第162話 門の戦い

ジョブはとりあえず、『魔法使い』と『隠密』にする。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24)魔法使い(22)隠密(13)

MP 49/49

・補正

攻撃 F−

防御 F−

俊敏 F+

持久 E−

魔法 D

魔防 E+

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

気配希薄、隠形魔力

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************



まだ、敵対したことはバレていないとは思うが、慎重に行く。それに、その辺で挨拶でもされたら、それはそれで対応に困る。

「気配希薄」は消費魔力が少ないから、そっちだけ発動しておく。


だが、目撃された場合に誰何されないように、きちんと整備された道を、ゆっくりと移動する。

夜中のため人通りがあるわけではないが、周囲の家から物音が聞こえただけで警戒してしまう。


途中、いつだか水を掛けられた酒屋の傍も通る。

食器の擦れる音、誰かが笑う声が微かに漏れ聞こえる。


心臓が、うるさい。


門までは、あとどれくらいか。

頭の芯が痺れるような緊張感に、足元がぐらつくような感覚。


突然、村の家の扉が開き、男が外に出てきた。

バサバサと、布を叩いている。

剣に手をやる。


目線を合わせないようにしつつ、意識を向ける。


男は布を叩く作業が終わると、こちらを一瞥し、すぐに家に入った。



…落ち着け。

村人を殺してしまえば、戦士団の覚えも悪くなるだろう。

なんといっても、戦後は彼らの統治する民なのだから。


リラックスだ、リラックス。

そう言い聞かせながら、手のひらに人の字を書き、飲む仕草をしてみる。

…全く効かんな。


いや、考えてもみろ。


確かに、圧倒的多数を相手に対人戦をしたということはない。

だが…果たしてこの村の傭兵たちが、死蜘蛛よりも恐ろしいか?

テーバで見た、レーベウスのような存在感があるか?

山で見た白龍のように、圧倒的な威圧感があるか?


否だ。

いずれも否、だ。

それらと比べれば、イージーだ。

たかだか傭兵の10人や20人を屠るだけの、単純なお仕事だ。気楽にいこう。



最後、角を曲がれば門に着く。

深く深呼吸して、吐き出す。2回ほど繰り返して、拳を握り気合を入れた。



建物の陰から、門の様子を窺う。

…門の前に1人、壁の上に1人。

む、宿舎からもう1人出てきた。



……。

異空間から短い筒を持ち出すと、それを壁の外に放り投げる。

無事壁を通り越し、向こうで赤い光が一瞬光る。

良かった、ここで壁に当たるのが地味に心配だった。


「ははは……」

「おい、あれ、何の光だ」

「ん?」


おしゃべりをしていた見張りの2人が、門の横にある小窓から外を見た。

平静をよそおってゆっくりと、そこに近付く。


「よお」

「あん? その兜……ヨーヨーか?」


少し離れた位置にいる1人に向け、無言で魔銃を向ける。


ズギューーーーン……


「……!? てめ、ヨー……」


流れるように、もう1人に向けて『剣士』の「強撃」を発動しながら腹を刺す。

少し硬かったが、ガチガチの武装ではなかったようで、剣は刺さった。


「ぐぶっ……ヨーヨー、お前ぇ……」

「悪いな、シュー。恨みはねぇが」

「てめぇは……団長にでも……殺されちまえ」

「その予定はない」


腹から剣を抜き、首筋に剣を滑らせる。


宿舎の方から、1人が顔を覗かせる。


「何っ……」


問答無用で斬り掛かり、首を刺す。

扉から中が少し見えている。

人影がある。


『警戒士』を付けてから、魔弾で燭台を倒す。


中に入りかけたところで、右から奇襲してくるような動き。しかし「気配察知」でそれは丸わかりだったので、すっと後ろに退く。

空ぶりした、男の横腹が見える。これにも全力で剣を突く。

チェインメイルを着ているようだが、問題なく貫通する。


「悪いな」


剣を抜き、また首筋に剣を振る。

切れ味良く、首から血が噴き出す。グロいが、この殺伐とした異世界生活では、随分見慣れてしまった画だ。


もう一度気配察知で探るが、近くに人の気配はなし。

あとは門の上に、1人いるだけ。


事態に気付いているだろうが、後回しでもいいか。

と思っていたら、反応が消え……落ちてくる?


ドサリ。


音がしたので、外を覗くと、鎧姿の男が首から矢を生やしていた。


!?


