第192話 コーヒー
背中で陽光を感じながら、昼下がりの市場を歩くのは楽しい。
アカーネの要望通り、1週間は休憩しようと決めた。
毎日、町を探検してみたり、サーシャと美味いものを探したりはしているが、基本は休みだ。
昨日の夜は、久しぶりにドンさんのステータスを見てみたところ、スキルが意外な方向に伸びていた。
*******対象データ*******
ドン(ケルミィ)
MP 9/9
・スキル
気配察知Ⅱ、刺突小強、危険察知Ⅱ、知性Ⅰ
・補足情報
ヨーヨーに隷属
*******************
おわかりだろうか。
「知性」とかいう、なんか頭が良さそうなスキルをゲットしていたのだ。
ペットは飼い主に似るというから、納得のスキルだ。
そんな知的な俺の方はというと、『魔法使い』が上がっていた。
あと『愚者』もジャンプアップして、2レベルアップ。
*******人物データ*******
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(26)魔法使い(25)愚者(15)※警戒士
MP58/62
・補正
攻撃 F−
防御 F−
俊敏 F
持久 F
魔法 D
魔防 D−
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加
火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法、溶岩魔法
貫く魂、盗人の正義、酒場語りの夢(new)
気配察知Ⅱ、気配探知、地中探知
・補足情報
隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ
隷属獣:ドン
*******************
地味に『干渉者』もレベルアップしているが、こいつはステータス変わらないからな。
それよりお気づきだろうか、『愚者』であるが。
新しいスキル生えたわ。
『酒場語りの夢:自分への干渉・介入を解除する。』
これである。
どうやら、デバフ解除系のスキルが手に入ったようだ。
いや、テストしていたら、身体強化も解除できちゃったので、バフも解除してフラットに戻すスキルなのだろう。
ただし、身体強化を強くかけるほど、解除にかかるコストも跳ね上がっていたので、強力なデバフには対抗できないかもしれない。
それを差し引いても、これは地味に強みになりそうだ。
精神操作系が効かなかったおかげで、瞬時に敵味方を見抜いていたニンゲン嫌いのトカゲ顔を思い出す。ただ、自分へのとわざわざ書いてあるように、パーティには適用できそうにない。
結局、いざというときは俺がなんとかしなきゃいけないということだ。
まあ、キスティも抵抗系のスキルはあるから、威圧系のスキルには対抗してくれそうだが。
そして、昨日見たサーシャのステータスはこちら。
*******人物データ*******
サーシャ(人間族)
ジョブ 十本流し(8)
MP 15/15
・補正
攻撃 F−
防御 G
俊敏 G
持久 G
魔法 G−
魔防 N
・スキル
射撃中強、遠目、溜め撃ち、風詠み、握力強化、矢の魔印
・補足情報
ヨーヨーに隷属
*******************
転職したてとあって、伸び盛り期間だ。
アカーネに変化はないが、キスティは最近1レベル上がっている。
*******人物データ*******
キスティ(人間族)
ジョブ 狂戦士(26)
MP 14/14
・補正
攻撃 C−
防御 N
俊敏 F
持久 F
魔法 G−
魔防 G−
・スキル
意思抵抗、筋力強化Ⅱ、強撃、大型武器重量軽減、身体強化Ⅰ、狂化、狂犬
・補足情報
ヨーヨーに隷属
*******************
攻撃が順調に伸びているが、防御は伸びる気配がないわ。
ただ連携がだいぶ出来てきて、「防御」がなくてもハンパな相手には遅れを取らないという信頼も出来てきた。
メイン武器であるハンマーだけでもかなり重量級だが、サブ武器として携帯している灼鉄の槍も、ここまでで案外と出番がある。
結果として、2つを常に持ち歩いているような状態だが、特に重そうにはしていない。
むしろ、砂漠の暑さの方が参っていた。
ちなみにサーシャは色んなジョブが生えているようだが、キスティは戦士系しか選択できない。
根っからの戦士と言えるのかもしれない。
そんなキスティは今日は宿でお留守番。
