第202話 ドゥロンク

イクスコートには結局もう一泊して、朝イチでダンジョンに向かうことになった。

あれから、ワーリィ族が追ってくる気配もない。道具屋にいたワーリィ族は、本当に逃げてきたワーリィ族だったのかもしれない。


イクスコートからダンジョンまでの道のりは、ルキが詳しいので先導を任せる。ここまで鳥馬を使っていたせいで、徒歩はかなりゆっくりに感じる。

そのぶん、索敵はやりやすい。

馬に乗りつつ、地下からの襲撃に備えるというのはなかなか至難の技だった。


アカーネの様子はそれとなくうかがってみたが、特に変化はなし。魔道具いじっているときは、話しかけてもスルーされることもあるのだが、ホントに依存されてるんだろうか。ヤンデレにならないようにだけ祈っておく。


「主様。どちらの入り口に向かいますか?」


ダンジョンは、多くの入り口がある。

向かうのは地底湖の方なのだが、地底湖に近い入り口もあれば、迂回するようなルートもある。

どちらに向かうかによって、行き道が変わるのだが、結局昨夜は結論を出していなかった。

町を出て、ワーリィ族の追っ手がないか確かめてから決めたかったのだ。


そして、午後に入って陽が傾く頃には、最終決断を迫られることになった。

念入りに探知をしてみても、ヒトらしい追っ手の気配はない。


「……よし、最短ルートで行こう」

「分かりました。それならば、私が昔潜った入り口と同じです。案内も出来るでしょう」

「頼むぞ」


陽が落ち切る頃には、ダンジョン前の野営地に到着。

道中はさほど危険もなかったが、途中で現れた砂カラスに、シャオの風魔法を撃ってもらったところ、思っていたよりも威力があった。

砂カラスの体毛と皮膚を切り裂き、血を流させるくらいには強力。

しかし、一撃で戦闘不能にする威力ではない。

魔力は一撃で1から2程度消費しているから、燃費も微妙。


やはり、ここぞのときに闇魔法を使ってもらうためにも、魔力温存が基本になるか。

基本は空中偵察が役割。

あれ? ダンジョンだと活躍できないのかも。


「ニー?」


シャオの背中をを小指でそっと触れつつ、ステータスを見ているとシャオが怪訝な顔をする。

小指で触れるくらいなら許してくれるので、なんとかステータス確認はできるのだが。

めんどくさいから、気軽に触らせて欲しいものだ。別に触りたいからではないのだ。

よし、ドンのふわふわ毛並みを撫でて心を落ち着かせよう。


「ギィギィ」


うむうむ。この、かわいいのかよく分からん声も、オツというものよ。


「ギュー」


まあまあ、たまには良いじゃないか。

お前もアイドルペットの座を奪われて、寂しいことだろう。


「ギイー、キュキュ」


……。そうか。

こいつはこいつで、変わり者だということを忘れていたよ。全く誰にも似たのだか。



***************************



野営地で一晩を明かし、朝いちばんでダンジョンに向かった。


「こちらが、ダンジョンの入り口です」


ルキが槍で示したのは、小さな洞窟の入り口だ。

穴の大きさは、ヒト1人がやっと通れるくらい。それと知らずに通りかかったら、スルーしてしまいそうな、平凡な地形に見える。


「ここが、か」

「間違いありません。ここからは、1人ずつ通って、下の階層に降りるしかありません。先頭は私でよろしいですか?」

「いや、俺が行こう」


探知があるからね。

入り口から降りてすぐのところに、魔物が溜まっている可能性もなくはないということなので、俺がまず索敵しながら降りるのが安全だろう。


「では、奥へどうぞ。順番に、ロープを使って降りていきますよ。下へ降りる穴を見つけたら、一度声をお掛けください」

「よし、いくか」


なんだかんだとあったが、ダンジョンだ。

どんなものか、せいぜい楽しんでやろう。


小さな洞窟の中に、足を踏み入れる。

なんとか、フル装備+荷物でもギリギリ通れる。

最初は緩やかな上り、すぐに下りになって、しばらく進むと、右手に深そうな穴があった。覗いても暗闇が広がり、先が見えない。


「右手に穴がある。ここか?」

「はい。少し待って下さい」


