第127話 受信

「あ奴らは、西の出ではなかったのか?」


紅い目をいっそう不機嫌そうに細めて、ジシィラが干し肉を噛んだ。


「さて。あるいは、組合の者も謀られておったのでしょうな」


専属護衛の1人で、黒い肌に稲妻のような模様を入れた男が応対している。

ジンたちの討伐の後、ジシィラ隊は荷物をまとめすぐに出発した。夜半の進行となるが、その場にいてジンたちの仲間がいたら困るという判断だ。

幸いにも、月が出ていて道に迷うほどではなかったし、深夜を過ぎての騒動だったため、やがて朝陽に照らされ闇夜に紛れて攻撃される心配は薄れた。


何とか宿場町までたどり着いたころには、陽もすっかり登り寒さも幾分か和らいでいた。

そこで1日休みを取ることになったのだが、ジシィラと侍従、専属護衛たちが居並ぶ会議に俺もお呼ばれした。最初に事情を話すように言われたが、俺にもワケが分からないうちに巻き込まれた形だ。あまり新鮮な情報もなく、ただ確認の作業みたいになってしまった。

その後、ジシィラがイラついた様子を見せながらジン達を雇い入れた経緯を振り返っているというわけだ。


「……ふん、この貸しはデカいぞ。組合の馬鹿共め」

「坊。幸いにも荷に被害は出なかったんだ。そう気を立てるな」


偉そうなジシィラに対し、唯一対等な口を利いているのが侍従長、らしい顔が横長の男だ。

舌長族とかいう種族だと他の傭兵に教えて貰ってことがある。なるほど、よくよく見れば顔がカエルっぽいかもしれない。ただ、人間族と似た要素が強くはっきりと別種族という見た目でもない。

ちなみにジシィラが腹を立てている「組合」は、傭兵組合のことのようだ。

西の傭兵組合から紹介とお墨付きを得てジン達の傭兵団『守りの手』を雇用したのだという。


「考えてみれば、彼奴らの狙いはテーバ地方、というわけのかもしれませぬな」


そう若ハゲの男、ユシが呟くように言った。


「テーバか。それが狙いであれば、何故ここまで付いてきた?」

「……テーバが不発だったゆえ、切り替えたやも」

「不発だと? テーバでは地元の傭兵団に謎の武装勢力にと、盛り沢山だったではないか」

「しかし、すぐに鎮圧されました。『テーバの影』が動いたにしてはお粗末すぎます」

「……あちらにも、何か不測の事態があったということか」


ジシィラ達が色々と推測を立てているが、そこは割とどうでも良い。

まあジン達は最初から怪しい組織に所属していて、やらかしたという事だけは分かった。


「ヨーヨー、そういえばお前にも何やら褒美をやらねば」


聞き流していたら、ジシィラがこちらに目線をやってそんな事を言ってきた。


「有難く」


時代劇の武将よろしく、足を組んだままお辞儀をする。


「……貴様には褒美をやる事が多いな。こんな時ばかりお行儀が良い」

「は、まぁ……ははは」


ジシィラの紅い目に睨まれながら苦笑する。


「ところで、こ奴は影ではないのだろうな?」


ジシィラが周りに問う。思わずヨル殿の顔を見ると、少し目が合って頷かれた。

頼むぞ。


「さて、分かりませんな。極めて怪しいですが」

「おおい!」

「……人間、お前があの裏切り者どもの思惑を阻止したからといって、お前が賊ではないと決まったわけではない。別系統の組織かもしれんしな?」

「いや、そうか……まあ。しかし、それは悪魔の証明というものでは」

「悪魔の証明?」

「そうではない、という証明というのは不可能に近く、それを求めるのは不合理だというたとえです」

「ああ、メルツの毒薬か」


メルツの毒薬?

