第163話 勘違い

武装を確認しながら、キスティから説明を受ける。

といっても、やることは決まっているので、説明は先程の戦士たちの会話に関してだ。

正直、そんなことを聞いている場合ではないことは分かっているが、何か聞いていた方が落ち着くので話してもらっている。


それによると、「市民戦法」とか言っていたのは割と有名な作戦というか、ジョブの活かし方であるらしい。

どうやら『市民』はレベルで会得するスキルによって、防衛戦で大幅なステータスアップができるらしい。

といっても、普段から戦闘の心得のない『市民』たちがステータスアップしたところで、単に力が強いだけ、単に固いだけの一般人だ。


使い道があるのかと思うが……力持ちで簡単に倒れないというだけで、使い道はいくらでもあるということらしい。

特に防衛戦であれば、防壁の上に並べて、重たい物でも投げさせれば十分に脅威だ。

槍を渡して、とにかく門を潜ってきた敵を殴れと指示しておけば、並の戦士では突破できない壁になる。


……ということで、規模の大きい居住地であれば敢えて『市民』を選択するよう、領主がオススメしたりしているのだそうだ。

ただ規模の小さい村となると、そこまで手が回らない。全ての人が村の運営に欠かせない何らかの役割を担っていたりするから、専門的なジョブに就く。

それに、一定数は魔物と戦う戦闘ジョブも必要だから、あくまでも余裕のある拠点が採用する作戦というか、政策らしい……。


「キスティのいた村はどうだったんだ?」

「うん? ウチはいたぞ。人口が多く税収もそこそこだったからな」

「ほお……」

「だから『市民組』も組織していたぞ。町中まで攻めてくる侵略者や魔物がいた場合、『市民組』には出動要請がかかってな。定期的に演習にも参加させていたぞ」

「へぇ。そういうやつは、普段は何をして働いているんだ?」

「色々だ。普通に職人や、下農をしていたりな。ただ『市民組』に登録すると多少手当も出るからな、選択肢としては無難だな」

「その道を極めたいのでもなければ、別に専門ジョブも要らんか」

「そうだな。『市民』であれば、特に訓練を積まなくても、レベルも上がっていくからな。統治する側から見ても、一定数が『市民』でいてくれることは、計算が立ちやすい」

「なるほどなあ」


しかし、ジョブの選択は強制できないんだったよな。

それでいて、村や町が回るようにきちんと調整しなければならないとか、この世界の統治者も大変だわ。

……そう考えると、『市民』ってかなり都合が良いジョブなのかも。なんたって、拠点防衛のためには大いに戦力になるけど、反乱されることはないというか、反乱においてはステータスアップが適用されないから力が弱いってことだもの。

まあ、能力発動の条件が分からないから違うかもしれないけれども。

『市民』を選択してもらうためにも、手当なんぞを出して誘導している節があるのかもしれないな。


「ご主人様、着付け終わりました」

「ん、ありがとう。サーシャ」


いつもの鎧、マスクなのだが、鎧を黒く塗ってもらった。

あと、サーシャたちの鎧から、使えそうなパーツを一時的に貸してもらった。

黒鎧だからな。


ちょっと塗り切れていない部分はあるものの、これで闇に溶け込める姿になった。

あとは『隠密』で隠れつつ、『警戒士』で敵の位置を探っていくスタイル。

完全にニンジャのムーブだわ、ニンジャ。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24)警戒士(20)隠密(13)

MP 28/33

・補正

攻撃 F

防御 F+

俊敏 E

持久 E+

魔法 E

魔防 F+

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

気配察知Ⅱ、気配探知、地中探知

気配希薄、隠形魔力

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


魔力はまだ余裕はある。

攻撃魔法を使ってなかったしな。ろくそくの灯を消した「魔弾」を除いて、だが。


ステータス的には可もなく不可もなく。

俊敏と持久が高めなのが、ニンジャっぽいと言えば、ぽいかね?


