第135話 組頭
手続きを済ませ、門の前に立つ。
櫓から、入ったときと同じ人が声を掛けてくる。
「お出掛けか?」
「きちんと領主館の方で手続きもしたぞ! 出発だ」
「なんだ、魔物狩りじゃなくて行っちまうのかい? 残念だ!」
キスティと訓練するために外に出たとき、ついでに通りかかりの弱い魔物を持ち帰ったことがあった。そのせいか、俺たちが外に出るのは魔物狩りに行っていると思われていたようだ。
まあ、べつに問題でない。
「ああ、世話になったな!」
「あいあい、今開けるから少し待ちなや!」
ぐぐ、と持ち上がっていく入り口の門扉。
屈めば通れるくらいまで上がったら、さっさと潜ってしまう。
馬車が出入りするならともかく、村の者や個人傭兵が出入りするくらいではフルオープンはしないのだそうだ。まあ、毎回巻き上げてくれる門番の人も、重くて大変なのだろう。同情する。
一度振り返って門番に手を振って、すぐ外でしばらく待つ。
ちょっと格好付かないが、合流組と門前で集合という連絡だったので仕方がない。
今のうちにステータスでも見ておくか。
メインで使っている『魔法使い+剣士』がこれ。
*******人物データ*******
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(23)魔法使い(20↑)剣士(18↑)
MP 42/47
・補正
攻撃 E
防御 F-
俊敏 E+
持久 F+(↑)
魔法 D-
魔防 E+(↑)
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加
火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法
斬撃微強、強撃、脚力強化Ⅰ
・補足情報
隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ
隷属獣:ドン
*******************
『魔法使い』は20の大台だ。
経験では、10ごとにレベルは上がりにくくなっていくから、ここからはペースが鈍るだろう。恐らく。
訓練の甲斐もあって、両方がアップしている。
ステータスはEもあればそれなり、という扱いなので、魔法系としては十分だ。
アップしている「持久」は長期戦となると効果を感じる。
そして今、「魔防」を頂きました。こんなん、なんぼあってもいいですからね。
……「魔防」は重要課題の1つである精神系スキル対策として心強い。
「防御」の伸びが鈍いのは、ちょっと不安だが。
しかし「防御」が薄いおかげで、防御魔法やエア・プレッシャー自己使用での回避を必死でやるわけだから、大きな怪我をせずにここまで来れたのは、怪我の功名かもしれない。
下手に防御ジョブだったら、受け止めようとして失敗して骨折、とか普通にありそうだわ。
そして、この村滞在中に、こっそり育て始めたのがこちら。
*******人物データ*******
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(23)魔法使い(20)愚者(3)
MP 25/30
・補正
攻撃 G+(+)
防御 G+(+)
俊敏 F-(+)
持久 F-(+)
魔法 E+(+)
魔防 E(+)
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加
火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法
貫く魂
・補足情報
隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ
隷属獣:ドン
*******************
精神スキルに対して抜群の効果を発揮してくれたこのお方……!
『愚者』さんである。
あの経験をしたら、そりゃ育てたくもなる。特殊なジョブっぽいから面白そうというのは思って
いたが、実用性もあるとなれば……。乗る他あるまい、このビッグウェイブに!
