第109話 荷物

「ギ?」


冬に入り、少なくなった食料を探して木の芽などを齧りつつ、斜面を移動していたハーモス。不審な音に気が付き上体を起こし観察すると、少し北西に下ったところにヒトらしき匂いがすることに気が付いた。


「ギギッ」


目の色を変えた群れの雄が数頭、さっそく飛び出して突進を開始した。

と、最前線にいたはずの2頭が視界から消える。落とし穴に気が付いた後ろの数頭はそれを跳躍して難なく躱すが、そこに木の上に括りつけられていた丸太が振り下ろされ、穴の中へと叩き落された。

罠だ。

直感的にそう悟った群れのボスは、ウォウウォウと唸り声を上げて仲間に警戒を促す。


すぐさま突進しなかった、群れの中では幾分慎重な雄と、後ろで事態の推移を見ていた雌たちが、ヒトたちを半包囲するように広がり、じわじわと距離を詰め始める。


ヒトの周囲に散在する罠を慎重に避け、近付いていくと、その先頭にいたのは意外にも小柄な個体。両手に黒い短剣を握り、中腰になって周囲を警戒している。

未熟な個体と見た数頭が、ボスの合図を待たずに加速する。


「ギョギョギョ!!」

「き、来た!」


思った通り未熟なのか、剣を握りしめて硬直するヒト。好機と見て噛み付こうとするハーモスの背中に、頭上から氷槍が突き刺さる。


「ギィエーッ!?」


思わず姿勢を崩して叫びを上げるハーモスに、短剣が振り下ろされる。

続いて飛び掛かった2頭は、衝撃を受けて弾かれる。

見ると、いつの間にか現れていたヒトにしては大きな個体が、大きな板を掲げて何やら動いている。


「油断するな、お嬢ちゃん! 落ち着いて、訓練通りやれば大丈夫だ」

「はいっ!」


やや緊張が解けたのか、動きの良くなった小柄なヒトが弾かれた2頭に躍りかかる。


「ギェーッ!」


ボスは合図を出し、方針を決める。

すぐに飛び掛からず、じっくりと調理する。包囲を広げ、死角から奴らの隙を狙え。


「ギッ!? ウォウッ……」


回り込んでいた群れの仲間から、悲痛な声が聞こえた。

ボスがチラリとそちらを見ると、全身を炎で包まれた雌が暴れていた。


「ギッ!?」


更に周囲に炎を巻き散らしながら、新たなヒトの存在を認める。

彼らハーモスにとって、ヒトというのはあまり見分けが付かない。特に、二本足で歩き道具を使う最も多い種類のヒトは、大きいか小さいか、胸が膨らんでいる雌か、膨らんでいない雄かくらいしか見分ける基準がない。

だが、その個体は明らかに異様であるとすぐに悟った。


頭部が、とても禍々しいのである。


「ギギーッ!」


思わず我を忘れて、群れに指示してしまう。

敢えて訳すのであれば、こうだ。

“あの怪しい見た目のヒトを攻撃しろ、今すぐだ!”


包囲を完成させるべく慎重に行動していた右翼の雌たちが、指示を受けて一斉に飛び出した。


「おおっ!? なんか急に出てきたな」


禍々しいヒトことヨーヨーは、先ほどまで隠れるようにして移動していたハーモスたちが、一斉に攻撃に転じたことに戸惑いつつも、気配察知を発動させ、飛び出てくるハーモスを迎撃しはじめた。

気配察知は、見通しの悪い場所で敵の動きを知るのにも便利だ。


定期的にフレイムスローワーで周囲を炙ってやると、目に見えて畏怖し、出足が遅くなるハーモス。魔法に弱いというのを自覚しているのか、はたまた単に火が苦手なのか。


数が多いだけに、30分ほど経ってやっと全滅させることができた。

左に回ったヨーヨーの反対側、右の遊撃をしていたピーターは息を切らせることもなく周囲のハーモスを全滅させ、解体に移行していた。

何故か途中から左側に飛び込んで来る個体が多くなったが、中央で戦っていたアカーネもかなりの数の敵を相手にしたようだ。


完全に疲れ切って、解体を免除され端で座っている。


他の人が躊躇なくハーモスの背にナイフを刺し入れ、解体するのを見て複雑な表情をし、一回サーシャに付き添われて木陰に行っていた。戻ってきた頃にはどこかげっそりとした様子であった。