一瞬行動が固まったが、すぐ次の行動を、と思考を始めたら、壁の向こうから反応が……跳び上がる!?

そして……、下へと降りてきた!


トシンッ


予想していたよりも軽快に、音を殺しながら人が降りた。

黒い革鎧が、夜に溶け込んでいる。そして、鎧の中央には、緑字に大きな葉のマーク。


「……旦那、足は無事か?」

「攻撃の心配がないならば、この程度の壁は登れる」

「そ、そうか」


背の低いリーダーの左にいた、背の高い戦士だ。


「……俺がいなくても何とかなったのでは?」

「それではリスクが高い。それに、最大の障壁である壁上の敵兵はお前のとこの弓兵が片付けてくれたぞ」

「ああ、サーシャ」

「優秀だな」

「まあ」


さて、ここでくっちゃべっているヒマはない。

火魔法で即席の灯りを点けると、部屋を見渡す。


「……これだな」


長身戦士が入り口側の隅にあった歯車のようなものを回す。

重そうなので俺も手伝うが……かなり重いので、身体強化まで使った。


ギギ、ギギッと音を立てながら、門が上がっていく。


最初に入ってきたのは、背の低い戦士。

ジソおじさん、と呼ばれていたか。


「首尾よういったな」

「礼を言う」


ジソ・ブラグと、その傍らを固める盾使いに声を掛けられる。


「そいつは光栄です。で、次はどうするんです?」


事前に作戦の共有があったのは、門を制圧するところまで。

ここからは戦士家の指示に従って戦うことになる。


「敵がまだ気付いていないのか、どうかにもよるが。時間の問題だろう」

「ええ」

「門を固めつつ、高所から防御戦闘を行う。余裕があれば傭兵の寝込みを襲いたいが」

「……ですか」


まあ、言うても数的不利だしなあ。

「もう奇襲の旨味はないものと思え。傭兵団も、そう甘くはないぞ」

「承知した」

「エイソン、ハッパーたちを連れて門の上を固めろ! 残りは下だ!」

「「「おう!!」」」


次々と門を潜ってきた戦士が、配置に付く。

上を固める部隊は、梯子を上って門の上にいく。


「俺たちはどうすれば?」

「ヨーヨー達は、上を頼む。弓に魔法だろう?」

「そうか。承知した」


そこで、サーシャたちが門を潜ってくる。


「サーシャ、全員無事か?」

「問題ありません」

「門の上のやつを狙撃したようだな」

「後ろを気にしていたようでしたから、容易でした」

「……そうか」


鎧兜の間を狙って、首を射貫くなんて俺にはできないがな。

サーシャの才能が爆発している。


「俺達は上に上がるらしい。梯子を登ってくれ」

「はい」


サーシャ、アカーネ、そしてキスティの順で梯子を登っていく。

俺は最後尾に付く。


と、半分ほど登ったところで飛翔する物を察知し、とっさにウィンドシールドを張る。

軌道の逸れた矢が、壁に刺さる。


「撃たれてるぞ!」

「反撃しろ!」


下から叫ぶ戦士たちの声が聴こえる。


「サーシャ、急げ!」

「アカーネ、落ちないように注意しなさい!」


サーシャがアカーネに声を掛けて、登るスピードを速める。

その内に何発か矢が飛んで来るが、いずれもシールドで外に逸らす。


ファイアシールドのような分かりやすいシールドではないから、普通に外したと思っているかもしれない。


なんとか、誰かに矢が刺さる前に登ることができた。

登った先は、四角く全方位に隠れながら矢が放てる作りとなっている。

意外と広いが、10人弱が集まるにはやや狭い。


エイソンと呼ばれていた、リーダー格の戦士に頭を寄せる。


「弓間の1つをうちのに宛ててくれ。腕はもう見ただろう」

「それは良いだろう。……お前は先ほど何か魔法を使ったか?」

「ああ、ウィンドシールドだ」

「なるほど、道理で見えないわけだ。出来れば、その魔法でここの者を守ってくれ」

「いいが……限度があるぞ。魔力切れもあるし、広さもそれほど取れない」

「そうか……」


