第95話 ミス
一回戦よりもより大きな波となったざわつきに包まれる。
正対するは、褐色の肌をした小柄な男性。手には長剣サイズの木剣。
「いざ、参る!」
わざわざ宣言をしてから攻撃してくるようだ。
剣を振って何かを飛ばしてきたので、避けながらファイアシールドで受け止めてみる。ジュッという音とともに相殺される。威力はそれなりにあるようだ。
続けざまに魔法を放ってくるので、ステップをして避けながらファイアシールドで丁寧に迎撃する。その間、火球を生み出して身体の周辺を浮遊させ、防御態勢を整える。
ラチが空かないと思ったのか、前に踏み出しながら大きく剣を振りかぶってくる。まだ、剣の射程には程遠い。さらに大技の魔法かな、と思って見ていたら、剣の振りとともに剣先から光が伸びるようにしてこちらへ向かってきた。これが言ってたやつか!
最初の一撃は横にずれて空振りとなったが、そのまま横薙ぎに振ってきたものは避け切れない。ファイアシールドは一瞬で壊れ、とっさに剣で受けたものの、力の余波のようなものが飛び散って浴びてしまった。
なかなかの攻撃力のようだ。防御魔法を見て、これなら死にはしないと判断したのかな?
「チッ」
しかも厄介なことに、態勢を整え直している間に再び剣を振りかぶり、また剣先から光を伸ばしてくる。連発可能かよ。
先ほどとは逆に、剣で受けて、余波を防御魔法で防ぐ形でしのぐ。しのぐ。その間に火魔法と、土魔法らしき飛ばす斬撃を放ってくるので、そちらも防御魔法で何とか防ぐ。
火魔法にはファイアシールド、土魔法にはサンドシールド。
あちらがじりじりと間を詰めてくるので、こちらはじりじりと後退。場外まで行ってしまうと、場合によっては失格だ。逆に飛び込んで白兵戦にするか、魔法の撃ち合いを制するか決断しなくちゃならない。
射程が長い魔法が厄介なのだから、白兵戦が正解なのかもしれないが……そんな単純な対処では、相手も対応を織り込み済みのはず。
そして、相手が『魔剣士』であるということは、剣技もそこそこ仕込まれているはず。さて、どうするか。
少し余裕が出来て魔弾を撃ち返すと、あちらはそれを剣で弾くようにして対処する。
防御魔法は苦手かな。それならやりようもあるか……。
再び相手が剣を振り、光を伸ばす――。
右手を軽く延ばし、防御魔法を構築。だが、これまでとは一味ちがう。
土魔法をベースに、水魔法をその表面にコーティングするように、そしてその前に火魔法による層と、風魔法による層を形作る。
名付けて四重結界――と思ったが、既に名前は付けられていた。エレメンタルシールドというらしい。
きっちり練り上げたエレメンタルシールドは敵の伸ばす光を受け止め、追撃の火魔法、土魔法も受け止め、残存していた。
「よしっ」
お返しに水球を浮かべ、敵に向かって乱射する。
持久戦だ。そしてこちらのエレメンタルシールドは、相手の攻撃を寄せ付けない。先に魔力切れしなければ勝ちだ。相手の伸ばす斬撃は魔力効率がいいとは思えない。どうするかな?
