第116話 がらくた
翌日、ギルド関連の手続きなどを済ませてジシィラ・エモンド率いる隊列に護衛として加わり、ターストリラからサーストリラへ、そしてテーバ地方を東へ後にした。
まず目指すのはテーバに来る際にも寄った、交易都市サタライトだ。
サタライトまでは行き先が被る商隊も多く、寄らば大樹とばかりに追随する個人商人たちも一緒だ。そのなかにやや気になる奴もいたのだが……オリス商会という集団だ。
すっかり忘れていたが……逆ハー集団である。
そういえば対龍剣作戦にも参加していたようだが、あちらもこれを機にテーバを離れることにしたらしい。親しいわけではないが、休憩中に1度女がジィっとこちらを見ていたのが分かった。俺は逆ハーに加わるつもりは全くないぞ?
商隊の主であるジシィラとは出発直前に謁見した。
いや単なる行商の身分のはずだが、まさに「謁見」といった空気であった。
赤い椅子に座ったジシィラの前で膝を付き、深く礼をしてから口上をする。
「今回、護衛に加わったヨーヨーです。よろしく」
「……。柄が悪そうだな。まあいい、ユシが選んだなら使えないということもないだろ。せいぜい気張れよ」
「はっ!」
こんな感じである。
ジシィラは案外背が低く、声も高かった。白眼の代わりにある赤い眼がらんらんと光っていた。顔の造形そのものは一般的な人間族とそこまで違いはないように見えるが、顔の比率が横に長く、人間というよりは特殊メイクをした映画の宇宙人という印象である。聞いた話だと人間族と少数種族との混血らしく顔から年齢は良く分からないが、結構若いのかもしれない。
それで行商をさせられて実績を積まないといけないなんて、名門商家に生まれるのも楽ではないよな。
他の同僚となる護衛は全部で30人以上いる。馬車5台、荷車1台の大所帯だ。
夜、夜間警戒時間に入る前に同僚の護衛たちにも顔を売っておく。
「臨時で入ったヨーヨーだ。後ろの2人が従者。よろしく頼む」
「後ろの2人は女か? 若い男と女従者2人たぁ、良い御身分だねえ」
そう反応したのは同じく護衛に参加している、おそらく人間族の男。
口調はぶっきらぼうだが、あまり嫌味な言い方ではない。
あくまで冗談として言ったようだ。
「一応言っておくが、うちの従者を貸せなどと言われても応じないぞ」
「いや、そんなこと言わねぇよ……なんだそりゃ」
「以前、そういうことを言ってきた輩がいたもんでな……」
「そりゃぁ、災難だったな。だが女が必要なら自分で買うからよ。変な勘繰りすんじゃねぇぞ」
カラカラと笑う男。名前はジンという。『守りの手』という名前のパーティを組んで傭兵稼業をしているとのことだ。
反り込みが入った長髪で、柄が悪いのだがオシャレな感じもする、不思議な髪形をしている。毎朝、自分で髪を整えているんだろうか。
髪型はともかく、人懐っこい笑顔を見せるので友達は多そうだ。
「それにしてもその兜はどうにかならないのか? 味方だと分かっていても、夜に不意に現れると剣を抜きかけるぞ」
「そうか? ……慣れてくれ」
悪いとは思うが、最近はこの不気味なマスクの便利機能が当たり前になってきて、手放すなんてとんでもない。呼吸や視界を邪魔しないだけでも重宝するし、偵察中に気になった箇所を少しだけズームできる機能も慣れてくると便利だ。サーシャの「遠目」スキルと比べると残念な性能だが、色々ある便利機能の1つに過ぎないのだから、そこまでは望むべくもない。
「ジンたちのチームはデカいのか?」
「ウチか? 今現在で12人だな。有望な奴がいたら引き入れたりしてるが……ジシィラ様の護衛から引き抜いたりしたら怖いからな」
「いや、入れて貰おうってわけじゃないが……」