穴がある周辺はやや広くなっているため、後ろから来たルキと位置を入れ替えることができる。

ルキは穴を除くと、何かを掴んで引っ張り上げた。

ジャラ、ジャラと音が鳴る。それは、鎖のようだった。


「よし、まだありますね」

「これは?」

「どこかのダンジョン探索チームが、残していったものです。あえて残していったものなので、共用のインフラと考えていいそうですよ」

「探索者が動いていたのは、大分昔なんだろ? 耐久的に大丈夫か?」

「保証はありません。使う前に、しっかり確認すべきでしょうね」


鎖の先は、土壁に深く打ち込まれた器具に結ばれ、固定されている。

鎖を引っ張って強度を確かめてみるが、外れそうな気配はない。


「大丈夫か。よし、念のため自前のロープを命綱にしながら、降りるぞ」

「準備しましょう」


備え付けの鎖ほどではないが、器具の先を地面に深く刺して固定すると、ロープを括り付ける。

腰にロープを引っ掛けるためのベルトを巻き、命綱を通す。

肩には、発光の魔道具が括り付けてある。ライト代わりだ。


「よし、降りるぞ」

「お気を付けて」


鎖を握る。

ジャラジャラと音がする。

下を一度照らしてみても、やはり先は見えない。

穴は縦ではなく、やや斜めに続いている。つまり足は一応付くのだが、傾斜がキツいので鎖がないと降りるのが難しそう。先が見通せないので、ずっとこうなのかは分からない。

覚悟を決めて、両手で鎖を握りながら、降りる。


探知は全開。

地中探知まで発動させるも、異常なし。


足場を探りながら降りていくが、腕が疲れる。

ましてやフル武装でこれだ。かなりハードな冒険だよなあ。

共用インフラの鎖はこうして上り下りに使うために工夫されたもののようで、大きめの輪に足をかけられるので、いくぶんか楽できる。ありがとう昔の探索者たち。


長いような、短いような時間が過ぎ、探知で終点に近づいたことがわかった。

身体強化を発動。

最後は落ちるように、素早く着地して、火魔法を発動。周囲を照らすも、まわりは暗闇と岩壁ばかりだ。

鎖は地面に固定された器具と結ばれていて、帰りはこれをよじ登ることになる。



「よし、クリア。いいぞ、次降りてこい!」


念のため、命綱を3回ゆっくりと揺らす。

合図だ。

腰から命綱を外すと、するすると上がっていった。

人数分のロープはあるのだが、ここは流用するようだ。


次のヒトが降りてくるまで、周囲の空間に念入りに探知を入れる。

入り口の狭さと比べると、ゆったりできる広さの空間だ。

正面から奥に進めるようで、少し遠くに何かが動いている気配。


「お待たせしました」


次に降りてきたのは、サーシャ。次いでアカーネ、キスティの順で無事に降下してきた。

サーシャとアカーネは不慣れな感じだが、キスティは訓練でこういうこともやっていたのか、余裕そう。最後に降りてきたルキは、手慣れた様子でするすると降りてきた。


「全員降りたか」


一応人数を確認する、ヒト5人と護獣2匹。

よし。


「この先は、起伏はありますがしばらく普通に歩けます。私が先導します」

「よし、ルキ。頼むぞ。俺は最後尾に回る」


ダンジョンでは、狭い分、前後が攻撃されやすいという。

前はルキ、後ろは俺でフタをする陣形だ。


順番は、ルキ、キスティ、サーシャ、アカーネ、俺だ。

前2人で進行方向の敵を抑える。サーシャは前後に対応できる位置で、弓アタッカー。アカーネは状況に応じてのサポートだ。


「それにしても、暗いな」


キスティが、ボヤく。

俺なんかは怪しいマスク効果で暗視が効いているが、それでもほとんど先が見えない。奥に行けば更に光が届かなくなるかもしれない。

そんな不安を打ち消すように、ルキが説明した。


「もう少し行けば、光るキノコが生えています。地上のようにとはいきませんが、慣れればそれなりに見えます」

「青白いやつか」

「ええ、幻光タケの仲間もありますが、別の種類のものもあります。そちらは赤い光のものになります」

「赤か。そんなに色々、光るキノコがあるとは」


この世界のキノコは、どれだけ光を求めているのか。