グロ耐性がアレだったのか、はたまた自分で刈り取った命の多さを実感してしまったのか。何か言ってくるまでは、サーシャにフォローしてもらっておこう。



************************************



「こんなもんか」


背中にある魔石と、尻あたりの骨。素材として売れる部分を採取して、残りの死骸は土に埋めた。角や皮なども金にできるそうだが、重量のわりに安い部分については捨て置く。

単純に割に合わないから、高い部分だけにしないと運搬能力がパンクするからという理由もあるのだが、ラムザいわく「それ狙いの人達のために敢えて」という側面もあるらしい。

ついでで素材を持っていって二束三文で売り払うと、ハーモスの素材が安くなり、次いで似た用途の素材も安くなる。それ狙いで狩りをしているような連中からすると、余計なことというわけだ。

もちろん、安くなったところで別にペナルティがあるわけではないが、無暗に市場を荒らさないことはいざというときの人望に関わる。ということで、ラムザはそういう理屈で安い素材は置いていくらしい。


運搬のために荷運び人を雇ったので、その給料をペイするために出来るだけ持っていくといったケースも多いらしいが。


今回、素材を採取できたハーモスは30体に少しとどかないくらい。

確実に群れは30体以上いたのだが、最後に逃げた個体と、落とし穴の中で絡まって取り出せない個体がいるので少し減る。落とし穴の方は、そのまま土をかければ埋める手間も掛からないので、すぐに取り出せなさそうなものはすぐに放棄するものと判断された。


その落とし穴を作ったシェトを戦闘中見なかったと思ったら、姿を隠して狙撃したり、罠に誘導したりして地味に削っていたのだとか。

ピーターは「やはりこういう者が一人いると違うな」と感心しきりであった。



再び山道を登り始める。

シェトが気配察知を使用し、更にサーシャの遠目、場所によってはシュエッセンによる空中偵察も交えて慎重に前進していく。

北斜面はでこぼことした岩が多く、少し移動するだけでも上下運動がキツイ。だが、そこを飛び移りながら偵察するシェトを見ていると、文句を言う気にはなれない。


彼女が偵察してきた、種類不明の群れを迂回しながら、北東に向かってじりじり進んでいく。


「……なんか捕れた」


夕飯は、偵察ついでにシェトが捕ってきた鳥を捌くことになった。

ついでで取ってくるには大きい、肉付きのいい大きな鳥だ。

サーシャ秘蔵の味噌玉を使って、鍋にすることになった。



「獲物が少ないな」


鍋を突きながら、ピーターがこぼす。


「そうか?」

「特別に少ないというわけではないが、やや期待外れだな。相場通りに売れても、まだ1人当たりでは銀貨数枚といったところだろう」

「そんなもんか。いや、銀貨数枚なら稼ぎとしては悪くない気がするけどな、日給と考えれば」

「大会と、その後のギルドの依頼で金貨仕事だったから、どうしても少なく感じる」

「たしかに、な」


ピーターは大会でも俺とは比較にならないくらい、ガッツリ稼いでいるらしいし。


「重くて安い素材も少しはぎ取るようにするか?」

「それをやり出すとキリがないからな……」


ただ愚痴りたいだけだったようで、特に結論もなく口をつぐんでしまった。

鍋をかき回してお代わりを取る。同じく鍋を囲んでいるのは、ピーターのほかアカーネとシェトだ。山中での野営なので、食事も交替だ。

ラムザとサーシャ、シュエッセンは周囲の警戒をしている。ぼそぼそと話していたピーターが無言になってしまったので、その隣で食事を済ませ、人心地付いた様子のシェトに話を振る。