しかし見事に攻撃スキルがない。

『警戒士』と『魔法使い』または『魔剣士』あたりと付け替えつつ、見敵必殺としゃれこむか。


「アカーネ、周囲の魔力反応は?」

「……ないと思う。村長の館の方から、多少感じるけど」

「サーシャ、地図は?」

「はい。一応用意しましたが、うろ覚えですよ?」

「問題ない」


サーシャの記憶と、先程の戦闘で見えていた情報を元に、地形と敵のいそうな配置を描いてもらった。

サーシャとアカーネは上から援護。

キスティは、陽動作戦の方に従事してもらう。


くれぐれも無理するなと伝えてあるが、一番無理する役割が俺なのはご愛嬌。

それにしても、細目はおろか、クデンのおっさんもまだ見ていないな。

その辺の主力級が出てきたときが、正念場になる。


「出るぞ」

「ご武運を」

「サーシャ、上まで送るぞ」

「はい」


サーシャとアカーネには、上に行って援護してもらう。

それにはまた梯子を登る必要があるので、またシールドで防護しつつ、届ける。

そこから今度はすぐに飛び降りて、火を消し暗闇の中で「気配察知」「気配探知」を発動する。


……さて、傭兵狩りを始めよう。



***************************



まずは家の影に隠れながら、こそこそと進む。

あまり探知を打っていても魔力切れが怖い。

路地裏に入ってからは、頻度と込める魔力を減らしながら、陰から陰へと移動する。


……ちゃんと隠れられているんだろうか? 「気配希薄」は打ちっぱなしにしているのだが。


しばらく北東に進んだところで、門の方から歓声が上がった。

敵のいそうな位置に、サーシャが火矢を撃ち、戦士たちが急襲する手筈だ。

といっても、本当にいるかは謎だ。

あくまで、狙いは陽動。


戦士家が夜襲に出たと見た敵が、動き出す。


気配探知を四方に打ち、この攻撃に応じて動き出した気配を探る。

建物越しになるから、よく分からないな…。あまり動いていない気配は、家の中の村人のものとみなして無視する。


一番近いのは…3人組で動いているこいつらか。あっちの影に入れば、奇襲できそうだな。

進行方向にある木箱の脇に潜んでいると、小声でのやり取りが聴こえる。


「……隊長はなんて?」

「とにかく止まるなってよ。クソ、矢が少ねぇ」

「あっちには狙撃手が高所にいる。一度後ろに下がった方が良くないか?」

「知るか、命令だ」

「だからこそ、攻撃したときがチャンスなんだろ。その辺の屋根に登ろう」

「屋根はまずくないか?」


そこで、足が見えたので反射的に足を払うように、切り捨てる。

『魔剣士』を付け、「魔閃」を発動。人影が地に転がった。

あてずっぽうで、腹の当たりに魔剣を突き刺す。


死んだかは分からないが、次。

1人は弓、1人は反り返った剣を持っている。

弓の方が近かったので斬りかかると、弓を横にして防御しようとした。

そのままスキルを発動しつつ振り下ろすと、弓が2つに割れた。

そのまま返す剣で胴体を薙ぐ。


吹っ飛ぶようにして壁に衝突する傭兵。

もう1人の剣士が、何かを言って剣を振る。

遠い? と思ったら、何かが広がるようにして飛んでくる!

魔剣術で魔力を放出させ、飛んできた何を強引に弾く。


魔法の光に照らされた「何か」は、鎖のような形をしていたが、地に落ちると消えてしまった。

スキルか……。


「チィ!? 『魔剣士』かっ」


剣士は曲がった剣を回転させるようにして投げてくる。

これは既に『隠密』と交換していた『魔法使い』のマッドシールドで絡め取る。


そして、剣を突く動作で炎の魔力を飛ばす。


胴体に2発、3発と炎の矢が突き立ったところで、剣士がのけ反り、倒れ込んだ。


残り2人に目を向けると、最初の男が上半身だけ起こし、砂を投げてきていた。

多分マスクが防いでくれるが、スキルだったら嫌なのでウィンドシールドで回避。

近付くと、力任せに兜を殴る。

首筋に隙間が見えたので、そこから短剣を刺す。


カン、と音がする。

頭に軽い衝撃。

見ると、壁に叩きつけられた弓使いが息も絶え絶えに、弓を番ていた。

マスクが弱々しい矢を弾いてくれたらしい。

いかんな、油断か。


丁寧に防御魔法で矢を逸らしながら、止めを刺した。


曲がった剣の男は、完全に意識がないようだった。が、きちんと首を切り止めを刺しておく。


……ふう。

理想的な奇襲が決まったと思ったが、3人相手はキツいな。


気を引き締め直して、また物陰に隠れる。

途中で『隠密』を外してしまったが、どうか。

居場所がバレてないと良いんだが。


*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24)警戒士(21↑)隠密(14↑)

MP 18/34

・補正

攻撃 F+(↑)

防御 F+

俊敏 E

持久 E+

魔法 E

魔防 F+

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

気配察知Ⅱ、気配探知、地中探知

気配希薄、隠形魔力

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


だいぶ魔力を使ってしまったか。

って、戦闘中だがレベルが上がってるな。


まあ、新しいスキルもないし、じっくり見ている時間はない。


これは、一度仕切り直した方がいいかね……。



ん?



