第94話 地味

闘技場の壁を見上げる。

天気は曇り。晴れやかさはないが、日差しがきつくなく、気温は寒すぎずと運動にはもってこいの状況である。ピーターの試合を見に行った闘技会場よりも一回り大きく、貴賓席がない代わりに貴賓用の臨時城内塔がわざわざ建設されている。


闘技場の入り口を潜り、サーシャに荷物を預けて出場者用の手続きを済ませる。

貴重品のほとんどは異空間にしまっているが、残りはサーシャだ。有料で鍵付きロッカーを借りることができるらしいが、どこまで信用できるものか分からないので借りなかった。一日銀貨1枚とか地味に高かったこともある。

サーシャたちは今日、シュエッセンやテエワラたちと行動を共にするように言ってある。彼らと一緒にいれば、そうそう危険なことに巻き込まれないだろう。


「お気を付けて」

「が、頑張ってくださいっ!」

「おう」


サーシャとアカーネに軽く手を振り、係員に案内されて控室へ。

手前が更衣室になっており、そこで支給された衣装に着替えて奥に行くといくつもドアがある。試しに1つを選んで先に進むと、椅子がいくつも無造作に並べられただけの一室がある。一瞬、中にいた者たちがこちらをちらりと見るも、すぐに目を逸らした。

何人かで固まって駄弁っている連中と、目を瞑って無関心さを示す連中がいる。

ツレなどいないので、当然後者の一員となって気配を消す。


「……おめぇ、部屋違くねぇか?」


同じく置物と化していた岩みたいな肌をした男にそう言われる。


「えっ? 部屋とか決まってんのか」

「やっぱりか。お前の番号が見えたからよぉ、おかしいと思ったぜ」

「おお、すまんな。で、どこで部屋が分かるんだ?」

「入り口で貰った木札に番号が彫ってあるだろう? それに従って、部屋の入り口で分けられてんのが分かるはずだぜ」

「そうか、助かった。勘違いしてたわ。行くとするよ」

「ああ」


親切な岩男に礼を告げて外に出る。

……たしかに部屋番号のように、番号が表札で案内されてるわ。そんな説明あったっけな?


「1048、1048……っと。ここか」


最初に入った部屋の2つ右の部屋に入る。

ちなみに、1048という数字は1048人目という意味ではなさそうだ。自由型に参加する人数はそんなにいないからだ。ケタが違う。自由型を表すのが「10」で、そのなかで「48番」と振られているのかもしれない。


ガチャ……


ノブを回して入ると、こちらの部屋は先ほどと違って、皆静かだ。

椅子が乱れておらず、綺麗に並んで座っている。

全員ぼっち組のようで、無言のまま目線すら寄こさない。

こっちの方が緊張感があり、集中するには有難い。


また石像の1体と化して、精神集中をする。




どれほど経っただろうか、ドアを開ける音で目を開ける。

入ってきたドアではなく、逆側に付いている押して開くタイプのドアだ。どうやら、あちらが会場へと行くのに使うもののようだ。


「1040、出番だ」

「はい」


先に部屋にいた石像仲間が1人、立って奥へと向かう。さらに奥にあるドアが開かれた瞬間、会場の喧騒のようなものが一瞬漏れ聞こえる。

出番は近い。




「1035、1048、出番だ」

「おう」

「ああ」


俺よりも遅れて入ってきたおっさんが俺の相手のようだ。

事前に仕入れた情報によると、槍使いらしいが……。


部屋を出ると、他の部屋にも繋がっている通路を抜け、舞台裏へと通される。

そこには無数の武器、大会用の木製武器を並べられている。


「事前に申請された武器があるはずだ。探して取れ」


そんなシステムかい。

幸い、俺の長剣サイズのものと、相手の槍サイズのものは目立つのですぐに見付かった。

というか、なんだあれ。明らかに木で出来た人形のようなものあったんだけど……。間違いなく「人形遊び」用の武器ということなんだろうな。武器なんだなぁ。


「準備はどうだ?」

「万全である」

「ああ、ちょっと待った。短剣サイズのも……ああ、あった。大丈夫だ。完了」

「万端のようだな。では、ここを開けたら会場へと直進しろ。待機する場所は分かるか?」

「円形の模様の端に立てばいいんだよな?」

「そうだ。赤い印が1048番だ。青い印がもう一人。問題ないよな?」

「ああ、たぶん」

「では開けるぞ。全力を尽くせ、戦士よ」


最後、ちょっと芝居かかった言い草をしてから、係の人がドアを開け放つ。ここまでの雰囲気から事務的な感じかと思ってたら、ノリノリじゃねぇか。楽しそうで何よりであるな。


