第170話 小物

キスティの鎧を受け取る。

クリーム色の、胸のところが膨らんだ胸当てはキスティに良く似合っている。

砂牙トカゲとかいう魔物の皮を使った一品らしい。

胸当てと草摺以外には、蛇皮のような柔軟な素材でカバーしてある。

これは動物素材らしいが、伸縮性が良く破れにくい、西の国では良く使われる素材らしい。

砂漠の方に行くと言っていたから、それに合わせて西の国で好まれる素材のものを選んでくれたという。

頭には白い、骨を削った蛮族みたいな兜を被っている。砂漠トラという、これも西の国にいる魔物の頭蓋骨を削って組み合わせた兜だ。

頭の形に合わせてくれていたらしく、すっぽりと入った。


礼を言い、残金を支払って引き取る。

もともとの鉄鎧だが、村まで持っていくのも大変なのでここで引き取ってもらう。

二束三文だが、まあ金を出してくれるだけ有り難い。


「軽すぎて落ち着かない」


キスティがブツブツと言っているが、胸当てはかなりしっかりした構造で、十分に重い。

それにあのハンマーを持ち歩くのだ。十分すぎる重量だろう。


「慣れろ」

「むう。承知した」


道中で何度か模擬戦でもやってやれば、キスティの機嫌も直るだろう。

店を出て、保存食を買いに出たサーシャ達と合流する。


領都で呼び出しでもあるだろうかと、ちょっと考えていたが、特にはなかった。

拍子抜けだが、そんなことを考えていると呼び出しがかかりそうだな。

フラグを折って、とっとと去ることにしよう。



入り口で待っていたのは、なんだか革鎧が似合っていないひょろ男が3人。それに、角の生えた少女が1人と、ミノタウロスみたいな見た目の……女性?


