第123話 ヒマ

朝、テントの中で早くに眼が覚めてしまった。

護衛仲間と飲み会などと、慣れないことをしたせいかもしれない。

早朝から護衛を交代することになっていたはずだが、それにしても早い。

テントの端を持ち上げて外を覗くと、黒く広がる闇に、遠くの山の奥からうっすらと青さが入り始め、中和している。


「ふぅ、ステータスでもチェックするか」


入り口にもたれながら、ステータスオープン。



*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(23↑)魔法使い(18↑)警戒士(15↑)

MP 50/50

・補正

攻撃 F-

防御 F

俊敏 F+(↑)

持久 F+

魔法 D(↑)

魔防 E

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

気配察知Ⅱ(↑)、気配探知

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


ふむ。

昨日の一戦でそれなりに経験値が入ったか。

あるいは時期的な問題か。


『魔法使い』がレベル20に近付いている。

そして地味に『警戒士』がもうレベル15か。

スキル「気配察知」がⅠからⅡに進歩している。

こういった、段階ありのスキルは1つ段階が上がったとき、機能そのものが追加されているようなケースと、効果がなんとなく上がる程度に留まるものがあるようだ。

「気配察知」はどっちだろうな…どちらもありそうなスキルなんだよな。実験してみる必要がある。


「気配察知」は普段何をするにも、使う場面が多いからか、なんとも成長が早い。

そしてMPも、「魔法」補正でも、『魔法使い』+『魔銃士』に並んだか。

あちらもDだったはずだ。

いや、MPが50に届いたのは初めてだから、魔力量ではこちらの方が上である。

最早、戦闘時でも魔銃を使わないのであれば、このままで良いってことだな。


あと、『警戒士』って何気に、俺の使っているジョブのなかでは「防御」が最も高いっぽいんだよな…。というか、「防御」がはっきりと高いジョブを使っていないという。

…キスティの事をあんまり言えないなァ。


ちなみに、『魔銃士』を付けるとこうだ。


*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(23↑)魔法使い(18↑)魔銃士(13↑)

MP 49/49

・補正

攻撃 F-

防御 F-(↑)

俊敏 F+

持久 F(↑)

魔法 D

魔防 E

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

魔撃微強、魔銃操作補正Ⅰ

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


スキルを除けば、完全に『魔法使い』+『警戒士』の下位互換になってしまった。

とはいえ、『魔銃士』を付けると魔銃の扱いやすさ、消費魔力が眼に見えて違うから、コツコツと育てていきたいところ。

前は「魔獣操作補正」のスキルのおかげかと思っていたが、もしかしたら魔銃を扱いやすくなるというジョブ特典がある可能性もあると思ってきている。


*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(23↑)魔法使い(18↑)剣士(15↑)

MP 44/44

・補正

攻撃 E-

防御 F-

俊敏 E+(↑)

持久 F

魔法 D-(↑)

魔防 E-

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

斬撃微強、強撃、脚力強化Ⅰ(new)

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


そしてこちらが、戦闘時に多用する鉄板の組み合わせ。

『剣士』も1つレベルが上がり、新スキルが生えた。


『脚力強化:脚部に関する瞬発力・持続力を自動で補助する』


だそうだ。

瞬発的な出力だけではなく、持久力にも作用するということが分かったのは地味に大きい。

経験的に、自動で発動するスキルは効果が控え目なことが多いので劇的な効果はないだろうが。


*******人物データ*******

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(23↑)魔法使い(18↑)魔剣士(2↑)

MP 39/39

・補正

攻撃 F-(↑)

防御 G

俊敏 G+

持久 G+

魔法 E+

魔防 E-

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法

身体強化魔法、強撃、魔剣術

・補足情報

隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ

隷属獣:ドン

*******************


ちなみに、この前獲得したばかりの『魔剣士』だと、こう。

まだ殆ど鍛える機会がないが、確かに剣を通した魔法の放出がかなりやりやすい印象。

周囲からは『魔剣士』だと思われているだろうし、道中の魔物退治なんかで積極的に使ってレベルアップしていきたい。


育てたいジョブも増えてきた。

しかも今回、『結界士』とかいうジョブが生えていた。

これは防御魔法を多用していた影響だろうか。


ぜいたくな悩みであるが、もう一回考え直して、ジョブの育成計画を立てる必要が出てきた。


今は状況によって使い分けている状況だ。


・警戒中

『魔法使い』『警戒士』『隠密』


・戦闘中(遠距離)

