第93話 ルール
「皆、よく集まってくれた」
部屋の前に座って何やら準備をしていた集団から1人、こちらに向き直るとそう話し始める。黒人っぽい見た目の男性だが、額から大きな角が生えている。
「時間も限られているから手短に話そう。まずルール確認をして、くじをした者から帰ってもらう」
そう。今日の集まりは、大会ルールの確認と、くじで対戦カードを決定するためのものなのだ。
サボってもいいが、そうすると勝手にくじが引かれる。それはそれで別に良いのだが、ルール確認は一応聞いておこうかと思って参加した。
サボった人と、別会場の人もいるそうなので、クジを引いたところで必ずしも対戦相手が明らかになるわけでもない。ただ、こうして自分で確かめながらクジを引けますよ、とすることで公正性をアピールしているようだ。
クジの前に、まずはルール確認が行われる。
これは事前に文書で説明があるし、ギルドでいつでも確認できるようになっている。ただ、ここでは前回大会からの変更点や特に重要な部分など、注意が必要な部分をピックアップして説明してくれるようだ。
それも含めて、ここで大会のルールを確認しておこう。
まず、大会の形式はトーナメントである。剣の部よりも参加人数がだいぶ少なく、3回も勝てればベスト8に進出する。しかも、人が埋まらなかった枠が対戦相手になった場合、不戦勝となる。シード選手がいっぱい居るようなものか。ベスト8になった時点で対戦相手がシャッフルされる。そのため、事前に当たる選手を調べておいて、というのは少しやり難くなっているようだ。トーナメントを途中でシャッフルするのは、剣の部でもやっていたな。この世界だとスタンダードな手法なのだろうか。
試合の進め方については、剣の部のそれと似通っている。
ただし、ユニフォームに貼り付けられる木片の数は少なくなり、基本的に胴体を攻撃されると有効打になるようだ。
審判が勝利判定をするか、10分経過で試合終了。時間切れの際は事後に審判が勝敗判定をする。
剣の部と大きく異なるのが、飛ばすスキルや魔法など、割となんでもアリなところだ。事前申請が必要なのは同様である。
今日の説明でも、相手を怪我させた場合には相応の責任が生じると念を押された。
「競技中の事故」を装って攻撃などしようものなら、普通にしょっぴかれるということだ。
そして、相手の使うスキルについてなのだが、事前に知ることはできないらしい。
今大会で使用申請のあったスキル一覧は閲覧できるらしいのだが、どれがどの参加者のものなのかは分からない。もちろん審判は知っているので、申請にないものを使ったと判断された瞬間、反則失格となる。
さて、肝心の俺が申告したスキルは……。
火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法である。
『魔法使い』として参加するつもりなので、『魔法使い』のスキルを申請しておいた。
身体強化魔法はともかく、魔弾はどうだろうと思ったが……。
殺傷力のない攻撃という意味では、重宝するかもしれないと思って申請しておいた。
申請は問題なく通ったわけであるが、問題なく通ったことで分かったことが1つ。
めっちゃアバウト。
火魔法って、ファイアボールもあればファイアウォールのような防御魔法も、俺は使えないがファイアストームのような環境破壊できそうなレベルの魔法もある。だが、スキルとしては同じものを使うので一括りにされている。そして、それで申請としては十分なのである。
仮に俺の使うスキルの情報がどこかに漏れたとしても、「魔法を使うんだなぁ」くらいしか分からないであろう。
そして、スキル一覧は閲覧できるといっても、他の人がどのような戦い方をしてくるのか予想して対策を立てるのは困難だということだ。
ここに集まっている人たちも、いったいどんな風に戦うのか、あまり予想できない。
あまり、というのは、シュエッセンやテエワラたちへの取材によって話を聞いている人もいるからだ。今、誰がその人なのかの判別はついていないのだが、1人だけ間違いないだろうと思う人もいる。
なんか大量の人形を並べて遊んでいた人だ。
あれ、たぶん『戦芸団』の『人形遊び』って呼ばれてた人だわ。
そこは『人形遣い』じゃないの? と思っていたが、確かに『人形遊び』だ。もちろん、二つ名がそれなのであって、ジョブが何なのかは分からない。それこそ『人形遣い』というジョブがあっても良いような気がする。『念動士』の派生とかでありそうだと思う。
