第165話 支配者

領域の守り。


それは、領主権限で発動するスキルの一種である。

自分の職業が何かしらの「ジョブ」に繋がるこの世界。

それは支配者にも然りで、彼らは『領主』や『統治者』といったジョブに就く。それらの基礎ジョブ的な立ち位置の『支配者』ジョブもあるらしい。


そのスキルとして標準装備されているのが、いわば支配者スキルとでも言うべき能力だ。

それによって一定区域の魔物発生を抑制したり、支配地にバフを掛けたり、非常時に防壁を強化できたりする。

中には、防壁の代わりに『魔法城壁』とでも言うべき魔力壁を生み出す能力もあり、それらは総称して『領域の守り』と呼ばれているらしい。

厳密には、領域に戦闘系のバフを掛けるものも総称することがあるようだが。


ただし、支配者の中には、この支配系ジョブに就いていない場合もある。

今回のように、活躍が認められて領地を賜った戦士であれば、他に戦闘系ジョブを育てているはずだ。

生まれながらに支配者の家系だったとしても、初期ジョブを育てることを決断するようなケースはままある。


それに、支配者が1人不慮の事故でいなくなったら、領地が成り立たないというのも問題がある。

そこで、各領地には領主の管理する統治用魔道具のようなものが配置されている。「領具」とか「領主の道具」とか、「守りの石」とか色々な呼び方がある。

ある程度の規模以上の村であれば、60%以上はあるらしい。

逆に言えば、40%くらいはないようだが……。


今回、村長の館に領域の守りが発動されている。

傭兵団の長が支配系のジョブに就いたのでなければ、まさに先ほど説明に出てきた統治用の魔道具で発動させていることになる。

十中八九、そうなのだろう。


今回発動されているのは、館の周囲に風魔法と思しき防御魔法が張られる、というものだ。

重装備の戦士ならば突破できるレベルだが、守りを整えられたうえで迎え撃たれると、かなり厄介な代物なのだとか。


なんせこちらの放つ矢は届かず、相手は有利な場所から自由に進行中のこちらの戦力を攻撃できるのだから。

それで傭兵団は立て直しを図り、戦士家も無理はできずにこう着状態に陥ったと。


「アカーネは、どう言ってる?」

「領域の守りについて、ですか? 一時的に解除することは可能だと」

「そうか」

「ただし、アカーネの周囲だけです。強引に突破するのと然程差がないかと思われます」


考えてみれば、魔道具とはいえ、俺と従者以外の防御魔法って久しぶりに見るかもしれない。

それも、領地を守るための特殊な魔法ともなれば、ちょっと興味あるな。


まあどっちにしても呼び出されてるんだが、魔力が問題なさそうならさっさと出発するか。


準備をしながら、ステータスを確認する。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24)魔法使い(23↑)警戒士(21)

MP 59/59

・補正

攻撃 F+(↑)

防御 F+

俊敏 E−

持久 E

魔法 D+

魔防 D−

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

気配察知Ⅱ、気配探知、地中探知

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


戦闘中に『警戒士』が上がっていたが、さらに『魔法使い』も。

『魔法使い』が上がったのは、アースワーム戦あたり以来か?


それほど昔というわけでもないが、割と酷使している割には上がりが鈍ってきた。

やはりレベル20以降はそうポンポンとは上がらないか。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24)魔法使い(23↑)剣士(21↑)

MP 51/51


・補正

攻撃 E+

防御 F(↑)

俊敏 D

持久 E−(↑)

魔法 D

魔防 E+

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

斬撃微強、強撃、脚力強化Ⅰ、剣強化

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************



戦闘時のファーストチョイス。

そろそろ『魔剣士』にスイッチしていきたいが、「俊敏」がD−くらいあると、身体が軽い感じがして良いのだ。


そう言う意味で、一番身体能力的に安定するのは『魔剣士』+『剣士』の剣士コンビなのだが。


*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24)魔剣士(13↑)剣士(21↑)

MP 26/26

・補正

攻撃 D+(↑)

防御 F(↑)

俊敏 D(↑)

持久 F+

魔法 E(↑)

魔防 F

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

身体強化魔法、強撃、魔剣術、魔閃、魔力放出(new)

斬撃微強、強撃、脚力強化Ⅰ、剣強化

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


魔力が低いのがネック。

なくなってきたら他のジョブにスイッチすれば良いのだが、逆に言うと、追い込まれた時に使えないのがイタイ。


それで、『魔剣士』にスキルが生えているな……。

「魔力放出」ねー。

早速「スキル説明」で選択、照合してみる。


『魔力放出:武器を介した魔力放出の出力効率を大きく強化する』


……ほー。

今回は分かりやすいな。要は『魔剣術』のパワーを上げてくれるスキルか。

単純だが、ありがたい。


いや、「出力効率」だから、消費魔力が減る方の効果、かも?