「ヨーヨー殿か」

「そうだが」


話しかけてきたのはよりによって、ミノタウロス風の人物。

声を聞くとやはり、女性のようだ。たぶん。


「ミヅカという。ブラグ家の戦士だ。こっちはリッカ」

「ヨーヨーだ。後ろのは、俺の従者のサーシャ、アカーネ、キスティだ」

「よろしく。……パシ族をみるのは初めてか?」

「いや? パシ族は、たしか……」


どこで会ったっけ。


「……ヌー・オーダーの皆さんと、魔物狩りで肩を並べました」


サーシャが後ろから呟く。


「そうそう、ヌー・オーダー」

「オーダーの人間と会ったか! 失礼した、見立て違いであった」

「あんたは……オーダーと関係が?」

「いや。だがパシ族だから、やはり多少の憧れはある。幼少期に必ず聞く戦士団だよ」

「へえ」


いろいろあって、もう印象が薄いが、たしか共闘したのは死蜘蛛の時だよな。……ああ、そうだ。

たしか隊長っぽい人が、「戦神の怒り」とかいうカッコいい技を使っていた。

その響きだけ覚えている。


「……パシ族というのは、戦神を信奉しているものなのか?」

「うん? いや、特にそういうわけではない。だが、戦士には戦神を祈神とする者は多いのではないか」


まあ、そうか。

戦の神ズル、だったか。

辛うじて名前を覚えていたことを褒めて欲しい。


ゲームみたく、戦の神を信奉すれば攻撃ステータスにボーナスが……とかなら、もっと真面目に覚えるんだけどな。

スキル名に神の名前が出てくるのはどう考えるべきか。

それだけで、神が実在すると考えるのはちょっと早計だが……。


「貴方たちは、腕が立つと聞いておりますが?」


高い声で丁寧に話しかけられた。

どうやら、背の低い角の生えた少女が話し掛けてきたらしい。


「いや……まあ、それなりに腕に覚えはある。ブラグ家の戦士と肩を並べて、傭兵団と戦える程度には、な」


ちょっとリップサービスを入れつつも、自信を見せる。

これから護衛されるというのに、謙遜されるのも不安だろう。


「あたしは『斥候』です。旅の間の偵察はお任せください」

「おお、そうか」


それは正直、助かる。

今、メンバーの中で一番斥候っぽいのが俺なんだよな。

もちろん、不十分だが、その分を俺とサーシャ、アカーネの索敵能力でカバーしている。

ああ、あとドンさんの危機察知能力もあるから、かなり手厚いが。

不足している情報収集分野を任せられるのは大きい。


といっても、ダイコンをくぐり抜けて村に行くだけだ。

もはや慣れた道と言える。


「それで……、そのパシ族の人は戦えそうだが、後ろの男性3人は?」

「あの人たちは、戦えません。文官肌の人たちですから、一応武装してもらっていますが、自分の身を守るだけでいっぱいいっぱいでしょう」

「なるほど。実質、その3人が護衛対象だな」

「そうです。私も索敵にはそれなりに自信がありますが、最前線で戦ってきたわけではないので、戦闘能力は期待しないでください」

「分かった。パシ族の……ミヅカだったか。あんたはどれくらい戦える?」


大きな両面斧を背負ったミヅカに質問する。

両手を組み、佇む姿勢からするとかなり戦えそうな気がする。


「ジソ殿には遠く及ばない。だが、平均的な戦士くらいにはやれる」

「そこそこ強いってことだな。分かった」


比較対象として、ジソが出てきたが。

この世界、戦士家のベテランって武力カーストの最上位に近い印象だ。

そこに及ばないといっても、戦士家としてそれなりに経験があるなら、強いのだろう。


「俺たちからも、良いか?」


遠巻きにして見ていたヒョロ3人男からも、質問が飛んだ。

質問内容は、村の経済状態、特に食料備蓄などに関わることだった。

俺に分かるわけはないのだが、サーシャが印象論と前向きしつつ回答してくれた。


食料的には困窮しているといった雰囲気はなく、魔物被害も落ち着いている。

ただ、これといって産業もなく、農地も狭いことから、裕福な暮らしをしている様子ではない、と。


たしかに。

酒場が動いていたくらいだから、困窮しているって感じではなかった。

だが、皆質素な服装だったし、産業らしい産業も見えなかったな。

傭兵団以前、というか戦争以前はどういう経済状態だったのだろうか。

まあ、特産という意味ではダイコンやモグラが豊富に収穫できそうだが。


ヒョロ男たちは、農家の様子をしきりに尋ねてきたが、それには答えられなかった。

そういえば、農業関係の人とは縁がなかったな。

酒場にいた人たちの誰かが農家の人だった可能性もあるが。それだけだ。



さて、5人を加えて、総勢9名で村へと出戻る。