「あっ」
もはや半ば作業ゲーのようになりつつ、次の展開に備えて観察していたところ、水球を迎撃しそこねた敵が態勢を崩し、そこに水球が3つ、立て続けに胴体へと命中した。
「……勝負あり」
勝っちゃった。
敵が焦れて、こちらに近づこうとしたタイミングと、水球のタイミングが被って、慌ててミスした敵が自滅したっぽい。なんというあっけない幕切れ。
審判に促され、立ち上がった相手と軽く握手をする。
握手には応じたものの、物凄く不満顔でこちらを睨み付けてきた。いや、俺もあれで終わるとは思ってなかったどさ。ミスした自分を恨めよ。
ワアアア、という歓声に背中を押されながら会場を去る。戦いとしては地味というか、消化不良な感じであったが、観客は第一試合のときより盛り上がっていた。魔法の撃ち合いというのが派手で見応えがあったのだろう。
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「これがファイトマネーだ。勝っているうちはこちらで預かっておくことも出来るが、どうする?」
「もらっておくよ」
「そうか。じゃあ、銀貨20枚だ。数えてくれ」
「……たしかに。割と多いな?」
「明細も聞いておくか?」
「あるのか? 一応頼む」
「了解。ええと、明細、明細……ああこれ。はい。では言うぞ、初戦が基本給3枚に、勝利給が5枚。追加が1枚だ。二戦目が基本給3枚、勝利給5枚、追加3枚。計20枚。もっと細かく聞くか?」
「いや。ただ、追加ってのはなんだ?」
「追加は、まあ、簡単に言やおこぼれだ。運営がやってる公式の賭け札の儲けが一部勝者に還元されている。あ、知っているとは思うが、身内が賭けるのは違法になるから気を付けろよ。それで失格になった例もある。勿体ないぞ」
「あー、なんか聞いた気がする。大丈夫だ。つまり、賭けで運営が儲かれば、その一部が勝った方に来るってことか」
「そうだ。まあ、実際の計算は分からんが、要は札が売れた数に比例してファイトマネーが増える仕組みだ。一応、八百長防止の取り組みの一環だ」
「八百長防止……身内が買えないのもそれか」
「そうらしい」
八百長防止はともかく、銀貨20枚が入った革袋を受け取る。ずっしり。
「登録料みたいなのが12枚だったはずだから、8枚の儲けか」
というか、初戦勝利だけで終わってたら赤字だったじゃねぇか。
「3回戦からは基本給も上がるし、勝ち上がれば賭けるやつも増えてく。せいぜい頑張ってみろ」
「ああ」
手続きをしてくれたおっちゃんに礼を良い、入り口でサーシャたちと合流する。
「おお、おめでとうさん!」
「なんか呆気なかったねぇ?」
シュエッセンとテエワラが声を掛けてくる。
後ろにはサーシャとアカーネが静かに……何か持ってるな?
「ん? 食い物か」
「はい。テエワラさんに奢って頂きました」
「お、そうか。悪いな、テエワラ」
ポップコーンみたいな軽食をそれぞれが1つずつ胸に抱えている。アカーネの方はまだかなり残っている。
「自分が食いたいついでだよ。でもあんたの勝負が早く終わりすぎて、ご覧の通りさ」
「早くったって……長引いても10分なんだから、そこまでか?」
単なるイジりのようなものだったのだろう、突っ込みに対して笑うだけで、特に答えないテエワラ。
「さっきファイトマネーも貰ったんだが、何とか黒字になったよ」
「お、そうかい。ちなみにいくらだったんだい?」
「言っても良いもんかね? まぁ、いいか。合わせて銀貨20枚だった」
「ん~、20枚か。妥当と言えば妥当だけど、ちょっとしょっぱいかも?」
「そうなのか?」
「他の部で本選まで残れば、勝って20枚くらいはいくよ。1試合だけでね。だから単純に言って半分くらいかね? まあ、その分予選がないからアレだけど」
他の部だと、会場でやる本選が始まる前に、予選がある。
そちらは勝っても銅貨50枚とかの額しか貰えないらしく、そう考えれば2試合で銀貨20前後は破格に高いとも言える。考え方次第というところだ。
「っていうと、本選で3回とか4回とか勝ち上がっているピーターの報酬は凄い上がっているんじゃないのか?」
「そうだぜぇ。細かい内訳は知らねーが、去年は金貨単位で貰ってたはずだぜぇ」
相棒たるシュエッセンがあっけらかんと暴露する。
「まじか」
そう言えば、最初に会ったときに「金稼ぎ」にテーバ地方に来ているとか言ってたっけ。大会で腕試しをしつつ、魔物狩りで金を稼ぐのかと思っていたが、闘技大会での稼ぎも「金稼ぎ」に含まれているのかもしれない。
話題は先ほどの試合に移る。
「エレメンタルシールドは役に立ったみたいだねぇ」
「ああ。テエワラに習って良かったよ」
護衛任務に向かう道中、テエワラに習った技がこれだ。といっても、テエワラ自身が使えるわけえはなかったので、どういうものかを聞いて、自己流で再現しながらアドバイスをもらった程度だが。
魔力はジャブジャブ使うが、一度発動させればしばらく安全だ。といっても、シールドを迂回してくるような攻撃には無意味だが、今回の相手は攻撃が単調で助かった。おそらく、あの伸ばす攻撃で決着するか、そうでなくとも敵の行動を縛り、主導権を握る戦法なのだろう。ゲバスのように不規則な軌道を取るようなトリッキーな攻撃は必要ないわけだ。