武装については、剣の部と同じように、指定されたユニフォームに魔道具の木片がくっついたものを着用する。武器もそれ用のものを指定し、大会側が用意したものを使う。
例えば俺は、「大剣サイズのもの」とサブウェポンとして「小剣サイズのもの」を指定して用意してもらうことになる。
武器破壊を狙うことはできず、試合の流れで折れた場合は流されることもあるが、基本的には壊れた時にすぐさま取り替える。
……ということだ。
今年からの変更点として、部位破壊の判定が簡略化された、らしい。
剣の部などでは、例えば右手を斬られたと判定されれば、それ以後右手を使ってはならないというルールがあった。自由型でも同様のルールを採用していたのだが、それを簡略化するらしい。
その分、腕などに攻撃を受けた際は審判の勝敗判定に響くようにしてバランスを取るらしい。
どうやら自由型は、こまけぇことはいいんだよ!! という路線を貫くことにしたらしい。
勝敗判定に影響はないが、スキル使用のときに派手な演出をするのは歓迎すると説明された。なんだそりゃだよ。
さて、ルール確認も一通り終わり、順番にクジを引くことに。
逆ハー集団や人形遊びの人なんかがまず動くので、絡まれないようにと存在感を消して待ちに徹する。20分から30分ほど経っただろうか、人も閑散としてきたタイミングで席を立つ。
「おう、兄ちゃん、早く引きな」
ガタイの良いクジ係のおっさんに言われて箱に手を突っ込む。丸いものを取って出すと「H-7」と書かれたボールが見えた。
「Hの、7、ね。もう行って良いぞ」
おっさんが書き込む紙をちらりと見たが、他の人の名前は小さくて見えなかった。
これで公正アピールになっているんだろうか? 疑問だ……。
午後は魔法使いギルドに寄り、黒目のゲバスと魔法模擬戦を行う。
大会参加まで連日、場所代の使用料折半でやらないかと誘ったら乗ってくれたのである。乗ってくれたのがゲバスだけだったとも言う。
ゲバスは、魔法の発動後に軌道を逸らすというような一風変わった技術を持ち合わせているし、人間性はともかく魔法使いとしての能力は確かなので、結構タメになる。
何でもアリの自由型での戦いにどこまで役立つかは未知数だが。
「フホホホホ! 貴方、短い間にも上達しておるではないですか~!? 重畳、重畳!」
「そりゃどうも」
相変わらず鬱陶しいテンションだが、もう慣れた。
最初に人見知りだからと言っていたが、顔見知りになってもそんなに変わらない。テンションが半分くらいに落ちた感じがするが、もともとが異常に高いので、半分であっても十分に煩いのだ。
「何が通用して何が通用しないのか。少しだけだが分かってきたよ」
「それも重畳。しかし自由型の参加者は魑魅魍魎、千差万別! 油断大敵なるぞ!」
「それは分かってる……んだけどなぁ。よく分からんジョブのよく分からんスキルとか、どう準備すれば良いのか謎すぎるわ」
「そうだな。それが醍醐味でもあるがねぇ」
「ゲバスも、参加したことはあるのか?」
「うん? ふむ。吾輩は色々出ておるぞ。自由型も面白そうなので一度出たことはある! ボロ負けだったがなぁ!」
「えぇ……あんた割と強い感じしたんだけど、負けたのか?」
「評価は嬉しいが残念ながら! ね! 吾輩、面白い魔法の使い方を開発するのは得意なれど、戦士タイプは苦手にしててなぁ。多少の被弾覚悟で突っ込まれると弱い、弱い!」
「ああー」
たしかに、魔法戦だと苦戦するものの、白兵戦に持ち込めば割と瞬殺である。というか、近づかれるとゲバスはすぐ諦める。
「好きなのは自由型なれど、成績が良かったのは普通に魔法の部であったな!」
「魔法の部だと、どこまで行ったんだ?」
「ふむ。 3回戦突破までだな。微妙だな! 微妙であろう!?」
「3回戦ねぇ。割と凄い気もするが、参加者が自由型より多いと考えると、確かに何とも言えないくらいか?」
「ぶははは、正直である! まあ正直微妙なる! 成績だ。もうちょっと勝ち進めれば、スポンサーが付いたかもしれんのだがなぁ! だが、面倒事も増えたろうから何とも言えんかね」
ゲバスにも歴史あり。
参考になるかは微妙だが、ゲバスが参加したときの自由型の対戦者の情報も教えてもらったりしながら、時間を過ごした。
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