。

原初の魔法、か。


「ヘルプAI。この艦でも一番安全な場所はどこだ?」

「安全の定義によります。倉庫は物理的セキュリティがしっかりしています。寝室は外部衝撃から最も守られています。このブリッジは電子戦、干渉戦で最も影響を受けません。また緊急時の状況把握と対応が素早く可能です」

「ブリッジが良さそうだな、まあ電子戦なんて仕掛けられないと思うが」


む?


「干渉戦というのは?」

「該当データはありません」

「ないんかい」


まあ、とりあえずこの場所で寝泊まりするのが無難か。

寝室でぐっすり寝てもいいんだが、流石にそこまで信用できていないというか。


左舷のハッチはもう一度、しっかり閉めておく。

それから上部ハッチから上に出てみる。今度はルキを連れて行く。


艦から出て、更に壁が梯子のようになった、細い通路を登る。

最後に蓋を押し上げると、カパっと外れて外から風が吹く。


地球のエアーズロックのような形の、巨大な岩の上、真ん中が窪んで盆地のようになっているところに出る。もちろん巨大といっても、エアーズロックと比べればミニサイズだ。

周りには小型のソーラーパネルのようなものがいくつか設置されている。

キャタピラを回しながら、その間を動くロボット。無骨な胴体に、頭のようにみえるものが乗せられており、アームが2本。何となく人間っぽいと分かるようなデザインだが、どちらかと言うと雪だるまぽいな。

そんなロボットが3体ほど稼働しているのが分かる。パネルに隠れて見えないやつもいるかもしれないので、もう少し多いのかもしれない。


坂道を登って端に向かい、周りの風景が見える高みに出る。

南、西、北にはそれぞれ、迫ってきそうな巨大な山々が遠くに聳えている。

東にも、すぐそばに山が迫っている。こちらは逆に近すぎて、巨大かは分からない。


どうやら山に囲まれた場所であるらしい。

草原や森も見えるが、北の方は茶色が目立つ。

荒れ地なのだろうか。



「本当にどこなんだ、ここ」


ダンジョン内ではないことは確定。

下手したら、別の大陸、いや別の世界なんて可能性も。

ホログラムの人は魔物に襲われたようなことを言っていたから、同じ世界の可能性が高いと思うが。


「オコマリデスカ」


ロボがキュルキュルと音を立てて近付いてきた。


「いや、なんでもない」

「ハイ」

「あ、ソーラーシステムが魔物に襲われたことはないのか?」

「ソーラーシステムハ、サマザマナヨウインデハソンシマシタ。シュウリズミデス」


ロボのAIは、ヘルプAIよりもショボいようだ。

あまり会話にならない。


キュキュルと音を立てて、ロボは持ち場に戻っていく。



上空には白い雲がぷかり。その奥には透き通る蒼い空。ロボがキュルキュルと移動する音だけが、微かに響く。なんだか牧歌的だ。


ちょっと前まで、ダンジョンで撃ち合ってタマの取り合いをしてたのだが。

……ん?

まさかと思うがイミテーター、ここの乗員の成れの果てとか言わないよな。

……。ないよな?



ブリッジに戻り、サーシャの料理を食べながら作戦会議する。

プラスチック?の皿に盛られた料理は、サーシャが腕によりをかけて作った。

ダッシュフィッシュの干物で出汁をとった鍋。

少しの米と、水で戻した干し野菜たち。


一応、ブリッジにつながる通路には音罠も設置して警戒しているが、敵の気配もなく。

久しぶりに完全にまったりした空気が流れた。


「まずは、ここがどこか探りたいと思う。意見のある者はあるか?」


キスティが挙手。


「異論はないが、まずは周囲の探索、特に食べられる物があるかどうかを優先的に見るべきであろう。ダンジョンと同じように近くで食料を確保できるわけでなければ、拠点としては使いづらい」

