第107話 らーめん
夜、金貨を握りしめて高級焼肉パーティとしゃれこむ。
食える魔物がいくらでもいるせいか、テーバでは焼き肉は比較的安い飯に分類されるが、上を見るといくらでも天井が高くなる。最高級の竜肉なんて食べようとした日には、1人分で金貨が出ていく。
そこまでは無理でも、そこそこの竜肉や、珍しい肉を食うくらいの贅沢はできる。なんせ金貨7枚が手に入ったのだから……。
といっても、あまり調子に乗るわけにもいかない。
欲しいものはもう、無限にあるような状況であるし。今後を見据えてしっかり使い道を検討しなければならない。パッと散財するのは焼肉パーティだけで打ち止めだ。
「さて、状況を整理しよう……」
きゃぴきゃぴと肉を食う2人を眺めながら、わら半紙にメモしていく。
現在、所持金が金貨7枚と銀貨60枚強、銅貨が……いっぱい。たぶん合わせれば銀貨1枚以上にはなる。
サーシャ達の持ち金とした分は他として、である。
これからもサーシャ達の分の報酬は別分けしておいて、そこから必要な物や嗜好品を買ってもらうことにしよう。どうせだから、サーシャとアカーネの財布的な物を作っておくか。
サーシャはこれまでも、いつも金をいくらか預けていたから、あまり変化はないが。
で、お金の使い道である。
まずは、アカーネの魔道具製作道具。これは何としても揃えたい。安い物で半金貨という話だったから……高くても金貨2~3枚と見積もれば良いだろう。というかそれくらいが上限だ。
防具は思いかけず手に入ったが、肝心の俺の胴体防具が昔のままだ。これももうちょっと補強するとして……金貨1枚を上限としておくか。
あっ、あとサーシャのマジックシールドの燃料として、磨いた魔石が必要か。1つ銀貨2枚ほどだったはずだから、半金貨くらいは想定しておこう。
マジックウォールのメンテは、アカーネに任せられるから少し資金が浮く。魔導剣も多分できると言っていたが、道具が必要だとか。魔銃やヘルメットのメンテは自信がないそうなので、またメンテに出す必要がある。
これで今いくつだ?
金貨4枚消費といったところか。もう半分使った感じか。
金貨1枚分は余剰を持っておくと決めたから、あと使えるのは金貨2枚半くらい。
うーん、新メンバー追加とはいかなさそうだな。
サーシャが皿に入れてくれた肉を食う。ここの焼肉は、タレを付けるというよりは、肉に下味を付けて焼く、それをそのまま食うというスタイルが多い。これも塩を塗り込んだ塊肉を削ぎ落して焼いたものだ。シンプルに美味い。
次にステータスを確認しておこう。
強制依頼終了後、レベルが上がっていたのは俺とサーシャ。
俺は『魔銃士』が1レベルアップ。ステータス補正に変化はなし。
いちおう書き出しておくと……。
*******人物データ*******
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(21)魔法使い(16)魔銃士(12↑)
MP 46/46
・補正
攻撃 F-
防御 G+
俊敏 F+
持久 F-
魔法 D
魔防 E-
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加
火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法
魔撃微強、魔銃操作補正Ⅰ
・補足情報
隷属者:サーシャ、アカーネ
隷属獣:ドン
*******************
こんな感じ。
『魔銃士』にしていたのは一瞬だったので、上がったのはこれまでの蓄積もあるだろう。
で、サーシャもそれほど変化はないのだが。
*******人物データ*******
サーシャ(人間族)
ジョブ 弓使い(14↑)
MP 9/9
・補正
攻撃 G
防御 G-
俊敏 F-
持久 F-
魔法 G-
魔防 G-
・スキル
射撃微強、遠目
・補足情報
ヨーヨーに隷属
*******************
こうである。レベル10くらいでの会得スキルが特殊だっただけに、レべル15のあたりでも何かゲットできる可能性に期待している。
そのくらい。
アカーネと、隅に陣取ってサラダをシャクシャクと摘まんでいるドンさんには変化なし。
食事のはじめに少しだけ肉を食べていたが、とっくに飽きてサラダ三昧を堪能しているようだ。
「ギュ」
談笑しながらサーシャがその背中を撫で、やや迷惑そうにひと鳴き。
ちなみに、装備もだいぶ変更があったので、そのへんも前メモしたものに倣って書き直してみる。
(ヨーヨー)
・装備
武器:魔導剣(太刀)、魔銃
頭:怪しい魔道具のヘルメット
身体:革の鎧一式、厚手の服(鎧下)、防寒コート
左手:小楯(バックラー)
・魔法(実用レベルのもの)
火魔法:ファイアボール、ファイアアロー、フレイムスローワー、ファイアウォール(シールド)