「はは、まあ護衛が終わって興味があったら声を掛けてくれよ。あんたもそこそこヤるんだろ? 飛び込みで護衛に雇われたってことはさ」
「どうだろうな」
最近は、魔銃に頼らずともそこそこ対人で戦える自信は付いてきた。地力はまだまだだが、魔法を使ってトリッキーに戦えばかなりの格上にも何とか対処できるようになってきたと思う。
出来れば『龍剣』と戦ったときみたいな出たトコ勝負はしばらくご免だけれどな……。いくら報酬が良くても、対人戦は命がいくつあっても足りないと思う。
「ジンたちは護衛をやって長いのか?」
「いや、オレ達も新参だぜ。他に俺らよりちょっと前から入ってるチームが1つと、昔からやってるチームが1つ。専属護衛が5人程度いて、他に個人で契約してるやつが何人か、だな」
全部で30以上いるわけだから、色々いるわけだ。
と、ジンと話しているうちにスーツのようなものを着た七三分けの男が俺の前に止まってこちらをじっと見詰めてきた。
「……なんだ? あんた」
「知り合いか、ヨーヨー?」
ジンに問われるが、正直全く身に覚えがない。
「お嬢様があなたとの会見を望まれている。同行をお願いしたい」
「……ん? 俺か?」
「ヨーヨーと呼ばれていた。間違いない」
うーん。俺で間違いないらしい。
「正直、いきなり声を掛けられても判断に困るんだが」
「そうか」
……。
……。
「いや。そうか、じゃなくてよ。なんか言う事ないの?」
「ハァ。仕方ない。私は『オリス商会』のヘンスだ」
……。
オリス商会。さっきも気になっていた、あの逆ハー集団だ。
「ご主人様、あの、男の方を侍らせていた女性の……」
サーシャが後ろから囁く。
「おいおい、オリスってあのオリスかよ。とんでもないところから目を付けられたな」
ジンが困ったように笑いながら首を振った。
「いや、目を付けられるもなにも……なんか接点あったかなあ」
「接点はない。故に話をするのだ」
「いや、俺はハーレムに入る気はないけど?」
「そういった類の話ではない。……と思う」
不安!
ものすごく不安!
「……サーシャ、アカーネはどうした?」
「テントで魔道具を触っていますが」
「そうか。じゃあサーシャはテントに戻って、俺が戻らなかったら事情をジシィラ……様、あるいはその辺の偉そうな人に話してくれ」
「かしこまりました。しかしご主人様、平気ですか?」
「ならオレが一緒に行こうか?」
ジンが口を挟んできた。
「良いのか?」
「構わねぇよ。こう見えてそこそこのパーティの頭だ、俺が行きゃ少しは抑止力になるだろうよ。そう思いたいね。そこの兄ちゃん、構わないな?」
「……。致し方ない」
「すまんな、ジン。いきなり迷惑をかけてしまったな」
「気にすんな。俺も噂に聞くオリス商会の頭に、興味はあるしな」
「そうか」
話はまとまり、ジンと連れ立ってオリス商会のテントに向かう。
オリス商会は商隊の端っこの方にテントを構えていた。魔物が出れば自分達で対処しなければならない位置取りだが、それだけ戦力に自信があるのだろう。
「ここで少し待て」
テント前でガチガチに武装した男たちに見守られながら待たされる。
改めてよく見ると、それぞれ鎧に無駄な装飾が入ったりしていて、かなりゴテゴテした印象だ。
これもあの逆ハー女の趣味が反映されているのだろうか。
「良いぞ、入れ」
「やれやれ、穏やかじゃないねぇ……」
嘆くジンと一緒に、武装した男にサンドイッチされる形で中に連行される。
まさかいきなり攻撃されたりはしないと思うが……来ない方が良かったかなぁ。
「座れ」
小間使いっぽい少年がかいがいしく椅子を運んで来たので、それに素直に座る。
奥に一段高くなったような場所に、豪華なひじ当て付きの椅子が設置されている。