たしかに、防御魔法がなければあれを捌くのは至難の技。攻撃には自信があったはずだ。
「にしても、適当に撃った攻撃で決着するとは思っていなかったがな」
「まあ、あれがいかにも『魔剣士』って感じだけどね。攻撃は強力で苛烈、だが防御がからっきしってね。いかにもな相手だったろ」
「そうなのか? 『魔剣士』って貴族の十八番なんだろう。防御魔法こそ有用なんじゃないか?」
「どうだろうねぇ。有用といえばそうだろうけど、普通貴族が攻撃の矢面に立ったりしないからねぇ。配下の防御職の者にフォローさせて、自分は派手な攻撃で戦果をあげる。それが貴族の戦い方さ」
「なるほど。たしかにそれが貴族っぽいな」
テエワラは苦笑しながら首肯した。
テエワラが補助系の魔法使いなのも、お偉方の支援をやらされてきたからか。
「さて、ファイトマネーが入ったなら奢ってもらおうかねぇ」
「まじかよ」
「対価は、次の対戦相手の情報でどうだい?」
「……乗った」
やっと黒字になったこの大会。
もう1勝できれば、間違いなく参加してよかったということになろう。
「もう夜だし、酒場かねぇ」
「イヌミミマスターのとこでいいか」
「イヌミミ? ああ、『満月』のことかい」
「そうそう、そんな名前だったな」
今夜はサーシャたちも連れて、イヌミミマスターのところで美味い物を食おう。
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ろうそく一本、立ち上る火が風で軽く揺れる。暗くなった室内でじっと考え事をしていると、寝巻を着たサーシャが中に入ってきた。
「ご主人様、寝ないのですか?」
「ああ、ちょっとイメージトレーニングをな。次の相手は、アレだからなぁ」
「難しそうなお相手です」
サーシャと連れ立ってベッドルームに向かう。アカーネは既に夢の人だ。
起こさないようにそっと潜り込んで、目を瞑る。考えるのはやはり、次の戦いのこと。
情報は色々と手に入った。
今日だけじゃなく、色々と噂は聞いていた。だが、実際にどう戦うのかと言われると、想像しにくい。相手がどう戦うのかも、実際に見てみないとイメージできない部分もある。
さて、どうするか……。
なんといっても、次の相手はクジを引いたとき見掛けた、あの変人。
「人形遊び」さんである。
……マジで、どう戦えばいいんだろうか?
色々と考えたり自分でダメ出しをしたりしているうちに、いつの間にか夢の世界へと旅立っていた。
************************************
翌朝。
今日は一日フリーである。次の試合は明日までなく、かといって狩りに出るほどの余裕もない。
街でぶらぶらしつつ、明日の作戦を立てることにした。
サーシャが昨日、抜け目なくテエワラとシュエッセンから街の美食情報を入手していたようなので、今日はぶらり食べ歩きツアーでもするか、ということになった。サーシャの食い付きっぷりがはんぱなかった。
そこまでの熱量はないものの、甘味巡りもしようと言ったのでアカーネも少し楽しみにしているようだ。笑顔かわいい。
「まずはテエワラさんに聞いたカフェに行きましょう。低予算でおしゃれな雰囲気を楽しめると評判らしいです」
「ほう、任せる」
お店選びはもう、サーシャペディアに放任だ。
宿から出て10分ほど、裏通りにある小さな店に入って座る。
「確かにシャレオツだな~」
ウッドベースで、天井から模型みたいなものがいくつもぶら下げられている。よく見ると魔物をデフォルメしたものもある。ただし、実物よりも「魔物攻略本」に書かれているような見た目に近い。後はなんかの魔道具っぽいものとか、剣を持った人の像みたいなものも……。
上はカオスなのだが、それが不思議と調和していて、オシャレっぽい。下のテーブル周りは清潔で、酒屋にあるような何かの沁みのようなものは一切ない。
窓がステングラスのようになっていて、色とりどりの光が飛び込んできている。
「期待が持てますね」
「こういうとこ来たの、初めてかも……」
慣れた様子でメニューを物色するサーシャさんに、どこか緊張した様子のアカーネ。
「ほう、パンケーキ? いいですね、これにしましょう」
「今日は色々食べるし、シェアするか?」
「……そうですね、そうしましょう。アカーネ、いいですか?」
「はい」
「それじゃあ、この一番人気のパンケーキというやつにしましょう。……三人で食べるので、大きいサイズで」
「ああ」
理性との葛藤の結果、サイズで調整することにしたらしい。
まあ大食い企画というわけでもないし、好きに食べればいいんだけれども。
「わお、おいしそーう!」
「うん、いいですね」
出て来たのは確かにパンケーキ。かなり分厚い。そこにバターが乗せられ、何かの蜜がたっぷりとかかっている。見るからに甘そうだ。
一口だけもらうことにして、口に入れる。
うーん、甘い。
ほぼ日本のパンケーキと同じだが、違うのは掛かっている蜜の味か。
甘いのだが、どこか酸っぱいという塩梅だ。なんだろう、これ?