『魔法使い』『魔銃士』


・戦闘中(近距離)

『魔法使い』『剣士』


ここに、『魔剣士』を入れることになる。

『魔法使い』の代わりに入れてもいいのだが、『魔法使い』の汎用魔法スキルは便利なんだよな…。

『魔剣士』+『剣士』のような組み合わせだと、剣から放出する系以外の魔法が極端に使いにくくなる。

攻撃のみならず、防御や補助として使い倒している『魔法使い』は外せないということになる。


『魔剣士』は遠・近距離両方で使えそうだし、スキル的には『剣士』と被っている。

『魔銃士』と『剣士』を控えめにして、『魔剣士』を育てていくか…。

『愚者』や『遊び人』、それに今回手に入れた『結界士』など、他にも気になるジョブは多いのだが。


まあ、自分のことは地道に育てていくしかないとして……。

そっと顔に手を当てて従者のステータスを見ていくと、サーシャさんがレベルアップしている。



*******人物データ*******

サーシャ(人間族)

ジョブ 弓使い(16↑)

MP 10/10


・補正

攻撃 G+(↑)

防御 G-

俊敏 F-

持久 F-

魔法 G-

魔防 G-

・スキル

射撃微強、遠目、溜め撃ち(new)

・補足情報

ヨーヨーに隷属

*******************


……ついに、か。

「溜め撃ち」を会得し、めでたく攻撃強化手段ができた。

もう狙撃系に特化していくのかと思ったが、ここで通常のスキルを得たか。


ちなみに、『料理人』や『フードファイター』など色々なジョブを獲得しているみたいだが、弓系の派生ジョブはまだだ。

『フードファイター』は面白そうだが、パーティのエンゲル係数が上がるだけな気がする。


ついでにサーシャのほっぺをもにもにとしておく。


「んん~……美味ですねえ……」


サーシャは恍惚とした様子でもぐもぐとしている。

夢でも何かフードファイトしているらしい。

さて、せっかく早起きしたし、少し魔法の練習でもして過ごすか。



***************************



朝の見張りは特に問題なく終わった。

あの奇声集団も再度襲撃してくることはなかった。


そして、特に魔物の襲撃もなく、数日が過ぎた。


すっかりこの護衛隊にも慣れてきた頃合い。

お昼の休憩を取りながら、見張りをしている。

隣には、もくりと葉巻を燻らせるジン。

美味そうに煙を吸い込むと、長い息を吐いた。


「ふぅーっ、ここんとこはヒマだな」

「まあな。有難いことだが」


余裕があるならそれはそれで、『隠密』やその他の非戦闘職のレベル上げをする機会になる。

積極的に斥候のサポートを買って出ていたら、ジンたち『守りの手』以外の護衛や傭兵たちにもそこそこ認められるようになってきた気がする。


「そろそろ領境だな」


ジンがポツリと言う。

フェンダ地方は、王領に包まれるように1つ、それなりに大きな領土がある。

ウェルナ領というらしいが、王家から守護家に任ぜられた由緒正しい貴族であるらしい。


そのウェルナ領が何故、王領の中に取り残されるような形で存続しているか。その概略はキスティから聞くことができた。

まあ、要は……ウェルナ守護家はかつて王家の敵だったのだ。


「ウェルナ領ってのは、どんなところだ?」

「さてな。俺もよくは知らんが……宝石が特産で、鼻持ちならない金持ちがじゃらじゃらいるってウワサだぜ」

「そうなのか」


ジンはあまりウェルナ家に好意的ではなさそうだ。


「ウェルナ家ってのは、もともとどっかの王国の公家だったんだろう? なんで裏切ったんだろうな」


ジンは葉巻を口端に挟んだまま、こちらを横目で睨むようにした。


「さあな。俺は知らねぇよ」

「まあ、貴族の話だし、昔のことだしな」

「そういうこった。それより、俺たちが気にしなきゃならねぇのは、賊の方だぜ」

「賊?」

「この前の襲撃者もそうかもしれねぇな。この辺、特にウェルナ領付近で賊が活発なのはワケがある」