待機していると予想通り、奥から現れた例の女が豪華な椅子に着席した。
その顔は……うん、やっぱり普通。
可もなく不可もなく。地球に居ても目立たない地味な顔付きだ。
「いつまで兜を被っているの? 取りなさいよ」
「ん、そういえば……」
指摘されたので兜を脱ぐ。
邪魔にならないから、着けてることを忘れがちなんだよなあ。
「あらー、そんな顔だったのね? シュミじゃないわぁ」
「うるせぇよ」
ナチャラルに顔面をバカにされたので、普通に言い返してしまった。チラっと周りの護衛を見るが、いきなり斬り掛かってくるような様子はない。
「クスッ、そう警戒しないでよ。別に争うつもりはないわ」
「そうかよ。いきなり物々しく取り囲まれたら、誰だって怖いだろうがよ」
「それもそうね。ごめんなさい、ウチのは皆愛嬌ってものがなくて」
「教育がなってねーんじゃねぇか?」
「はいはい、ごめんなさいね。でも今日はそんな話をしたくて呼んだわけじゃないのよ」
女は怒るでもなく、話を流した。
まぁ、言ってから思ったが、俺も奴隷を持っているわけだが、教育というようなものをした記憶が一切ない。人の事言えないの極みだな。サーシャに丸投げしてるし。
「で、何の用だ?」
「単なる情報交換よ。アナタ、タラレスキンドの自由型で活躍してたでしょう? ウチのとは結局、対戦しなかったけれど」
「ああ……見てたのか」
「そりゃあ、自分のところのが出場していたからね。今年はあんまり勝ち進めなかったけれど」
「そうだったのか」
「アナタ、見てなかったの? なるほど、自分のこと以外は興味ないタイプね」
「……まぁな」
「いいわ。でも忠告しておいてあげる、独立独歩を貫くなら、情報は命よ。こうやって小まめに情報交換するのも重要な方法よ」
「分からなくもないが、コミュニケーションは好きな方でもなくてな」
「分かるわ。でもやらなきゃダメ。後で後悔することになるよりは……ね」
なんだろう。
わざわざその警告をするためにテントまで呼び寄せたのだろうか。
「説教クサくなっちゃったわね、それはいいわ。今日はアナタをそこそこ面白い存在だと認めたからこそ、情報交換しようと思っただけなの。なぜかジシィラお抱えのパーティのトップまで付いてきたけれど……」
ジンを見ながら、そう言う。
「こんばんはお嬢さん。せっかくの機会だから付いてきたのだけど、お邪魔だったかな?」
「そうね。と言いたいところだけど、アナタにも少しは興味があったからいいわ。ジシィラが何を考えているのかも気になるしね」
「おっと、雇い主のことはあんまり喋れないぜ」
「そんなことは分かっているわよ。ま、しゃべれる範囲で気軽に情報交換しましょ」
「ふぅ、おっかないねぇ。気付けば情報ダダモレになっていそうだ」
女は答えることなく薄く笑う。これはあれか、腹の探り合いってやつか。苦手だ。詐欺行為は得意なんだが……。いや、詐欺ではない、少し情報をこう、盛る感じのやつは得意なんだが。
「それにしても、『偽剣』の。アナタは組織嫌いって聞いていたけれど、どうしてまた大商会の護衛に?」
「おい、その名で呼ぶな……」
ん? なんかこう、人生で言ってみたいワードの1つを今言えた気がする。不本意な形でだが。いや、前に戦闘中にも言った気がするが、全く嬉しいことではないな。
「護衛仕事は単に、金稼ぎだよ。これまでも移動のときは大体護衛仕事はしているぞ」
「ふぅん、傭兵団に入らないだけで、臨時護衛に抵抗はないわけね。機会があれば雇ってみようかしら」
「金払いが良ければぜひ頼む。逆ハーだからって差別することはないぞ」
「逆ハー?」
「逆ハーレム」
「あー、はいはい。巷ではそう言われているわけね」