「すみません、掛かっているものは何ですか?」
サーシャが積極的に店員に説明を求めている。流石だな。
「大蜂の蜜ですよ~」
「大蜂ですか。この辺に出るのですか?」
「いやぁ、輸入もんだよね。蜂系の魔物も出るし、蜜のある植物系の魔物もいるけど、うちのケーキに合うものを探したら結局、大蜂になっちゃってね~」
大蜂、というのはテーバ地方にはいない小型の魔物の名前らしい。
普通のはちみつよりもフルーティーな風味が付き、食道楽には定番の一品だとか。
「なるほど、勉強になりますね」
「お嬢さん、良い喰いっぷりだねぇ」
冗談めかして店員の女の子が言う。
サーシャさん、それを勉強して意味あるんでしょうか。
「このお茶との組み合わせもいいですね、さっぱりします。いいお店ですね」
「ありがとう~ございま~す!」
きゃぴきゃぴする女性陣。アカーネだけは会話に入るタイミングを逃したようで、愛想笑いを浮かべながらケーキを口に運んでいた。美少女なのに、コミュ障っぽいよね。これまで、孤独っぽかったからか。
二軒目に寒天のようなものを甘い汁に付けて食べる店に向かい、ここでもサーシャが店員さんと美食談義を展開する。アカーネはやはり空気。
そしてそろそろ屋台のものでも食うか、とメインストリートに向かっていたところで、事件は起きた。
「そこのあんちゃんよ? 美人さん2人も連れて、良い御身分じゃぁねぇかぁ?」
「……ん? 俺に話し掛けているのか?」
「ああんっ!? ナメてんのかテメェ!」
絵に描いたような絡み方をしてきたのは、3人組の鎧姿の一団。どこかの戦士団員を思い出させるつんつん頭をした、剣を持った、軽薄そうな男であった。
「おお」
なんか怒りというよりも、「こういう絡み方するやついるんだ!」みたいな感動を覚えてしまった。ただ、その態度が挑発となってしまったようで、つんつん男がボルテージを上げる。
「ああ!? やんのか、こらぁ……」
「おいおい、こんな往来で喧嘩するつもりか?」
「……喧嘩で済めば良いがよぉ」
男がスラリと剣を抜く。後ろの仲間2人は加勢もしないが、止めもしないらしい。ううむ、これどうするのが正解だ?
次に男が動いたら魔法を発動させようと、魔力を練ったところで後ろから声がかかる。
「そこまでだ、動けば斬る」
「ああん!?」
「分かった。衛兵か、あんたら?」
「いや、違うが似たようなもんだ」
そう言いながら割って入ってきたのは黒い鎧で統一された一団。
腰に差した剣に手をやりながら、主にあちらの男を牽制するようにする。
「おめぇら新入りか? こんなとこで騒いだら『龍剣』が来るって聞かなかったかぁ?」
「『龍剣』だぁ?」
集団の1人が、あちらの男を押さえつけるようにしながらそう言った。
『龍剣』て。『龍剣旅団』かよ。こんなところで。
あっちのつんつん男は知らないようで、何様だとかわめきながら取り押さえられている。
「そっちの兄ちゃんは大人しいもんだな」
こっちに来た黒い人が言うので、首肯する。
「ルーキーみたいなものだが、『龍剣』くらいは聞いた事がある」
「そうかそうか。ま、あっちが絡んでたようだし、あんたはあっちと違って普通に話ができそうだ。悪いようにはしねぇよ」
「ああ。それにしても、『龍剣』って衛兵もしているのか?」
心証は悪くなさそうだったので、疑問なところをひとつ訊いてみる。
「おう。まあ、自主的な見回りだな。このへんと、奥の通りは俺たちのシマだ」
「シマ、か」
ストリートギャングみたいなもんか?