「そういえば、テエワラやシェトといつも組んでいるっていう仲間は、どうしているんだ? 大会に出ているって話だったが、まだ勝ち残っているのか」


そうだとしたら大したもんだが。


「あいつらはこの時期働かない。負けても観戦とか、何だかんだ言ってグダグダする」

「そ、そうか。シェトは観戦はいいのか?」

「負けたら金にならない。興味ない」


ドライだわ。


「それに今年はテエワラがあんなことになって、ひと悶着ありそう」

「ひと悶着?」

「あいつら、そういうゴシップ好きだから。テエワラ怒らせてパーティ組めないの困る」

「えぇ……怒らせたのか」

「まだ分からない。でもなりそう」


大変そうだな。でもドライなシェトがずっと組んでいるってことは、性格は問題だが腕は良いのかもしれない。


「そいつらは腕は良いのか?」

「……ギルドの依頼。あいつら呼ばれなかった」

「え?」

「ギルドが呼んだ基準は、まず傭兵団に入ってないこと。あと強さ。ヨーヨーが呼ばれてあいつらは呼ばれなかった。推して知るべき」

「……なるほど」


残念なんだな。何で組んでるんだろう。

率直にいこう。


「何で組んでるんだ?」

「腕は普通だけど、バランスは良い。それにゴシップ好きだけど問題があるわけでもない。消去法で組んだ」

「へぇ~。あ、ギルドのパーティ候補募集サービスだっけ。あれか」

「そう、それで募集した。正式なパーティじゃないけど」

「そいつらは人間族なのか? それとも、トゥトゥック族?」


シェトは感情の読めない表情で、ぎろりとこちらを睨んだ。試してみたが、やはりシェトはそうだったか。見た目は普通に人間の子みたいで、サイズしかヒントがないから確信はなかったのだが。


「そういうの気にするタイプ?」

「いや、単純に街暮らしが長くてな。あまり他の種族と絡んだことがなかったもんだから、少し興味があるだけだ」

「……そ。あいつらは片方、霧族。もう1人は多分人間族」

「霧族?」


また聞いた事のない人種が登場したな。


「顔のあたりがボヤッとしている。この辺だとちょっと珍しい。慣れない人だと気味が悪いって言われて良く落ち込んでる」

「ああ、そうなんだ……確かに会ったことはないな。でもさっきの話だと、しょうもないゴシップ好きのおっさん的な性格なんだろう。気味が悪いとは思えんな」

「うん。霧族は寡黙な人が多いって聞いたけど、あいつは全然そんなことない。夜番でもずっと喋ってる」


顔のあたりがボヤッとしているミステリアスな人がずっと喋り続けるのか。シュールだな。


「ちょっと会ってみたくなった」

「……止めた方がいい。大会で二つ名付けられて、事件でも手柄を挙げた人間って言ったら、多分かなり食い付かれる。根掘り葉掘り聞かれて、尾ひれを付けてあることないこと噂話になる」

「なるほど。やめとこ」


霧族であるということを除くと、特に興味が惹かれる対象ではないし、面倒そうだ。それにしても霧族って。どういう身体なんだろうね。



************************************



「花トカゲが多い。注意して」


4日目。先行するシェトから注意が飛ぶ。

花トカゲというのは小型の魔物で、花に擬態しているトカゲだ。だいたい白い花に擬態していて、よく見ると気付くことができる。発見が遅れて噛まれると毒持ちなので、速やかに対処する必要がある。

見付け次第始末してしまうべき魔物なのだが、数が多くて手が回らなかったらしい。注意と言う形で情報伝達し、各自で対処することとなった。


怪しい花があったら、先に斬り倒したりしながら前へ進む。俺が対処した花は十中八九関係のないもので、可哀そうなことをしたが仕方がない。

サーシャは弓で狙撃し、アカーネは糸付きの短剣を投げて対処していた。

糸付きの短剣など用意していたかと思ったが、ラムザのアドバイスを受けながらこの狩り中に作成したらしい。手先の器用なことで。

最大の驚きは、サーシャはともかく、アカーネもほぼ間違いなく魔物を見分けていることだ。手当たり次第攻撃する俺のことを心なしか呆れて見ているような感じがする。ぐぬぬ。


「ん? 様子がおかしい。少し止まれ」


ラムザはそう口に出すとともに手信号でも合図を出して、足を止めた。

合流していたシェトが何やらラムザと話し、前に走っていく。10分ほどして戻ってきたシェトは皆を集めた。


「ダーティマッシュがうろちょろしている。それと、人型の死体がある」

「死体、か」


人型の、ということは、亜人のものかヒトのものか判別つかなかったという意味だろう。もし力尽きた魔物狩りのものであるならば、一目では分からないくらいに損壊しているということだ。グロ注意なやつか。