先程の3人組が来たのと同じような方向から、もう1人、近付いてくるな。

そっと覗くと、ふらふらとした足取りで弓を持った男が1人。

近づくと、ぴたりとその足が止まった。


「う、うわあああ!? ど、どこだ!? どこにいやがる!?」


弓をあらぬ方向に向けている。死体で気付かれたか。

……完全に場違いだが……。


「くそ、くそ、くそ! 出てこい、出てこい! 金貨だ、お前らを殺せば金貨だ!」


……。

言動からして、傭兵団側に着いた村人か?

しかし、弓を構えているからには、見逃すのもないわ。


完全に後ろを向いたタイミングで飛び出し、背中からズブリ。

驚愕した顔で振り向いたが、叫ばれる前に喉を潰した。


仕方ないが、あまり良い気分じゃないな。


4つの亡骸をひきずって道から見えない場所に隠すと、その場から移動した。



***************************



もう1人、弓を構えて単独行動をしていた男を、今度は様子を窺わずに刺す。

万が一勘違いだとしても、この戦時下で武器を持って出てきたら、やられても文句は言えないだろう。


さて、ん? 近付いてくる気配。


魔力がもう心許ないが、どうする?


と思ったが、あちらから発見されてしまったのか、まっすぐこちらへ向かってくる1つの影。

全力で逃げれば逃げられそうな速度だが、1人か……。

狩るか?


月影に照らされ、現れたのは。

ヴァイキングのようなのヘルメットを被った男であった。


「……」

「よお、そのヘルメットは、ヨーヨーだなあ?」

「……クデンのおっさん。1人で何してんだ」


一応、傭兵団の幹部じゃないのか。


「それはこっちのセリフじゃき」


そりゃそうだ。


「ちょっと月夜の散歩をね」

「ははーん、存外風流な男だったき? 付き合うぞ」

「いや、1人が好きなんだ」

「そう遠慮するなや」


クデンは目線で、ついさっき刺した男を指し示した。

……うん、言い逃れは不能だわ。

クデンは手にした武器を折るようにして分解すると、左右に剣と斧を構えた。

そういえば、そんな素敵武器だったな。


「待ってくれ、おっさん」

「今更じゃ」

「……。俺だって、殺したくて殺したわけじゃない」

「……」

「今、傭兵団が戦ってるのは正規の戦士だぞ? 勝ち目があるか?」

「何が言いたい」

「おっさん。俺は、あんたには死んでほしくないんだ。戦士家に口添えもできる。なあ、あんたも昨今の傭兵団が変だとは思ってたんだろう? 死に急ぐな」

「ヨーヨー」

「わかるだろう? あんたが傭兵団を大事に思っていることは知ってる。だが、ここで死んでどうなる? あんたが戦士家を尊重する態度を示せば、他の団員も赦されるかもしれない。それから」

「ヨーヨー、お前は」


クデンは兜を手でコツコツと、指で叩く動作をした。


「勘違いしとる」

「あんたの気持ちはわかる、だが……」

「ちげえ」


クデンは腰を落とし、左右の武器を交差させる。


「オメェ、思ってるな? サシの勝負なら、勝てると。ナメんじゃねぇき、小僧ぉ」

「……」

「その勘違い、タダしてやるき」

「……そう、か」


そうだな。

もう、クデンのおっさんとは道を違えてしまった。

ここで、討てればデカイ。

「戦士家の犬」と「傭兵団の幹部」として……決着をつけよう。



「いくぜ、おっさん」

「威勢だけはいいな、若造っ!」


剣での突きは、左手の小剣にねじ巻くようにして弾かれる。

そこから回転するようにして、右手の斧が伸びる。


エア・プレッシャーで調整しながらそれを躱し、魔剣術を発動しながら剣を振る。


それも剣と斧を交差させて防御されるが、阻まれた剣先から魔力が迸る。

クデンの身体が一瞬宙に浮くも、ほんの少し体勢を崩しただけで終わり、また巨体を揺らしながら迫ってくる。


魔法で牽制しながら、じりじりと後ろに下がる。

動作を読みながら、予想より余裕を持って回避しておく。

スキが見えたら魔法を入れていく。

突きは容易に返されるが、近距離から魔法を放たれることは経験はないらしい。そっちは簡単に入る。


だが…。

……かってえ。


相性的には、悪くないはず。

基本的に物理攻撃がメインだし、攻撃動作も読めている。

身体捌きは上手いが、意味不明なレベルの動作があるタイプではない。


エア・プレッシャーの用意をしていればそうそう直撃は食らわないだろう。

動きは読みやすいから、こちらの魔法攻撃を当てることもできる。

できるが……当てても、当てても、まるで倒れる気配がない。


相性が良くても、勝ち筋が見えない。

撤退すべきか?