エイソンは視線を低くして考える。


「……それは仕方がないな。まあ、こっちには『盾士』もいる。そうそう抜かれんだろう」

「しかし、家に紛れて撃ってるな? 敵の位置は把握できるのか」

「残念ながら、撃たれた方角から考えるしかない」

「探知系のスキルはないのか?」

「ある者もいる。ただ、夜だしな」

「ふむ」


持久戦か。

頭を切り替え、サーシャを弓間が使える位置に立たせる。


「防御は俺がする。サーシャは撃ってきた敵をサーチ・アンドデストロイだ」

「かしこまりました」

「キスティ、とりあえず待機だ。はしごを登ってくる敵が居たら、叩き落とせよ」

「ああ」

「アカーネ、魔投棒で敵が隠れてそうな場所を攻撃してくれ。ただ、温存しろよ」

「分かった」

「キスティ、アカーネに向かってくる矢があったら、叩き落してくれ」

「……無茶を言う」

「できたらで良い」

「承知した」


隣では、大きな弓を構えた戦士が射撃を開始している。

言っても、高低差があるから敵の矢は届きにくい。

姿を隠していなかった射手が、すぐに2~3人撃ち抜かれたようだ。


それでもたまに飛んで来る矢をウィンドシールドで避けていると、妙な感じのものが飛んで来た。

……スキルか!


ファイアウォールに切り替え、スキルを相殺する。


危ない、危ない。

しかしこれで、俺が防御魔法で守っていることはバレたかもしれない。

隣では魔弓をつがえたサーシャがどこかに矢を放った。


「……やりました」

「即死か?」

「……生きてはいるようです。剣を構えているので、スキルを使ったのでしょうね」

「ああ、スキルの奴か」


サーシャは言っている間にも次の矢を用意し、どこかに弓なりで放った。


「……今のは?」

「屋上に陣を作ろうとしていたので、牽制です」

「そうか」


サーシャ無双である。

定期的にサーシャや周りの戦士達の命中報告が入るのだが、いっこうに敵の弾幕が減らない。

そうこうしている間に、サーシャとは反対側にいた戦士の1人が胸を射貫かれ、落下していった。


「くそっ!! 下の連中は何をしている!」


エイソンが苛立つ。

そこに、下から怒号が湧く。


ちょうど見晴らしも良いので見下ろしてみると、建物の陰からわらわらとこちらに接近してくる人影。


「備えろー!」

「隊列を組め!」


突貫してくる敵兵に対し、陣を構えて迎撃する戦士家。


といっても、もともとの人数が少ないから、数人がスクラムを組んでいるだけ。

心配になるな……。


「サーシャ、無理はするな。弓間を上手く使え。アカーネ、ドンと一緒にサーシャを護衛しろ」

「降りるのか、主?」

「付いて来い、キスティ」


タイミングを見計らい、梯子を滑るようにして降りる。

一気に降りても、「身体強化」で無事に済むかもしれないが、しばらくはあえて敵の矢の的になる意図もあって、そのまま降りる。

続いて降りてくるキスティも守らないといけないしな。


登りよりは随分と簡単に、地に降りる。

下では次々と飛び出してくる傭兵に対して、戦士たちが奮迅の働きを見せていた。

流石と言うべきか、1人も欠けていない。

ただ、手傷を負っている者もいるので時間の問題か……。


魔剣を握り、背中から抜く。


「おらあああああ!」


気合いと一緒に、ジソの横から襲おうといてる敵を薙ぐ。


「ヨーヨー、来たか!」

「大丈夫なのか、これ!」

「予想よりも数が多い。が、練度が低い。つまり……村人を徴発しおったな」

「なんだと!?」

「まあ、ない手ではない。だが、それならだ」


ジソは打ち合ってくるハンマーを持った男の攻撃を避け、体当たりで吹き飛ばした。


「聞け、村の衆よ! 我等はブラグ家。領主から正当に権利を賜った戦士なるぞ! 我等に攻撃するは、領主様への反逆罪とみなす! これより一族郎党皆殺しとなる覚悟がある者のみかかって来い!」