正直、あの日『愚者』さんの何がどう作用したのか、分からない点が多い。というか、分からないことしか、ない。
憶測で言うなら、「貫く魂」が発動し、「魔防」のステータスが効果を発揮したとか。あるいはスキル以前、ジョブの特性として「精神スキルに対抗できる」みたいなものがあるのか。
ジョブ特性というのは、たとえばテエワラの『付与術士』が攻撃魔法の威力が著しく落ちるように、スキルの効果ではなくジョブを選択した時点で発生する効果のことである。
『ジョブ追加』による複数ジョブの場合の効果については、まだ情報が十分でない。
そして、『付与術士』の場合はマイナスの効果だが、プラスの効果もある。
たとえば『魔法剣士』は剣を介した魔力放出に多大なボーナスがあるっぽいが、これなんかはそうだろうな。
そんなプラスのジョブ特性として「精神スキルに対抗できる」があったとしても、おかしくはない、多分。イマイチ『愚者』に対して精神攻撃が効かないという関係性が謎だけれど。
上がったのはレベル2だけなので、まだ新しいスキルは会得できていない。
そういえば、『魔法使い』はレベル20になったのに、新スキルはなしか。
まあ、『魔法使い』は5の倍数など節目のときじゃないレベルで、スキルを会得していたりするから、その反動かもしれない。
そのぶん、21とか22で会得することも期待できるというわけだ。
じっくりやっていこう。
従者組で村滞在中にレベルが上がったのは、キスティだ。
*******人物データ*******
キスティ(人間族)
ジョブ 狂戦士(21↑)
MP 13/13
・補正
攻撃 D
防御 N
俊敏 G+
持久 G+
魔法 G-
魔防 N
・スキル
意思抵抗、筋力強化Ⅰ、強撃、大型武器重量軽減、身体強化Ⅰ、狂化、狂犬
・補足情報
ヨーヨーに隷属
*******************
ステータスに変動なし。
いや、魔力(MP)が1上がったかな。そのくらい。
レベルが上がっているということは、訓練に付き合ってもらっているキスティも、それなりに訓練になっている、のだと思いたい。
武術稽古で勝てないときは、スキル解禁して叩きのめしてストレス解消とかしているからな。キスティにとっても、ややトリッキーな相手との練習になっているのかもしれない。
……これが、エア・プレッシャー自己使用による急制動に慣れてきて対応され始めたら、もう泣くしかない。まだまだ、対応できていないようではあるが。
「狂犬」のスキルの使い道は未だに謎だ。
訓練中に意識して貰っても、あまり変化がない。
てっきり「狂化」の亜種かと思ったのだが、そういうわけでもないらしい。
「狂化」はある程度意識して発動できるようだからである。
そうなると、パッシブスキルか……。
ありそうなのは、「狂化」時のステータスを更に強くするといった効果。
基本的に「攻撃」のステータスが上がるイメージの狂化だが、「俊敏」あたりも引き上げてくれるとか、ありそうじゃないか? ただ、訓練中に狂化されても、相手となる俺が怪我をしそうなのでまだ実験はできていない。
そもそもハッピー状態になるらしい狂化状態で、ステータスの検証ができるのかも微妙なところだ。
一方で「防御」がなし(N)のまま微動だにしない件については、自分の中でちょっと解答が見えてきた。
今、キスティは安物とはいえ金属鎧を身に着けて貰っている。言うまでもなく、革鎧ベースの他3人とは重量の差が大きい。しかし、キスティは苦もなく戦闘で動けている。これも筋力が増加する「攻撃」ステータスのおかげだろう。
……つまり、補正がない分、重装備でカバーする。シンプルな方法だ。
ロングソードも軽々と扱っているが、こちらは更に「大型武器重量軽減」があるから、本当に軽そうに振っている。
スキルを活かすためにも、武器はもっとゴツい大剣を用意してやりたいと思っている。
「主、あれではないか? 見た顔だと思うが」
キスティに思考を起こされ、辺りを見渡すと南西からフード姿の一行が見えてきた。
「あれっぽいな。さて、合流しよう」
荷物を担ぎ、一行に近づいていく。
「おい、止まれ。お前はヨーヨー……だな」
「ん? 確かにヨーヨーだが」
誰何の掛け声が尻すぼみになったのが気になるが、目的の一行で間違いなさそうだ。
「あー、いや。問題ない。……お前、村の中でそのマスクを被っていたのか?」
「いや? 今回は情報収集もあったからなぁ。マスクを被っていると喋りにくいだろう」
「そういう問題……いや、なんでもない。無事合流できたことだし、先を急ごう」
「今更だが、この村で休憩して行かなくていいのか?」
「ジシィラ様達は西の方に既に進んでいるんだ。少しでも急がないと、追い付けんぞ」
「ああ、そうか。では急いで発とう」
ここで置いてけぼりにされても困る。
いやそれはそれで、俺は勝手に行動するが。まだ護衛代の大半を頂いていないのだ。