聞いたことがないが、似たようなことわざがこの世界にもあったか。


「ジシィラ様、組合が判断を誤るのであれば、新興のギルドの推薦に絶対を求めるのも無理というもの。これを機に、専属の数を増やしては」


ジシィラの脇に控えるユシが頭を下げつつ発言する。


「うむ……。確かに、今後もこのような街道を使うのであれば、戦力の強化は急務だな。あまり大所帯で身重になるのは好きではないのだが」

「今回の交易で首尾よく参りましたら、それを元手に戦争奴隷から戦力を求めるのも手かと」

「そうだな」


ジシィラ達は、戦争奴隷から戦力強化するらしい。

まあ、戦争奴隷なら裏切られる可能性も低いし、丁度いいのかもしれない。

そんなことより、褒美の話に戻ってほしい。


「……ヨーヨー、此度はお手柄だったな。おい」

「はっ」


ジシィラの後ろに控えた従者が布袋を渡し、ジシィラがそれをこちらに向ける。

頭を低くしたまま進み出て、それを押し頂く。


「銀貨15枚だ。少ないかもしれないが」

「いえ」

「それに加えて、護衛終了までに何か1つ褒美をやろう。現金以外でな。今は持ち合わせが少ない。それで許せよ」

「はっ」


銀貨15枚に加え、1つ何か褒美が貰えるらしい。

現金以外と言われると難しいな……。

商品を貰うってのは、流石に難しそうだよな。


うーん。


「何、まだ先はある。ゆっくり考えれば良かろう」

「……そう、ですね」


金目のもの以外と言うと、何だろう。

休憩を多くしてもらう?

やり手っぽい専属護衛に稽古を付けてもらう?

いや……それこそ、情報を貰うってのもアリか?


何か考えておこう。

褒美を貰った途端、上の空で考えはじめるヨーヨーであった。

その様子を呆れた様子で専属護衛たちに見られていたが、まったく気付いていなかった。



***************************



割り当てられたテントに戻る。

宿場町なのだが、規模が小さいこともあり、旅人には普通にテントスペースを貸してくれるだけという対応だった。もちろん、ジシィラ本人は数少ない宿に移ったわけだが。


「あ、おかえりなさい!」


アカーネが何かをいじっていた手を止め、こちらを見て笑顔になる。


「主、何か情報は?」


キスティが入り口を護るように、入ってすぐの場所に立っていた。びっくりするわ。


「キスティ、気を張り過ぎじゃないか」

「サーシャ殿たちのことは私が護るので!」

「うーん」


一度叱ったことが効きすぎたか?

あるいは、護衛隊長的なポジションを狙っているのかも。今回のことでは、ドンさんも働かなかったから危機感があるのかもしれない。

夜行性のはずのドンさんが寝ていたのは、おそらく眠りを促すスキルを使われたっぽいし、仕方ないのだが。というのも、割り振られた時間通りであれば起きていたはずの護衛が、騒ぎが広がるまで起きなかったケースが、ちらほらとあったらしい。

気を張りすぎるのも考え物だが、魔物のせいでどうしても娯楽が制限されるから、戦いにハマる気持ちも分からないでもない。


「アカーネは何作ってるんだ、今度は」


心の和むような笑顔をこちらに向けた後、すぐに目線を手許に戻して作業を続けている。


「んー? 今はね、1から魔道具作ってみてる……」

「改造魔石じゃないのか?」

「改造魔石も、色々改良したいけど。あれは魔石ありきだから」

「魔石なしで、魔道具作るってことか」

「魔石なしというか、魔石メインじゃない魔道具かな~。ご主人さまの剣とか、このマジックシールドの腕輪とかも、そうでしょ?」


ああ。

そういういかにもな魔道具は、自分達で使うだけでなく、高く売れそうだしな…。

ぶっちゃけ、この娘を最後に自分から値上げしてまで即決で買ったのは、そこの判断も大きい。

俺はほぼ勘のようなものだったが、そこはサーシャも「商人がアカーネの素質に気付いていれば、倍の値段であっても売らなかったかもしれませんね」と同意してくれた。


そこまで奴隷市場に詳しいわけではないが、何故そう思うか。ここまでの旅で俺も、サーシャも痛感していたわけである。

魔道具のクソ高さを。


初期投資としても銀貨単位で金が出ていく上に、使っていれば定期的に魔石やメンテナンスで銀貨が飛んでいく。

他の人が、魔物に対する大きなアドバンテージである魔道具をもうちょっと使えば良いのにと思う一方、そこまで広まらない理由も良く分かる。とにかく金喰い虫なのだ。それでも魔道具屋が各地にあることからすると、大きなコストを払ってでも使いたいという需要も高いわけであるが。俺もまさにその1人で、魔道具の便利さを体験するとなかなか手放せない。

マジックシールドの魔道具があるおかげで、サーシャが怪我をせずに済んだシーンも多いようだし。


とにかく、アカーネが安定して魔道具を造り出せるようになれば、俺たちの魔物狩りなどよりよっぽど収入の柱になるかもしれない。

そこまで行かなくても現状、アカーネが魔道具のメンテナンスを一部やってくれることで、日々の出費が大きく減っている。アカーネは金貨1枚と銀貨20枚だったから、これだけでも長期的に見れば投資をペイできているな。