「ダーティマッシュは何体だ?」

「確認できたのは3。あと付近に倍はいる」

「ダーティマッシュか。あまり旨くないが、ヨーヨーが風魔法を使えるから楽かもしれないな」


ピーターがそう呟いてこちらに目を向ける。


「ん? 風魔法が弱点なのか」

「……ご主人様、ダーティマッシュは毒の胞子を撒きます。一時的にでも風向きを変えることができれば、脅威度は著しく低下します」

「ああ、そうだっけ」


キノコで胞子だから分かりやすく、辛うじて覚えていた。覚えていたが活用できるのとはまた別の話だな。


「できるか?」

「弱い風なら、なんとか。どのくらいの時間だ?」

「この面子ならば、5分と掛かるまい」

「分かった。準備ができたら言ってくれ」


今日は風はそれほどない。この状態で、付近の風向きを多少いじるくらいなら可能だろう。少しだけ周りの空気で練習してみながら決行の時を待つ。


「……弓で射たら、それが合図だ。シェトと相棒が回り込む。了解したか」

「了解」


慎重に群れに近づき、サーシャが手前の一体が気付く前に弓を放つと、それが合図。ゆるゆると風を進ませる。


回り込んだというシェトとシュエッセンはすぐに姿を見せると、投げナイフと魔法でそれぞれ一撃を浴びせてこちらへ戻って来た。


ダーティマッシュは身体をぶるぶると震わせると、周囲に黒い霧のようなものが浮かんで見える。あれが毒の胞子か。その動きに注意しながら、魔力を操って空気をゆっくりと動かしていく。


「おらっ!」

「ふっ」


ラムザとピーターがそれぞれ剣でキノコの身体の中心あたりを貫くと、力を失ってクタッと倒れた。中心に弱点があるらしい。

5分どころか、3分と掛からずダーティマッシュを一掃し、戦闘終了となった。


「戦った気がしない」

「風魔法があると、楽だったな」


ピーターのお褒めを頂き、キノコどもを解体する。高いというほどでもないが、笠の部分などが薬の材料として売れるそうだ。


「例の死体というのは、どの辺りだ?」

「こっち」


ラムザとシェトが連れ立って、小さな崖のようになっている場所へ移動する。


「……ああ、こりゃあ」


ラムザが呟くのが聴こえる。

一通り解体を終えて、荷物をまとめるとラムザたちの報告を聞く。


「見ない方がいいかもな。食われかけ、腐りかけってとこだ」

「ヒトか? 亜人か?」

「……ヒトだろうな。人間族か、それに近い種族だ。2人か3人分だ思う」

「そうか」


顔をしかめて言うラムザに、淡々と頷いて見せるピーター。


「こういう場合、どうすんだ?」

「髪か手の指を持って帰る。それだけだな」

「持ち物は?」

「……探してみても良いが、正直期待できんぞ」


いや、戦利品じゃなくて遺品としてって意味だったのだけれど。何にせよ手伝うか、とラムザ、ピーターに続いて崖のところに移動する。


「うわあ……」


これは、何とも言えない。ヒト、だったのだろう破片。ラムザがヒトだと判断したのは、装備っぽい何かを付けている部分がいくつか目に入ったからだろう。

ところどころ喰いちぎられたようになっていて、骨にはまだ肉が付いている。比較的新しい証左であろう。


「大丈夫か? 気分が悪いなら、休んでおけ」


ラムザがいつになく優しく諭すように言ってくるが、まあ大丈夫だ。こっちに来てから、死体を見たことは結構あるし。でも、ここまでバラバラ事件現場はおハツかな。


「大丈夫だ。髪と指以外は、土の中に埋めるのか? 穴を掘るか?」

「そうか。では穴を掘ってくれ。ピーター、周囲に持ち物がないか確認してくれるか」

「了解した」


シェト、サーシャ、シュエッセンの偵察組は周囲の警戒に回っている。処理班は自然とこの3人になる。アカーネもいるのだが……さすがに刺激が強いか。でも、早い内に慣れて貰う手もある。さすがに急に進みすぎか。


「掘れたぞ」


ラムザに渡された小型スコップと、土魔法でちょっと補助して穴を掘り終えた。無心で作業できたので、グロ画像に気を取られなくて助かった。


「よし、埋めてやろう」


ラムザが、なんとなくそれぞれの身体にまとめた死体を運んできて、穴に投げ入れる。ピーターが見つけてきた小さな鞄なども同じく穴に入れてしまうようだ。

貴重品は持ち帰るが、それ以外は本人と一緒に眠らせてやるのが通例だという。


「……願わくば、神の御許へ」

「御許へ」

「……」


ラムザが眼を瞑り、両手を胸の前で一人悪手のように握り込み、簡単な冥福の言葉を掛ける。ピーターも続くが、全く予習していなかった俺は無言で祈るだけになってしまった。これも常識だったか。