サーシャと一緒に、狩猟ギルドで募集をかけた件について、用があって外出中である。
「ご主人様、おそらくあれです」
「ここか。通ったことはあったな」
砂漠の中にあるが故に、だろうか。
町の中に点在する豪邸は、外からも見える位置に噴水を設けたりしている。
なかでも一際立派な噴水のある庭を見られる位置に、立ちコーヒーショップとでも呼ぶべき店がある。入ったことはないが、見かけたことはあった。
サーシャはきちんと店名まで把握していたようで、ギルドで告げられた待ち合わせの場所としてすぐに理解していた。
「さて、少し待つか」
「いえ。既に来られているようです」
サーシャが目線をやった方向を見ると、頭に布を巻き、身長の低い男がこちらを見ていた。
「よお。あんたが、狩猟ギルドの件のタリフさんか?」
「ああ、そいつは俺だ。ようこそ、ヨーヨーだったか?」
「そうだ。こっちは従者のサーシャ」
サーシャが、軽く頭を下げて挨拶をする。
「ベッピンさんだね」
「あんたは人間族じゃないようだが、分かるのか?」
「いいや。だが、客にはいっつもそう言ってる」
「なるほど」
タリフは肌がやや緑がかっていて、耳が尖っている。
この見た目は、小鬼族じゃないだろうか。
ただ、小鬼族はシュッとした雰囲気のやつが多いのに対し、このタリフはなんだかダラけた雰囲気だ。
「それにしても、あんたダンジョンに何の用があるんだい? 俺は何度か潜ったが、くたびれ損のなんとやらだぜ」
「まあ、趣味というかな。魔物狩りついでに、覗いてみたいくらいの気持ちさ」
「そうかい。たまにいるけどね、あんたみたいな酔狂は」
「一応聞いとくが、そいつらは生きてるのか?」
「さて、難しい質問だね。俺と一緒にダンジョンに潜って戻ってきた時点で、という意味なら、7割がた生きてるさ。ダンジョンに潜る前に死んだり、その後死んだりした連中も多いけどな」
「7割かよ」
「深い階層に潜るなら、半分を切るぞ。やめとくかい?」
「いいや。とりあえず話だけでも聞こう」
「それならいいや。ただ、先に言っておくぞ。俺はヤバい案件には首を突っ込まねぇんだ。あんたら少しでも危険を冒すつもりなら、俺は案内しねぇぞ」
「別に案内の依頼じゃないだろう、まだ。まずは知ってる情報を教えてくれ。それだけで銀貨が貰えるんだ、出し惜しみするなよ」
「出し惜しみするほどのことはねぇからよ。ま、じゃあ知りたいことを言っておくんな。ああ、ここのお代はあんたら持ちでいいよな?」
「ああ、構わない」
タリフはそれを聞いて、右手をサッと上げると店員を呼び込んだ。
そして、追加注文をこれでもかとしていった。
「遠慮ってものがないのか? あんたは」
「そういうのは他のやつらに譲ることにしてるんだぜ。ヒトには適材適所ってやつがある」
こうまで堂々とセコいことをされると、逆に何か言う気にもならん。
コーヒーメインの立ち飲み屋ということで、がっつりした食事はなかったようだが、軽食が次々と運ばれて並んでいく。
ちなみに、周囲にそんな頼み方をしている客は見当たらない。
だいたい、コーヒー一杯と軽食を1つくらい頼んで、談笑していくような店だ。
「で、何が知りたいってんだ? んあ、こいつは新商品だな。見た目はいいが、味はイマイチ、と」
「黙って食えないなら、後で食ってくれよ」
「悪い悪い、黙って食うよ、お代官さまよ! それで?」
タリフに、ダンジョンの位置と周囲の拠点、それからダンジョンに潜る際の準備について質問していく。
タリフはこちらがずぶの素人であり、初歩的な情報から求めていることが分かったようで、彼なりに言葉を選んで解説してくれた。
ダンジョンは、北の山脈。キュレス王国との国境ともなっている巨大な山脈のふもとに、いくつか点在しているという。
中で合流していると考えられているものもあるが、全くの別物と考えられているものもある。
なので一概に語ることができないこともあるが、少なくとも浅い階層に潜るだけであれば必要なものは似通っている。
通常の野営にも必要なものを除けば、光を確保するための道具や手段やマッピングできる、できるだけ詳しく新しい内部の地図。
狭い急勾配を移動できるようなロープや補助的な道具。
あとは、戻る道が分かるようにマーキングするための道具。
それらは砂の都で買い揃えられるし、あるいはダンジョンの近くの町で買うこともできる。
ただし、ダンジョンのすぐそばに町があるわけではないという。
