第197話 幻光タケ

光るキノコの、幻想的な様子をぼうっと眺める。

部屋のすぐ外にいたバシュミ族は、言葉の話せないヒトだった。シュストラはいるかと聞いてみたが、理解したかどうかは分からない。どこかに向かおうとしたので、おそらくシュストラを呼びに行こうとしてくれたのだろう。

だがそれを腕を引いて止め置いた。

シュストラと雑談でもしようと思っていただけで、別段用があるわけでもないのだ。

廊下に一定間隔で生えている、キノコの光を眺めて瞑想でもしていればいい。


『月戦士』がどれほどのものか分からないが、守護系のジョブというのはやはり気になる。

3回以上ダンジョンアタックには失敗しているようだが、それだけ深くまで潜って、生きて戻ってきたという証拠でもある。よほどの実力者に守られていたのでなければ、相応に実力があったのだろう。

人材的にはやはり、欲しい。

だがデメリットはやはり、ワーリィ族に狙われるのが面倒。それに尽きるだろう。

ダンジョンに潜ってしまえば、そこまで追ってこないような気もするが。

むしろ、帰ってきたところを狙われるのが厄介か。


もうちょっと、ワーリィ族について情報収集しておけば良かったのか。


つらつらと考えているうちに、軽く眠っていたらしい。

何者かに頭を小突かれた感覚で、意識が覚醒する。


「ギィー?」

「ドンか。悪い、どうなった?」

「キュー、ギュ!」

「悪い悪い」


油断しすぎだぞ、的に鳴いたドンさんに謝りながら、再び部屋に入る。

中ではルキの左右にキスティ、アカーネが座っている。

正面にサーシャが良い姿勢を保っている。


「ご主人様」


位置的に、入り口に正対する場所にいたサーシャが俺に気付き、腰を上げる。


「話は終わったか?」

「ええ、まあ。だいたいは」

「そうか」


ルキ側の椅子は埋まっているので、サーシャの隣まで回り込んで、座る。

最初はルキの対面に3人がいたはずなのに、随分と席替えしている。

ぐいぐい行くキスティはともかく、コミュ障のアカーネまでとは……。


「それで? ルキ、結論は出たのか」

「……は、い。少し迷いますが、そうですね。良い条件だということは分かりました。ヨーヨー様、よろしければ、私を末席にお加えください」

「ほう」


キスティをチラリと見る。

笑顔で頷いてくる。胡散臭い。

アカーネを見ると、普通に嬉しそうに笑っている。


最後に隣のサーシャを振り返ると、難しそうな顔をしつつも、しっかりと頷いて見せた。

いったいどんな話をしたのだか。


「うちの従者も、この短時間ですっかり篭絡されてるようだな。ワーリィ族のことは多少不安が残るが、これも縁か。いいだろう、ダンジョンに連れて行こう」

「ありがとうございます」

「まあ、最悪、ダンジョンまで行って、どうしても納得いかなければ、またここに戻っても良い。うちの情報が伝わるのは避けたいが、ここなら心配もいらなさそうだしな」

「寛大なご提案に感謝します。しかし、一度契約したからには、そうそう違えませんよ」

「生真面目すぎるのも考え物だぞ。オチョウの昔話で、良く分かっただろう」

「……そうですね」


今度こそ、表のヒトにジェスチャーで、シュストラかオチョウを連れて来るよう頼む。

しばらく苦戦していると、ルキが手を叩く動作で何やら伝え、バシュミ族が頷いた。


「……彼らのコミュニケーションが分かるのか?」

「多少のことなら。彼らは言語というより、いくつかのシグナルを使いこなしているようです。言語を修得しようと思えば、理解できるだけの知性はありますが、今の方は若く、理解が浅いようです」