「幻光タケなどは、帝国時代に品種改良されたものというウワサがありますね」

「ああ、自然と光ったわけじゃないのか……」

「昔のことなので、真偽は分かりかねますが」


それを更に品種改良したのが、バシュミ族の集落にあったキノコというわけだ。

……キノコの品種改良ってどうやるんだろうな。


「いっそもっと光るキノコに品種改良して町に配れば、街灯の必要もなくなりそうだな」

「どうでしょう。品種改良のスキルは癒術と並んで難解と言いますから、青光タケ程度が限界なのかもしれません」


品種改良のスキルか。

そうか、この世界ではスキルを介して品種改良しているから、結構無茶な設定をしても、スキルが補完してくれるのか。

それが難解ということは、単に特性を組み合わせるというだけだなく、遺伝子操作的な要素も含んでいるのかもしれない。


そうこうするうち、前にうっすらと青白い光が見えてきた。


「噂のキノコがあったか」

「……いますね」


ルキが止まれの合図を出す。

気配探知で前方を探ると、小さな生き物が2体、いや3体か。


「蛇だけのようです。このまま処理します」


ルキがゆっくりと前進し、槍で蛇を突く。

他の2体がルキに躍りかかるが、盾を回して難なく受けると、地面に叩きつけて、槍を繰り出す。


周囲を探知してみても、反応なし。


「ルキ、いいぞ。進もう」

「はい」


やはり、大盾持ちがいると安定感がある。

シールド系の魔法とも違って、ずっしりとした質量が、安心できる。

ルキがあっさりと対処した蛇は、正式名称で闇蛇という。

マットな黒い体表で闇に紛れて、獲物を襲う。

ただ、視覚を頼らずに索敵できる敵にはあまり効果がない。

攻撃方法も単純な噛みつきであるから、読みやすく対処が楽だ。

ただし牙には毒があるから、うっかり噛まれると面倒。


「少し進んだら、一度下の階層に降ります」

「おう」


予定通りのルート。

地図を確認しているのは、俺の前を歩くアカーネだ。ルキは記憶を頼りに所定のルートを進み、アカーネが地図との一致を確かめる。

地図は基本階層ごとに書かれているが、この階層という概念はかなりあいまいだ。

入り口から近いところを第一階層、そこから特徴が変わるたびに階層が深くなっていくというイメージ。

なので、第二階層が第三階層より下にあるといったようなことも珍しくない。

要は、潜る者にとって分かりやすいように区分されているのだ。


その区分に従えば、第一階層にははっきりとした特徴がある。

入り口から網の目のように細い通路が広がる第一階層は、ダンジョンの通路だ。

通路と通路はあらゆるところで繋がり、分岐している。

目当ての場所に進むために、まずはこの通路を進むことになる。


第二階層とされている場所は、その奥にある比較的広い空間がある場所だ。

すなわち通路っぽくない、広さのある場所に辿り着いたら「第二階層」と分類される。

そのため、場所や深さはまちまちだが、広いだけあって、ほぼ確実にヒト程度か、それよりも大きな魔物が棲みついている。


そして第一階層を通路として利用するのはヒトだけじゃない。第二階層の魔物も、第一階層を通路のように利用して移動するのだ。

第一階層には闇蛇やどうくつ蝙蝠が出るが、第二階層に住む亜人が第一階層を通って別場所に狩りに出ることは珍しくない。

つまり、第一階層でも第二階層の魔物とばったりと出くわす危険性がある。

油断ができない。


ルキ曰く、地底湖への近道になるのは、一度第二階層に降りた後、また第一階層を通って第二階層に下りるというルートになるという。

ややこしいが、もともと階層の定義が適当だから、そんなこともあるのだろう。



少し進んだ先にある、ほぼ直角の下り坂を降りる。

ここにも鎖が取り付けてあり、それを伝って降りることができた。

ルキ曰く、ルキが姉を探しにダンジョンに潜ったときには、既に設置してあったそうだ。

……第一階層に上がってくる亜人も、使ってたりしないよな。


降りてしばらくは、1人通るのがやっとの狭さだったが、しばらく進むとガランと開けた場所に出る。

ここが第二階層らしい。うっすらと光る青いキノコが疎らにあるが、暗闇に対してあまりに微弱で全体像を見ることはできない。


