第59話 任務開始

「どの方向から魔物が来ても、盾持ちが前に出る。まずは前線の構築を優先し、突出は厳に慎むこと。攪乱(かくらん)が必要な場合は外にいる3班のうち、それ用の訓練を受けている者が受け持つ。ここまでは大丈夫だろうか?」


隊長殿ことアルメシアンが、初めてまともに並んで戦うことになる俺たちに配慮して、基本から確認を始めてくれる。部隊の配置としては、中央にいる魔法班、つまり俺やフィーロ達が固定で、前と左後ろ、右後ろに他の3班が展開して護ることになる。だから、俺たちは下手に動くなということだ。当然の内容である。


「いつもと異なるのは、全周警戒と探索を継続する点だな。中央以外の3班は常に緊張を強いられるし、交戦班への素早い援護と、他の敵への警戒を両立する必要がある。盾、槍は決まり事を守り、残りは班長の判断を優先して回せ。いちいち私に上げる必要はないぞ。そこがいつもと大きく違うところだ」


これは正規の隊員たちへの注意確認だな。なんか敵地への潜入ミッションっぽい。


「隊長、俺たちの班は?」

「フィーロの班はセンカが指揮を取るだろう? いつも通りで良い。私への報告を簡略化するくらいだな」

「了解」


とりあえず大男のセンカさんに従っておけば良いらしい。単純で結構。


「では具体的な話に移るぞ。まずはヨーヨ―殿、大方で良いので、どのような魔法が使えるか教えてもらっても?」

「あーっと、そうですね。ファイアボール、サンドニードル、後はウォール系は実戦的なレベルで使えます。得意なのはウィンドウォールかな? 攻撃よりも防御魔法の方が少し得意かもしれないです」


あと何があったっけ? ……バシャバシャも言っておくか。隠しておいてどうにかなる魔法じゃないし。


「少々準備の時間があれば、地面をぬかるみにして足を取る……正式名称は忘れましたが、水と土の複合魔法も使えます」

「ほう、マッドかな? 優秀なことよ」


あれ? もっと正式名称ややこしかった気がするけど。でも「マッド」か。分かり易くていいな。俺の中では「バシャバシャ」で定着してしまったが……。


「それに、そうすると、火、土、風に水も……基礎4属性は全て多少なり使えるということになるまいか?」

「ああ、そう言われればそうですね。属性を色々使うのはまずいですか?」


全然意識していなかったが、挙げた例が属性を制覇していたようだ。知られても、特に問題はないよな?


「いや、珍しいが責められるようなことではない。そのまま4属性使いを目指してみるのも面白いだろう。……と、脱線したな。攻撃魔法を使う際は、一言言葉にしてからにしてくれ。できれば、使う魔法の種類まで口に出してくれ。それで対処が変わるケースもないとは言えない」

「事前に魔法の名称を口にすれば大丈夫と」

「そうだ。ただ、そうだな。防御魔法が得意なのは嬉しい誤算だ。ヨーヨー殿は、基本的にウォール系を中心に援護することに主眼を置いてくれるか。援護の経験が豊富なフィーロが牽制、ヨーヨー殿が防御魔法で支援してくれればそうそう簡単には崩れないと思われるな」

「それは良いですが。防御魔法、他人に付与するような真似は出来ませんが、構いませんか?」

「そうだな。そこまで求めるのは求めすぎだ。敵の攻撃が飛んで来たときに、フィーロや弓使いの面々を出来るだけフォローしてくれ」

「了解しました」


固定砲台かと思いきや、ウォール係に任命されてしまった。常時発動はMPがいくつあっても足りないから、タイミングを見て発動するのが難しいと言えば難しい。


「もちろん、態勢が整って反撃するか、こちらから先制攻撃できる場合は攻撃魔法を撃てるように用意をお願いする。物理抵抗が強い魔物が居た場合、魔法使いが頼りになるからな」

「そうですね。後は普段は剣を使いますが、前に出なくても良いのですか?」

「ふぅむ。『魔剣士』の打撃力を恃(たの)むこともあるかもしれん。用意はしておいてくれ」


イエッサー。防御魔法優先で、白兵戦や攻撃魔法の準備をしておけと。こうしてみると、実は普段の狩りとそこまでやることは変わってないかもしれん。

防御魔法で安全に戦いつつ、サーシャの弓と魔導剣の攻撃力に期待する。みたいな。すぐに頭に血が上って突撃してしまう癖はあるが。


「ヨーヨー殿とフィーロは基本、それだけで良い。他はこちらが合わせる。他の者の連携を確認する間、フィーロからハンドサインや各種合図をヨーヨー殿に教えてくれ。一通り覚えて、使えると確認できるまでは、出発は差し控える」

「まじですか……」


いきなりだよ。叶うのなら3日前の依頼受付のときに、一覧表みたいなものを渡して欲しかった。


「ちょっと大変だが、一度覚えると何かと便利だぞ。やろう、ヨーヨー」

「うい」


フィーロに拉致されて、サーシャと並んでお勉強の時間を過ごす。一度でほぼ完ぺきに憶えるサーシャに驚愕。優秀すぎんぞ。



************************************



何とか学習を終えた俺は、アルメシアン隊の面々と一緒に、クロスポイント西の出口から出発する。

少し歩くとすぐにカンセン川が流れている。そこで左に曲がって南下していくのがこの部隊の基本ルートだ。

川に沿って歩くと、大きく蛇行している場所に行き着くので、そこで川を離れる方向に進むと野営地があるという。

まあ、今日そこまで辿り着くのは不可能に近いということだが。


いざ出発の段になって、大きな荷物を抱えた見知らぬ男たちが合流してきた。聞けば、道中の荷物運びを担う雇われ人のようだ。俺たちの少し後ろに追随してくる。


「川辺に着いたら昼食にするゆえ、急ぐぞ」


隊長殿の号令で、整列して門を出る。

川に着くまでは、整備された道を進むので快調だ。というか、少し速くて疲れる。大きな荷物を背負った荷運び人たちは付いてこられるのだろうかとチラリと後ろを振り返ると、全く問題ない様子でスタスタと歩みを進めている。そりゃそうか、その道のプロなんだろうし。余計な心配だったようだ。