「宝石を商っているからじゃないか」


貴重品が行き来するのだから、賊が狙う。分かりやすい理由ではないか。


「ないとは言わねぇが、それより有力な理由が1つある。知らねぇようだな」

「む?」


ジンは煙をほおーっと長く吐き出して、間を取る。


「フェンダの影。聞いたこともないか?」

「影?」

「そうだ。かつて滅んだ王国の、まあ、残党だな」

「残党。ってどんだけ昔の話だよ」


ん? どこかで聞いたような話だと思ったら、前にフェンダ地方についてキスティと話した内容と被るな。

つまり、そのとき言っていた「フェンダ地方は治安が悪い」ってのは、その「影」とやらの影響なのか。


「100年以上前の話だろう? よく続くな。何を考えて続けてんだろうな」

「……さあな」


ジンは大して興味がなさそうにまた、煙を吸い込んだ。


「何にせよ、このとこ平和すぎるからよ。気ぃ引き締めていけよ」


ジンはそう言うと、立ち上がってどこかに行ってしまった。


確かに、魔物も増えていくという話だったが、全然出会わない。

油断しそうになるが、そのフェンダの影とやらがいつ襲撃してくるか分からない。気配探知を鍛練がてらに頑張りますか。



***************************



ウェルナ領への入り口には関があり、簡便な荷物検査を受けつつ、特に問題なく通過できた。

平坦に森がちだった地形は、起伏が激しくなりあちこちに山が見えている。盆地のような地形になっているのだろうか。確かに地形的に、ここに王国があったのなら要衝となったのだろうなという印象。

大きな南北の街道がすっと伸び、それ以外は山がちで軍を進めにくく、攻めにくい。

日本の鎌倉みたいなものか。ちょっと、ちがうか?


さらに数日進み、小物の魔物には何度か遭遇するも、俺たち以外の護衛が手早く倒していた。

1日に銀貨2枚も貰っているのが申し訳なくなるような有様だが、雇い主としてもその方が嬉しいだろう。


そして、ウェルナ地方の領都で商売をした後、更に南へと進む。

ウェルナ領もあと少しというところで、問題が発生した。


「前方に、左右が崖のようになっている場所がある。その手前に、人影を見たという情報だ」


傭兵たちを集めて説明するのは、ユシジギとは別のジシィラの専属護衛である。

真っ黒い肌に黄色い模様が浮き出ているが、素のものなのか化粧のようなものなのかは不明だ。


「左と右に別れ、事前に懸念を排除する。ただし、この辺りは賊の出現率も高い。陽動の可能性もあるし、大きく戦力を割くわけにはいかん」

「じゃあどうするんだ?」

「うむ。こちらで指名した組み合わせで、先行して偵察して欲しい」

「偵察ね……」

「偵察といっても、まあ、威力偵察だな。敵性の存在がいれば、速やかに排除するようにな」


それから、向かって左には大きめの傭兵団が1つ、右には俺たちとジンたちが割り振られた。


「これだけか?」


ジンが不満を表明する。


「これだけだ。いずれも実力と実績を考慮して割り振った。戦力に不足はあるまい」

「斥候は、本体のを貸してくれるんだろうな?」

「うむ。それぞれに1人ずつ付ける」

「1人かよ……。俺たちからも出せって話だな、それは」

「そのために金を払っているのだ、すまんが承知してくれ」

「……はいはい」


ジンは仕方ないという様子だ。


まあ、最近ちょっとヒマすぎたから、これくらいはね。

危険だったら、逃げるのも選択に入るけどね。


そうしたらもう二度とエモンド家、どころか商人の護衛の仕事はありつけないかもしれない。

だが、最悪魔物狩りさえ出来れば何とか方法はあるはずだ。

変な賊集団がうろつくっていう地域を自分のパーティだけでうろつきたくはないから、ホントに、最後の手段だけどな。

さて、お仕事の時間だ。

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