第144話 メモ

村中の道は、意外としっかりしている。

メインストリートには石が敷かれ、街灯の類であろう、柱の上に灯りを入れる部分があるものがぽつぽつと並び立っている。

家は木造、石造り、わらのような植物が敷いてあるものと色々な形だ。

丘の上にある村長家はしっかりとした煉瓦造りで、周囲にはおまけ程度の堀が通っている。

防御的な意味では役立ちそうにないので、単に土地の境界を示しているのか、あるいは趣味で作成したのだろう。

一応架けてあるある橋を渡り敷地に踏み入れると、庭にはそれぞれの武装をした傭兵らしき男たちがタムロしている。警護しているのだろうが、どちらかというとアジトっぽいぞ。


「団長はいるか? 珍しく旅人だと伝えてくれ」

「旅人?」

「流れの魔物狩りらしい。本当かは知らないがな」

「……そうか」

「おい、中に入れ」


促され家の中に入ろうとすると、キスティが止められた。


「さすがにそのハンマーはどうにかならないか? そんなもの担がれてたんじゃ、俺たちも気が休まらない」

「失礼した。で、誰かに預ければいいと?」

「そうだな……よし、そこの玄関に置いておけ」

「……ああ」


キスティに目で合図をする。キスティは無言で頷き、ハンマーを入り口に落とすように置いた。ドスン、と音がして煙が舞う。わざとだろうな。


「ゴホッ、ゲホッ。すごい重さなんだな……まあいい。こっちが応接間だ。少し待っていてくれ」


髪をサイドで刈りあげた男がそう言って奥に消える。俺たちは、案内してきた男と並んで床に直座りするようだ。


「ふぅ。お前ら、どこから来たんだ?」

「アルフリード家領の方から。最近は多いんじゃないか?」

「いや、初めてだぜ。団体さんは見かけたが、個人でこんなとこまで潜り込んできたやつはな」

「ほう。何か儲け話はあるか?」

「儲け話ね。人手は足りてないし、団長に聞けば何かあるんじゃないか」

「その団長ってのが、マウゼン様か?」

「その通りだな」

「マウゼン様ってのはどんな人だ? これを言うと怒るということはないか? あれば事前に聞いておきたいが」

「まあ、大丈夫だろ。俺らの意見も割と聞いてくれるし、村人との折衝も積極的にやってくれている。面倒見の良い親父さ」

「ふぅん」


駄弁っていると、奥から三人の男かずらずらと並んで歩いてくる。


「おう、シュー。そいつが”客”ってやつかい?」

「団長。そうですよ。ヨーヨーっつう傭兵らしいですわ」

「傭兵ね……この辺に、個人傭兵の類がフラついてのは珍しいんだがな」


団長と呼ばれた男は、筋肉質の若い男のように見える。

ゆったりとした服を着ているから、鎧を着込んでいるわけではないらしい。頭は剃り込まれ、頭頂部あたりに1束の髪を残している。ちょっとスタイリッシュなモヒカンみたいな髪型だ。

目つきは鋭く、顔に残った幾筋の傷跡が戦いの歴史を示しているようだ。


「初めてお目にかかる。ヨーヨーと言う者です」

「……。『古傷の戦士団』で現在の団長の、マウゼンだ」


マウゼンは距離を詰め、握手を求めてきた。

意外だったが、反射的に手を差し出して握ると、グッと力を込められた。


「……」

「ふむ、鍛えているな。それでヨーヨー? お前はこの村に何をしにきた?」

「飯の種を探しに、だ。何か儲け話はあるか……ありますか? 対人戦と言う意味ではあなた方には及ばないが、魔物相手ならそれなりに経験がある」

「別に無理して敬語にする必要はないぞ。俺たちは傭兵同士、いわば対等な身分だ。そうだろう?」

「……お言葉に甘える。堅苦しい言葉は苦手なものだから」

「それは同じだ」


屈託なく笑いながらも、こちらを探るような目線を外さないマウゼン団長。案外、腹芸ができるタイプの人かもしれないな。


「それで、何か儲け話は? まあ、見ての通りの少数所帯でな、あまり大掛かりなことはできないが、魔物狩りの手伝いくらいは喜んでやろう」

「……ふむ。いいだろう。この辺りに来る傭兵がいないというのは本当でな、狩りの手が足りないと思っていたところだ。我々にはこの地を守護する義務がある」

「なるほど。領主の方はいないので?」

「戦争の混乱もあってな。今、領主と呼べる存在はいない」

「では、何か気付いたことがあれば団長に報せれば良いと」

「そうして貰えると助かる。こちらに来るまでに何か気付いたことでも?」

「いや、特にない。魔物も異常繁殖している様子はなかったし、よく治めていると思う」

「世辞はいい。この辺はウチの斥候隊が詳しいからな、あとで一緒に狩りに出てみればいい」

「それはありがたい。……この辺で狩った魔物素材は納めるということだったが、狩りをしても儲けは出ないのか?」

「いや、それをもう聞いていたか。確かにそのように定めたが、理由があってな。素行の悪い村人が、狩った素材を盗もうとしたことが何度かあるのだ。それを防止するために、仕方なくな」

「では、俺たちが狩ってきたものは問題ない?」

「んー、ただ、お前たちだけ例外扱いというのも不満が出るだろう。村まで素材を持ってくれば、適切な値段で買い取ると言う形でどうだ?」

「それは良いが、値段はどうする?」

「この村にも商人がいる。彼に適切な値を付けてもらうから、心配はいらん」

「……そうですか」


それは全然安心できない。

要はこの村の事情で言い値を設定できるということになる。


「それでは、事前に値段を知っておきたいが、値段表のようなものは?」

「残念ながら、毎日相場は変わるのでな。どうしても知りたければ、商人から話を聞いてくれ」

「了解した」


ここであまりゴネても悪印象を与えそうなので、引いておく。

あんまりこの村で儲けることを目指さないほうが良いな。


「狩りに出る時は、何か申請が必要だろうか? あと野宿になるかもしれないから、テントは返却して貰いたいのだが」

「……いや申請は特に要らん。だが、基本的に事前に言っておいてくれ。そうすれば斥候を貸すこともできるしな」

「承知した」

「で、テントだったか? 検査のために預かった品ということだろうが……」


団長は後ろを振り返り、細い目をした黒い肌の男に何やら目配せした。


「……特に問題がなければ、今日にでも返却されるだろう。泊まるところは?」

「まだ決めていない」

「そうか。テントを使うなら、村の西端に水場があって、その辺りを使えるだろう」

「どこに取りに行けばいい?」

「そうだな……寝る前になったら、ここの前の小屋、分かるか? 事務所として使っていてな。そこに運び込んでおこう」

「感謝する」


どうやらテントは戻って来そうだ。

悪印象を与えないうちに、去るべきかな?

いや、一応粘ってみるか。


「こちらに来る途中で魔物素材を狩ったが、そちらの買取はしてくれるのか? 入り口で没……預けたんだが」

「……。いいだろう。あとでテントと一緒に、査定額を渡す。査定額については、商人に文句を言ってくれ」


まあ、いいか。何も払われないうちに没収されるよりは、な。


「それで、そろそろそのマスクは取ってくれんか?」

「ああ、これは失礼」


ブシューッと音がして、マスクが外れる。

外したマスクを脇に抱えて、改めて目礼する。


「なかなか男前じゃないか」

「冗談を」

「後ろのパーティメンバーもいいかね?」

「……ああ」


正直嫌だったが、ここで拒否は難しい。

サーシャたちを振り返り、フードと兜を外すよう目で合図する。


「ほおっ」

「ヒューッ!」


横にいる案内男と、団長の後ろにいる長髪の男が歓声を上げる。


「えらく美人だな。ヨーヨーのコレか?」

「そんなもんじゃな……まあ、そんなところだ。これでも腕の立つ方だからな、妙な真似はしないでくれるとありがたい」

「いいだろう。だが、自分の身は自分で守るようにしてくれよ。団員ならばまだ言うことを聞かせられるが、村人に襲われても知らんぞ」

「……重々、注意しよう」


女性陣が顔を出したとき、団長の後ろの細目がじっとキスティの方を見ていた気がする。

妙な真似をされなければいいが。


「それで、率直に訊こう。何故、領都や港ではなく、こっちに出張ってきたんだ?」

「何故? まあ、領都に行くつもりだったんだが、そっちはデカい傭兵団が向かうのに遭遇してな。とりあえず空いてそうな場所を探したら、この辺に辿り着いた。だが参った、拠点が少なくてずいぶん歩かされたよ」

「それで、たまたまこの村を見つけたと?」

「まあそうなんだが、村のこと自体は途中の街で聞いていたからな。完全に偶然ではない」

「なるほど。まあ、今日は疲れたろう。狩りに出るのは明日にして、ゆっくり休むんだな」

「お気遣いに感謝する。正直ヘトヘトで、早く休みたかったところだ」

「そうか。こんな場所に引き止めて悪かったな、もう行っても良いぞ。送らせるか?」

「あー、とりあえず酒場にでも言ってるから、そこまで案内を付けて貰えるなら、嬉しいが」

「ではそうしよう。シュー、案内してやれ」


シューと呼ばれた、ここまで案内してきた男に話が振られ、シューと言う男も首肯した。


「どちらの酒場で?」

「……今日は『最果ての酒場』の方が空いているだろう」

「合点です」

「では頼むぞ。他に何か言っておくことはあるか、ヨーヨー?」

「いや、ない」

「では、ここまでだ。これから村民との折衝があってな、失礼する」

「ああ……」


団長たち三人がぞろぞろと出ていき、部屋には、案内してきた……シュー、と呼ばれた男と、ヨーヨーパーティのみが残された。


「シューだったか? 酒場まで頼む」

「シューマハだ。よろしく。案内は別に構わないが、そちらのお嬢さんたちも酒をやるのか?」

「まあ、酒だったり果実汁だったりするがな。一緒に飲み食いすることが多いから、連れてくんだ」

「そうか。ま、いいよ。付いて来い」


シューマハに連れられ、村長の家を出る。

村長の家のはずだが、村長というか、村側の人間に一人も出会わなかったな。


「シューマハだったか。あそこは村長の屋敷ということだが、今はどうしているんだ? 傭兵団が今は使っているようだったが」

「そんなことを知って、どうする?」

「いや、単に気になっただけだが……。まずいことがあるなら、無理に言わなくても大丈夫だ」

「そうか」


シューマハは、本当に言わないことにしたようだ。沈黙のまま、村の中を歩いていく。



「ここだ」


シューマハが振り返ったのは、村はずれ、壁のすぐ近くにある大きめの石造りの建物。

他の住宅っぽい建物よりは一回り以上大きく、しっかりした作りになっている。


「ここは?」

「酒場だろ」

「ああ、そうだったな」


酒場の扉を押し、中を覗いてみる。

ガヤガヤとした話し声。

ただ、酒に酔って陽気に騒いでいるというよりは、囁き声のような話し声が重なってガヤガヤとなっているような雰囲気だった。

まだ中の人たちは、こちらに気付いていないようだ。


「じゃ、俺はここでお暇するよ」

「ああ、仕事中だったか。悪かったな」

「……いや、いいってことよ。道は覚えたか」

「完璧だ」


サーシャがな。


「そうか、それじゃ陽が沈んだころに、さっきの小屋までテントを取りに来な。素材の換金が間に合っているかどうかだが、商人の野郎がどれだけ仕事するか次第だ。もし酒場に来たら、尻を蹴り飛ばして追い返してやれ」

「ああ」


そもそも商人の顔を知らないから無理だが。冗談のようなので、軽く笑って見送ってやる。

感じ悪い、とまでは行かないが、最後まで距離を感じる相手だったな。

そそくさと振り返りもせず、門に向かっていってしまった。



今度こそ扉を思いっきり開けて、中に入る。

途端に、ピタリと話し声が途絶えた。


気まずいが、止まることなく、奥の四人席まで進み、座る。

店主らしきカウンター内の男に、声を掛ける。


「食事はできるか? 出来ればがっつり食べられる物があればいいんだが」

「……」


再び沈黙に沈む。

俺のコミュ障レーダーが、これはやばいと警鐘を鳴らす。帰りたい。家に篭りたい。


「あ、あんたは……なんだ?」


なんだ? と言われたら答えるのが世の情け。


「えーと、傭兵だが」

「ようh」


バシャッ!!


マスターが何かを言いかけたところで、手前にいた男から液体を掛けられた。

まじかよ。一瞬頭が固まる。まあ、動き出しが分かりやすかったので避けられたが、隣のサーシャにかかりそうだったので、受けておく。


「あー、なんだ?」

「お、お、お前! あいつらの仲間ってことだろうが!? 何こ、こ、こんなとこに」

「落ち着け、ピアック。……だが無理もねぇぜ、あんた、なんでわざわざこっちに食事なんかに来てんだ? 傭兵団には、傭兵団のお食事どころがあるだろうがよ?」


手前の男が過呼吸のようになり、その近くにいた男に押さえられている。

……なんのこっちゃ。


「すまんが、今日この村に来たばかりでな? 話が分からん」

「ハァ?」


再び流れる沈黙。辛い。お布団に包まりたい。


「何か勘違いしているようだが、我らは本日、つい先刻到着した個人傭兵だ。この地にいる傭兵団とやらは、関係のない存在だぞ?」


割って入って、落ち着いた口調で諭すキスティ。


「……ず、ずいぶん美人だな」

「ありがとう。それで、誤解は解けたのかね?」

「あ、あ、あんたみたいなのも、傭兵なのか?」

「まあ、傭兵の端くれではある。なんだ、この辺は女傭兵は珍しいのか?」


村人たちがざわざわと話を交わしている。


「め、珍しくないのか?」

「前の戦士団にはいただろ、ほら、黒い髪の」

「お目付のシン様ってのも、ありゃ女だったろ」

「いやありゃ、戦士団だろ? 傭兵団は男ばっかじゃねぇか」

「そうか? 俺は前に別の傭兵団を見たが、割と女もいるぞ」

「それにしても身綺麗じゃないか。薄汚い傭兵とは思えない」


どうやら女性陣のおかげで、敵意は薄まった模様。

……俺の酒掛けられ損じゃない?


「だ、騙されんじゃねぇよっ! 美人だからなんだよ。傭兵どもと根っこは一緒だぞ。金に目が眩んで、血に飢えたバケモンだ」

「あ、ああ。あの女は綺麗だが、隣にいるやつは目つき悪いしな……」


誰が目つき悪いだ。コラ。


「ヒッ。こっち見たぞ!」

「目を合わすな。どんな因縁付けられるか分かんねぇぞバカッ!」


B級映画のモンスターみたいな扱いされてるな。ここまでくると肝も座る。


「それで、俺たちは単に食事に寄っただけなんだが、良いか?」

「……」


村人たちは誰も目を合わせようとせず、居心地悪そうにコップの酒を啜ったりしている。

ハァ。


「お前ら、気持ちは有り難いが、良くないぜ」

「でもよお」

「フーク。こいつらは、あいつらとは無関係だと言っただろ? そう突っ掛かられては、無用な諍いを産むだけだ」

「アインツ。あんたがそう言うなら、否はねぇよ」


アインツ、と呼ばれた筋肉質な男性が村人の中から進んできて、手に持っていたジョッキから、空のコップに飲み物を注いでくれた。


「ほらよ、一応、歓迎の酒だ。ようこそケシャーの村へ」

「ああ」


コップを受け取り、ぐいと飲み干す。

……アルコールの味がする。酒やんけ、これ。


「ほお、強いな」

「……まあな」


水だと思って呷っただけですけど。

咳き込むのを我慢して、ポーカーフェイスをしただけですけど。


奥の席から、「そんなんだから、やられたんだろう」という囁き声が聞こえた。

明らかに陰口を言うテンションなので気になったが、まあいい。このアインツというまともな男から、情報を聞くことにしよう。


「アインツ、教えてくれ。この地の傭兵団はずいぶん、嫌われているようだな? 俺もさっき、審査か何かとか言って会わされたが、それなりにまともな男に見えたが」

「……団長か?」

「そうだ」

「そりゃあ、余所モンにはとりあえず良い顔しただけかもしれないが。団長はまあ、素行が悪いとは聞かないな」

「その言い方だと、下っ端の素行が悪いのか?」


俺の質問に、アインツは酒を煽りながら、やや肩をすくめた。


「……質問を変えよう。この辺に個人傭兵は珍しいと、さっき傭兵団の連中に言われた。商人の類も寄らないのか?」

「ああ、寄らないねぇ。ここは交通の便が悪くてね。それに、特産と呼べるようなものもあまりない。ダイコンの身は多少高く売れることがあるが、それなら南に行ったテンクって村の方が取れる。低木に成るチンシロの実ってやつもあるが、これは夏の間だけだしな」


食べ物の話題に移ったところで、気配を消していたサーシャが乗り出してきた。


「チンシロの実ですか、たまにパンに入っていますね?」

「うおっ、お嬢ちゃん、喋るのか……」

「そりゃ喋るだろ、ヒトだもの」

「いや、そうだが」


アインツは驚きを見せつつも、俺のツッコミに理解を示し、サーシャに向き合って説明をする。


「北の方じゃ、パンに入れたり米と一緒に炊くことが多いらしいな。こっちじゃ、普通にそれだけで炒めたりして食うもんだよ。栄養もあるし、甘辛く味付けをすると食が進む」

「なるほど、貴重な情報をありがとうございます」


サーシャが一礼し、何やら自分用に持ち歩いているメモに書き付けている。


「……なんだ? あんたら傭兵と言っていたが、食材の商いもしているのか?」

「気にするな、趣味だ」

「趣味? 料理でもするのか」

「そんなところだ」


周辺で採れる食材が、大根に木の実……。この辺りで暮らすのも大変そうだな。


「他に美味い肉の魔物なんかは、いないのか?」

「魔物か? うーむ、たまに現れる暴れ牛ってのはそこそこ美味い。だが力も強いし、馬鹿にできない相手でな。肉を食うなら、普通に動物の鹿なんかを獲る。家畜の豚も育ててるが、ありゃ祭日用で使っちまうからな」

「動物の鹿が出るのか」

「……まあ、普通程度にはな」


魔物ばっかり相手にしているから、意識からこぼれがちだが。

この世界、普通に動物も生き残っているんだよな。

動物相手では魔物もヒートアップしないようだし、むしろヒトや魔物がいるとすぐに逃げるので、生存率が高い。

肉が取れる魔物の出る地域では、ヒトもわざわざ動物を探し出して狩ろうとはしないから、むしろ適応できる一部の動物にとっては生き残りやすい環境なのかもしれない。


「じゃあ酒場にも、肉は出るのか」

「いや、基本は干し肉くらいしか置いてねぇよ。肉が入ったら、すぐに食っちまうからな」

「そうか、それは残念だ」

「ま、あんたらが大物を取ってきてくれりゃ、お裾分けで残しとくくらいは、してくれるんじゃねぇか? あの傭兵団が許せばな」


うん。そうだった。いつの間にかメシの話になってしまったが、傭兵団の話を聞き出さないと。


「あんたは……えーと、アインツといったか。アインツは、傭兵団について何か知っているか? 頭がどういう奴とか」

「……。さあ、な」


アインツは途端に、口を重くしてしまった。

今現在、村を武力で治めている存在だからな。語りにくい話題だったかもしれない。


「すまない、適切な話題じゃなかったな。そうだ、今晩泊まるところを探しているが、どこか知らないか?」

「泊まるところ? そうか……泊まる、ところ、な」


アインツは呟くように復唱し、やがて小さく何かを決意したように頷き、真剣な眼差しを上げた。


「あんたら、今日泊まるところがないなら…… ウチに泊まるか?」

「なっ」


アインツが提案すると、後ろにいた、中年の男が何故か驚いたように振り返る。俺と目が合うと、慌てたようにまた後ろを向いた。うーん。受けるべきか、否か。


まっすぐ目線を向けてくる、アインツの眼と表情を見ながら、ぐるぐると考えた。

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