しかし、負けそうというわけでもない。

……色々試してみるか。


クデンが右手の斧を薙いでくる。

これに剣を合わせると、身体を軽く回転させる勢いで左手の剣を伸ばしてくる。

のけ反るようにして躱すと、地面を蹴って後ろへ下がる。

追随するようにクデンが摺り足でにじり寄る。

今度は剣を先に伸ばしてくるので、これを受け流そうとする。

が、クデンは跳び上がってサーカス団員のように身体を捻ると、叩きつけるように斧で叩きつけてくる。

これをエア・プレッシャー自己使用で避ける。


……あまり魔力を使いたくはないんだが。

クデンは、二剣流のような戦いだと言える。実際は剣と斧だが。しかし、テーバ地方で出会った白肌族ピーターのように、攻撃用と防御用で役割を分けていない。

剣と斧、どちらもが攻撃用で、防御用。

そして剣と斧、どちらの攻撃かメインか、どういう態勢から攻撃するかによって性質が違ってくる。

サシで戦わせたらピーターの方が上手かもしれないが、独自のいやらしさというか、戦いにくさを感じてしまう。

流石に、ここまで生き残ってきた傭兵だ。


「ちょこまかと逃げるのお」

「タフすぎるだろ、おっさん」


そう、見るからに重装備で、常に身体を躍らせるようにして連続攻撃してくる。俺の二倍は動いているように見えるクデンだが、息が上がっていないのだ。

さすがに平然としているわけではないが、戦闘に影響がないようなレベルだ。


「力自慢、技自慢、スキル自慢。色々見てきたが」

「……」

「戦場で物を言うのは、最後まで倒れないことき」

「勉強になる、よっ」


クデンの振り下ろしをまた回避する。


「お前は器用で、厄介な動きをするが、怖さがない。勝てんぞ、ヨーヨーっ!」

「……」


無言で、振り下ろした小手に突きを入れた。

しかし、籠手も良いものらしく、鈍い音がして弾かれる。


「戦場の極意はなあ、ヨーヨー」


クデンのおっさんは余裕があるのか、あるいは狙いがあるのか。

喋りながらも、剣を繰り出してくる。


「最後まで立っていることき!」



早めにバックステップするようにしながら、受け続ける。

と、距離が空いたとき、クデンが左右の武器を合わせて、元のポールウェポンの形にした。

剣だった方を握り、斧だった方を振り回す。


思わず剣で受けるが、重い。

力負けしそういなり、慌てて身体強化をする。


「ほう」


クデンの打ち下ろしと拮抗した俺を見て、感心したような呟きが漏れる。

そこから、クルンと回転させるようにして、剣だった方を、槍のように繰り出してくる。


これは防ぎきれず、胸に衝撃が走る。

どうやら防具が貫通を防いでくれたようで、問題なく動ける。


「浅かったな」

「チッ、今のは危なかった」


危ない、なんてもんじゃないな。しっかりしろ!

防御力が高すぎてやりにくいが、白兵戦の技術はそこまで格上じゃあない。ビビりすぎて変なミスをするのは惜しい。


クデンは一度武器を横に倒すと、両手でしっかりと保持する。

じり、じりと間合いを図る。

切り上げ。

かわして、続く振り下ろしに刃を斜めに当てることを意識して力を流す。


僅かに生まれた隙で、「強撃」と「魔閃」を同時発動。

物理と魔法、双方のスキルを載せた状態で首筋を薙ぐ。


ガインッ


鈍い音がして、刃が滑る。

鎧には小さな傷が付いている。

だが、それだけ。


どんだけ硬いんだ、この鎧。


物理も、魔力もどちらも防御力が高いのか。

何かのスキルを使っている可能性も高いが、それにしてもな……。


残りの魔力も潤沢にあるわけではないし……。

と、クデンの身体から異様な気配を察し、瞬発的にエア・プレッシャーで後ろに下がった。


クデンの周囲にはいくつもの刃が生まれ、四方に拡散していくが、すぐに消滅。


ワーム戦で見せていた、四方周囲を攻撃するスキルか。


「ふう、お前『魔力視』持ちかあ? 厄介よの!」


こちらに攻撃の気配を見せるので、バックステップで距離を保つ。

詰め寄るようにして連続して攻撃してくるので、次第に余裕がなくなっていく。


それでも、大ぶりなので剣で受け流すことができる。

2合、3合となんとか受け流しを成功させると、流れた身体を回転させるようにして、横にスライド。気付けば武器はまた2つに分かれ、左手に剣、右手に斧のスタイルに戻っていた。