「確かにそうだな。明日は皆で、右舷ハッチから外に出かけてみよう。上から見たら、西の方には近くに草原や森らしきものがあった。そっちに何かありそうだ」

「おお、森があるならば何がしかの恵みを得ることは出来そうだ。後は水源豊かだと嬉しいのだが……」


だが豊かな森の場合、豊かな魔物の宝庫になっている危険性もある。

全くデータがない状態だし、慎重な探索が必要になりそうだ。


「ではまず、西から探索することにしよう。今日のところは早めに休んで、明日出発だ」

「この船?はかなり広いが、どこで寝るのだ?」

「ここ、ブリッジに寝袋を並べるつもりだ」

「これほどの規模の船だぞ。寝室もあるのではないか?」

「確かにある。しかしまだ、安全を確認できていない状況だ。今日のところはここで、夜番も立てるぞ」

「なるほど。確かに、警戒は必要だな」


キスティも納得して頷く。


「にしても、この部屋はどういった施設なのだ? 操船を司る場所にしては、外が見えんし」


たしかに、周囲は窓らしくものはなく、白い光に照らされているだけだ。


「ヘルプAI、外の様子は見えるのか?」

「有視界モードに切り替え可能です。ただし、現在は周囲を岩で囲まれており、外の景色は見られません」


ああ、そうか。

にしても、この大きな艦を、どうやって岩の中に埋めたのだろうか。


ヘルプAIに尋ねても、不明としか返ってこない。


「今後のことは、明日の探索の結果を見て考えよう」

「食料が確保できそうであれば、ここに長居するのですか?」


今度はサーシャが発言した。


「そのつもりだ。この艦に本当に危険がないなら、拠点として使えるしな」

「拠点ですか……」

「サーシャは戻りたいか?」

「いえ、ダンジョンを戻るのも骨ですし、何よりダンジョンから抜けたあとの当てがありませんから。むしろ、しばらくはこの地にいた方がいいかもしれません」


サーシャはルキをチラリと見た。

言外に、ワーリィ族のごたごたに巻き込まれないように、という意図が窺える。


「それはそうかもな。そうだ、ダンジョンと言えば」


ヘルプAIに、転移装置から魔力鍵への魔力放出をオフにできるか尋ねてみる。

が、もうオフにされているとのこと。


「ご主人さまが扉を開けたあたりから、魔力反応なくなってたね」


アカーネが言う。


「そうだったのか。じゃあ、イミテーターも今ごろは解散してるかね」

「そうかも」


そうだといいが。


「結局、なんでイミテーターはあの場所に惹きつけられてたんだろうな?」

「理由は分かりませんが、特定の魔力に反応する魔物というのはたまに居るようですし、その類かもしれませんね」


サーシャが言う。


「しかし、万が一イミテーターに転移装置を壊されるのも困るな。一度戻ってみるか。ヘルプAI、もう一度転移して戻ってくるのに問題はあるか?」

「ありません。ただし、転移後の転移装置の出入り口はロックされております。破壊は難しいでしょう」

「何? じゃあ、俺が開けた場所も、再度閉じているのか」

「そうです」


なら、心配する必要はないか。

いや、念の為一度だけ見に行くべきか。

転移が何度も可能かどうか、確かめておいて損はない。


「明日、念のために一度戻ってみよう。何か気をつけることがあれば言ってくれ」

「外部キーをお忘れなく」

「ああ、了解」


やはり、あれがないと転移できないようだ。


「それとこの辺に、魔物や動物に荒らされない、埋葬できそうな場所はないか」

「該当する場所はありません。荒らされにくいという点を重視するのであれば、艦内もしくは岩の上を推奨します」

「ああ、ソーラーシステムのところか。……確かに、平和そうだな」


艦内に骨を埋めておくのは、流石にちょっとな。

気持ちの問題だが。


「ルキ、お姉さんたちの骨だが、この艦の上に埋葬するのはどうだ?」

「はい。詳しい状況は分かりませんが、姉はこの場所を探していたように思います。よい手向けとなるでしょう」

「故郷に埋めなくていいか?」

「故郷だけは止めてくれと、姉なら言うでしょうね」


ルキは寂しそうに笑った。

ルキ姉は、本当に実家との関係に苦慮していたのだな。



ハッチの上に出ると、すっかり暮れた空が、もう見慣れた2つの月を抱えて地上に光を注いでいる。

どうやら、他の世界に行ったわけではなさそうだ。


ルキ姉と、その仲間と思しき白骨のいくつかを、岩の端っこに埋める。

ロボが寄ってきたので、一応埋めて良い場所を訊いたが、どこでも良いと言われた。

微妙に話が噛み合わないので、おそらくだが。


ルキ姉たちの骨の一部を埋めた場所に、キスティの投げ槍用に使っている槍を1本、墓標がわりに刺しておく。


全員で、思い思いの祈り方でもう一度祈りを捧げる。

俺も、何となく、仏教式の合掌をして冥福を祈る。

異世界の探査艦で眠るとは、冒険心に溢れていたルキ姉も思っていなかっただろうな。



ブリッジに戻るとヘルプAIに頼んで、目印の槍を抜かないようにとロボたちにも情報共有してもらう。


ヘルプAIはロボたちと別系統で動いていて、直接命令できる立場にはない。

しかし、乗員の指令を伝えるくらいならば出来ると言う。

どうやらロボと意思疎通が難しいのは言語の問題もあるようで、ロボたちは旧式なので、マイナー言語で話すと細かい部分が伝わらなかったりするらしい。