***************************



ダイコンは、先に斥候の人が気付いてくれるので楽だ。

たまに、ダイコン以外の魔物がいることも知らせてくれる。

このおかげで、牛肉にありつくことができた。暴れ牛という魔物の、だが。

休憩時間になると、サーシャが文官3人衆のところにいって熱心に質問している。


村の運営能力とか、あまり必要な気がしないが……。

俺は休憩の度に、ダイコンの警戒も楽になり、元気のあり余ったキスティの相手をしている。普段との違いは、パシ族のミヅカが参戦してくることくらいだ。

もちろん交代で警戒するので、いつもではないが。

アカーネは黙々と魔道具をいじっている。飽きないのだろうか。


平和だな〜と考えていたところ、偵察に出ていたリッカが、ハンドサインをしながら戻ってくるのが見えた。


「なんだ?」

「……敵だな」


ミヅカが緊迫した声を出した。



「数は?」

「分からない。進行方向に、1人以上。隠れてるのが何人か」

「襲ってくるか?」

「待ち伏せっぽい。でも、気付かれたかも」


ミヅカとリッカが話し合っている。

マジか、村との往復は割と、安全だったのだがな。


ドンさんがアカーネの肩に登って、鼻をヒクヒクさせている。

なるほど。


無言で剣を構える。

正面から、矢が飛んでくる。

それを避けつつ、前に出る。


木の陰から現れたのは、4人の人影。

ダッシュで向かって来るのは、ミノタウロスみたいな男に、槍を構えた男。

後ろには弓と、槍が1人ずつ構えている。


「ふんっ!」


ミノタウロスみたいな、おそらくパシ族の男は両手に武器を持っていない。

巨大な握りこぶしを突き出して突貫してくる。

サンドシールドで迎撃するが、サンドシールドごと撃ち抜いて右ストレートの衝撃がくる。

魔法で牽制し、反撃……しようとしたところで、違和感に気付く。


魔法が、発動しない。

いや、魔力がうまく循環できない、というべきだろうか。


「!?」

「ふんっ!!」

再び振り上げられる拳。それを受け止めたのは、巨大な斧を構えた、パシ族の女。


「ヨーヨー、こいつは武闘系だ。相性が悪かろう」

「助かる、任せた」


パシ族の女、ミヅカとスイッチして後ろに下がる。


「ぬぅ」

「整地!」


ミヅカが何やらスキルを発動し、斧を振り回しはじめた。

弓使いが気にかかったが、首筋から矢を生やして倒れるところだった。

ナイスだサーシャ。


前に出てきた槍使いは、キスティと白兵戦に入っている。

ただ、懐に飛び込んだ時点でキスティ優位だ。

槍を器用に使って衝撃を逃しているが、追い詰められつつある。


逆転の一手を狙っているだろうが、そうはさせん。


炎弾を飛ばしつつ接近し、こちらに意識を向けた瞬間に足元を崩した。


「ぐっ」

「キスティ、潰せ」

「うがああああああ!!」


グシャり。

キスティのハンマーが頭にクリーンヒットし、兜ごと頭を割った。

うーん。奇麗な花火ですねぇ。


「ギィ」


ドンさんがひと鳴き。むむ。

なるほど。

その方向に、練り上げたラーヴァフローを浴びせ掛ける。


「……!」


ラーヴァフローが、不自然な形で歪む。

そこに剣で追撃を加える。

鈍く光るなにかが放られるが、首を振ってマスクで叩くように、強引に弾く。


剣が空ぶりした感触。


空振りしたものは仕方ない。身体強化を加え、強引に身体だけ一回転。

回転した勢いを残したまま、浮かせた魔剣の柄を押し込むようにして、さらに深く突く。


今度こそ、ヒトの身体に剣が刺さっている映像が認識できた。


「ゴ、ゴフッ!!」

「うん? 影か?」


魔剣を腹から生やして血を吐くヒトの衣装は、村長の館で地下に隠れていた”影”とやらに酷似していた。

……あ、これ俺の客かな?

いや、戦士団を狙っていた可能性もあるか。余計なことは考えないように。


「チィッ!!」


最後の、後ろにいた槍使いがスキルの放出を止め逃げ出す。

追いかけてもいいが、他に”影”がいて誘われていたら面倒だ。

飛び出すキスティをステイさせ、点呼を取る。

ミヅカも無事のようだが、相手のパシ族の死体は見えない。逃げ出したか。


「皆、無事か」

「ええ。皆さま無事です」


サーシャが後方から報告してくれる。

サーシャのことだから、文官3人衆の安否も確認してくれているだろう。

ふう、一息つけた。


「妙な賊が出たな」

「……すみませんでした」


戦闘中、どこに居たのかイマイチ分からなかった斥候の人、リッカがしょんぼりとしている。

どうした?