「そうなのか」


普段、他の種族と交流しないと言っていたからな。

使い道のない外国語を習うようなものだ、モチベーションも湧かないし、練習も足りないだろう。



しばらくして、オチョウとシュストラが連れ立って戻ってきた。

傍らには、赤い外殻を持つ、クワガタのような顎のあるバシュミ族が同行している。


「えーと、そちらの方は?」

「お初にオメにカカります。シュストラのツマ、シャイザーデス」

「おお。奥さんはシュストラより、言葉が上手いな」

「ミミガイタイ」


シュストラがカチカチと口を鳴らした。

心なしか気恥ずかしそうな仕草に感じる。


「シャイザーは部族の若手きっての秀才なのです。シュストラは、シャイザーに認められたくて、ヒトの言語を練習したようなものですよ」

「ほう」


価値観は違えど、男女の関係は似た物があるのか。


「さて、彼女を連れてきたのは、他でもありません。彼女は隷属情報を変更することができる術士ですが、結論はいかに?」

「……合意のうえで、俺に隷属先を変更してくれるか」

「おお。それでは、ルキさんと共に、ダンジョンに向かうのですね」

「そうなる。優秀なタンクは、パーティに必要だったしな」

「良い判断かと。ルキさんは我々の戦士たちからも一目置かれる実力の持ち主です」

「そうなのか」


リップサービスかもしれないが、本当なら期待できる。

さっそく、シャイザーに隷属状態を変更してもらう。

これには、ルキの明確な同意が必要なのだそうだ。何やら儀式に参加させられていたが、俺はというと、最後に受け入れを表明した程度だ。

隷属をする方の意思が最重要ということなのだろう。


儀式を眺めていると、ルキの白髪がキノコの光を反射して輝く。

キノコの光しかないので分かりにくいが、ルキはかなり、美人だ。

普通の耳はないが、顔立ちはほぼ人間だ。頭頂から伸びる立ち耳と、透き通るような白髪。褐色の肌に、涙ぼくろが色気を醸している。

他に特徴といえば、足のサイズだろうか。その身長から想像されるサイズの二回りくらい大きい。


「これで、ルキサンの主人はヨーヨーサンにナリました」

「はい」

「ありがとう、シャイザー。どれ」


隷属したら、ステータスが閲覧できるはずだ。

ステータスオープン。


*******人物データ*******

ルキ(月森族)

ジョブ 月戦士(22)

MP 18/18


・補正

攻撃 F

防御 E−

俊敏 G

持久 F−

魔法 G

魔防 E−

・スキル

覚醒、夜目、打撲治癒、柔壁、シールドバッシュ、スタンプ

・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************


ほう。レベルは22と中々。ジョブは自己申告通り、『月戦士』となっている。

ステータスは、防御=魔防>攻撃 というところ。

これもルキ自身の説明通り、守護系ジョブの特徴だろう。

ただ、攻撃もFと悪くはない。防御一辺倒というわけではなさそうだ。

スキルは何やら、色々持っているな。


気になるのは、「覚醒」「打撲治癒」あたりか。

覚醒って、見るからにかっこいいし、打撲治癒って、打撲に限定されているものの、初めての回復スキルかもしれない。


「……急に頭を掴まれたのですが、何かの儀式でしょうか?」

「そんなところだ。まあ、問題ない」


とりあえず、ここはまだバシュミ族もいることだし、俺やパーティの秘密は共有しない。

スキルについて色々聞きたいので、自分から言ってもらうか。


「良ければ、その『月戦士』というやつのスキルを教えてもらってもいいか?」

「ええ、問題ありません。ただ、先に人払いをお願いしたいのですが」

「そうだな。オチョウ、外してもらっても良いか?」

「そうですね。今日のところは歓迎の準備をしていますから、その仕上げを見て来ますよ」

「歓迎って、そんなことはいいのに」

「何。客人はもてなすのが、慣習なのですよ。気軽に受けて頂けると、助かります」

「そうか。では、遠慮なく」


断っても開催されそうなので、歓迎は受けておく。

早くスキルを確認したかったからとも言う。


「……さて、人払いも済んだ。話せる範囲で、持ってるスキルを教えてくれるか」

「主に戦闘で用いるのは、『シールドバッシュ』や『スタンプ』ですね。あとは防御的な面では、『柔壁』というスキルもあります」

「シールドバッシュは何となく分かるが、スタンプや柔壁というのは?」

「スタンプは、攻撃の重さを加えるスキルと言えば良いでしょうか。少ない魔力で発動できますが、扱い方が少し難しいスキルです。柔壁は、マジックシールドに近いですね。空中に敵の攻撃を防ぐ力場を発生させるのですが、柔らかく包み込むような特性を有しているのが特徴のスキルです」