というのも、ダンジョン自体が魔物の巣窟と化していることが多いので、すぐそばは危険なのだ。
それでも中に潜る者が多ければ、補給のための拠点が自然とできていておかしくないのだが、現在はほとんど潜る者がいないために、拠点らしい拠点は整備されていないというのだ。
だからこそ、ダンジョンへの出入りは制限されておらず、管理もされていない。
入るならご自由にという体制なのだそうだ。
下手したら犯罪組織の隠れ家として使われそうだが、わざわざ魔物で満ちているダンジョンを使う組織はいないと考えられているようだ。
さて、行くならここで準備をしていく必要がありそうだ。
北の山脈まで行く手段も確保しなけりゃならない。
どうするか……。
「ちなみに、アンタを雇うことはできるのか?」
「まあ、ダンジョン見学なら俺が最適だろうねぇ。今は身体が空いてるが、あいにく休暇中でね」
「それはこっちも同じだ。休暇が終わった後を考えてるが、どうだ?」
「ほう。次の仕事が決まったまま、のんびり過ごすってのも悪くはねぇな。でも、大旦那さんよ。俺はぶっちゃけ、安くはないんだぜ?」
「いくらくらいだ」
「慌てちゃいけねぇ。こういうのは、雇う方がまず金額を提示するんだ」
うーん。
案内人か。
「サーシャ、どうだ?」
「難しいところですが。ダンジョン探索はお金が儲かるわけではないのですよね? せいぜい、戻ってくるまでで大銀貨ではないでしょうか」
「そうだな。どうだ?」
「大銀貨? 1枚かい」
「さてな、それは日程によるだろう。どうだ?」
「そうだねぇ……前の仕事よりか安そうだ」
「別に、どうしても行きたいってわけじゃないんだ。無理そうなら、そう言ってくれ」
「まあまあ、落ち着きなさって。1枚じゃあちとショボいが、そうだねぇ。行き帰りの道案内まで含めて、大銀貨2枚。ダンジョンは低階層を2〜3日くらいでどうだい」
「ダンジョンまでの行き来はどれくらいかかる?」
「へへ、俺に任せて貰えりゃ、そうだなあ。鳥馬で行けば、5日とかからんよ」
「ほう。往復で10日か」
「そーさ。日割りで考えりゃ、1日銀貨2枚足らずで優秀な案内人を雇える。別にダンジョンに行かなくたって、飛びつく出血サービスじゃないか?」
「大銀貨だぞ? そんな簡単に出せる値段でもないだろ」
「それじゃ、ギルドにでも問い合わせてみてくんなよ。俺の優秀さを説明してくれるはずだぜ」
「わかった。少し考えさせてくれ。それで、雇うならどうすれば?」
「ギルドに伝言でもしてくれ。縁がありゃ、また会おうぜ」
「そうしよう」
タリフを残して、宿に戻る。
タリフは残っていた軽食を、すごい勢いで貪り始めている。
自由なやつだ。
***************************
途中で一度狩猟ギルドに寄ってから、宿に戻る。
ギルドには、商人からの依頼があって閲覧できるが、それを受領といったことはできない。
早い者勝ちなのだ。あくまで依頼側が一方的に買取情報を流すだけで、もし別のパーティとバッティングして、先を越されていても何の保証もない。別の商人が買い取ってくれないか、自分で探すしかないという。
キュレス王国でも似たようなものといえば似たようなものだったが、ここまであからさまではなかったように感じる。良くも悪くも「商人の国」なのだなあと思える。
当然、というべきか、テーバ地方の魔物狩りギルドのように、魔物の情報を扱っているようなこともなく、参考になるのは依頼情報くらいだ。
代わりに、巷では魔物狩り相手に情報を売る「種売り」と呼ばれる情報屋がいる。
この町で魔物狩りとして暮らすには、まず信頼できる種売りを見つけるところから始めなければならないということだ。
……それはとても面倒くさい、ということで、魔物狩りすらせずに、文字通りの休暇を送ることになっているわけだ。
宿に戻り、上目遣いでチラリと確認してくる受付に顔を見せると、端の部屋に向かう。
部屋の前には、今日もキスティが仁王立ちしている。
「戻ったか、主」
「せめて座ってりゃいいのに」
「座ると、いざというとき身体が動かん」
真面目なことだ。
まあキスティも、護衛ムーブに飽きると訓練したり、部屋で酒を飲んでたりするのだが。
どうやら俺とドンが揃っていればある程度安心という判断をしているらしく、俺かドンがいないときはこうやって護衛したがる。
「アカーネの様子はどうだ?」
「ずっと何やらいじっているよ。良く飽きないものだ」
「あれが生き甲斐みたいだしな」