アカーネの才能は、俺が期待した以上のようで、連れて行く魔道具屋の先々で気に入られ、色々資料とか貰っている。魔道具のことになると途端に元気っ娘全開になるから、ついつい何か上げたくなってしまうのだろうか。


「魔石なんだが、今後は狩りで得たものの3分の1くらいは、アカーネの魔道具練習用にしたいと思っている」

「3分の1……そんなにいいの?」

「出来れば、全てやって、とっとと腕前を上げて貰いたいところだがな。魔石は手堅い稼ぎになるし、とりあえずはそんなもんだ」


護衛任務中はどうしても、魔石は護衛主にいくためなかなか貯まらないが。

護衛任務が終わったら、国境地帯でしばらく魔物狩りをする予定ではあるし。


「あ。そういえば、一応なんだけどさ」


アカーネがごそごそと自分のリュックサックから掌サイズの何かを取り出す。


「これは?」

「ちょっと前に、オリス商会って人から貰ったやつ。これ」

「ああ」


あの逆ハー軍団か。

すっかり忘れていたが、何故かガラクタを俺にくれたのだった。魔道具の一種らしいから、アカーネに預けたまま忘れ去っていた。


「……何なのか、分かったのか?」

「ううん」

「じゃあ、なんだ?」

「う~ん、ズバリ正体は分からないんだけど、機能はなんとな~く分かったことがあってさ」

「機能?」

「うん。発信機能、決まった型の微細な魔力を飛ばす機能は少なくともあるね」

「発信機能か。ほう」


ガラクタと言っていたが、なかなか面白そうな代物じゃないか?


「それは、魔力鍵じゃないのか?」


入り口をふさぎつつこちらの話を聞いていたらしいキスティが、アカーネの取り出したものを凝視しつつ話に入ってきた。


「魔力鍵だと?」

「ああ。貴族の当主などは、特注の魔導金庫を作って、貴重品を入れたりするらしい。所有者の魔力でしか開かなくなるものや、対応する魔力鍵を近付けることで解錠できるものなどがある」

「それで、これがその“魔力鍵”に当たると?」

「ああ、昔本家で見たものに似ているといえば、似ている。それに、微細な魔力を飛ばすとなると、考えられるのは通信か、魔力鍵くらいしかないのではないかと思うが」


そこで、アカーネがガラクタをいじりつつ補足してくる。


「いや、キスティのお姉ちゃん、微細な魔力を飛ばすのはそれ以外にも色々とあるよ? でも、結論として魔力鍵なんじゃないのっていうのは賛成かも」

「詳しく聞かせてくれ」

「うん。これ、魔力を流すと一定の魔力波みたいになって、飛んでいくみたいなんだけど…それに連動する機能がなさそうだから、この魔力波を識別して動く別の魔道具があるはずってのは思うんだよね。一番ありがちなのは、やっぱり魔力鍵だよ、確かに」

「へぇ、どっかのカギか。面白いな」

「でも、確かにそうだとすると、やっぱり“ガラクタ”の可能性が高いよ?」

「え、なんでだ?」


どこかのカギだったら、ガラクタじゃないだろう。

RPGなんかで「どこかのカギ」みたいなアイテムが落ちていたら、絶対重要アイテムだろうが。

それを捨てるなんてとんでもない!