スタンプは、正直説明だけだとイメージが分からないが、柔壁は俺の魔法で言えばマッドシールドに近いものかな。複合魔法を使わず、スキルとしてお手軽に発動できるなら便利そうだよな。


「あー、では、戦闘に用いないものは?」

「はい。『打撲治癒』というスキルを持っています。これは、自分や他の人の打撲を治療できるものなのですが……効果がまちまちで、魔力の消費が激しいため、使い所が難しいです」


おや。

「覚醒」の話が出ないが、切り札だからかな?


「なるほど。他には何かあるか?」

「他にですか? そうですねぇ。『覚醒』というスキルもありますが」

「ほう! 窮地に追い込まれたら、パワーアップするのか?」

「いえ? そのまんまですよ」


ん?


「そのまんま、というと」

「はい。ですから、目が覚めるのです」


そっちかーい!

いや、本来の意味はそっちか。


「夜番のときなど、便利ですよ」

「……そうだろうな」


最初に言わなかったのは、切り札だからではなく、普通に言わなくても良いスキルだったからか。

まあ、こういう地味なスキルも、使いようだ。

目覚ましのときの他にも、睡眠系スキルとかあったら対抗できるかもしれんし。

夢の中で攻撃してくる敵とかも、漫画とかだといたよな。サキュバスとか……。

いや、この世界の魔物って、化け物系が多くて、サキュバスっぽいのは見たことがないが。

この世界の住民だと、サキュバスくらいならヒトとして受け入れちゃいそうだから、いないのかね。


「魔物相手に随分戦ったらしいが、王都近くや東部でも出るような魔物は狩ったことがあるか?」

「砂漠地帯の魔物でしょうか。それなら、色々とあります。砂走りの群れや、ブローディの討伐に参加したこともあります。」

「ブローディか」


たしか、砂漠地帯では最上級の危険な魔物だ。

胴体だけで数メートルある巨体なのだが、空中を漂いながら、長い脚と魔法で地上の獲物を狩るという。戦闘時には、羽虫のような魔物を撒き散らして、敵を襲わせるとか。

かつて戦った古木の魔物シュミダを思い出す。

あいつも小体をばらまいてきたっけな。


「この辺の魔物の警戒は任せられるか」

「この辺りでしたら、案内と情報提供ができます。ダンジョンについても、低階層の魔物であれば一通り」

「頼もしいな」


ルキの姉の亡骸を探しに行くなら、亜人がはびこるという地底湖の奥に抜けていかねばならない。

町で予習はしてきているが、いかんせん魔物狩りギルドのように情報を売ってくれる組織もなかったし、魔物情報は足りていないのだ。

現地に潜ったことのある戦闘要員が一緒に行くのは大きな強みだ。


タリフも経験豊かではありそうだったが、戦闘でどこまで頼りになるのか未知数だったし、最悪ダンジョンの中で裏切って身包みはごうとしてくる可能性も、ゼロではなかったからな。

パーティ組んだ者だけで潜れるなら、結果オーライかもしれん。



***************************


ルキと、喋れないバシュミ族に先導されて、見上げるような高い天井のある、開けた場所に連れていかれる。


天井には疎らに光るキノコが生えていて、上から優しく光を降らせる様はどこかプラネタリウムのようでもある。

うっすらと見える広間のあちこちには、座り込んだバシュミ族たちが何やら鍋のようなものをかき混ぜていたり、団子のようなものを捏ねたりと忙しそうだ。

全部で20人以上はいそうだ。

シュストラと奥さんのシャイザー、そしてオチョウの3人と、名を知らぬ門番をしていたバシュミ族は全体のフォルムが似ていたのだが、こうしてバシュミ族の集まりを見ると、見た目が結構バラバラだ。