一歩進むごとに、会場の喧騒が近付いてくる。

まだ一回戦だ。そんなに盛り上がっているはずもないのだが、観客席で丸っと囲まれた中心に出て行くわけだから、圧のようなものを感じる。

スポーツ選手ってこういう気分で試合に出て行っていたのか。


会場に姿を現すと、人々のざわめき、声のうねりのようなものが1トーン上がったように感じる。


シュエッセンらが何か言ってくれているかもしれないが、全く分からない。ざわめいている、ということだけ頭に響く。


「双方、構えて立てっ!」


既に会場に立っていた白装束の男……おそらく審判が、よく通る声でこちらに指示をする。

円形の模様に目をやり、印を探す。赤い印……あれ? 青だっけ? どっちだっけ。

少しまごついていると、審判が「そっちが赤だ。早くするんだ」と小声で催促してくる。


いかんな。雰囲気に飲まれかけている。平常心、平常心。


赤い印の場所に立って前を向く。既にセットしていた相手がこちらを睨み付けている。

ピリつくような闘志が叩き付けられる。


「これよりH組、第3試合を行うっ! 両者準備はいいなっ!? それでは、尋常にはじめぃっ!」


スッ、と槍使いが槍を構える。

槍使いのおっさんは無精ひげを生やした武芸者然とした男で、ひげのせいで中年のように見えるが、よくよく見るとそれなりに若そうである。無精ひげというと不潔に見えそうなものだが、ベースが北欧風美青年という感じなので不潔というよりはワイルドな風貌。おのれ。

その棒で一体何人の女性を突いてきたというのか。許せん、倒そう。


槍使いが槍をおもむろに突く。そこから? と、いうことは……。


バチィンッ……!


あぶねー、あぶねー。

こちらが身体の前に張った「ウォーターシールド」が何かを弾く。

かなり視認性が悪く、たぶん風系の魔法かな。


お返しに、両手から魔弾を放って攻撃する。

こちらと同じように様子を見ていたのだろう、難なくそれを躱し、さらに追撃の魔弾を撃ち込むと槍で薙ぐようにして相殺された。


判定用の木片に、魔弾がどれくらいの威力と判定されるのかはよく分からない。もともと威力はかなり低いはずだから、当たっても大したことはないだろう。しかし、あちらからすると当たるのはリスクが高いだろう。

少なくとも、アカーネが持っていたような魔力感知や、魔力視のようなスキルがなければ、どれほどの威力があるのか一瞬で看破するのは困難なはずだ。


それを確かめるために、初手を魔弾にしてみた。

案の定、あちらは丁寧に攻撃を避け、迎撃し、警戒を高めている。

大剣を選択したが、こちらが実は遠距離で戦うタイプと思ったかもしれない。

そうなると、大剣はブラフか、それとも本当に得意なのか……。大いに悩んでくれるとやりやすいのだが。


「シッ」


こちらが時折連射する魔弾を気合いとともに一閃すると、そのままクルリと身体をターンさせながら距離を詰めてくる。白兵戦に持ち込むことを決意したらしい。


こちらも剣を構えて迎撃する。

と、槍の突きと見せかけてこちらの剣を払い、石突で殴るように……そして石突を突き出すように槍をしごき出してきた!


脇腹から肩にかけて槍がまともに突き入れられる。

やるな!