何秒くらいそうしていただろう。鳥のさえずりを遠くに聴きながら、長く、長く感じる祈りの時間が終わる。ラムザが動き出し、ピーターに呼び掛けた。


「で、貴重品は何かあったか?」

「少しの金とポーション、後はギルド証くらいだな」

「……そうか」


ギルド証はギルドに返すのだろうな。残りは頂いてしまうのだろうか?


「それらはどうするんだ?」

「ギルド証はギルドに持っていく。残りの貴重品は、貰っても良いし届けても良い。発見者の自由だ。今回は大したもんはないが、どうしたい? ヨーヨーが取ってもいいぞ」

「いや、届けよう。もし相続人とかが居たら、渡されるのだろう?」

「そうだな。だが、魔物狩りなど天涯孤独の者も多い。結局、見つからずにギルドの共用費にってパターンが多いな」

「まあ、それはそれで。なんかこの前の事件の後だしな。多少の金を貰おうって気が起きない」

「そうか。それじゃあ、そうしよう」


遺品はまとめて同じ革袋に入れておき、後でギルドに渡すという話になった。それにしても、全く。気が滅入るね。


その後探索を続けるも、小物の魔物の群れをいくつか相手にしたくらいで、大きな収穫はなかった。次の日も、登ったり下ったりしながら探索を続けるも、空振り。目当ての四つ手大猿には出会えず。ここで、北のキャンプ地が近付いたということで、一端寄って作戦を練り直し、仕切り直すことになった。



************************************



「入れ」


キャンプ地の入り口で、ギルド証を見せて場所を借りるのは同じであった。が、入り口の人が不愛想で高圧的という違いはあった。

中でテントを張ると早速、ギルドの職員を探して倉庫付近へと向かった。


「売却か? 補給か?」

「両方だ。後、途中で『荷物』を発見してな。ギルド証を持ち帰ってきた」

「……ああ、そうか」


ピーターが赤目の職員を発見してギルド証を渡す。それに続いて俺も、遺品の入った革袋も渡す。


「これは?」

「持ち物だった金とポーションだ。遺族に渡してくれ」

「ほう、親切だねぇ。手間賃貰わなくていいのかい」

「気分だよ」

「そういう気分もあらぁな。ま、手続きはしておくよ。……無駄かもしんないけどよ」


彼も、遺族などが見つからないケースが多いことを言っているのだろう。


「……それで、ここまでの狩りの成果を買い取って欲しいのだが」

「ああ、それもここでやってるよ。ああ、大物かい? あまり金が残ってないんだがね」

「心配ない。残念ながら、小物ばかりだ。一番の収穫がハーモスだったからな」

「おいおい~、そりゃあシケてんよ」


一転してワハハと愉快そうに笑う職員をピーターに任せ、金銭の出納係りに徹する。


「占めて銀貨30と少しってとこだな」

「意外と高いな?」

「このキノコのやつとか、薬関係が値上がりしててよ。何でもこの前の騒動のせいで、ポーション在庫が捌けたって話だぜ」

「ほう」


風が吹けば桶屋が儲かる、か。

『龍剣』が騒動を起こすと毒キノコ素材が高くなる。


「さぁて、補給品も必要なんだろう? ギルド公認ってわけじゃないが、俺が商ってる商品がある。少し見ていくだろう?」


この職員は、ここで駐在員兼自分で商売をしているようだ。副業が認められているのか疑問だったが、ピーターも何も言わない。問題なく認められているのか、暗黙の了解ってやつだろう。もちろん、後者だとしてもわざわざギルドにチクる必要もない。


赤目の職員から少し食料を買って、割り振られた場所のテントに舞い戻る。

今回は単純に人数割り(アカーネを除く)なので、銀貨30枚程度の儲けなら、1人5枚。サーシャと合わせると、銀貨10枚の収入となった。


その日のうちにひとまず清算を済ませてしまい、作戦会議をする。もちろん、明日からも狩りを続けるのだから。


正直寒いし、道は険しいし、気分は帰りたいのだけれど。

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