ジソは、その反応を待つまでもなく、脇差を抜くと、ハンマー男の脇から突き刺した。


「せ、戦士家?」

「そうなのか!?」

「どうなるんだ、俺達は……」


傭兵団と、村の衆に明らかに動揺が広がる。

ジソが更に追撃の気配を見せると、バラバラに撤退を始めた。


それ以降も、バラバラと矢やスキルが飛んで来るものの、突貫してくることはなかった。



***************************



まだ陽は上っておらず、周囲は真っ暗ななかで、蝋燭に弱弱しく照らされた宿舎で、ジソ達と共に座った。



「何人殺した?」


冒頭、ジソが兜を脱ぎながら言う。

一時的に上から降りてきたエイソンが口を開く。


「命中はしたが、仕留めきれないことが多いな。確実に殺したと言えるのは、せいぜい2~3人だ」

「……少ないな」

「仕方がなかろう、もともと夜中なのだ。死んだかの確認も難しいのだ」

「……止むを得んな」

「下での戦闘はどうだったのだ?」

「死体は5だ。ヨーヨーが最初に殺したのと合わせれば、10は削れたか」

「重症で動けん者もいるはずだ。20は削れたのではないか」

「楽観は止せ。それに、殺したのが村の衆では意味がない」

「……何故村の衆は奴らに助力を?」


そこで、疑問をぶつけてみる。


「村での戦闘なら、村人を戦力にするのもアリじゃ。ただ、こんな田舎町に『市民』がどれだけ居るかは、知らぬがの」

「……?」

「主、後で」


理解していない様子を見た後ろのキスティが、そっと耳寄せしてくる。


「ただ、あの様子だと『市民戦法』でもないな……。単純に、武器を持てる者を戦わせているとしか」

「練度は低いな」

「で、肝心の『何故、傭兵団の味方に』の部分だが」

「金でも貰ったか?」

「その可能性も高い。それに、賊対策だと言われていたか。ついでに言うと、傭兵団に取り入っている連中かもしれんな」

「取り入っている……」

「戦争中じゃ、どの村にも起こり得ることだ。敵にすり寄り、有利な地位を築く。すり寄られる側も、必要以上に便宜を図ることで”共生関係”を構築することができる」

「傭兵団がいなくなれば、地位を失うからか」

「で、あるな。それに傭兵団統治下で大きな顔をしていたのであれば、傭兵団が去れば目の仇にされよう」


……アインツ、大丈夫かな?

傭兵団との橋渡しをしていたと言っていたが。

でも、反傭兵団の象徴みたいになっていたから、その意味では不幸中の幸いか。


「明日以降、傭兵団はどう出てくると?」


エイソンと逆に座っていた長身の戦士が、ジソに問う。

最初に壁を乗り越えてきたやつだな。


「戦力をまとめて、打って出てくるか。あるいは裏門から逃亡するか」

「逃亡は防ぎたいが……あの3人だけでは難しいか」

「本気で出てこられたら、無理じゃろうな。あの3人にも、無理はするなと言うてある」


3人というのは、別ルートで裏門に向かった若者3人のことだろう。

裏門を同時攻撃して気を惹くということだったが、主な任務は裏門からの脱走を牽制することか。


「奇襲で門を奪うまでは順調だったが、その後は渋いな」


エイソンが呟くように言い、酒を呷った。


「こっちも死人1,重症1だ。初日で削れた戦力も予定よりは少ないな」

「あの突貫は無謀じゃったが、散開攻撃で我等を足止めし、総力戦に持ち込んだ敵の采配は悪くない」

「奇襲も終わり、暗闇も晴れれば、敵の戦力と正面衝突するしかない。……囲んで、弓でこちらを消耗させる手もある」

「正直、こちらの内情を知っていればその手だな」

「だが、普通は後続があるものと思うのではないか?」

「どこまでこちらの手の内を知っているか次第だな」

「とにかく、弓兵がな。途中から小まめに位置を変えるようにしてきて、なかなか数を減らせん」

「遊撃部隊を出すか?」

「その余裕があれば、そうしたいところだが」


……。

乗りかかった舟だしな。


「夜が明ける前に、俺が出るか?」


これまでロクに口を開かなかった俺の発言に、注目が集まる。


「俺は弓兵とは相性がいい。暗闇でも動ける程度の訓練も積んでいる。……ゲリラ的に動く弓兵が一掃されれば、持久戦は怖くないんだろう?」


エイソンも、長身の戦士も、目線を泳がせた後、ジソを見た。


「……やれるか、ヨーヨー」

「弓兵1人につき、金貨1枚は欲しいね」

「いいだろう」

「マジか」


つい口に出してしまった。

半分冗談だったが、受け入れられてしまった。


「良いのか、ジソ殿?」


長身戦士が問う。


「御屋形様からの褒美も残っておる。ここは惜しむところではないわい」

「……」

「お主が死んでも、パーティメンバーにくれてやろう。それでどうだ?」

「……やろう」


俺が死んだら、本当にくれるのかは分からないが。


「暴れ足りなかったところだしな」


再びさわやかスマイルをかました俺だったが、戦士家の面々はしかめっ面のままに、小さく頷いただけであった。


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