第102話 強制
朝起きて、なんとなくステータスチェックしたら、『警戒士』と『隠密』が寝ているうちにレベルアップしていた。
『隠密』は護衛任務中にもアップしていたので、短いスパンでのレベルアップ。今回は意識的にジョブを設定し、スキルを使ってみていたからだろう。帰りに、小走りで急いだにも関わらずエンカウント率が低かったのは、『隠密』のスキルを使用していたおかげだと思いたい。
だが今回の目玉は『警戒士』のほう。レベルアップと同時に、ようやく新スキルが生えたのである。
*******人物データ*******
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(21)魔法使い(16)警戒士(13↑)
MP 47/47
・補正
攻撃 F-
防御 F(↑)
俊敏 F
持久 F+
魔法 D-
魔防 E(↑)
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値微増
火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法
気配察知Ⅰ、気配探知(new)
・補足情報
隷属者:サーシャ、アカーネ
隷属獣:ドン
*******************
これである。
「気配探知」とな。
……「気配察知」と被ってない?
「スキル説明」で選択。
『気配探知:任意の方向の存在を探知する』
うーん。
簡潔すぎて参考にならないやつ!
とりあえずスキルを意識して魔力を動かそうとしてみたら、スキルが作動したのが分かった。
しばらく試行錯誤した際に分かったことが2つ、いや3つ。
①魔力を消費して任意の場所を探知するっぽい。
②消費魔力は自由に設定できそう。
③おそらく、探知の対象は「生物」が基本。非生物(建物の壁とか)は薄っすらと分かる程度。
ということで、おそらく「気配察知」よりも能動的に使えるのがウリの情報収集系スキルと思われる。そして魔力消費を自由に動かせるスキルというものは経験上、使い方の自由度が高い傾向にある。
『剣士』の「強撃」のように、一定の魔力で一定の効果を発揮するような、効果が半ば固定されたスキルは扱いが楽な反面、応用が効きにくく使える場面が限定されるという短所がある。
「気配察知」はどちらかというと後者、「強撃」のような効果固定側に寄った印象であった。慣れればより広域から精密な情報が得られるようになる感じはあったから、拡張性が全くないわけではないのであるが。基本的な使い方は「周囲の動的反応を察知する」以上の機能がない。
魔力消費がかなり穏やかという点も長所としてある。
気配探知でどこまでのことが出来るかは分からないが、ほぼ常時展開しておける「気配察知」と、能動的により詳細な情報を得るための「気配探知」という使い分けになるのかもしれない。
なんにせよまずは、スキルの仕様を実験していくしかあるまい。
さて、ついでに『隠密』のときのステータス補正はこちら。
*******人物データ*******
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(21)魔法使い(16)隠密(5↑)
MP 39/39
・補正
攻撃 G+(↑)
防御 G+(↑)
俊敏 F-
持久 F(↑)
魔法 E
魔防 E-
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値微増
火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法
気配希薄
・補足情報
隷属者:サーシャ、アカーネ
隷属獣:ドン
*******************
地味にステータス補正が上昇してきている。
スキル「気配希薄」は、正直どこまで効果があるか掴み切れない。
なんたって、自分以外に効果があるスキルだから、なかなか実感がないのだ。
サーシャが効果ありだと言っているから、それを信じているわけだが。
アカーネは「よくわからない」らしい。
ステータスチェックを終えたので、従者二人を呼んで今後の作戦会議をする。