一応ノックをして、部屋に入る。
しかしアカーネは部屋の隅で荷物を広げながら、こちらを一瞥もしない。
「アカーネ。ご主人様のお帰りですよ」
「あっうん。お帰り〜」
「アカーネ……」
サーシャの教育の甲斐あって、一時は身についた従者ムーブはこのところ、完全に失われてしまった。
どう考えても俺が甘やかすからなのだが。
「鍵の様子はどうだ?」
「相変わらず。不定期だけど、結構反応してるね」
「場所は割り出せたか?」
「試行回数は増やせたけど、今度はこっちが移動してないから。正確に割り出すのは無理かな」
無理か。まあ、ここから北の方にあるということは確定で、どうやらそこから動いていないというのもほぼ確定した。
これまでは何だかんだでこっちが移動していたし、これほど鍵の反応も良くなかったので確定できなかったが、アカーネがいうには「ほぼ間違いない」とのこと。
「ダンジョンを案内できそうな奴は1人、見つかったぞ。ギルドの職員が言うには、他に心当たりはないらしい」
「ふ〜ん」
気の無い返事だが、魔道具をいじっているときのアカーネあるあるだ。返事が続いている分、こっちの話に興味は持っているということである。
「そいつが言うには、潜った奴の生存率は70%くらいらしいが」
「……ふ〜ん」
「あんまり怖がらないな?」
「ご主人さま、あのね? これまでの旅も、普通のパーティだったら生存率70%は切ってると思うんだけど」
……そう言われるとそうか?
「だから今更だね。10%未満とか言われたら、さすがにボクでもえっと思うけどさ」
「ワームの群れに襲われて、逃げ延びる確率ってどんなもんだろうな?」
「知らない。でも誰も死なない確率なら、10%未満じゃないの」
うむ。
そう言われると、今更ダンジョンがなんだって気もしてきたな。
盗賊がいなさそうな分、魔物だけに警戒していればいいのは楽かもしれない。
まあ、魔物の種類によるけども。
「少しダンジョンの魔物についても調査をしてみるか。行けそうなら、この辺で魔物狩りじゃなくてダンジョンに向かうのもいい」
「あっ! ご主人さま、そしたら今度、火の魔石と光の魔石とか補充できない?」
「あー。アカーネの改造魔石も、色々消費してるもんな。しかし光の魔石は高いんじゃなかったっけ……」
「球体じゃなくてもいいからさ。いざというとき、ご主人さまがいなくても灯りになるものは欲しいじゃん?」
「まあ、そうだな。火の魔石は?」
「そっちは単純に攻撃用。今なら単純に、火の魔石が威力出るかなーって」
「しかし、ダンジョンで火はなあ。空気薄くなりそうだ」
「あ、だめ? じゃあ風か、土かな……」
「まあ、攻撃用なら魔投棒があるだろ」
「あー、まあね」
あれなら、単に魔力の塊のようなものを飛ばすだけなので、大丈夫だろう。
「魔石も、売ってたら買っておくよ。個人的には、攻撃の前にポーション類を開発して欲しい」
「ポーションかああ。あれ、本当に難しいんだよ?」
「まあ、頑張ってみてくれ。今は、防御役と回復役がいないからな。誰かが危険な所で怪我でもしたら、最悪見捨てることになる」
「それはヤだな。頑張るけど……」
「できる範囲でな。この町なら、効果の高いポーション類も売ってそうだし」
「うん」
パーティでどうにもならない部分は、金で何とかしないとな。
夕食までちょっと暇だったので、今のうちに残金も確認しておくか。
久しぶりに、異空間からも金を取り出し、床に並べる。
何も言わずともサーシャが横に並んで、手伝ってくれる。
金貨12枚、半金貨1枚、大銀貨3枚、銀貨8枚、あとは小銭がジャラジャラ。
金貨12枚だ。
定期的な収入があるわけではないので、これがあっても大金持ちとは言えないが、ちょっとした小金持ちではあるだろう。
ダンジョン用の道具や、ポーション類の買い足し。その他諸々を足しても、金貨の1〜2枚あれば足りるだろう。
そうなると、新規メンバーの追加か? とも思うのだが。
キスティレベルの戦士を奴隷として買えば、金貨10枚くらい吹き飛びそうだし、かといって成長に期待して安い戦闘奴隷を買っても、防御ジョブが不足している現状では戦いづらい。
それに、ダンジョンに向かう際に鳥馬あたりを買うと考えると……あまり博打はできない。
鳥馬の値段と、ダンジョン用の道具などを見繕ってから、余った金をどうするかを考えるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます