第143話 おろし

ダイコンの本体は、ごく普通の低木に見えた。

目が付いていたり、根を足代わりにして歩いているようなこともなく。

これです、とサーシャに指示された低木をキスティと二人で切り刻み、アカーネの発火ナイフで分解していたら、ダイコンの襲撃は途絶えた。


1つ1つの威力はそれほどでもなく、仮にアカーネが受けていても一撃でどうにかなることはなかっただろう。だが、念のために飛んで来たダイコンは尽く迎撃して撃ち落とした。

すごいスピードで突っ込んで来るだけに、少し軌道をずらしてやれば見当違いの場所に刺さって無害なダイコンもどきになるため、サーシャが矢で軌道を逸らすという曲芸も披露された。


アカーネが、全部で12〜3くらいのダイコンを抱えて移動している。

どうせ持ち切れなくなりそうなので、昼飯はダイコンを割って中を食べてみることにした。


前情報の通り、皮?は異常に硬く、『剣士』の「強撃」を使ってやっとのことで割ることができた。2つ目からは面倒臭くなって、「狂化」したキスティに「狂犬」で指示を出して割ってもらった。

ハンマーで割るのは流石にダメになりそうだったので、予備の剣を貸してやったわけだが。

皮を割ると、中からトロリとした白い液体が垂れ、中にはごわごわした繊維質のものが残る。


白い液体は甘辛い味で、美味しいとは言い辛いが、調味料として味を整えれば使えそうなものだった。繊維質のものは、何日か放置した大根おろし?な感じ。

大根おろしを放置したことがないから正確なことは分からないが。水分が飛び、甘味が少し増した大根である。

まずくはないが……。

まあ、魔物の肉や、干し肉のがあれば、その添え物として丁度良いかもしれない。


その日の夜までに、もう1度ダイコンの襲撃を受けたが、こちらは3発程度でタマ切れ……ダイコン切れを起こしたらしく、討伐するまでもなかった。一応探して、それらしき低木は燃やしておいたが。


他にも似たような低木が周りに生えているため、自信はない。

サーシャ様の判別眼を信じて従うだけ、である。


1つ、課題も発見された。

本体からダイコンを飛ばすとき、魔力が流れているはずということでアカーネにも索敵してもらったのだが、根が地下にあるからか、流れが微弱すぎるからか、アカーネの魔力感知では索敵できなかったのだ。


地下からの攻撃に対する索敵能力は、何か考えておくべきかもしれない。

正道としては、俺の気配察知やアカーネの魔力感知を地下にも有効になるよう訓練することだな。

土魔法が使える俺の方が、早く使えるはずか。がんばろう。



さて、ダイコン祭りの日の日暮れ後、街道脇の開けた場所でテントを張った。


大所帯の商隊から離れたのだから、必然夜は見張りの時間が長くなる。

久しぶりにじっくりと、ステータスでも見ておこう。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24)魔法使い(21)警戒士(18)

MP 41/55

・補正

攻撃 F

防御 F+

俊敏 F+

持久 E−

魔法 D+

魔防 E+

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

気配察知Ⅱ、気配探知

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


見張り時の定番ジョブ。

魔力も、「魔法」補正も高く魔法型としても優秀なのは相変わらず。

それにしても、「MP」じゃなくて「魔力」と呼ぶことに抵抗がなくなってきた。

周囲の人が「魔力」と呼ぶので、自然にそう呼ぶように染まりつつある。


そして、動きがあったのがこちら。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24)魔法使い(21)隠密(12↑)

MP 34/48

・補正

攻撃 G+

防御 G+

俊敏 F+

持久 E−

魔法 D−

魔防 E+

※注『隠密』のステータス詳細が久しぶりなので、ステータスアップは割愛


・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

気配希薄、隠形魔力(new)

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


地味にじわじわとレベルアップを繰り返してきた「隠密」さん。

レベル12まで至って、新スキルを会得したわけだ。


だが、見るからに謎スキルだ。

隠形魔力。

魔力を隠すのか。まさか『隠密』のスキルで、魔力絡みのスキルを手に入れるとはなあ。


『隠密』のジョブの特徴を考えてみれば、自分の存在を隠すようなスキルか。

「気配希薄」が物理的な気配を消すスキルなら、「隠形魔力」は魔力的な気配?を消すスキルということになりそうか。

そうか、アカーネの持っているような「魔力感知」系をかわすスキルか?