「ここは色んな荒くれどもが集まる街だからな。俺たちみたいなのが治安を守ってやるってことよ」
「……じゃあ、無償でやってるのか?」
「まぁな。多少はおこぼれをもらったりもしてるみたいだが、俺たちみたいな末端は少なくとも、完全なるボランティアだぁね」
「大変だ」
「だな。まあ、俺たちにとっちゃ地元だからよ。他にやるやつもいねぇしなぁ」
質問に答えてもらったところで、先ほどの出来事について軽く説明する。といっても、いきなり絡まれてキレられたという他には、なにもないのであるが。
あちらの事情も聴いて、どうやら俺たちに非がないと判断されたようで、特にお咎めもなく解放された。
「そっちの女性は恋人かぁ? この時期あんまり連れ歩いてると今みたいなバカや酔っ払いどもに絡まれるぜ。気を付けな」
「ああ。世話になったな」
そこから予定通り屋台へと向かい、粉ものを中心にお昼にする。クレープ的なものもサーシャとアカーネが買ってきていた。まだ甘いものを食うんすか。俺はこの、焼きそばとたこ焼きみたいな何かだけで足りそうだ。
「にしても、今の『龍剣』は感じ良かったな? 聴こえてくる評判はいっつも悪いものだと思っていたが」
「そうれふねぇ。んっ」
口に含んでいたクレープを飲み込んで一服。
「……大きな組織のようですから、色々な人がいるのでしょう。地元の人が多い傭兵団だと言っていましたし」
「言っていた、ってテエワラ辺りか?」
「はい、テエワラさんです。どうやら、ここで生まれ育った人たちが作った傭兵団が母体となって、『龍剣旅団』になったというお話のようです。ですから、自警団みたいな働きもしていたのでしょう」
「……なるほど。それがどうして、魔物狩りギルドと反発するような動きをしているんだろうな?」
「それは……詳しいことは分かりませんが。テエワラさんの言い方を考えると、貴族の代理戦争のようなものに巻き込まれたような話でしたね」
「貴族の? あー、厄介そうだな」
少し興味が出たので、サーシャが聴いた事と、そこから憶測したことを最初から説明してもらった。
要は、あれだ。利権の奪い合いに関わっているらしい。
もともと、テーバ地方では傭兵団が魔物狩りに多大な貢献をしてきて、在地戦士団とも関係を築きながら魔物利権を構築してきた。
『龍剣』は古参というわけではないが、大きくなる過程でそこに食い込む形で成長してきたらしい。
そこにきて、王家肝煎りの「魔物狩りギルド」がテーバ地方に現れた。
当然、伝統的な利権を守りたい勢力と、ギルドに利権を移そうとする権力者との衝突が起こらないはずがない。それが今、ギルドと『龍剣旅団』の確執となって表面化している、という話である。
うーん。なるほど。わからん。
「そうすると、ギルドに加入して恩恵を受けまくっている俺は、ギルド側の人間ってことになるのか?」
「……そうかもしれません。最近、ギルドに加入している人間をよく勧誘しているようですから、そうしてギルドの力を削ぎたいという作戦なのかもしれませんが」
「なぁるほど。色々納得したが、だからといって何か出来るわけでもないな。傭兵団に入る気もないし」
「そうですね。傭兵団に入らずにやっていくのなら、魔物狩りギルドのような組織が利権を取ってくれた方がやりやすくはあります。クロスポイントで指名依頼を受けたように、たまに協力すれば十分ギルドの力となるのでは?」
「そうだな。そこまで肩入れするつもりもないし、それで良いとしよう。そう考えよう」
そんな話をしてアカーネを見ると、難しい顔をして、リンゴ入りのクレープとクリームたっぷりのクレープを食べ比べていた。
うん、どっちも美味しいと思うよ。
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