「いやいや、真面目に考えてよご主人さま。例えばだけどさ、街中に、普通の金属のカギが落ちてたらどう思う?」

「ええ? 誰か落としたのかなーとか」

「うん、まあ。じゃあ、よっしゃどこかの家のどこかの金庫のカギを手に入れたからお宝ゲットしたよ! って思う?」

「……、……。思わないかも」

「はい、ナゼでしょー?」

「……そもそもどこのカギか探すの大変だし、探し当てたところでそのカギを使って中のもの取ったら、普通に窃盗だよね」

「ね~っ。そういうこと」


うう、確かに。

ご主人様の単細胞ぶりに呆れられてしまった気がするが、砕けた口調で諭してくるアカーネもちょっとかわいい。


「ましてやこれ、どこかで発見されたって言ってたし…そもそもどこの街のカギなのかも分からないもんな」


まず、このカギで開けられる鍵穴を探すのは困難てかムリゲー。

ガラクタだわ。

捨てよ捨てよ。


「で、言いたいのはその先だよ」

「そう言えば、何か話がある感じだったな。どうした?」

「むっ、話の腰を折ってしまったな。すまない、続けてくれ」


話に割って入ってしまったキスティもすまなそうに所定の位置に戻る。

いや、そんなに入り口を護らなくても良いのだけど。


「どうやらこれ、受信の機能もあるみたいでさー。今日、ちょっと光ったんだよね」

「受信? カギじゃなくて、通信機だったとか」

「その可能性もあるよ。あるいは、魔力鍵なんだけど、本体からの通信を受けるようになっているか」

「魔力鍵に受信機能を付けることがあるのか?」

「うん。カギだからさ、やっぱあると便利だよね?」

「そうか?」


……カギに受信機能? ……ああ。もしかして、


「失くしたときに場所が分かる?」

「正解~っ」


アカーネがパチパチと拍手してくれるので、ほっぺをもちもちして対抗する。


「むぅー、何すんのさ」

「いや、ちょっとアカーネが可愛くてな」

「かわっ…知らないっ」


アカーネが顔を赤くしてガラクタを仕舞ってしまう。


「しかし、今まで何かを受信することはなかったわけか?」

「うん、ボクの知る限りではね」

「つまり…」

「うん。多分だけど、これの本体とか、通信相手とかが近付いたのかもしれないよ!」

「これまで反応しなかったけど、南の方に来ると反応した…。単純に考えて、南の方にあるのか」

「まあ、単に、たまたま1回だけ反応しただけかもしれないけどね。あるいは、ホンモノと似たような魔力に反応しちゃっただけの可能性も捨て切れないし~」

「分からず終いか」


でもちょっと面白いから、捨てるのは止めておこう。

せっかくハーレムの先輩に貰った友好記念品?だしな。

…南の方の偉い人の金庫のカギで、盗品だったみたいなオチではないだろうな。



しばらくぶりにゆっくり出来るので、サーシャとも情報を共有する。

何か言う事はないかと振って見ると、少し迷った素振りをしつつ話し出した。



「懸念があるのですが…正直、失礼な物言いかもしれませんが」

「構わない、言ってみてくれ」


この好色社会不適合者が! とか言われたら怒るかもしれないが。

でも否定できないからな。


「テーバ地方ですが、噂に違わず凄い場所だったと思いました」

「うん? テーバか。まあ、確かに」


熊狩りしていた頃はちょっと苦しかったが、後半、最後の方は普通に大物を狩る度に金貨仕事だったし、正直ウハウハだった。


「狩りに成功しますと大きな儲けを上げられましたし、不本意とはいえ参加したギルドの任務では、正直あそこまで報酬を弾むとは私は考えておりませんでした」

「それは、そうだな」


ぶっちゃけ「王家の力になれた事が報酬だ!」とか言い出しかねないと危惧していたが。

終わってみれば、ちょっとビックリするぐらい気前が良かった。


「後から考えてみると、王家にも意味のあることだったのでしょう」

「意味?」

「ええ。ご主人様は手柄を立てなければならない立場で、積極的に戦いましたが、そうでなければどうしましたか?」

「うーん、死なない程度に、でも怒られない程度にユルく立ち回るかな…」

「そうです。他の魔物狩りの多くも、そうだったでしょう。相手は大きな傭兵団で、あそこに集められていたのは小規模なパーティや傭兵団のみ。尻込みする人も多かったでしょう」

「そうだな?」

「そんななか、ご主人様たちは積極的に敵を探し、結果的に敵の首魁を発見しました」

「団長は取り逃がしたが」

「ですが、結果的に同行していた三番隊隊長を敵の主力から分離させ、撃破しました。あの狙われていた貴族様の護衛は絶対に果たすべき任務でしたでしょうから、あの集団から敵の主力級を離脱させた功績は正に、値千金だったでしょう」

「まあそう言われると、そうだな」

「手柄を立てた者は極めて優遇し、そうでない者、依頼を受けていなかった者にすら報酬をバラまいていました。その結果、もし“次”の強制任務があれば、多くの小規模傭兵は喜んで参加するでしょう」

