第151話 盗人の正義

ケシャーの村に帰ってきた。

途中でもう一度土砂降りの雨に見舞われたが、ウー・バードの襲撃はなかった。

ただ、そんな状況でも飛んでくるダイコンに辟易とした。


肉体的・精神的な疲労が重なり、ヘトヘトになりながら門に到着したころには、クデンはすっかり元の調子を取り戻しているかのように見えた。

どちらかというと、そう上辺で振る舞っているだけのような気がするが。


門を開けてもらうと、クデンはニッと笑って手を差し伸ばしてきた。


「世話になったき。また、大物狩りをするときは呼べよお」

「ああ、こちらこそ世話になった」


しっかりと握手を交わしてから、クデンは村長の館に。俺たちはアインツの家へと帰路についた。

……一応「ステータス閲覧」で見てみたが、クデンのジョブやレベルは見られなかった。残念。


「さて、俺たちも帰るか」



途中で村の倉庫に寄り、銀貨と食料を交換する。

久しぶりに新鮮な野菜を仕入れ、今日は鍋料理。

もちろん、鍋奉行はサーシャ様だ。


鍋の食材を買い揃え、ほくほく顔でアインツ亭の扉を叩く。

彼の食事がまだであれば、一緒にと誘ってやってもいい。


安全圏へ帰還できた解放感でそんな太っ腹なことを考える俺。

しかし、ノックにドアから顔を覗かせたアインツは……げっそりしていた。

明らかに、何日か寝ていないような隈があるんだが……。


「どうした、アインツ??」

「ああ、あんたらか……そうか、帰ったか。二階、使っていいぞ」


アインツはそれだけ言うと、ふらふらと覚束ない足取りで奥に消えていった。

徹夜で鍛治でもしていたのだろうか。


まあ、上がっていいと言われたのだからな。

あの様子では、食事どころではないのかもしれない。

大変な様子の彼には悪いが、二階で剛気な鍋パーティーと洒落込ませてもらう。


***************************



「肉が少ないのではないか?」

「キスティ……。貴女、お野菜も同じくらい取ってください」

「サーシャ殿は本当に、良い伴侶になりそうだな! 主、そう思うだろう?」

「ん? ああ……」


生返事で俺がやっているのは、ステータス確認。

このアースワーム討伐戦の間にも、色々とレベルアップがあった。

主力の『魔法使い』+『剣士』がこれだ。


*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24↑)魔法使い(22↑)剣士(20↑)

MP 44/50


・補正

攻撃 E+(↑)

防御 F−

俊敏 D(↑)

持久 F+

魔法 D(↑)

魔防 E+

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

斬撃微強、強撃、脚力強化Ⅰ、剣強化(new)

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************



全体的にレベルアップしている。

特に、『剣士』がついにレベル20の大台に乗ったことは喜ばしい。

スキルも1つ会得した。


『剣強化:剣の硬度を強化する』


なかなか渋そうなスキルだ。

これ、興味深いことにスキル発動のタイミングで魔力を流せそうなのだ。

つまり、効果固定の強化ではなく、魔力依存の強化スキルだろう。

だとすると、このスキルを極めれば、その辺のクズ剣で伝説の剣並みの性能……的なことが可能ではなかろうか。硬度だけ。

あるいは、日本刀のような「切れるが、強度に難あり」という剣を使えば、「硬くて切れる」というロマン武器が出来るかもしれない。夢が広がるねえ。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24↑)魔法使い(22↑)警戒士(20↑)

MP 51/57

・補正

攻撃 F

防御 F+

俊敏 E−(↑)

持久 E(↑)

魔法 D+

魔防 D−(↑)

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

気配察知Ⅱ、気配探知、地中探知(new)

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


『警戒士』もレベル20だ。

生えたスキル「地中探知」は、まあ、このところ地中に「気配探知」を打ち続けていた成果なのだろう。


『地中探知:任意の方向の地中を探知する』


説明は簡素だが、通常の「気配探知」と同じことができるわけではなく、地中に普通の「気配探知」するよりはマシというレベルだ。

地中への気配探知を補助してくれるスキル、ということだろうか。


……なんか、あれだな。

ゲームなんかだと、炎の魔神みたいなボスを倒すと火耐性の防具が手に入って、さっきまではすごい欲しかったけど今更要らんみたいなことがあるよな。

今、それと似た物を感じてるわ。アースワーム戦の段階でこのスキルがあれば、もうちょっと安全に戦えたのに、と。

仕方ないけどな……。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24↑)魔法使い(22↑)魔剣士(11↑)

MP 43/49

・補正

攻撃 E−

防御 F−(↑)

俊敏 F+

持久 F

魔法 D+(↑)

魔防 E+(↑)

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

身体強化魔法、強撃、魔剣術、魔閃

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


『魔剣士』もレベルアップ。

スキルがいずれも攻撃面で優秀で、超攻撃的なジョブ構成にしたいときに結構使っている。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24↑)魔剣士(11↑)剣士(20↑)

MP 19/25

・補正

攻撃 D

防御 F−

俊敏 D−

持久 F+(↑)

魔法 E−

魔防 F

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

身体強化魔法、強撃、魔剣術

斬撃微強、強撃、脚力強化Ⅰ、剣強化(new)

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


『魔法使い』ではなく『剣士』と組み合わせる構成もあるのだが、いかんせん魔力が貧弱だ。長期戦になると、ガス欠が怖くてなかなか付けにくい。

あとは何と言っても、エア・プレッシャー自己使用ができないのがイタい!