気配探知するまでもなく、気配察知で無数の蠢く気配が分かった。

ほとんどが、頭上。天井付近にいるようだ。


「どうくつ蝙蝠ってやつか」


遅れてあちらもこっちに気付いたらしい。

一部の集団が、天井からこちらに向かってくるのが分かった。


「来るぞ、身を守ることを優先しろ」


ラーヴァフローを発動。

気配探知で正確な方向を探りながら、群れを巻き込むように溶岩弾を飛ばす。


「キィイイィィーーっ」


ぼたぼたと蝙蝠が落ちていく。

そこではっきりと姿が見えるが、真っ黒な普通のコウモリだ。

小さいイメージがあるコウモリにしてはやや大きいかもしれない。

口元には鋭い牙が覗いている。


「マッドシールド」


サテライトマジックから、複数のシールドを周囲に展開する。

飛び込んでくる群れのうち、こちらに直進してくるコースに設置した。

俺の後ろでは、ルキの「柔壁」も展開してもらう。

ただし複数展開はできないようなので、討ち漏れがないように最新の注意を払わなければならない。


なんたってこいつらも、毒持ちなのだ。

解毒剤は用意しているとはいえ、これからいつ必要になるか分からないのだ。節約する必要がある。


「よし、大体捕まえたな」


まとめて地面に叩き落とす。

そこを、キスティやサーシャの攻撃で止めを刺していく。


突撃してこなかった蝙蝠が続いてくるかと思ったが、残りは飛び立つと別の場所に逃げていった。


「ふぅ。面倒だな」

「しばらく誰も潜っていなかったのでしょうね、随分と数が増えていました」


ルキが、転がるコウモリに槍で突きを入れながら、感想を言う。

ここは以前もどうくつ蝙蝠の溜まり場だったらしいが、定期的に駆除されるのでここまで数は多くなかったと言う。


「ルキ。こいつら魔石がないぞ」


キスティが、俺の浮かべる炎球の近くに死骸を運び、短剣で腹を裂いている。


「ここで自然に増えた個体も多いでしょうからね」


湧き点から出てきた魔物にはほぼ間違いなく魔石があるが、この世界で生まれ育った魔物の中には魔石が小さかったり、なかったりする個体が混じる。

それと同時に凶暴性も少しだけマシになるようで、さっき襲ってこなかったどうくつ蝙蝠たちがいたように、ヒト相手でも強い相手には戦いを避けることもある。

魔物狩りとしては、逃げられるわ、収入源の魔石はしょぼいわで残念なやつらだ。


それに対して、果敢にも挑んできたどうくつ蝙蝠たちは賞賛に値するが、ラーヴァフローに巻き込まれたやつらを含めると、数十体は落ちている。

……素材の剥ぎ取りが面倒だな。


「ルキ、コウモリの羽根はいくらくらいだっけ?」

「ええ、1つ銅貨2枚といったところです」

「魔石は?」

「個体差が大きいですが、状態が良い物でも銅貨10枚には満たないかと」

「こいつらは捨て置くか。放っておくと危険か?」

「他の魔物の餌になるくらいですね。帰りに、これ目当てに集まってきた魔物に出くわすかもしれません」

「他の通路の方に投げておくか」


それより気になるのは、少し奥の気配だ。

こっちは上方向ではなく、地上にいるっぽい。

気配的に、蛇やコウモリよりは大きい感じなのだが、新手だろうか。


「この先に別の魔物がいそうだ、気をつけろよ」

「亜人かもしれません。周りの索敵も気をつけてください」


ここの亜人は頭が良い方で、囮を出して注意を引くうちに、回り込んで包囲してくることもあるという。

念入りに探知してみるが、正面以外にそれっぽい反応はない。


「よし、慎重に近付くぞ」


ファイアボールをサテライトマジックで周遊させながら、前に進む。

俺はまた、一番後ろだ。


一番前を進むルキが、歩みを止めた。


「見えました」

「ええ。あれは……なんでしょうか?」


ルキと、サーシャが見えたらしい。

俺も暗視でよく見るが、良く分からない。


「ドゥロンクですね」

「なるほど。あれが、そうですか」


サーシャの声が嫌そうだ。

ドゥロンクとは、血を吸ってくる巨大なダニみたいなやつだったはず。


「かなり硬いですが、雷魔法には弱いはずです」