日本語はマイナー言語に入るらしい。いや、一応伝わる時点で凄いけどさ。

ヘルプAIは言語システムより後に開発されたもので、選択できる言語は使いこなすという。


……ヘルプAIの言葉遣いが気になって確かめたが、「乗員」と「乗艦者」には明確な区別があるようだ。

「乗員」は正式な乗員資格を持った存在、またはその候補。「乗艦者」はそれ以外の乗艦を許可された者を言うのだそうだ。

俺は「乗員」で、従者組は全員「乗艦者」なのだそうだ。


うーん、正式な乗員資格など得た記憶がないぞ。


「いやはや、ふかふかのベッドがあるというのに、寝袋かあ」


上部ハッチに行く途中、覗いた乗員用ベッドはしっかりとベッドメイキングされていた。

何百年以上も放置されていたようには見えない。


それを見てしまっただけに、キスティが残念そうだ。

もちろん、冗談半分で言っているだけだろう。

従者組のなかでも、野ざらしの野営に最も抵抗がないのがキスティなのだから。


「まあ、数日間様子を見てみて、問題なさそうならどっかの大部屋に移ろうか」

「おお、言ってみるものだ!」


そんなことを言いながら、休むことになった。

今日のところは夜番も組むが、正直危険はないというヘルプAIの言葉を信じつつあった。

気配察知にも探知にも他の生物の痕跡はないし、俺が指令を送ることで、各区画を夜の間ロックしておくこともできた。

これで危害を加えられるとしたら、ヘルプAIが実は悪のAIだったときとかだろう。

その場合、どうしようもない気がするが。

魔法全開で暴れれば、あの球体壊せるのかな?



***************************



……悪のAIにサイコロミンチにされることもなく、朝を迎える。

ヘルプAIに頼んだ通り、起きる時間に合わせて照明を明るくしてもらったので、ダンジョンよりも何倍も目覚めが良い。


朝食を食べたあと、左舷ハッチに向かう。

明るい艦内に慣れてしまっただけに、転移装置に向かう通路が暗い。


全員が装置の周囲に揃ったことを確認してから、装置を作動する。

前回と同様、くらりと意識が持っていかれ、周囲が光る。

……戻ってきたようだ。


魔力を確認すると、20近く持ってかれている。

そんなに使うのか。


俺が開けた壁も、再度閉じている。

外部キーを持ったまま触れると、またあっさりと開く。

アカーネが閉めた方も開ける。


ファイアシールドを展開しながら、緊張して待ち構える。

しかし、開けた先にイミテーターの姿はなかった。


どうやら、解散したらしい。


周囲に散らばる死体は、損壊している。

魔石はない。


「さて、イミテーターが撤退したら、スドレメイタンがまた盛り返すのかね? 次来た時どうなっているか、見ものだな」


特にやることもないので、再度転移を行う。


これで、ダンジョンと、探査艦を行き来できることが分かった。

次は、艦内か。


全員で連れ立って、後ろにある倉庫エリアとやらに行ってみる。



***************************



「こいつらも、埋葬するか」

「……白骨死体に、慣れてきたボクがいる」


アカーネが妙な独り言を言っている。

倉庫エリアに行って見たのは、ヘルプAIが言っていた通り。

抱き合うようにして白骨化している、2人分の人骨であった。


「こいつらは、何でここに辿り着いたんだろうな」

「外部キーを持ってたのでしょうか」

「ポーチがあるな。荷物探っとくか」


キスティとルキに白骨を集めてもらい、俺とアカーネで遺品を物色する。

いくつかの写真と、ナイフ。どこのものか分からない硬貨に、羽根を広げる鳥の絵が描かれたアクセサリー、何かを書きつけた長文メモ。


ヘルプAIによると、こいつらが食い散らかした食糧のゴミは片付けてしまったらしいが、これは残っている。遺品は死体の一部という扱いなのだろうか。


「しかし、写真ねぇ」


見ると、白黒の写真だ。おそらく白髪の若い男女が、はにかんで写っている。

顔つきが違うから、兄弟というよりは恋人っぽい。

こいつらの生前の姿なのか、家族なのか。


「アカーネ、この書きつけのメモは読めるか?」

「……ムリ! 読める気がしないよ」

「だよな。やっぱこいつらも、異世界人かな……」


ホログラムの艦長は、同じようにこの世界に漂着した者を意識していたようだった。

もしかすると、転移者ならここにアクセスできるようなセキュリティに設定してくれているのかもしれない。

現にこいつらは、ここに辿り着いて、残された物資を消費し尽くしてしまった。

なぜかここから出ることをせずに、そのまま亡くなってしまったようだが。


何かに追われていたのか、それともどちらかが致命傷を負っていたのかもしれない。


ヘルプAIなら読めるかな、このメモ。ブリッジに持っていってみるか。


その後、艦底部の空洞なども見てから、ブリッジに戻る。



「これ、読めるか?」

「その台に固定してください」


ヘルプAIに指定された、球体の前に設置してある小さな机のような場所にメモを置く。


光がウィーンとコピー機のようにメモを走査する。


球体がピコンと光り、終わったようだ。


「日本語訳します、表示しますか、音読しますか?」

「音読してくれ」

「長いですよ」

「構わん」


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