アリと昆虫のあいのこのようなシュストラと少々異なり、表皮がフサフサしていて、クモっぽいヒトや、ゲジゲジっぽいヒトもいる。

身体のバランスは大体同じなので、同じ種族と言われればそうなのだろう。

ただ細かいパーツや、色味が違うので、それぞれかなり個性的だ。


「ヨーヨー、キタか」

「シュストラ、邪魔したか?」

「イイヤ。チョウドジュンビガデキタ」

「ほう。バシュミ族のごちそうかな?」


あちこちで広げられているものを見ると、明らかに料理してるからな。

歓迎の料理か。


「安心シテホシイ。ニンゲンのチソウ、アル」


周りを眺めた俺が不安に思っていると考えたのか、シュストラは広間の中央、オチョウが座っているあたりを腕のうちひとつで示した。


「オチョウ。なにしてるんだ?」

「きなさったか、ヨーヨーさん。この辺りは、人間族が好みそうな食材ですよ」


オチョウが目線をやったところは、骨つき肉がある。

何の肉か分からないが、たしかに見た目は旨そうだ。


「ルキ、おすすめはあるか?」

「そうですね……。地下兎の丸焼きなどは、美味しいですよ」

「ここで暮らしている間は、ずっと食事を共にしていたのか?」

「いえ。やはり、バシュミ族の食事は合わないものが多く、別に作らせてもらっていました。ただ、幻光タケの甘スープは、見た目の割りに人間族の口にも合うと思いますよ」

「幻光タケ? もしかして、ここの天井にもある、光の元になっているやつか?」

「いえ、似ていますが、少し違います。同じようなキノコですが、食用に改良されたものがあるのです」

「ほお……品種改良か」

「ええ。元は同じ種だったキノコを、光量を増やす方向で改良したものが、灯りとして使っている青光タケと呼ばれるものらしいです」

「地下には地下の暮らしありだな」


食事を口にするのは少し抵抗があったが、俺に隷属したルキが食べたことがあるのだから、食べられないものを勧めているわけではあるまい。

覚悟を決めて、幻想タケのスープを分けてもらう。


……済んだ湯の中に仄かに青く光るキノコがぷかり。綺麗だが、美味しそうには見えないな。

ひとくち。


ふう〜む。

独特のしょっぱさがあり飲みやすく、後味は甘い。キノコはあまり味がないが、スープの出汁がキノコの風味なのだろう。

たしかに、いくらでも飲めそうな味だ。


キスティとアカーネは、受付やすそうな骨つき肉を貰っているが、アカーネは果敢にも得体の知れない料理を食べてみているようだ。


「さて、楽しんで頂けているようだ」

「オチョウ。ああ、食事を感謝する」

「構いませんよ。我らにも旅人をもてなす風習はあるが、受けてくれる者は少ない。皆も喜んでいるようですよ」


ぐるりと見渡してみると、バシュミ族がさらに倍になっている。

それぞれ料理したり、何かの脚をバリバリと噛み砕いたりと、すっかりパーティモードだ。

こちらの視線に気づいた何人かが、カチカチと口を打ち鳴らした。


「しかし、1つ聞いて良いか」

「ええ」

「ルキは、あんたらに何をしたんだ?」


この地域では、バシュミ族は「ヒトではない」という扱いが一般的なのだろう。

そんな相手と仲良くなり、あまつさえ「友」として匿われているのだから、何か過去にあったのだろうと思う。


「ああ、そのことですか」


オチョウは、平らな皿を器用に舐めるようにして、液体を飲んだ。

バシュミ族の口では、水分を摂るのが難しそうだ。


「ルキさんは、同胞を助けてくれたことがあるのです。彼女がいたという、ピンクストイにも我々への偏見はあるそうです。しかし、彼女は自分の目で見たことを信じ、同胞を救ってくれた」

「俺と同じようなことをしていたのか」

「ええ。しかし、少し違いますね。ルキさんは、たまたま同じ魔物に襲われた時、共闘したというものです。それだけでもね、ヨーヨーさん。同胞等はとても喜んで、ルキさんを仲間として助けると決めたのです」