「……確かに。むしろ呼ばれたことを喜ぶかもな」


今回ですら、呼ばれてもいないのに参加しようとしたくっつき虫が大量発生していたわけだから。


「話が脱線しました。私が言いたいのは、その……テーバではお金を多く稼げましたので」

「まあ、確かに今回の護衛で、敵の団長であるジンを討ち取っても銀貨15枚だもんな。いかにテーバでの収入が凄かったか、分かるってものだ」

「そうですね。私が心配しているのは……一度収入が多くなってしまうと、支出を絞るのはとても大変なことなのです」


サーシャが何を心配しているのか、分かってきたぞ。

まあ、地球世界でもよくある話だが、臨時収入があって生活レベルを上げてしまうと、いざ収入が元に戻っても、生活レベルを戻せないっていうハナシ。

人間は贅沢を覚えるとどこまでも堕落する生き物なのだ。


「サーシャが危惧していることはよくわかった」

「差し出がましい事を申しました」

「いや、言ってくれてありがとう。確かに収入が多くなったことで、金銭感覚が麻痺していた部分もあったしな」

「はい」

「ただまあ、しばらくは支出は多くなるだろうな。キスティが入ったからしばらくメンバーは拡充しなくても良いが、それを抜いても武具・防具が揃ったとはとても言えないし」

「……はい」

「武器の方はかなり揃ってきたけどな、やっぱり防具はまだまだ改良の余地がある。どこかに拠点でも持てば話は別だが、移動しながら戦い続けている現状、手許に金貨を腐らせるよりも、命に関わる武具や、将来の投資としてアカーネの道具買ったりするほうがどうしても、な」

「それは理解しております」

「ああ。だがまあ、収入が減ったらその分買うものも絞るつもりだ。前に決めたように、金貨1枚くらいは常に余裕は持っておきたいし。まあ、最悪、俺って怪我をしても最低限稼げるような気はしているのだが」

「魔法、ですか?」

「そうそう。寝たきりだと流石に厳しいとしても、毎日銀貨1枚程度の稼ぎなら、どっかで魔法役やっていれば稼げる仕事ってありそうだよな」

「魔法使いは、確かにそうかもしれません。後は私たちも街中での日雇い仕事をすれば、暮らせないわけではないと思いますが……誰かが病気になって薬代がかかるといった不意の要素もありますから。蓄えはある程度必要です」

「まあ、そうだな」


本当は、魔物狩りするにしても、どこか1か所に固まって特定の魔物を狩った方が安定はするんだよな。

テーバ地方でも、すぐに移動してしまうせいで毎回の情報代がバカにならなかった。

あのギルドの情報って、普通は個人傭兵が「買う」ものじゃなくて、自分の狩場の情報を「売る」ことで小銭稼ぎする人が多いらしいしな。ウサウサしていたイリテナもそんなことを言っていた。

「狩場」を決めて、一定期間ごとにその様子を報告するだけでも、月会費が無料になるとかいう裏ワザもあるとか。これはラムザ情報だが。

しがない個人傭兵のなかには、獲物じゃなく情報を集めてギルドに献上することで生計を立てている斥候職も少なくないのだとか。たしかに、傭兵に索敵させて、戦士団が討伐という方が魔物退治には効率的なのかもしれない。


俺も、最初の草原で熊や赤牛でも狩りながら過ごしていた方が、ずっと安全で手堅かっただろう。ただ、なあ。


どうせなら、色んな所に行って、見た事もないような景色を見てみたい。

その想いが日に日に強くなっている。

俺ってこんな、冒険者気質だったっけ? 元引きこもりなのに。


「世話をかけるな、サーシャ」

「いえ。ご主人様は娯楽にはお金を用いませんし、無駄な散財ではないことは理解しているつもりです。あくまで1つの意見です」

「ああ。ありがとう」


サーシャの頭をわしわしと撫でておく。

曲りなりにも奴隷という立場で主人に苦言を呈することは勇気がいることだろう。サーシャってば、本当に出来たヒトだよな。



続けてキスティにも話を振ってみる。

こいつに話しかけると、「じゃあ稽古しよう、主!」とか言い出しそうで面倒なのだが、今日は幸いにも、護衛モードなのかそのような気分ではないらしい。いつもこうだといいのだけど。


「ふむ。主は、良く物を知っているのか知らんのか。良く分からないな」

「まあ、もともと遠くから来たしな。特に戦士階級とか、貴族とかの常識はないぞ」

「そうか。私に教えられることであれば、何でも答えるぞ?」

「そうだな……」


さて、何か訊こうかな?

キスティってば、抜けているようで、戦士階級としての教養は流石に高いようだからな。サーシャとは違うところで頼りになるのだよな。




***************************


と、いうことで(?)

次話がキスティへの質問タイムになります。

感想等で質問を寄せて頂いた場合、キスティが答えるかもしれません。

ただし話の展開上答えられないものもありますし、「あくまでキスティの主観で」答えるので、その点はご了承ください。

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