「ん? いやどうだろう。俺が勝手にそう言ってるだけだが」
「アナタねぇ……それを言ったらアナタのとこも、女の子2人目を入れたのでしょう。ハーレムじゃない」
「そうだが? 別にハーレムが悪いことなんて思ってないからな。ハーレム仲間同士、仲良くやろう」
「ええ……うーん、ちょっと調子狂うわね。もうちょっと無口で気難しいタイプかと思っていたわ」
まじか。逆になんでそう思われていたかを知りたいくらいだ。
「納得いかないって顔してるわね……。アナタね、自分が客観的にどう見えるかくらい把握しておきなさい。ほとんどの時間をこわーい兜を被って、変人とばかりツルんで、妙な技を開発してはセコく稼いでる。違う?」
……。否定はできない。
無口で気難しいタイプと結び付くのかは疑問だが。
「まあいいわ。アナタが大会終わるのを待たずに出たってことは、龍剣絡みかしら?」
「ああ、まあそうだ。アンタもそうだった気がするが、タラレスキンドでギルドの依頼を受けてな。依頼後に物騒になってきたんで、一度外に出ようかと」
「なるほどね。ウチはどちらかっていうと、儲け第一で動くから移動しただけなんだけど。龍剣は色々禍根を残すわねェ。具体的に狙われた感じがあったの?」
「いや、そういう話はないな。……あぁ、あのガキどもがそうじゃなければだが……多分別口だと思う」
「何かしらはあったのね」
「まあ、よくあるトラブルがな」
良くあるかはぶっちゃけ知らんが、まああるのだろう。
個人で動いている俺なんか、いかにも狙いやすそうだし。
「そう。ならアタシたちも動いて正解ね。それにしても、エモンド商会の護衛とは思い切ったわね。良く採用されたわ」
「ん? そうなのか? 縁があったし、ちょうどいたから募集してみただけなんだが」
「……そうなの? それが本当だとしたら、なかなかの豪運ね。それだけジシィラの戦力が不足していたのかしら……」
「さあ、それは知らんが」
なんか体よくペラペラと内部情報を話してしまった感じがヤバい。やはり俺にこういうのは向いていないのかもしれない。今後はサーシャを同席させよう。と考えた。
「少し喋りすぎたな、俺は黙る」
「唐突ね……。まあ、それならこちらからも少し情報提供してあげるわ。向かうのは南だったかしら?」
「ああ」
「そう。どこまで行くのか知らないけれど、フェンダ地方を通るのなら気を付けなさい。色々きな臭い動きがあるようだわ」
「フェンダ地方か。ほう?」
どこやねん。
後でサーシャペディアで補足するしかないか。
「後は国境まで行くなら気を付けなさい。戦の影響で、かなり荒れているらしいわ。ちょっと勝ちすぎたのね……。土地を守る戦士が足りなくって、魔物の駆除に苦戦しているってことだわ」
「ほう、貴重な情報に感謝する」
気を付けるのはそうだが、逆に言えば魔物狩りで稼ぐチャンスも発生しているわけだ。
……まあ、現状で金貨9枚以上あるので、そこまで危ない橋を渡る必要はない。計画はリスクを見ながらというところだな。
「お嬢さん、オレもその話について訊いていいかい?」
「あら、これ以上タダで情報をあげられるとでも?」
「おやおや……」
ジンは笑みを引きつらせた。しかし女の言うことに一理ある。
「もともと貴方のことは呼んでないの。情報が欲しいなら、何か対価を出しなさい」
「対価ね……。やはり情報の対価といや、情報かね。専属護衛の話なんてどうだ?」
「専属? ジシィラの護衛の情報ってこと」
「そういうこと。こればかりは中に入らないと中々分からないと思うけど?」
「うーん、そうねぇ。でも、ジシィラは冷たいけど筋は通すって話だから、争う理由もないのよねぇ……」
「なら差し出せるものがない。俺は静かにしてるぜ」