水魔法:ウォータボール、ウォータウォール
風魔法;エアプレッシャー(派生:自己使用)、ウィンドウォール
土魔法:スローストーン、サンドニードル、ケイブ(派生:足元崩し)、ウェイクウォール、サンドウォール
複合魔法:バシャバシャ(水+土)、エレメンタルシールド
特殊:サテライト・マジック
身体強化魔法
魔弾
(サーシャ)
・装備
武器;短弓、短剣
頭:鉢金
身体:黒い革鎧(+付属部品もろもろ)、厚手の服(鎧下)、防寒コート
左手:小楯(バックラー)
右手:マジックウォールの魔道具(魔石残り14)
(アカーネ)
・装備
武器:黒色短剣
頭:ヘッドギア
身体:黒い革鎧(肩当て一体)、厚手の服(鎧下)、防寒コート
左手:木の籠手
右手:木の籠手
・魔道具
改造魔石(土)(風)
(ドン)
・装備
なし
・特筆すべきスキル
気配察知Ⅱ、危険察知Ⅰ
……アカーネも加わって、書き出すと長くなってしまう。
それはいいとして、前のものと見比べて変わったのはやはり、魔法。エレメンタルシールドやサテライト・マジック。名前からして脱初心者な感じがする技を手に入れた。
エレメンタルシールドが、各属性のシールド魔法を多重発動する防御魔法である。防御系としては相当に難易度が高いとされていて、闘技大会のため、防御魔法が得意な俺にテエワラが教えてくれた上級魔法である。
サテライト・マジックは、身体の周囲を飛ばす水球の魔法だ。別に水球に限定する必要はなく、身体の周りを周回させながら攻撃・防御に使用していく技術一般でいいのだが、慣れているのが水球なので専ら水魔法を使っている。別の魔法を使っていく練習は継続している。
そしてもう1つの変化は言わずもがな、サーシャとアカーネの装備。
今日、不用になった二人の前の装備を売りにも行ったのだが、合わせて銀貨5枚程度。まさに二束三文であった。
サーシャの方は、何度も攻撃を受けている俺のものまではいかなくても、ずっと使ってきたのでそれなりにボロであった。それに、サーシャ・アカーネサイズの鎧はあんまり需要がないので仕方がない。
それでも買い取ってはくれるということで、全く需要がないわけではないのだろうが。孤児院から『龍剣旅団』の流れもなくなり、需要はどうかなと思ったが、サーシャが「トゥトゥック族に需要があるのでしょう」と言っていて納得した。
イケメンなゴブリンみたいな見た目の、小鬼族というのも体格が小さかったし、小さいサイズの需要というものも種族関係で無にはならないということらしい。
確認はこんなところか。
今後の予定については、近い内にラムザたちと集まることにしたので、そこで話すことになるだろう。強制依頼でたんまり稼いだのでナシ、ということにもならないだろう。
少なくとも俺はもっと稼ぎたい。
とりあえず話をしてみないと、皆がどんな感じなのか分からない。
今考えられることは以上である。
さて、肉を食うか。
************************************
「やあやあ、お久しぶりだね」
「そうだっけ?」
魔道具店『イマニ・ムーニュ』で出迎えてくれたのは、苦労してそうな着物羽根男ではなく、頭の軽そうな短髪の女技師の方であった。
名前は確か……ラーメンっぽいと覚えたはずの……そう、ジ・ローだ。
「今日は買い物? メンテかい?」
「両方だ。磨いた魔石はあるか? このサーシャが付けている魔道具に使用するのだが」
サーシャにマジックシールドの魔道具を外してもらい、魔石を見繕ってもらう。
在庫があるということで20個ほど購入。銀貨38枚なり。
そして、魔銃とヘルメットのメンテをお願いする。
「あいあい、どちらも銀貨3枚でいーよ」
「あれ? 前より安くなってない?」
「一度見たものだからね。機能検査もなしで、そんなに時間も空いていない。本当に調子を見るだけだから」
「なるほど……じゃ、それでたのむ」
安くなることに文句はない。2~3日中に取りに来るというようにして、魔道具を預ける。
「他は? なんかあるかい」
「あー、このマジックシールドみたいな魔道具はあるか?」
「ん? あー、そっち新しい子の分?」
「そう。まだ戦いに慣れてないから、サポートになるような魔道具があれば良いなと思ってさ」
興味深そうに店内を見渡しているアカーネの方を見る。自分が話題になっていると気付き、慌てて視線を戻した。
「あと、アカーネのために魔道具製作のための道具が必要なんだが。あるか?」
「ああ、そうなんだ。ちょっと待ってて」
ジローが奥へと引っ込み、戻ってくるころには腕いっぱいに商品を抱えて帰ってきた。
「おい、流石にそんなに買う気はないぞ」
「気にしない、気にしない。色々持ってきたから嵩張ったけど、全部買えなんて言うつもりないって」