だとしたら使い方は限定的だが……。


『陰形魔力:魔力の存在・動きを感知しづらくする』


なるほど。

まあだいたい予想のとおり。感知をかわすスキルのように読めるが、それだけなのかどうか。

気長に実験しながら確かめていこう。


さて、他に戦闘中使用率が高い組み合わせも見ておく。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24)魔法使い(21)剣士(19↑)

MP 35/49


・補正

攻撃 E

防御 F−

俊敏 E+

持久 F+

魔法 D−

魔防 E+

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

斬撃微強、強撃、脚力強化Ⅰ

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


『剣士』ジョブがもうすぐ20の節目だ。


もう1つ、戦闘中に使っているのがこちら。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24)魔法使い(21)魔剣士(10↑)

MP 33/47

・補正

攻撃 E−(↑)

防御 G+

俊敏 F+(↑)

持久 F(↑)

魔法 D(↑)

魔防 E

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

身体強化魔法、強撃、魔剣術、魔閃

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


『魔剣士』がレベル10に。

残念ながら、新しいスキルは生えていない。


「魔閃」スキルは5レベルで会得したと思うが、なかなか見せ場がない。

どうやら魔力を消費して、攻撃力を上げてくれるようなのだが、なんせ普通に魔剣に魔力を通した方が早いから……。


あとは、『魔剣士』と並んで最近意識的に育てているのが『愚者』か。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(24)魔法使い(21)愚者(9↑)

MP 41/55


・補正

攻撃 F−(↑)(+)

防御 F−(↑)(+)

俊敏 F−(+)

持久 F−(+)

魔法 D−(↑)(+)

魔防 E(↑)(+)

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

貫く魂

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


『愚者』の新スキルはまだだが、わかったことが1つ。

ステータスが完全にバランスタイプである。

『魔法使い』を外して、『干渉者』と『愚者』のみにすると、オールG+になる。


魔力(MP)がちょっと高めだと思うが、本来であれば「貫く魂」しかスキルがないわけで、持て余していたことだろう。その辺りも「愚か」な設定ということだろうか。

俺にとっては、普通にありがたい他にないが。



さて、従者のステータスも、身体に触れて見ておくとしよう。

まずは従者筆頭であるサーシャ。



*******人物データ*******

サーシャ(人間族)

ジョブ 弓使い(19↑)

MP 11/13


・補正

攻撃 G+

防御 G−

俊敏 F

持久 F

魔法 G−

魔防 G−

・スキル

射撃微強、遠目、溜め撃ち

・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************


レベル上がっている。

まあ活躍してるからなあ。



*******人物データ*******

アカーネ(人間族)

ジョブ 魔具士(21↑)

MP 22/22


・補正

攻撃 G−

防御 G−

俊敏 G(↑)

持久 F−(↑)

魔法 F+(↑)

魔防 F(↑)

・スキル

魔力感知、魔導術、術式付与Ⅰ、魔力路形成補助、魔道具使用補助Ⅰ(new)

・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************



アカーネは、19レベルで新スキルを会得していた。

「魔道具使用補助」。

スキル説明の対象にならなくても問題ないくらい、明快なネーミングだ。

戦闘スキルとは言えないが、魔道具の作成ではなく「使用」の方のスキルが生えた。

最近めっきり使わなくなってきた魔銃なんかは、アカーネに渡してみるのも手かもしれない……。



*******人物データ*******

キスティ(人間族)

ジョブ 狂戦士(23↑)

MP 13/13


・補正

攻撃 D+(↑)

防御 N

俊敏 F−(↑)

持久 F−(↑)

魔法 G−

魔防 G−(↑)

・スキル

意思抵抗、筋力強化Ⅱ(↑)、強撃、大型武器重量軽減、身体強化Ⅰ、狂化、狂犬

・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************


キスティさんは新スキル生えず。

と思ったら、今日のレベルアップで「筋力強化」がⅠからⅡになったようだ。

ますます、脳筋街道を邁進されていらっしゃる。出自は一番、お姫様っぽいのにねぇ。



次に仲間を増やすとしたら……盾役か、回復役かな? 魔法使い系に強いという、格闘系のジョブも候補になるかもしれない。

切実なのは回復だが、これはそうそういないようだし、アカーネのポーション技術が向上してゆけば、ある程度カバーできる。

次に欲しいのが盾役だ。

こちらは各地の戦士団を中心としてかなりの数がいるようであるし、巡り合わせによっては狙って仲間にできるかもしれない。

今、現金として所有しているのが……金貨2枚半といったところか。


残りの報酬が貰えたとしても、金貨4〜5枚くらいか?