あのブースト移動に慣れてしまうと、いかに「脚力強化」があっても立ち回りが不便に感じてしまう。


さて、そして最後にもう1つ、スキルを会得したジョブ。

それが『愚者』さんである。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24↑)魔法使い(22↑)愚者(10↑)

MP 50/56


・補正

攻撃 F−(+)

防御 F−(+)

俊敏 F(↑)(+)

持久 F(↑)(+)

魔法 D−(↑)(+)

魔防 E+(↑)(+)

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

貫く魂、盗人の正義(new)

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


これである。

「盗人の正義」……?

さっそく「スキル説明」で選択してみる。


『盗人の正義:一定時間、周辺の者から魔力を奪う』


をを…!?


また妙なスキルが生えたな。

ゲーム的に言えば、マジックドレイン的な技か。

今まで、この手のスキルを使ってヤツを見たことはなかったな。

…『呪術師』あたりがデバフのジョブだったはずだから、呪術スキルにならありそう。


それにしても、このネーミングはなんだろう。

「スキル説明」のスキルがなければ、効果の概要を理解するだけでどれだけ時間がかかったことか。

それに、俺は複数ジョブで魔力はいくらあっても困らないからいいのだが、このジョブ単体だと、「奪った魔力の使い所がない」状態に陥るのでは?

いや、魔道具という手があるか。それにしてもなあ。


そこまで見越して『愚者』なのだろうか。

効果は便利だけど、そのままでは十分に使いこなせない、みたいな。

だとしたら、今後もこんな感じの片手間落ちなスキルが手に入るのが『愚者』なのかもしれん。


だとしても、複数ジョブがある俺には有用な可能性がある。

むしろ『愚者』を使いこなせるのは俺だけかもしれん…。

俺が、俺こそが『愚者』になるために生まれてきた人材…!


ふう。

嬉しくねえわ。


でも今後のスキルの方向性も気になるし、『愚者』は引き続き育成していくことになるだろう。


そして、従者組のレベルも上がっている。


*******人物データ*******

サーシャ(人間族)

ジョブ 弓使い(20↑)

MP 13/13


・補正

攻撃 G+

防御 G−

俊敏 F

持久 F

魔法 G−

魔防 G−

・スキル

射撃微強、遠目、溜め撃ち、風詠み(new)

・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************


サーシャもレベル20。

最近は才能が常時爆発し、戦力としても欠かせないものになりつつある。

そのサーシャが会得したのが「風詠み」。

どうやら、数メートル先まで風の動きが予測できるシロモノらしい。


察知できる、ではなく予測できる、らしいのがすごポイントだ。

凪の状態から、なんとなく数秒後に風が吹きそうだなーと分かるという。

すげえ。



*******人物データ*******

アカーネ(人間族)

ジョブ 魔具士(22↑)

MP 23/23


・補正

攻撃 G−

防御 G(↑)

俊敏 G

持久 F−

魔法 F+

魔防 F

・スキル

魔力感知、魔導術、術式付与Ⅰ、魔力路形成補助、魔道具使用補助Ⅰ

・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************


アカーネもレベルが上がったが、こちらはスキルはなし。

防御が地味に上がったのは嬉しいかも。

今回のワーム戦で、いかに防御力が大事なのか思い知ったことだしな。



*******人物データ*******

キスティ(人間族)

ジョブ 狂戦士(24↑)

MP 14/14


・補正

攻撃 D+

防御 N

俊敏 F(↑)

持久 F(↑)