「あらお利口さん。でも値段の安い情報もあるから、まずは言ってみなさいな」
ジンは一瞬逡巡したようだったが、一泊置いて話はじめた。
「護衛の頭をやってる、戦闘奴隷がいるのは知っているか? あいつはおそらく上級職だ。剣関係のな。それと専属なのか微妙に知らないんだが、トカゲ顔が1人いるのは知ってるか? あいつは特別だ」
「……特別というと?」
「なんつーかな、色々異色なんだ。旦那に優遇されているようでもあり、冷遇されているようでもあり。でも一番ぶっ飛んでんのは、その言動だな」
「どういうこと?」
「聞きたきゃそっちも、1つ情報をくれよ。そうすれば最後まで言うぜ」
ジンは精いっぱい、余裕げな笑みを見せてそう言い切った。
なかなか交渉上手なところがあるようだ。
「……ふぅ。まあ、いいわ。ここはオマケしてあげる。今回の戦争で人質から奴隷になった戦士連中。その競りがちょっと前にあったらしいわ。その余波というか、売れ残りを請け負った商隊がこの辺まで来ているらしいわね」
ほう。なかなか良いこと聞いた。
「戦闘奴隷の情報か。聞く人が聞きゃ、欲しがる情報なんだろうがな……。まあいい、続きを言うぞ。あのトカゲ顔はな、人間嫌いだ」
「人間嫌い?」
「筋がね入りだ。人間族など死ねばいいと公言しているような奴だぜ。ヨーヨーも、迂闊に近付かねー方がいいと思うぜ」
まじか。サーシャの話だと、特定の人種を差別するのは禁忌に近いのじゃなかったか?
「内心嫌いな種族ってのは、割とある話だけどよ。南の蟲人の連中とかな。でもあそこまであけっぴろげにする奴は珍しいだろ。偉い神官さんにでも見つかったら、ずいぶんと説教されるだろうよ」
「ジシィラは純粋な人間族じゃなかったはず。だから商隊に入ったってことかしら?」
「さあな、そこんとこは良く分からねぇ。だが、専属護衛はほとんど人間族だったはずだ。内心嫌ってたとしても、言わねぇ方が上手くいくのは当然だ。いざってときは命を預け合う仲間だぜ?」
「……そうね」
「そこらへんが意味不明なんだよなぁ。ジシィラの旦那がもっと強く言わねぇ理由も……案外、内心あの旦那も人間族を嫌っているクチかね?」
「そう考えると、一応筋は通るけれど。嫌っている理由は分からないのよね?」
「分からねえなあ……まあ、昔人間族と何かあったらしいって言われてるが」
「ふぅん……。役に立つかは微妙だけど、ジシィラが人間嫌いの可能性があるって情報だと考えると、ちょっと使えるネタね。有難く頂戴しておくわ」
それからもうしばらく、女とジンとの細かな情報交換が続く。
ジンは商隊の商っているものなどを話し、女の方も商品相場の動向などを渡して話していた。
その辺はあまり興味がないので馬耳東風だ。
「……ヨーヨー?」
「あ、話は終わったか?」
「あんたな、なかなかの大物だぜ……。こんなとこで堂々と居眠りかますとは」
「あー、寝てない寝てない。目瞑ってただけ」
学生のようなイイワケをしながら女を見る。
ジンと同じように、呆れたような顔をしてこちらを見ていた。
「たしかに、大物ね……あるいは底抜けの馬鹿」
「……そういえば、あんたの名前はなんだったっけ?」
「今更? ハリューシュよ。ハリューシュ・オリス。主に魔物殺しと殺した魔物の素材を商っているわ」
「おっかないな。あんたは……うーんと、普通に……村とかで生まれたのか?」
「? 何、その質問。村じゃなくて、城で生まれたの。城の主じゃなくて、そこに勤めてた家だけど」
ううむ。
逆ハーなんてやるから、転移者じゃないよね? と確認してみたかったのだが、どう聞くのか難しいな。あ、そうだ。
「Do you know Earth?」
「?」
英語で話し掛けてみても、きょとんとするだけだった。