「なんだ?」

「え? いえ。賊に気付かれ、逆撃を受けたうえに。襲撃に気付けずに。斥候として失態です」

「ああ、まあそうか。まあ、皆無事だったからな、次に生かせば良い」


自分のチームのことでもないし、割と適当だ。

正直、リッカの力量が足りなかったのか、相手が上手すぎたのか良く分からないから、言いようがないのだ。


「寛大な心配りに感謝を」

「私からも感謝する。それにしても、あの透明なやつは、よく倒せたな」

「あー、まあ。ああいうのは意外と、得意でな」

「ほう」


ミヅカがうんうんと頷いている。

「流石は本家が認めた護衛役だな」と笑うと、死体の処理に移った。


運搬役として文官3人組もいるからと、ミヅカは襲撃者たちから身ぐるみを剥ぎ取った。

ただ、防具に使えそうなところはなかったので、俺の取り分とすることはできない。

代わりに、影っぽい奴が持っていた金貨2枚を俺の物としてくれた。

護衛代とは別だと説明される。


金貨10枚以上を持って移動している俺が言うのもなんだが、金貨を懐に入れて戦地を渡り歩くなんて、大胆な奴だ。

金貨1枚が100万円だとしたら、200万円を財布に入れてウロウロしていたことになる。


……影って、給料良いのかなー。


まあ、せっかく頂けたのだから、ありがたく使わせてもらおう。

こいつらが、戦士家ではなく俺を狙っていたかもしれない件については、黙秘しておこう。

金貨返せとか言われそうだし。


再度襲撃を受けないように、しばらく移動してから、木陰にキャンプを張った。


夜、昨夜は文官たちが料理を振る舞ってくれたので、今度はサーシャが料理している。

豆の煮込みを皿に盛って、木陰でモリモリと食べているミヅカに話し掛ける。



「昼は助かった」

「うん? ああ、武闘系の奴か」

「急に、魔力をうまく練れなくなってな。あれがオーラか?」

「武闘系の相手は、経験がないのか?」

「ないわけではないが……多くはない」

「ふむ。まあ、おそらくオーラの類だよ。魔力を乱し、自分のペースに持ち込む。ああ見えて、頭の良い者がなるものだ」


すっかり魔法メインになっている俺には、天敵かも。

その存在は、テーバ地方でも散々聞いていたはずだが、対策を練っていなかった。

魔法が使えなくなっても、ジョブを切り替えれば良いだけなので、致命的ではないが……。


「戦士家にも、武闘系はいるものなのか?」

「家にもよるが、多少はいる。敵の『魔剣士』への対抗策になる」

「ああ、なるほど」


『魔剣士』は貴族の十八番らしいもんな。


「しかし、あまり数を見ないってことは、人気がないのか」

「弱いわけではないが、難しいからではないか。オーラの扱いは、魔法以上に難しいという話も聞く」

「魔法以上か……」

「まあ、あくまで体感的なものだ。魔法使いを軽んじているわけではないよ」

「ああ、気にしないでくれ。アンチ魔法的な部分を除くと、強さというか、厄介さはどうなんだ?」

「白兵戦で、ということか? うーむ、そうだな。オーラを使いこなしていれば相当強いが、まあベテランの『戦士』と五分。使う武器が限られてくるし射程が短いから、同じ程度の力量であれば見劣りする、といったところか」

「ふぅむ、なるほどね。玄人向けのジョブという印象だな」


まあ、射程の短さは、何か武器を持てばいい。補正が入らないだけだ。

それにしても、強みとなる「オーラ」の難しさゆえに、若干不遇職の扱いなのかな。


「参考になった。礼を言わせてくれ」

「なんの。村に着いたら、対武闘系の訓練でもするか?」

「む、それは少し心惹かれるが……。割とすぐ、西に発つつもりでな」

「そうか、それは残念だ。今すぐに村にいる面子でいうと、武闘系ジョブは居なかったように思う」

「ああ。作戦中も、それっぽいヒトはいなったな」


数える程しか味方がいなかったからこそ分かる。

徒手空拳で戦っていたやつはいなかったし、オーラをどうこうしていたのも見ていない。


「急いでいるということだが……」

「ん?」


ミヅカが豆を掬う手を止め、もじもじとしている。

ミノタウロス女子が身動ぎしているの、なんか新鮮だな。


「キスティ殿と、思う存分戦ってみたいが、構わないだろうか?」

「ああ。いいぞ、1日くらいはゆっくりするし」

「恩に着る!!」


ミヅカとキスティの組み合わって、武芸の訓練と言うより、怪獣大決戦みたいな迫力があるんだよな。

キスティも、新しい鎧に慣れる期間が必要だろうし、模擬戦は歓迎だ。



残りの旅路は、再び襲撃されることはなく、無事に村に着いた。


斥候のリッカと連れ立って、村長の館に向かう。

てっきりミヅカがリーダーとして仕切るのかと思いきや、リッカの方が立場的に上らしい。

戦士家の面々は、相変わらず忙しそうだ。


「おお、リッカ! 良く来たな!」

「おじさま。道中、賊に襲われました」

「おう、聞いておる。無事で何よりだ」


小柄な戦士家の長であるジソ・ブラグが、リッカを撫で回す。

リッカはちょっと迷惑そうだが、拒否はしていない。


「あー、ジソさんの身内だったのか」

「おお、ヨーヨー。よく護衛任務を果たした。礼を言うぞい」

「いえ、依頼だったので……」

「リッカは、まあ身内みたいなものよ。血は繋がっておらんが」


……?