「そうか」

「ヨーヨーさん、あなたは、更に凄い。我らを助けるために、ワーリィ族の部隊を丸ごと……。並の覚悟ではできません」

「少し、無茶をした。ワーリィ族がいけすかない奴らだったとしても、対立していたあんたらがマトモな奴である保証にはならない」

「そうですね。ヨーヨーさんたちを脅威に感じ、むしろ虚をついて攻撃してきたかもしれない。そうそう何度も、無茶をしてはなりません」

「ああ」


幻光タケの汁物をもうひとくち。

うむ、うまい。


「オチョウは、異端だと言っていたな」

「私ですか、そうです。私は同胞のように、正義を貫くことも、他種族を信じることもできません」

「それで、苦しかったことはなかったのか?」

「ずっと苦しかったですよ。他者と違うと思い知ることは、やはり苦しいのです。それは人間族も、同じでしょう」

「まあ、な」

「私のことを嫌う同胞も、昔は多かった。今だって、私ははなから異質な存在として認識されているだけです」

「……」

「しかし、私は同胞を、バシュミ族の素直さ、高潔さを愛しています。誰よりも。それが一方で、残酷さを伴うものであったとしても」

「だから、調整役を買って出ているのか」

「どうでしょうね。単に、巡り合わせですよ。昔は、バシュミ族ももっと、色んな集団がいたものです。色んな思想があったんです。バシュミ族には、バシュミ族なりにです」

「ここにいる以外にも、バシュミ族がいる……いたってことか?」

「ええ、まあ。ヨーヨーさん、何故この世界は、多くのヒト種族が混ざり合って暮らしているのでしょう?」


なんだ? 禅問答のような問いだ。


「さて、神のみぞ知るだな」

「神ですか。そうでしょう。では、こう問い直しましょう。何故、混ざり合って暮らせているのでしょう?」

「……何を言いたいんだ?」


オチョウは、少し動きを止めてから、微かに聞こえるほど、控え目にカチカチと口を打ち鳴らす。

笑っていたように見えたときとは、仕草が少し違う。これは、なんの感情だろうか。


「バシュミ族のように、ヒトに溶け込めない種族はどこに行ったのでしょう」

「それは……」

「我々は、滅びるべくして、滅びるのかもしれません。しかし、私のような異端には、バシュミ族の恐ろしいほどの純粋さが、恐ろしい以上に、眩しいのですよ」


そうか。そうだな。俺もバシュミ族のようには生きられない。

しかし彼らのような生き様を眩しく、大事に思うオチョウの気持ちも分かる。たとえバシュミ族は誰も、オチョウを理解できなかったとしてもだ。


「帝国末期に、あんたのような指導者がいたら、バシュミ族の運命も違ったのかもしれんな」

「それは、お世辞と受け取っておきましょう」

「割と本気で言っている」

「そう、ですか」


オチョウは黙々と、木の皮のようなものをかじりはじめた。


「ヨーヨーさん」


しばらくして、彼は再びこちらに向き直った。


「どうした?」

「あなたもなかなか、ヒトたらしだ。ここまで伝える気はなかったのですが」

「なんだ?」

「北の国には、しばらく戻らぬことです。北の国では近いうちに、動乱が起こりましょう」

「……ほう」


南の国との戦争のことだろうか。

いつ激化してもおかしくない様子だったからな。


「いつもの小競り合いでは、ないですよ。国を、世界を揺るがす大乱の可能性があります」


マジか。

マジか?


「こう言っちゃなんだが、オチョウさん。あんたが北の国の情報通ってのが……」

「ええ。砂漠で隠れ住んでいる部族の長が、何故そんな情報を知っているかと思うでしょう」

「ああ、正直な」

「言ったでしょう。私は異端です。高潔でも、正直でもない。私は、取れる手段は全て取ります。そして、情報は、命ですよ。ヨーヨーさん」

「……なるほど?」

「どのような乱になるのか、全体像は流石に掴めません。しかし、私の生きてきた中で、1、2を争う大乱の気配がします。それは、あらゆる細かな情報に紛れて警告してきているのです」

「大乱、か」


北の国。キュレス王国で他の火種と言えばなんだったろう。

……遠い話すぎて、すっかり忘れていたが、王様と王弟が仲が悪いみたいな話は聞いたっけ。

内乱かぁ。それはドロドロになりそうだぞ。


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