英語どころか日本語ですら使う機会がないから、絞り出すのが大変であった。
でも、これくらい簡単な方が英語圏以外の人にも伝わるだろうからいいのだ。
「何かの呪文? 西の言葉じゃないわよね」
「いや、何でもない」
「気になるわよ。今の何? 話しなさい」
しまった。こういうケースもあるのか。どう誤魔化そうか……。唸れ俺の『詐欺師』ジョブ。
セットしておくか。
「いや、俺も意味は知らないんだが、生き別れの姉が遺したメモに書いてあってな。一応、初対面の女性には聞いたりしてるんだ。ほとんど習慣だな」
「……。そう」
女、ハリューシュは怪訝な顔をしたがそれ以上の追及はなかった。
かなり苦しい言い訳しか出て来なかった。
地球の言葉で転移者か確かめるのは控えた方がいいな。
「それより、あんたの経歴にはちょっと興味があったんだ。どうして逆ハーレムを作ろうとしたんだ?」
誤魔化すために、話題を逸らす。
「……作りたくて作ったわけじゃないわね。実家を追い出されてから、色々やっては失敗してね。結局、小さな行商から始めたんだけど、一度野盗や魔物に襲われて荷を失うと儲けがパーでしょう?」
「苦労してるな」
「そう。それで護衛を集めたら、男ばっかりになってね。面も良かったから、ちょっと気分は良かったわよ。下手に女を入れて妙な雰囲気になるのも嫌だし。気付けばこの有様よ」
「うんうん、共感できる」
別にそろそろ男を入れてもいいんだけど、それでサーシャと恋仲とかになられて、ぐちゃぐちゃになったら色々と嫌だ。入れないでいいなら入れないようにしていきたい。
「まあ、世間体みたいなものは悪いわ。でも、実家追い出されたとき、もう吹っ切れたのよね。私は私のやりたいようになるわ。それで力及ばず死んだら、そこまで。私にその力がなかったってだけ。誰かに期待するのはもう止めたの。素敵な夢だろうと汚い欲望だろうと、全部自分が背負うしかないのよ」
ハリューシュは遠い眼をしながら早口になっていった。追い出されたという実家、そして故郷のことでも思い出しているのだろうか。転移者でなくても、なかなかハードな人生を送っているようだ。
「そうか。つまらないことを聞いたな。俺もハーレムを目指しているから、あんたの背中を追いかけるよ」
ハリューシュはまた怪訝な顔をしたが、降りてきた沈黙に耐えかねて噴き出した。
「アッハハ! ほんとに変なやつね、アンタ」
「良く言われる」
「馬鹿だ、馬鹿がいる……」とジンが笑いを堪えているが、無視だ。
「馬鹿なことに命を懸けるのが人生だ」
「そう……誰の言葉?」
「俺が今作った」
「……そう」
ハリューシュは一瞬沈黙し、また噴き出した。
楽しそうで何よりだ。
「はー、久しぶりにこんな笑ったわ」
しばらく羞恥に耐えているとハリューシュが眼をこすりながら復帰してきた。
何の集まりなんだ、ここは。
「気に入ったわよアンタ。ウチに入るには顔がアレだけど、面白いわ。1つ良い物をあげましょう」
「お、いいもの?」
「この前手に入れたがらくたでね、多分魔道具だと思うけど。今度どっかで鑑定しようと思ってたけど、あんたにあげるわ」
「……ほう」
がらくたっすか。
こういうの、ゲームとかだと意外と貴重な品だった! とかあるんだろうけど。
本当にガラクタの可能性の方が高いよな、冷静に考えて……。
まあ、魔道具であるってことは全く何の役にも立たない何かである可能性は低いか。多分……。
それから、下っ端が運んで来た「がらくた」を渡され、オリス商会のテントから辞した。
ふう、疲れた疲れた。仕事でもないのにね。
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