どういう関係なのだろう。


「おじさまとあたしは、合家の間柄なのです」

「ごうけ?」

「……知りませんか? 貴族家では良くありますが、異なる家を結んで一族として扱う、アレです」

「ああ」


アレってなんやねん。

と思いつつも、分かったふりをして頷いておく。

サーシャはアインツのところに置いてきたが、連れてくれば良かった。


「それはそうと、ヨーヨー。賊について報告してくれるか?」


ジソが忙しく歩き回りつつ、書類を引っ張り出して言う。


「誰か、記録官をしてくれい!」

「お待ちを」


ドアから外に、応援を依頼するが、応えたのはリッカだった。


「えーと、俺が話すので? 現場にいたリッカ、さんの方が詳しいのでは」

「リッカにはいつでも話を聞ける。それより、お前の印象を聞きたのだ」

「……分かりました」


あまり気乗りはしない。

だって、「あ、こいつ狙ってたの俺かも」という事実がバレるかもしれないからだ。

とはいえ、戦士家を無暗に敵に回したくもないので、素直に答えておく。


「……ふむ、”影”の連中が襲ってきたと」

「似ていただけです。繋がりがあるかも不明ですが」

「偶然にしては出来すぎとる。案外、ヨーヨー。お前を消しに来たのかもな」


ギクッ。


「……俺のような小物を消すでしょうか?」

「はんっ」


ジソが、つまらなそうに鼻を鳴らす。


「本気で言っておるまいな? たった1人で10人以上の傭兵を相手取れそうな活躍をしたお主が、小物だと? 少なくともやられた側は、そうは受け取るまいな」

「……」


嬉しくない高評価だ。

俺のことはただの通りすがりの傭兵として、とっとと忘れ去ってもらいたい。


「まあ、だが断言はできんな。単純に、村の支配を揺るがそうとした可能性も高い」

「そうなると狙いは、あの文官の3人では?」

「だろうな。確かに、あ奴らが消えると村の経営は一気に難しくなろうな。だとしたら、田舎戦士家の懐事情を、よ~く分かっとる連中だわい」

「……そういえば、奥様は統治のためにどう人員を送るか、思案されていましたよ。ええと、少し貴方に苛立っていた様子で」

「そうか……良く知らせてくれた」


ジソは途端にしょんぼりとした。

もはや、戦闘中の威厳は消え失せ、うろうろと部屋をうろつき始めた。


「あれは相当怒っているか? 部外者にも怒りを見せるくらいじゃ、マズいわい」

「事前に相談なさらなかったんで?」

「あれは手順を大事にするのでな。それでは動けんかった」


まあ実際、何かが1つ違えば、敗走していてもおかしくない作戦だった。


「……」

「確かにあれの言うことは、筋が通っている。だが時として戦士たるや、勢いに身を任せるべき時機というものがある」

「なるほど」


本気なのか、言い訳なのか分からないが、理解を示しておく。

俺にはあまり関りのないことだ。勝手にがんばってくれ。


「それで、報酬ですが」

「ああ、忘れとった。厄介な襲撃もあったようだからな、銀貨50枚でどうだ?」

「はい、構いません」


護衛期間は数日だし、金貨2枚も頂いたからな。

まあ十分だろう。


「それと、西への案内人も、2日後には到着しそうだ」

「おお」


早めに発とうと思っていたので、それは朗報だ。


「案内人について伺っても?」

「よかろう。奴は古い付き合いの商人でな、正確に言えばその一族だが」

「その案内人も商人を営んで?」

「そのようだ。だが、商売というよりは、案内人稼業で食っておる男だ。信頼は置けるぞ」

「信頼は大事ですからね」

「そうだ。で、そ奴への報酬だが、砂の都までのお代は不要だ」

「……不要?」

「まあ、恩を着せておくが、そこまではウチが負担する。ただし、砂の都までだ」

「ありがたく」

「通行手形も発行しておく。特に見せるところはないがな」

「それも有難く」


これで、西の国に行く手当はできたな。

後は、砂の都ってのがどこなのか聞くだけだ。

なんという行き当たりばったりか。


「ところでお主、砂漠の足はどうするつもりだ?」

「砂漠の足? ああ、移動手段ですか」

「左様。考えていなかったのか」

「……ええ」


正直に白状する。

徒歩だと駄目なのか?


「徒歩のつもりか? 砂漠は詳しくないが、普通は足を確保するようじゃ」

「ふむ……」

「そこまでは面倒を見られんが、一応用意できるか案内人に連絡しておくか?」

「お願い致します」


行き当たりばったりなのをジソにバレてしまったか。

まあ、この紛争地を抜けられれば、あとは急ぐ旅でもない。

ゆっくり準備しながら、砂漠を攻略しよう。


地球世界でも、砂漠地帯に旅行した経験はない。

わくわく半分、不安が半分。

いや、案外わくわくが半分以上かな。


俺ってば、意外と冒険好きだったのかもしれない。どんな旅になるのか、楽しみだ。

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