とすると、戦闘奴隷を買うってのも、可能は可能だが。

ゴリゴリの戦闘ジョブを買うには、心許ない額だ。


ま、またキスティのような掘り出し物が見つかるまで、気長にこのメンバーで旅を続けるか。



***************************



数日をかけて、西に街道を進んだが、1人として誰ともすれ違わない。

ヘビ型の魔物、パイソンっぽい魔物に襲われたが、他は特に事件らしき事件もなく。

周囲には低木が繁り、沼地のようになっている場所もある。それを縫うように、最低限の舗装がなされた道が続いている。


農地や、監視拠点のような人工物を見かけることもなく、寂れた地だということが分かる。

その分、強盗行為をしている脱走兵などにも出会わなそうなことが、唯一の利点だ。

ぽつぽつと木は生えているので、見通しが良いというわけではないのが厄介だ。

ひょいっと魔物が顔を出す危険があるから、いつでも気を抜けない。

常に気配察知に気をつけつつ、地中の探知にも挑戦する。


そうこうしているうち、夕方になって、石と木の骨組みに土を塗ったらしい、明らかに人口の壁に辿り着いた。


「警戒は怠るなよ」


従者たちにもよくよく注意し、入り口と思しき場所に近づく。

念のため、皆兜やフードで顔を隠す。若い女性とバレると、妙なことを考えられるかもしれないからだ。



「止まれ! お前ら何もんだ」


壁の前に居た、傭兵らしき革鎧に止められる。


「この辺に出稼ぎに来た、魔物狩りだが」

「……傭兵か」


革鎧は、兜を着けているので顔が見えない。

が、声からすると男のようだ。


「身分証は何かあるか」

「ないが、傭兵組合のカードや、魔物狩りのカードはあるぞ」

「魔物狩りのカード?」

「テーバの方にある、傭兵組合の代わりみたいなやつだ。知らないか?」

「……一応見せろ」


両方のカードを手渡しし、魔物狩りギルドのカードを触り、裏返しと確かめていた男だが、何も分からなかったのだろう。頭を振りながら2つとも投げ返してきた。


「で、入って良いのか? この辺に拠点らしい拠点がなくてな。できれば羽根を伸ばしたいんだが」

「入場税、一人銅貨30枚だ。払えるか?」

「……。払おう」


高いかどうか、サーシャやキスティに確かめたい気もしたが。

まずは入ることを優先して払うことにした。


「そうか。いいか、妙なマネをしたらすぐに叩き出すぞ。村長の家にいる、マウゼン様ってのがこの地を治めている。まずはそこに連れて行く」

「なんだ、疲れているんだが。宿はないのか?」

「こんな辺鄙な村に、まともな宿はないよ。ところで、お前が背負っているのは何だ?」

「なんだ、と言われてもな。野宿用のテントと、道中で狩った魔物の素材だな」

「そうか。それは置いてけ」

「なんだと?」

「野宿用なら、いらないだろ。ここを出るときに返してやる」

「後ろの仲間が持ってるのは、服とか日用品だ。それは良いんだろうな?」

「あとでチェックするが、本当に日用品なら返せるだろう」

「素材はどういうことだ? 出来れば売って金にしたいんだが」

「悪いが、この辺の魔物の素材は今、上に献上することになってる。該当しないものはあとでテントと一緒に返してやるよ」

「……。買い取ってはくれないのか?」

「マウゼン様に話を通してみてくれ。とにかく、今はそういうルールでな」

「そうか。まあ、仕方ないか」


高そうなものはどうせ、異空間に入れているしな。

テントが帰ってこないのは地味に困るが……。


「じゃあ早速、村長の家に連れて行ってくれ」

「ああ、ちょっと待ちな。今合図するからよ」


男が手に持った小さな銅鑼を鳴らすと、少し遅れて目の前の杭が上に上がって行った。


「気をつけて潜りな」

「ああ」


屈んで入れるくらいの高さに上がった杭のような門を通り、村中に入る。

手荷物をボッシュートされるとは思わなかったが、武器が没収されなかっただけマシか。


男に連れられ、村の中で一段高くなっている丘にあるという、村長の家に向かう。


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