魔弾で牽制し、また距離を取ってから審判をちらちと見る。

何かを言う仕草はない。どうやらまだ判定負けには至っていないらしい。ふぅ。


水の球をいくつか創り出して身体の周囲で滞空させる。

相手はじりじりと距離を詰めながら、再び槍で突く動作を見せ、槍の先から風の刃が飛来する。

すぐに水球の1つを変形させシールドにすると、ブシュという音とともにそれらを受け止め、崩壊する。

名付けるなら……なんだろ。ミニ・シールドボール? サテライト・マジック? なんかそんな感じ。


「器用なことをするな」


ここまで無言で戦ってきた男が口を開く。

会話をする感じではなく、ぽつりと漏らした感じだったのでスルー。まあ、ここで会話を求められてもスルーを決め込むけれども。

相手は完全に白兵戦に勝機を見出したようで、牽制として風の刃を繰り出しながらタイミングを図り、主にこちらが魔弾を放った直後くらいに飛び込んでくる。


身体の周辺を巡回させている水球での迎撃も試しながら、それを凌ぐこと数回。

こちらの水球に干渉されるかと警戒し、その瞬間に逆にカウンターを、などとコスいことを考えていたのだが。あいにく、相手はそれほど魔力干渉というやつが得意ではないらしく、水球は軌道を見て避けるのみである。あるいは慎重にこちらの出を見ているのか。

仕方ない、こちらから仕掛けるか。


大きめのウォータシールドを展開しながら、相手の槍を止められないか試す。

結果、一瞬でぶち破られる。そしてこちらの大剣による突きはあっさりと捌かれ、ピンチになりそうなので身体強化で後ろに跳んで回避する。


やっぱダメか。


どうやら槍の先に魔力を集中させているらしく、ウォータシールドに触れた瞬間に爆散するように散ってしまった。

それは相手のヒントにもなってしまったらしく、風の刃を突き出すのではなく、直接的に槍を突き入れてくるようになった。

先ほど突きを食らったのと逆、右肩にも相手の槍先が掠める。

まだ審判の判定はない。セーフだ!


無理矢理に巻き込むようにして剣と槍での鍔迫り合いに持ち込む。

乗ってきたが、力も強い! 身体強化を何度も使いながらで、なんとか五分の勝負だ。


「ぐっ……」

「ふぅんんん!」


相手が一層力を籠め、槍先がグググ、とこちらの頭の方向を向く。

そして、そのまま回転するように地面に向き直る。


「なにぃっっ!?」


流すようにして相手の身体を避け、そのまま頭に剣を振り落とす。

怪我させないようにと思ったが、咄嗟の事で力を加減できない。大丈夫だと思うが。


「そこまで、勝負ありィッ!」

「よしっ!」

「な、なにが」

「……」


解説してやる義理もないのでそのまま礼をして、背中を向ける。

何とか凌いだな。初戦がこれかよ。


「ぬぅ、地面に穴? 土魔法か」


相手が言っているのが聴こえる。

そう、最後に使ったのは土魔法。鍔迫り合いになったとき、手からではなく足から魔力を流して、小さくでも陥没を起こすことができれば。

避けるのは困難だと思ったのだが、これが狙い通りいった。

足から魔力操作、これが最近練習していたことの1つである。

この技術は、今後の魔物狩りでも絶対に役立つと思ったので、結構頑張った。やはり役に立ちそうだ。


これを決めるには障害が2つあった。1つは、会場の石畳が硬土と同じく、魔力を通しにくい素材だということ。一度魔力を通した堅土ほどではないので、力技でなんとかした。もちろん、事前に一度やってみて、できないことはないと結論していたから、やった。

2つ、そこまで精密に操作できるわけではないので、転んだ時にどうなるかが予測できない。

上手い事隙が作れたらラッキーというわけである。これはもう賭けだが、相手は予想外に足元が崩れるのだから、こちらに有利なことが起こる方が圧倒的に多いだろう。そう考え、やってみたが見事に隙を見せてくれた。「鍔競りあったらやろう」と決めていたので、実際は考えを巡らすより先に身体が動いた感じであったが。いや、なかなかに薄氷の勝利だった気がする。