離れません、貰うまでは。
「そういえば、死蜘蛛について追加の情報は何かあったのか?」
連れ立って歩き始めると、1回目に接触してきた平凡な顔の連絡員がそう尋ねて来た。
「いや、これといっては。どうやら3匹ほど出たらしいが……それくらいは、情報を得ているだろう?」
「そうだな。うまい事ここの戦士団が倒してくれていることを祈ろう」
「……だな。今、ここで襲われたらどうするんだ? 何か決まっているのか」
そういえば、この一行のリーダーって誰になるんだろう。
誰に従えばいいのか分からないと、微妙に動きづらいぞ。
「いや、特に決まっていない。組頭が判断して、まあ逃げることになるだろう」
「組頭? は誰なんだ?」
「あー、前を歩いている……おーい、組頭。ヨーヨーに挨拶してくれ」
呼び掛けられて足を止め、振り返ったのは一番色の濃いフードを被った人物。
こいつがリーダーか。
「……ハンクだ。一応今回の組頭になる。火急の事態でなければ特に指示を出すつもりはない」
「ああ、よろしく」
ハンクは口数が少ないタイプのようだ。
テーバ地方で、戦士団の弓使いセンカの下についたときを思い出すな。
「ところでハンク、俺たちはどういうルートを通るんだ?」
「……聞いていないのか? 西に真っ直ぐ進む。可能ならファスラという街で合流する予定だ。それまでに追い付けば、尚良しだ」
ファスラか。
……ファスラかよ。パシ族の傭兵団が、死蜘蛛退治の拠点にすると言ってたところじゃないか。
なんと間の悪い。
いや、違うか。
傭兵団が集まっているようなところだから、商売しにいくのか。
小金を持ち、暇を持て余している傭兵たちなら、財布のひもはさぞかし緩まっている事だろうし。
ハンクは話が終わったと見るとまた最前列に戻り、黙々と歩み始めた。
その後ろ、背後からの攻撃に備える形で一応の陣形を作りながらそれを追う。
その日は旅人と1度すれ違ったのみで、特に事件もなく日が暮れる。
明るい内に拾い始めた枯れ木に、火魔法を放る。
別に魔法使いがいなくても、火打石くらい持っているようだが、火魔法が使えるなら使うという。
火付けが楽だからよく頼まれるのかと思ったが、少し違った。
最初に連絡を取りに来たフードの男、サミカルというらしいが、サミカルによれば「火魔法を使えば、火事の心配がない」ことが大きいらしい。
心配がないわけではなく、危険が低いだけだとアカーネが小声で異議を唱えていた。
「それにしても、サミカル。あんたらは1人で行動していたのか? 移動中とか、魔物に会ったら大変じゃないか」
「まあ、そうだな。俺なんかは、隠密能力がウリでな。逃げに徹すれば、そうそうやられない自信はある。厳しいときは、タッグを組んで行動したりはするがな」
「ほう」
「とはいえ、野宿は相当に危険だ。事前の計画はしっかり立てないとな。チームで動けるときは、こうやって良い所で野宿に入れて楽だな」
「ほー……ちなみに、斥候系のジョブの育て方って、コツとかあるか?」
「ん? ヨーヨーのチームに斥候はいたか? あの弓の嬢ちゃんは、『斥候』関係か」
「まあ、そんなところだ。しかし、俺はとにかく実戦でレベルを上げるスタイルだからな。仲間の育成はちょっと手こずっている」
「ふむ。ま、俺のジョブを斥候系に入れて良いか、微妙なところだな。……そうだな、探知系を強化したいなら、スキルに頼らず、そっちの知識と実践を積み重ねていくことだな」
「探知系か。じゃあ、隠密系は?」
「気配絶ちか。単独行動させたいなら、そっちが無難かもな。そうだな、こればかりは実践といっても、失敗したら命を落とすからなあ。例えば、街中でかくれんぼでもしてみたらどうだ? 案外上がるぜ」
「うむ。それは、もう、やったな」
「やったのか」
サミカルはフードの奥でくくく、と笑い声を漏らす。
「馬鹿にするな、と言われるかと思ったが。思ったより切羽詰まっているようだな。許せよ」
「冗談だったのか?」
「いや……冗談ではない。真剣だ。真面目に付き合ってくれる仲間がいるなら、街中でのかくれんぼは十分に有効なトレーニングさ。俺に言えることは多くないが、探知系のスキル持ちと一緒にトレーニングさせると、いいぞ」
探知系か。サーシャの「遠目」、アカーネの「魔力探知」、ドンさんの「危険察知」と色々揃っている。もう一度、街中かくれんぼを開催してみるか。
「ありがとう」
「いや、いい。やるなら真剣にやった方が良いぞ、見つかったら拷問されると思え」
「なるほど。前回は真剣味が足りなかったか」
見付からないようにしよう、じゃなくて。
見付かったらサーシャが寝取られるくらいの気持ちで実行してみるか。
……おのれ。
サーシャにもふもふとされやがって、許さんぞ『暴れ鳥』め。
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