議題は、今日はなにをするか。
「忌憚なく意見をどうぞ」
「ご主人様。ギルドには行くのですよね?」
「ああ、そうだな」
「それでしたら、大丈夫です。そろそろ話をしておくべきかと考えていました」
「話? あ、ピーター達とか」
「はい。まだ剣の部の決勝がまだなので、どうなるかは分かりませんが」
「ま、そうだな」
期間後の狩りで、何を狩るかまだ決めていない。伝言の有無を確かめにギルドに行きつつ、何もなければ一度打ち合わせのために集まるようにこちらから伝言してみるか。
それは、それでいいとして。
「他にやりたいことはある?」
「帰ってきたばかりですから、休みたいところではありますが。一応、丁度いい依頼があれば受けるべきでは」
「そうだな、まだ資金に余裕があるわけでもないし。アカーネはどうだ?」
「えーっと、特に? ありません」
「そうかぁ」
服の替えや消耗品の買い出しなんかは、出る前に買っていたし、まだ必要ない。
ギルド行って、訓練場を借りて多少アカーネを鍛えてから、今日はゆっくり過ごすか。
「後は、ギルドでもう一度調べものをしたいですね。サザ山の魔物の情報などは、なかなか一度に覚え切れませんでしたから」
「真面目だな、サーシャは」
だがありだ。次の狩りではがっつりと稼ぎたいからな。情報収集していこう。
とりあえず、都合の良い依頼があった場合に備えて完全装備にして、ギルドに出掛けてみるか。
************************************
「おー、お前さんたちどこ行ってたんだ?」
「シュエッセンさん」
ギルド前の通りで、サーシャの胸に飛び込んで来るエロ鳥と遭遇。
「ちょっと知り合いの護衛依頼でな、北に行ってきた」
「ふぅん」
「ピーターは?」
「いるぜ~」
通りの奥から、人ごみを避けつつピーターも姿が現わす。
「よお、ピーター。丁度良いトコで会った」
「そうだな、そろそろこちらも連絡しようかという頃合いだった」
「伝言の必要はなくなっちまったな……いや、ラムザには必要か」
「彼には酒場で会えるんじゃないか? ま、一応連絡を入れておくに越したことはないが」
「じゃあギルドに入りますか。今日は暇なのか?」
「ああ、見たい試合もないのでな。少し話を詰めるか」
「ああ」
ということで、2人と合流してギルドに入る。
受付にはウサミミ受付嬢のイリテラさんが居た。アタリだ。
「こんにちは~」
「どうも、イリテラさん。最近伝言ないかな?」
「ヨーヨーさんにですかぁ。んー、なさそうですねぇ」
「そうか、ありがとう。あと会議室を借りたい」
「はい~。あっ、ヨーヨーさんかぁ、あと後ろにいるのはピーターさんに、シュエッセンさんですねぇ? 少々、お待ちを……」
「んっ?」
イリテラさんが奥に引っ込んでしまって、しばしそこで待つことになった。
10分も経ってから二階から見たことのない男の人が降りてきた。角が生えた中年の渋い男である。
「君がヨーヨー君かね」
「はぁ、そうですけど」
「一応、ここでギルド長をしている者だ」
「ギルド長!? あー、初めまして」
「これはどうも。それでヨーヨー君、それに後ろの『白肌』もいいかね?」
「……なんだ?」
ピーターは無表情にそう応じるが、態度から面倒くさそうにしていることが見て取れる。
「うむ、今から、ギルド内で依頼の説明がある。そこに諸君も参加してもらう」
「何?」
「どういうことだ?」
「うむ。いわゆる強制依頼だ」
「はぁ?」
強制依頼? そんな制度があったとは初耳だ。
「待て、ギルド長。私もギルドに属して長いと自認しているが、そのようなものがあった試しもなければ、新しくできると説明されたこともない。拒否できないのか?」
ピーターも初耳のようである。
ギルド長は、軽く肩を竦めるようにしながら動じることなく応じる。
「拒否は、できない。そして初耳と言う話だが、それも当然だ。つい先日、いや先程できたものだからな」
「なんだそれは? 横暴ではないのか」
「うむ。横暴とも、理不尽とも言えるな。だが仕方がない。王家があるといえば、あるのだ」
「……上が絡んでいるのか」
ピーターが厄介そうに唸る。