抱えてきた物はほぼほぼ、魔道具製作関係のものだった。
1つ1つ説明を受けながら、アカーネが吟味する。
「そっちの道具は、それなりに良い物を揃えてくれ。といっても、金貨2~3枚が限度だ。良いか?」
「金貨2枚も!? はい、分かりました!」
アカーネは目を輝かせて向き直った。
こっちは、魔道具製作道具以外のもの、戦闘用の魔道具を適当に検分する。あ、マジックシールドの腕輪がある。
「これ、いくらだ?」
「銀貨10枚だよ」
「よし、買おう」
そうなると、また魔石が必要になるな……。追加で10個買う。
「アカーネ、マジックシールドの魔道具だ。付けておけ」
「はいっ」
上機嫌なアカーネが腕を差し出すので、付けてやる。
製作道具の方は、金貨2枚と銀貨30枚ほどで収まった。収まったと言える金額なのかは微妙だが……。
「そのお嬢ちゃん、チョイスが玄人だよね~。けっこう作れるんじゃない?」
「いえ、まだまだです」
ジローが褒めているので、選んだものは悪くないようだ。投資に見合った成果を頼むよ。
「アカーネ、あくまで予想でいい。この道具を使うと、どんなことができるか教えてくれ」
アカーネに説明をさせようとしたら、ジローが割り込んできて説明をしはじめた。
「そのへんの道具はね~、魔道具製作3点セットだよ。これで魔力の流れを引いて~、こっちので焼き印みたいに形を整えるわけ。腕のいい人ならこれだけで、ちょっとした魔道具が作れるよ。あとは魔導水とか、消耗品を作るためのこれね。一々買ってたらいくら使っても足りないから、マトモな技師は簡単に作れる物は自分でどうにかするわけ」
「へ、へぇ」
「で、何を出来るかだっけ? お嬢ちゃんの選んだもので、そこそこの腕の人が使えば、魔石の加工だけじゃなくて金属なんかを加工して魔道具化できるね。といっても、相応の魔石とか、素材とか必要になるからタダでってわけじゃないけど。あと、そっちのは術式付与のだよね? 作れるの?」
「あ、はい一応。実際にやったことはあまりないけど」
「ふぅ~ん。まあ、これも一応道具のポテンシャルって意味で解説しておくとね。自分とか、協力者の使う術、まあ魔法とかのスキルだね。一部のそれの効果を転写して、魔道具にすることができるよ。ただこれ、それに相応しい素材と付与方法を見極めないと無理だから、知識的にも技術的にも相当に難しい話。出来る前提で頼むんじゃなくて、経験を積ませて出来ることを増やしてあげた方がいいよ」
「あ、おう」
一応大事なことなので理解をしようとしたが、早口すぎて右から左。
あとでアカーネに補習してもらおう。
「えーと、つまり、簡単にまとめると、だ。素材があっても、正しい知識と技術があれば色んな魔道具が作れるようになったってことでいいのか」
「いいんじゃない?」
熱弁していた割に軽い!
まとめると魔道具を作れるようになった、って、当たり前の結論になってしまった。
「正しい知識とか、技術とか、どうすれば良いだろうな」
問題はそこである。やはりどこか、学校にでも通わせないとか?
「う~ん。技術は最悪、失敗しながら自分でやっていっても良いけどさ。知識はどうだろうねぇ。本を探して修得するってのが手ごろかなぁ、大変だけど。そうだ、1つだけ上げようか」
「いいのか?」
「よ~く考えると、商売敵を応援しているようなもんだけどねぇ。やっぱ同業者のタマゴってのを見ると、応援したくなっちゃうから」
ジローはそう照れ臭そうに笑ってから、一冊の本を取って戻ってきた。
「これ」
本のタイトルは『魔道具学 基礎全集』。タウンワークくらいで、結構分厚い。
「あっ、これお爺ちゃんの家にあった!」
「ほお」
「お葬式の後にはどこに行ったか分かんなくなっちゃったから、多分売られたんだと思うけど……たまに読んでたみたいだから、ためになる本だと思う」
「そうか、……ジロー、ありがとな」
「ありがとうございますっ!」
「いえいえ、どーいたしましてだよ。これは基本的なことが丁寧に書かれてて、いっちょ前になっても使える良い本だよ。大事に勉強してちょ」
「はいっ、もちろんです」
大事そうに本を抱えたアカーネと、購入した道具を伴って『イマニ・ムーニュ』を出る。
今日は着物羽根男が出て来なかったから、いろいろとサービスしてくれて助かった。
きっとまた、後になってあの男が「もっと金を取れただろ」とか頭を抱えるのだろう。……ドンマイ。
帰り際に、防具も見繕う。
金貨1枚以内の予定だったが、魔道具店で思ったよりも散財したため。少し控えめに、ボロくなった革鎧の胴当てを新しくし、ブーツを鉄板入りのものに替えた。銀貨40枚ほどの出費である。
胴体防具は、ヨーヨーサイズのものは割とありふれているので、探しやすくていいな。
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