後で少し試してみよう。無駄に使いすぎないようにしないとな。

まだ今回の戦は続いているのだから。



そして、今回最初に活躍したコンビがこちら。


*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24)警戒士(21)隠密(15↑)

MP 34/34

・補正

攻撃 F+

防御 F+

俊敏 E

持久 D−(↑)

魔法 E

魔防 F+

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

気配察知Ⅱ、気配探知、地中探知

気配希薄、隠形魔力

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************



『隠密』がさらにレベルアップし、15に上昇。

「持久」が伸びているが、何気に持久先行型の組み合わせは、これだけかもしれない。

これからも、潜入・偵察用の組み合わせとして活躍してくれそうだ。


普段から、もうちょっと隠密偵察とか取り入れていけば、もっと伸びて行くだろう。



さて、サーシャを無造作に抱き寄せて、ステータスを開く。


*******人物データ*******

サーシャ(人間族)

ジョブ 弓使い(21↑)

MP 14/14


・補正

攻撃 F−(↑)

防御 G−

俊敏 F

持久 F

魔法 G−

魔防 G−

・スキル

射撃微強、遠目、溜め撃ち、風詠み

・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************


ほう。

レベルが上がってる。

「攻撃」も上がっているが……正直サーシャはもう、ステータスには相応しくない活躍をしてるよな。

本当に、ステータスは「補助」に過ぎないのだと感じる。

まあ、ステータスの補助があるからこそ、クデンのおっさんのような異常な硬さや身体能力があり得るのだから、軽視するつもりはないが。


さて、他の2名も気になるし、とっとと移動するか。



***************************



戦士家は、村長の館のすぐ前にある、小屋に臨時の本部を敷いていた。

いいけど、近過ぎて奇襲とかされないのかね?

そこから少し離れた広場に村人と物資を集めて、差配している。

その中に、ぴょこぴょこと移動する娘を見かけたので、その後を追う。

娘は、路地裏に荷物を運ぶと、ふーと息を吐いて肩を回している。


「アカーネ、手伝いか?」

「あ、元気になったの?」

「俺か? 問題ない。魔力も全快してるし、いつでも活動開始できるぞ」

「ふぅん、良かった。サーシャさん、心配してたんだからね!」

「アカーネ」


サーシャの少し低い声が飛んで、アカーネが口を噤んだ。


「そ、それで? これからボクたちはどうするの?」

「そりゃあ、この騒動にけりをつける。お偉さんはどこだ?」

「あっちの小屋の中。ずっと会議してるみたい」

「ほう。分かった」

「ボクはどうしてたらいい?」

「ん? 休憩してても良いし、手伝いを続けてもいいぞ。どうしたい?」

「ん〜、お手伝いというか、あの壁を調べる機会を窺ってただけだし。ご主人さまと一緒に行った方が、チャンスあるかな?」

「そうかもな。じゃ、行こうか」


手を差し出したが、かっと頬を赤くしたアカーネに怒られる。


「そんな歳じゃないから!」

「……すまん」


ちょっとステータスを調べたかっただけなんだ。

謝罪のハグをかましながら、アカーネもステータスを開く。



*******人物データ*******

アカーネ(人間族)

ジョブ 魔具士(23↑)

MP 23/23


・補正

攻撃 G−

防御 G

俊敏 G+(↑)

持久 F−

魔法 F+

魔防 F

・スキル

魔力感知、魔導術、術式付与Ⅰ、魔力路形成補助、魔道具使用補助Ⅰ、魔撃微強(new)

・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************



「魔撃微強」か。そういえば、『魔具士』はこの手の強化スキルが初期スキルにセットされてなかったな。

途中で会得することもあるのか。


しかし、魔撃の強化か。

魔投棒での攻撃には適用されそうだが、改造魔石の投擲には効果あるのだろうか?