「ちょっといいか? 断った際のリスク、罰則みたいなものはあるのか? つい先ほどできた、という話からして、まだ規則があるわけではないんだろう」
「……それはそうだ。断ったからといって犯罪となるわけでもない。ただ、以降のギルドからの扱いは相応のものとなる。それを考えて受けてほしい」
「面倒だが……断るのも面倒なことは分かった。で、強制というのはどこまでだ? 説明を受けるまでか。つまり、説明を受けて依頼を断ることは可能か?」
「分からん。だが、基本断れないと思うべきだろうな。でなければ『強制依頼』にする必要があるか?」
「……」
言葉を失って、後ろを振り返る。
無表情のピーターを除き、皆が一様に不安そうな表情を浮かべている。
そんな中で、口火を開いたのはサーシャであった。
「ご主人様、私は受けるべきと思います」
「理由は?」
「上からの強制を断ることは、簡単に身を滅ぼします。もちろん、あまりに理不尽なことには抵抗を示すべきですが……現状、説明も聞かずに帰るリスクは非常に高いと思います。私の過去の経験から、そう考えます」
「……なるほど」
アカーネを見ると、不安そうな表情で視線を散らしている。意見を求めるのは酷というものだ。
「分かった、とりあえず俺たちは受けよう。ピーターたちはどうする?」
「……仕方なかろう、案内を頼む。ギルド長」
「ああ、感謝する」
ギルド長はどこかほっとした様子で頷くと、「こちらに着いて来い」とだけ告げると歩きだす。さて、何が待っているのか……。
************************************
「ここだ。中に入って待っていてくれ。間もなく説明が始まるはずだ。ああ、途中で偉そうな格好の者が入ってきたら、実際に偉い。くれぐれも対応に気を付けろ」
「……了解」
扉を開けて中に入ると、中には後援会のように椅子が綺麗に並べられ、前の檀上にはまだ誰もいない。
とりあえず日本人の習性?で、後ろの方を確保して腰を下ろす。
と、右後ろの端に座っていたのが知り合いだと気付いた。
「おい、テエワラ! あんたも呼ばれた口か」
呼びかけると、テエワラは瞑っていた目を開け、こちらを向いた。
見知った顔だが、しばらく見ない内に随分と、なんというか、やつれたというか、陰のある顔になったというべきか。どんより、という擬態語が聴こえてきそうな様子になった。
「ああ、あんたらかい。そうか、あんたらも呼ばれたかい……。よろしく頼むよ」
そこに、シュエッセンがその肩に飛び込んでいくと、ガンを付けるようにテエワラの顔を睨んだ。
「テエワラ、お前さん何か知っとるな? これはなんの集まりだ、ああ?」
「……」
「テエワラっ!」
「耳元で叫ぶんじゃないよ、全く……。たしかに、色々と知ってしまってはいるがね。どこまで話して良いのか分からないんだ。大人しく説明を待ちな」
「ケッ」
「待て相棒、そうきつく当たるものではない。テエワラ、貴女がらみということは……孤児院、いや『龍剣旅団』絡みか」
「……」
「その沈黙は肯定として受け取っておくぞ」
「……好きにしな」
テエワラが目を逸らして、会話が途絶える。また置いてけぼりにされている。
「おい、少し説明してくれ。そもそも気になっていたんだがな、テエワラと『龍剣』って関係あるのか? もうそろそろ教えてくれいいだろう。どうだ?」
「……」
「ヨーヨー、そりゃ儂から説明してやるぜ。テエワラ、構わないよな?」
「……好きにしな」
「ヨーヨー、テエワラが普段、稼いだ金をどうしているか。知ってるかよ?」
「知らない。話の流れからすると、それが孤児院に?」
「正解だぜ。こいつはテーバに来てから長い事、孤児院に金を流している」
「孤児院って、あの、北の貧困地区にあるやつか?」
「そうだ、知ってんのか。ああ、『龍剣』絡みで調べたか? そこだけじゃないが、そこにも随分と支援していたそうだぜ」
「へぇ」
テエワラをチラリと見るが、口を真一文字に結んで何かを覚悟しているようである。
普通に美談みたいだが、何が問題なのか。
まあ『龍剣』絡みなんだろうけれども。
「で、あの孤児院は『龍剣』に卒院生を送り込む、まあ人材供給拠点みたいなもんだ。団長があそこ出身だからな」