「まだ使い捨ての魔道具は惜しいな。溶岩魔法でいけるか?」

「そうですね……おそらく」


ルキのお墨付きを頂いので、魔力を練る。


前に出てゆっくり近付くと、俺にも姿がはっきり見えた。


身長は1メートル程度。

ただ背中が丸まっているので、もし伸ばせれば人間と同じくらいの大きさかもしれない。

足が長く、口のところに触手っぽいうねうねが生えている。


う〜ん、ちょっとだけキモい。


「なんかキモチ悪いよ!」


アカーネが吐き捨てた。

グリュウ虫とかに比べたら、全然見られる見た目だと思うのだが、アカーネは苦手か。


「ラーヴァストライク」


溶岩魔法を放つ。

バシュウッと音がして、分裂した溶岩が降り注ぐ。


攻撃されたことを認識したのか、10体程度いたドゥロンクが一斉にこちらに飛ぶ。

予想以上のジャンプ力で、ラーヴァフローが直撃したのは後ろの2〜3体に止まった。


ほとんどはすり抜けて向かってくる。

ただ直線的な突撃だったので、斬り捨ててファイアボールを浴びせる。

3体ほど焼いていると、残りもルキに止められ、キスティにミンチにされていた。


「強くはないな」

「……主様の魔法と、キスティさんの攻撃力なら倒せそうですね」


ルキはそう言いながら槍を繰り出すも、ドゥロンクの背中に穂が滑る。

ドゥロンクが反撃しようと身体を縮こませがのが分かったので、魔弾で体勢を崩してやった。続く魔弾でキスティの元へと飛ばしてやる。

そこにキスティのハンマー。ペシャンコだ。


「このジャンプ力と防御力がやっかいなのですが」


ルキは恥ずかしそうに言った。


「まあ、キスティは攻撃偏重なところがあるし、俺はちょっと特殊だ。気にするな」

「このパーティでしたら私は、防御的な役割に徹した方がバランスが良さそうですね」

「そうだな」

「主。光をくれ」


死に体のドゥロンクにも念入りに止めを刺したキスティが、光源を要求する。

一応サーシャとアカーネには、発光の魔道具を持たせている。

キスティには、持たせても使うのが下手そうなので渡していない。


「ああ」

気持ち悪がるアカーネに対して、キスティは抵抗もなさそうにドゥロンクの腹を裂いている。


「ほう、なかなか綺麗な魔石だぞ」


キスティに投げ渡されたドゥロンクの魔石は、小ぶりながら球形で、ちょっと赤っぽい色をしている。


「ドゥロンクの魔石は銅貨10枚以上しますよ」

「この形なら、もっといくんじゃないか」

「ちゃんと交渉すれば、そうかもしれませんね」


俺も加わって、ドゥロンクを手早く解体する。

と言っても魔石以外に高価な素材はないらしいので、腹を裂いて魔石を取り出す作業だ。


「しかしルキ殿、気にする必要はないぞ。その盾使いはなかなか堂に入っている」

「そうでしょうか? そうだと良いのですが」


主人が一人で黙々と作業しているというのに、ルキとキスティが仲良さそうに解体している。


「私はこれでも、戦士家の生まれだからな。盾使いは数多見て来たが、ルキ殿はしっかりとした技術を感じる」

「子供の頃から、訓練してきましたから」

「子供はどうしても、剣やら槍やらを振り回したがるものだがなあ」

「剣や槍は、姉に及びませんでしたから。私の取り柄といえばこれだと、幼い頃から考えてきたのです」

「そうかあ。前線の戦士家はどうしても、盾使いの数を揃えなければならないからな。要請されて、成長してから盾を持つ者も少なくない。後から訓練を始めた連中の盾の使い方は絶望的だぞ。その点、ルキ殿のような盾使いは歓迎されるろうよ」

「北の国のヒトは、盾を使いたがると聞きますね。本当なのですか?」

「それはヒトと場所による。ただ、狩りを超えて集団戦をやる連中が多いからな、自然と盾使いが重宝される。隊列の基本は盾使いだ。どれだけ高レベルの戦士を揃えても、鍛えられた盾使いの戦列には敗れることになる」


戦士団の戦術はともかく、ルキの技術は及第点のようだ。

できれば「柔壁」以外の防御スキルも会得して欲しいところだ。



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