魔法 G−

魔防 G−

・スキル

意思抵抗、筋力強化Ⅱ、強撃、大型武器重量軽減、身体強化Ⅰ、狂化、狂犬

・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************


キスティもレベルアップ。

こちらは防御が伸びる気配がないわけですが。


重装備で「狂化」のパワーで対抗すれば、案外と安定感はある。

間違いなくアタッカーとして優秀なので、無茶だけはしないようにしてほしい。


さて、ペタペタと従者達を触りながらステータスチェックを終えると、目の前にドンと肉や野菜が詰め込まれた皿が置かれた。


「主、難しい顔をしているな。鍋は戦争だぞ?」

「お、取ってくれたのか。ありがとう」

「サーシャ殿が小まめ分けてくれていたものだぞ」

「そうか。サーシャ、ありがとうな」

「いえ」


サーシャは涼しい顔で目礼する。


「それよりも、今後のことがお聞きしたいです。明日以降、どうされますか?」

「そうだなぁ…イバラがいなくなったし、また出かけるって言ったら反感を買うかね?」

「こちらが望んだ者でもないし、問題ないとは思うがなあ」


キスティが、鍋の底から肉を掬いながら言う。


「だが、実際問題何を狩るのかという問題もある。ワームは、1匹ではなかったかもしれないが……」

「ワームは気が進まないなあ」


苦労した半分以上はワームというより、局地的な豪雨のせいかもしれないが、今は次のワーム狩りに行くぞ! という気分でもない。

しかし、傭兵団から追加でワーム狩りを依頼される可能性はあるな。そうしたら、どうするべきか考えておかねば。


と、思考を巡らせていると「コンコン」と高い音が鳴った。


「ん? 珍しいな、来客か?」

「……ご主人さま、そっちじゃないよ。窓の方」


アカーネが裾を掴んで、俺の身体を窓の方に引く。

釣られて窓を見ると……小さな鳥が、ハチドリのように羽を上下させながら空中浮遊している。


「開けてやるか」


こっちが開けるのを待っているようだったので、窓を開けて中に入れてやる。


チチッと鳴いた小鳥が足を差し出す。

そこに結えられた手紙を抜き取り、広げる。


思った通り、ジシィラ本隊からの連絡だった。


「ふむ……数日後に、近くを通る斥候グループがいるようだ。合流するならここだな」

「この村を離れるのか?」


とキスティ。


「さて、どうするかね…もう少し粘ってもいいようだが、どっちが良いかねぇ」

「私たちだけで動くのも、それはそれでリスクです」


慎重案を出すのはサーシャ。


「この辺で、針モグラあたりを相手に地中探知を磨くのも良し、だ。ただ懸念点としては、傭兵団と村人の争いに巻き込まれないかだなあ」


ここで、珍しくアカーネが会議に口を挟んできた。


「あのイバラって子も、怖いおじさんも、良い人だったよ。でも、村の人だって、アインツさんみたいに、良い人がいる。……村の子も、果物くれたりして、良い子だよね」

「ああ」

「それなのに、どうしようもなく嫌い合ってる。悲しいね」

「……そうだな」


傭兵団がこの地で、何を狙って居座っているのかはナゾだが。

このままでは、どう転んでもハッピーエンドにはならなそうだ。

クデンのおっさんには、何もしないでくれと、言われたが……。


いやまあ、実際俺は領主の遣いでもなければ、敵性国家の残党でもない。俺が動かせるのはせいぜい、商隊が1つ、この地を通るのかどうかくらいだ。

だから傭兵団の勘違いはともかく、俺は村人と傭兵団の関係など気にかける必要はない。

むしろクデンのおっさんが持っていったワーム素材をいくらで買ってくれるかが重要だ。

高く買ってくれるようなら、今後はクデンを通して素材を売った方が、村の商人を通すよりはマシかもしれない。


「それより、キスティ。細目について思い出したか?」

「そのことか…」


細目はどうやら、キスティの出身であるズレシオン連合王国から来たらしいのだ。

となると、キスティが凝視されていた理由も気になる。

キスティ本人には心当たりがないらしく、しきりに頭を振っている。


「正直身に覚えはない。が、顔を知られていたら厄介、か?」

「それもそうだが、こんなところに敵性国家の人間がいるってのものな。事情が分かるなら知っておきたいが」

「うぅん、それは気にしすぎかもしれんぞ? 戦で食い扶持を無くした貴族や戦士の子女が、敵国の雇われとして食い繋ぐことはままあることだ」

「恨みがあるかもしれない相手を懐に入れるわけか? 怖くないのかねぇ」

「まあ、問題がないわけではないが。戦の後はどうしても領地の守りが手薄になる。魔物対策で、そういった者を雇うのはそれほど外れた行為ではない。むしろ、残党が賊になるのを防ぐ効果も見込める」

「ああ。たしかに」


俺の気にしすぎかね。

しかし、クデンが「あいつが来てから変わった」的な発言をしていたのは気になる。


「チチッ」

「ご主人様、返書は致しますか?」


小鳥が鳴き、それを指で撫でていてたサーシャが訊く。


「返書? そいつは元の場所に戻れるのか」

「ええ。そういう性質を持った伝書鳥かと」

「便利だな」


まあ、とりあえず数日後に合流するということで返事しておくか。

紙にさらさらと書き付け、それを小鳥の脚に結える。


「チチッ、チチチ」


窓から投げ出すように出してやると、小鳥はさわやかに鳴きながら、空に舞い上がっていった。

あ、この村についてのレポートとか出すべきだったんだろうか。


……まあ、不足だったらまた伝書鳥が来るだろう。

そういえば、あの鳥はどうやって俺を見つけたんだろうな?

もしかしたら、符合用にと渡された割札に、何か仕掛けがあるのだろうか。

そんなことを考えながら、村での残り少ないであろう夜が更けていった。


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