あのまま白兵戦が続けば、勝てる気がしなかったし。

槍ってのは戦いづらい。そう実感させられた。



************************************



「お疲れ様です」

「おつかれさまです」


出口に近づくと、サーシャとアカーネがこちらに気付いて頭を下げてきた。


「ああ、おつかれ」


サーシャはピシっとした動きで姿勢を正すが、その胸には余計な大きい鳥が抱えられている。言わずもがな、『暴れ鳥』ことシュエッセンである。


「よーぉ、勝ったじゃん」

「まあな。薄氷だったが」

「そうかぁ?」


サーシャとアカーネの奥には、テエワラもいる。面白そうに笑って出迎えてくれた。


「やるじゃないのさ、ヨーヨー? あたしにも言ってない隠し玉があったみたいだねぇ」

「んんっ、最後のか? 隠し玉というか、単なる土魔法だがね」

「あれが普通かい? 器用なことに、足から魔力操作してたんじゃないかい?」

「そうだが、珍しい事なのか?」

「割とそうだよ。まあ全身どこからでもって人もいるけど。普通は杖とか、発動具を介するわけだからそんな練習はしないよ」

「へぇ」


発想としては平凡だと思うのだが、レアな魔法のやり方だったようだ。だからこそ奇襲にもなって、裏を突けたわけだ。


「さて、次の試合まで時間はあるかい?」

「ああ。午後の2つ目の鐘までに戻れば良いってよ」

「割と余裕はありそうだね。また飯屋でも行くか」

「あのテエワラの知り合いがやってるとこか。空いてるのか?」

「商売っ気がなくてねぇ。普通気付かないような場所にあるし、このかき入れ時でも普段通りだった話だよ」

「それは売り上げに貢献せねばなりませんね。ご主人様。是非行きましょう!」


サーシャがぐいぐいきて、先日も行ったテエワラお勧めの店に再訪することになった。



「俺は……サーシャと同じでいいや。サーシャ、好きに選んでくれ」

「かしこまりました。……困りましたね、前とメニューが変わっています。ここは日替わりでメニューを換えているのですか?」

「いやぁなんかね、飽きたら換えるとかで、不定期に別のメニューになるらしいよ。変な店だろう?」


テエワラがそう言って肩をすくめる。確かに、地球でも聞いたことがない適当さだ。

いや、おすすめコースしかなくて、中身が日によって替わるみたいな店はあったかな? だいたいお高いところなイメージ。


「この魚の揚げ煮にしてみましょう。アカーネはどうしますか?」

「えっと、うーん。この、野菜コロッケ……」


アカーネは前回も食べたハンバーグを探していたようだがメニューから削除されていた。次点でコロッケにするようだ。人のことを言えるわけではないが、完全に味覚が子供である。


注文を終えてから、話は闘技大会のことに移る。


「次の相手はどっちになったんだっけ?」

「んー、なんか、普通の魔剣士って感じのヤツだったぜ」


自分の次の試合が、次の対戦相手の試合でもあったのだが。帰って色々と手続きを熟していたら完全に見逃した。なので、続けて試合を見たらしい見学組の話は有難い。


「珍しさはなかったけど、これといった弱点もない。まあー、普通の魔剣士に見えたね」

「普通の魔剣士が分からん」

「ええっ? まあ、なんだね。剣技を中心にして、途中で魔法を入れ込んでくるっていうか……」


常識的?なことを聞き返されてややしどろもどろになりながら、テエワラが説明してくれる。

それを引き取って続けたのがイロボケ鳥のシュエッセン。


「あいつは、どっちかっていうと魔法を放ってくるというより、剣先から伸ばしてくるってタイプだぜ! どっちが厄介かは微妙じゃけんど、間合いに注意しろよ!」

「間合いか。うん、ありがとう」


ちなみに次の試合は、昼飯休憩を挟んで午後。同日に2試合あるのである。

初戦が不戦勝になるやつはそこから出てくる感じになる。そうなると勝ち進みやすいが、ファイトマネーが入らないので一長一短。単に金が欲しいだけの俺としては1回戦があってよかった。