「あー、それで、孤児院を支援してきたテエワラとも仲が良いということか」
「少なくとも、周りからはそう思われてる。実際は微妙みたいだけどな? テエワラ」
シュエッセンがテエワラの頭を手で突くようにすると、テエワラが深く息を吐く。そして目を瞑って、口を開いた。
「……だいたい、今聞いたとおりさ。でもね、あたしはあくまで、孤児院の、親を失った子を支援したかっただけで、『龍剣』を支援する気はなかった。むしろ、やつらの幹部連中からは少し嫌われている気がするね」
「何故だ? 『龍剣』との関係を除いても、出身者なのだから、支援してくれるのは有難いだろう」
「そうだけどね。あたしと、あそこの院長先生は、子供たちを『龍剣』が引き入れて、戦いに駆り出すことにずっと反対してきてね。煙たがれてもいたんだよ。結構ね」
「……ははあ」
ちょっと事情が見えてきた。
『龍剣』は孤児院の出身者が幹部をやっていて、構成員にも多い。そこを支援してきたテエワラとも縁が深い。ただし自分が支援してきた子供を兵隊に取られるテエワラは『龍剣』に必ずしも好意的ではない。ただ、顔見知りが多いから影響力はある。といった関係か。微妙だな。
「だけど、そんなことは外から見たら分からないことだろう? 最近『龍剣』が馬鹿をやりだしてから、関係筋からあたしへの接触、というか疑いもあってねぇ。あんまり関わらないようにしてたつもりだったけど、結局最後はこうなるね」
「最後?」
「……喋りすぎたね。でも、シュエッセン。ピーター。あんたらにも言っておくけど、あたしは『龍剣』の側の人間じゃないよ。それを証明したからこそ、ここに居るってわけ」
「……」
ピーターとシュエッセンは何か考えをまとめているのか沈黙してしまい、話はそこで終わった。
サーシャも思案気な表情をしているので、考えることがあるのだろう。とりあえず暇になったので、アカーネのほっぺをもちもちしながら待機する。
アカーネは相変わらず不安そうな表情を浮かべているが、もうなるようにしかならんだろ。不安になるだけ無駄だ、と言っても響くわけがない気がしたので黙ってほっぺを揉んでおく。
また随分と待たされてから、前の扉から人が大勢入ってきた。
後ろからは断続的に人が入ってきていて、いずれも魔物狩りのようだったのだが、前から入ってきたのは明らかに様相が異なる。簡素な、しかし高級そうな鎧を身に着けた人が数人。それから、豪華な鎧に、水鳥のマークが入った布を羽織った形の完全武装した人たちが周りを囲んでいる。
簡素な鎧を着た数人だけが椅子に座り、残りはそれを守るように配置に着く。
「皆の者、大儀である。こちらにおわすは、御台付左官ベルジャルート様である。本日はシルベザード殿下御代のアルサス公の名代としてこの場に赴かれた。この場は私が取り仕切るが、不用意な真似をすると周りの怖い者らが対処することになる。気を付けよ」
「……」
流暢に話がされ、最後はどこか冗談めいた口調だったのだが、笑った者はいなかった。というか、どう反応して良いか分からないといった雰囲気。
「おほん。で、だ。本日は魔物狩りギルドから諸君への依頼という形で作戦に参加してもらうということで、説明を行う。宜しいな?」
「……」
断るという選択肢はたしかになかったらしい。もう受けること前提で進んでいる。
「了承と見做す。では簡単に経緯を説明するぞ。おい」
「はっ」
後ろに控えていた鎧姿の1人が前に出て、立ったままこちらを睥睨する。
「諸君らが今回の作戦に参加する栄誉を受けたことを祝福する。とはいえ、突然のことで事情の呑み込めていない者らも多いと聞く。簡単にではあるが、本官より経緯を説明致す。傾聴せよ」
「……」
「返事はっ!」
「「「はい」」」
不揃いにではあるが、勢いに押されて皆肯定の意を示す。
「諸君らは一時とはいえ、王命の下に働く栄誉を賜ったのだ。腑抜けでは困るぞ。まあいい、説明に移ろう。今回、諸君らが参加する作戦は、当地の武装集団である『龍剣旅団』の拠点の捜索と排除である」
鎧男の力強い言葉が、場に響いていた。
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