う〜ん、微妙。ダメそうな気がする。あくまで魔石の魔力を使う場合には効果がないとするのが素直な解釈ではなかろうか。


「アカーネ、魔投棒の使い心地はどうだ?」

「……むぅ」

「なんだ?」

「いきなり変なことしないでくれる? 天下の往来で」

「謝罪のハグのことか」

「謝罪になってないからっ」


アカーネが身を捩って脱出してしまう。

猫に逃げられた気分だ。


「ふう、で、魔投棒だっけ?」

「そうだ。そろそろ慣れてきただろう」

「とっくに慣れてるけど、魔石粉と魔力、どっちも消費するからね。多用はできないよ。まあ、それでも便利だけど」


特に不満はなさそうだ。

魔撃微強の補正も入るようになるし、そのうち魔銃なみの火力になってくれると嬉しいが。

あ、火力といえば、礼を忘れた。


「アカーネ、古木の魔石、ありがとうな。あれで命を救われたぞ」

「あれね〜、行き当たりばったりだったけど、どういたしましてっ!」


アカーネは、なんかモジモジと身を揺すっている。

ううむ、褒められ慣れてないのかも。


「よしよし」

「むぅ、嬉しくない」

「そうか?」


俺が頭をなでてもな。

アカーネには、なでなでより高価な魔道具が効くだろう。


「欲しい魔道具があったら言えよ。今なら少し、蓄えもあるし」

「え? しばらく良いよ。解析するものもいっぱいあるしさ〜」


無欲なのか、無知なのか。

自惚れるわけではないが、こいつ、俺が拾わなかったら魔具士としての才能が開花していても、良いように搾取されて大変なことになっていた気がする。

……いや、奴隷になって命懸けの戦闘に駆り出されている人生とどっちがましかは、ナゾだが。本人が楽しそうだから、まあ良いか。


「今は何の解析をしてる?」

「そりゃ、あの領域の守りだよ。実際に稼働してるところって結構レアじゃない?」

「そうか?」


領域の守りをよく知らなかった身としては、何とも答えようがないが。


「発動自体は何度か見たことがありますが、防壁型は北部ではあまり見ないですね」


とサーシャ。

北には、王都や港都市があって栄えている。

そういった地では、防壁を発動するほど追い込まれることがないというか、追い込まれたときには王国がやばいレベルだから滅多にないのだろう。


「元いた村では、発動されなかったのか?」

「う〜ん、なかったと思うけど」


まあ、アカーネが親戚のいる村にいたのも数年っぽいからな。

元は、もう少し大きな街で魔道具を造ってた祖父に育てられていたわけだし。


ちなみに、途中で回収してきたキスティもステータスチェックをしたが、こちらはレベル変化なし。

サーシャの言う通り、元気が有り余っているのだが、今は広間から村長の館の方を見て何やら考えている。


「キスティ、何か考えが?」

「ん? いや。私ならどうするか、と」

「拠点攻撃はしたことあるのか?」

「あるが、戦争のときではない。盗賊まがいの拠点を討ち果たしたときだ」

「ほう」

「今考えていたのは、逆の事でな。私が相手の傭兵団であれば、どのように対処するかと」

「ほう。で、どうするんだ?」

「……一度正面からぶつかって、裏から逃げる」

「逃げるか」

「残っている戦力次第だが。しかし、逃げれば正真正銘、賊として追われることになる。ある程度戦えるなら、踏ん張って守りを固めるかもな」

「援軍のない籠城か」

「そうだが、今回は明らかに戦士家も戦力不足だし、大義もやや怪しい点がある。時間をかければ、ひと展開狙えるだろう。それに、無理に戦士家が攻勢をかけ、敗走すれば勝てる」

「そうなると、体勢を整えたうえで無理攻めを誘い、それが叶わなければ撤退も視野にってところか」

「私なら、だがなあ」

「降伏はないのかねぇ」

「あるかもしれんが……期待薄だろう」

「何故そう思う?」

「領地の奪取を望むような野心家が、ここで諦めるかね?」

「……」

「降伏しても、赦されないだろうしな。せいぜい、部下が数人、見逃して貰えるかどうかってところだ」


無理か。

まあ、ここで降伏されても、それはそれで消化不良かもしれない。

クデンのおっさんが命を張って守ろうとしたもの、その輝きを見せて貰おうじゃないか。

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