1回戦に勝ったことで、おそらく大幅な赤字は避けられたはずだ。


「……」


緑色の肌をした子供が無言のまま皿を置き、去っていく。この店のウェイトレス(たぶん)である。

さて、サーシャが頼んだのは魚の揚げ煮だっけ? 揚げ煮ってなんだろう。手を合わせて手を付ける。



揚げ煮。

素揚げした白魚の切り身を煮物に投入するというよくわからない料理だった。不味くはない。地球に似た料理があったかはちょっと分からない。

まあそれはいいとして、ほどほどに腹も満ちて、シュエッセンとテエワラの先輩コンビに軽いアドバイスなど貰いながら食事を終えた。



************************************



「先ほどと同じ部屋でいいのか?」

「そりゃそうだろう」


入り口で一応確認をしてから、先ほどと同じ控室に。

控室の数が多すぎるのは何だろうと思ったが、どうやら別の種目用の控室もあるらしい。

途中で、同じ日に違う種目をする日もあるので、別々に部屋を取っているとのことだ。シュエッセンが良くあることだと言っていた。


控室に入ると、相変わらず静か。一回戦で敗退した者がいなくなり、代わりに知らない人もいる。不戦敗やシードの結果、二回戦から戦う人たちだろう。


「……」


何も言わないまま壁近くの席を確保し、イメージトレーニングをする。


「おい、お前。1048番」


どれくらい経っただろうか、不意に声を掛けられて目を開ける。

後ろの入り口の扉が開き、運営側の制服を着た人物がこちらを見ていた。


「なんだ?」


仕方なく立ち上がって、入り口まで移動して小声で確認する。


「少し良いか」

「ん、ああ」


駄目とも言えず、別の個室へと連れられていった。


「で、なんだ?」

「お前、一回戦で土魔法を使い、石畳に穴を開けたか?」

「ああ、やったな」

「やはりそうか……」

「駄目だったか? 一応、始まる前にルール確認もしたのだが」

「そうらしいな。いや、やったことに問題はない。ルール上、抵触する部分もないしな」

「では……なんだ?」

「既にやったことについて咎めることはない、安心していい。ただ、次からは控えて欲しい」

「え? なんでだ?」

「分からんか? 簡単に言えばな、整備が大変なんだ」

「……ああ」


なんかすごく納得してしまった。


「ただでさえ、魔法を受け付けにくい素材なんだ。壊す以上に、直すのは難しいんだよ」

「だが、今までも壊れることはあったんだろう?」

「そうだ。だからこそ、攻撃の結果石畳を壊しても問題にならない。試合前に問い合わせを受けたという者も、その認識で回答したのだろう」

「あー、つまり。故意に石畳を破壊することを目的とした魔法行使になると、問題と?」

「そうだ。意外に思うかもしれんが、今まで石畳を操作した者は私の知っている限り記録にない。そして石畳を操作して良いとなると、一部の魔法を使えるものが有利となりかねん。そう判断された」

「あー、うん。理由を聞いたら納得しないでもないし、あれはもう使わないことにするよ」

「そうか。すまないな、後出しになってしまって。想定外のことが起こった場合、こういった要請はままあることなんだ。この件に限らずな」


ゴネられると思っていたのか、安心したような表情を見せる。土魔法による足元破壊が、この大会のために練りに練ってきた作戦だとしたらゴネるのが普通なのかもしれない。

ただ、何となく思い付いただけの、そして切り札というほどでもなかったからそんな気は起きない。まぁそうだよな、という感想である。


「実を言うとな、制限する方向に話が進んだ理由の1つは、地味さだ」

「地味さ?」

「競った相手の足元を崩すのはまあ、技術的に大変なことをしているのかもしれない。ましてや、魔法を通しにくい素材でやっているのだからな。ただ、やっていることが高度だったとしても、見た目が地味だろう? 観客から見たら、なぜか片方が勝手に転んで終わっただけに見える」


そう言われると……地味だな。

なるほど、派手さを推奨している自由型に相応しくない技だったということか。

なので、修復が大変な件もあって、止めさせろという指令が上から出された……と。

……なんかすいません。


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