剣、斧、剣、斧と連続して繰り出してくる斬撃を、必死になって防御する。

さすがに息が上がってきた。

一度離脱しないと、キツい。


エア・プレッシャーで離脱……したつもりだったが。

発動と同時にクデンも一気に前に詰め、移動先に剣を突き出してきた。

剣を合わせ、突きを防ぐも、体勢が崩れる。


「おらぁ!!!」


斧の振り下ろしを、ゴロゴロと転がって回避しつつ、立ち上がる。

焦った。死んだかと!

今、何が起こった?


「器用な野郎だが、ヨーヨー。だいたいタイミングは掴んだき」

「……」


息を整え、間合いを長めに取る。

間違ってた。

白兵戦では、格上だと思わなければまずい。

クデンは気負わず、武器を構えてスタスタと歩いているような格好だ。

もはや逃げ出したい気もするが……背を見せるのも怖いのだ。


「何度も同じ手が通用するなんて、甘えきった考えは捨てなあ」


クデンは間合いを詰めながら、冷たい声で告げる。

エア・プレッシャーの自己使用が読まれたのは、実ははじめてかもしれない。

あっちこそ、「魔力視」みたいなスキルを持っているのか?


「死んでくれや」

「死んで、たまるかよおお!」


クデンの斬撃の波を避けて、ときには打ち合う。

こっちも、多少は敵の攻撃について、分かってきた。


武器を割って、二剣流のようにして戦うときは、回転するような斬撃がメインだ。

だが、回転にも方向がある。

横に薙ぐような形や、切り上げるような形のときは、そこまで重くない。

上から振り下ろす形になったときだけ、やたらと重い気がするのだ。

単純にかち割りの方が力が入りやすいから、かもしれないが……。

上からの攻撃は受けない方が良いってことだ。


じりじりと、神経を削るような時間が流れる。

互いに打ち合う音が響き、奇妙にも息が合っているようなリズムが生まれる。

しかし、決して対等な戦いではない。


常に俺が、押されている。

常にじりじりと後退を余儀なくされ、見るからに劣勢なのが俺。

そしてクデンは勢いにノリ、とにかく前に、前にと詰めてくるようになった。


と、そこに変化があった。

俺の脇を掠めるようにして通って行った何かが、クデンの脇を叩く。

カツンと音がして、クデンがよろめく。


「ぬう」


きたか。

あれは、矢だ。

それも、サーシャの矢。白く塗った矢尻が、俺にそれを伝える。

やっとか。

それならば、こうだ。


「アカーネ!!」


必死に叫んだ。

そして、このタイミングで練り込んでいた魔力を開放する。


「サンドバインド」



砂が舞い上がり、帯状になってクデンにもたれかかる。


「ふんっ!」


クデンが、四方に刃を現出させて攻撃すると、砂の帯が切り裂かれ、崩れていく。

そうか、バインド系への対処としても使えるわけだ、そのスキルならば。


しかし、それでもいい。

俺の狙いはーーもし、きちんとアカーネと、そしてサーシャに伝わっていれば、もしや……。


気配察知で後ろからの飛来物を待っていると、それが飛んでいくのが察知された。

真っ直ぐ、少しだけ重力に引かれながらも、それを計算していたかのような軌道で、クデンに何かが飛んでいく。


飛んでいった飛来物、サーシャの矢の先端には、丸い物体。

それは、クデンの脇腹に当たるも、コツンという音とともにはね返された。


次の瞬間。

黒い渦が、クデンの右脇腹でふくれ上がった。

……よし。


バチッバチバチッ


独特な音がして、黒渦から黒い球となったなにかが、一瞬膨らみ、すぐに収縮して消滅してゆく。

残されたのは、右手を失い、右脇腹の鎧も穴あきとなったクデン。やがて、その場に膝をついた。


その傷口を狙って、突きと火球を放っていく。

ズブリという、肉を裂く感触。


クデンの身体が、地に崩れた。

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