「そういえばフィーロ、防御魔法の練習はしているのか?」

「お? ああ、まあまあね。防御魔法ってか、雷以外の属性も使えるようになろうと思って、土魔法の練習はしてんよ。なかなか上達しねぇけどなー」

「そうか。防御魔法となると、土が手堅そうだからな」

「それもあっけど。単純に、俺っちに適性があるのが火と雷以外だと土くらいしかないっていうか。土だと他と被るから、最初は水にしようかと思ったんだけどねぇ?」

「そうか、それは……ん? 被るって何だ?」


思わず首を捻ると、しまったという表情で軽く舌を出すフィーロ。


「あんまし人の能力を勝手に話すのもマナー違反なんだろうけどよぉ。土魔法なら使い手がいるってか、一応」

「土魔法を? ……今回、魔法を使えるのはフィーロと、俺だけだろう? あ、南東に派遣された奴の中にいるとか?」

「あー、いやいや。違う違う。ケルスメメ、話して良い?」


俺たちのすぐ前を行くケルスメメ少年に話しかけるフィーロ。こいつ、前衛職にしては小さいとは思っていたが、『魔法使い』だったのか?


「まぁいーけどさー。こっちもヨーヨーの使える魔法とか、聞いていたわけだしね。でも、あんまり考え無しにペラペラ喋るの止めた方が良いよ、本当に」


ケルスメメ少年は前を向いたままため息を吐く。


「わりーわりー! ま、そんなわけでケルスメメ君も土魔法をちょっとだけ使える。でも『魔法使い』じゃない。バラすのはここまでな!」

「むう」


気になるな。土魔法を使える『魔法使い』以外。『土魔法使い』か? でもなんか、魔法職としてカウントされていないっぽいから、そういうのとも違うような。『魔剣士』みたいに、前衛+魔法の派生職の何かかな。

戦士団って実戦を繰り返しているわけだからレベルも上がりやすいだろうし、色々な派生職の人がいそうだ。

それなりに仲良くなっておけば、そういう話を聞けたりはしないかね。


「右前方に、赤牛のようです。数は……3」


前方に注意していたツブラカが報告を入れる。釣られて視線の先を見ると、斥候役の男が手を振って何か合図しているのが見える。魔物を視認したわけではなく、斥候役からのハンドサインを読んだようだ。


「やり過ごせそうだが、討伐任務中だし、狩っておくか」


センカがそう言い、前方を固めていた班に指示を出す。赤牛かぁ。肉が旨しだったな。今晩は贅沢できるかな?

少し経って、大剣使いがいる班から3人が討伐に向かった。このグループ、ゲームであるような幅の広い大剣を背負った2人組がかなり目立つ。勝手に頭の中で「大剣班」と命名しておく。大剣使いの片方がトカゲ男のような見た目なのだが、そうでない方がリーダー格のようだ。

ちなみに、隊長殿がいるグループは「隊長班」、そのまんまだ。残りの1つは特に特徴がないので「普通班」と命名。俺たちは「魔法班」だ。中央班でもフィーロ班でも、何でも良いんだけどさ。

30分程経って、次の休憩に入ったころに、大剣使いが合流した。1頭分の肉も軽く処理してきたというから、かなりの早業だ。手早く済ませたから、ちょっと血生臭いかも知れないが、と大剣使いのおっさんが言っていた。

昼に食べるのかと思ったが、料理担当らしい人が何やら処理する時間があるとのことで、夜に回すらしい。


「こういうのは手間を惜しんで不味くなっても勿体ねぇからな」


と笑う料理担当は、もう1人のトカゲっぽい大剣使い。どういう人物なんだ?


昼過ぎになって目的地の河原に辿り着くまで、遭遇した魔物はそれくらいであった。テーバ地方にしては異様に平和だなぁと思っていたが、街道沿いだとこんなものなのかもしれない。

飯はそのまま、開けた場所で保存食を食べる。とは言っても、初日は足の早いものを食べるので、そこまで保存食って感じはしない。持ち運びに便利な、携帯食といった感じだ。

硬めのパンに、香辛料のきいた肉と野菜を挟んだ、ハンバーガーというかサンドイッチというか。普通に美味しい。

ふとサーシャを見ると、いつものポーカーフェイスでぱくついている。

他所(よそ)様がいるときには食いしん坊サーシャは発動しない模様だ。


「さて、ここからが本番だ。全員、準備は良いな?」


昼食を終え、隊長殿が居並ぶ隊員たちを前に問う。休憩を挟んでやや緩んでいた空気が引き締まる。


「では行こう」


街道から離れ、南に進路を取る。

川からは少し離れたところを歩くが、そうは言っても川沿いだからか、足元はジャリジャリと細かい砂利が鳴っている。

普段は戦士団が巡回に使うこともあるようなので、道なき道というわけではないが、当然整備された道ではないので歩きづらい。

たまに岩から岩へと飛び移るようなアクション性に富んだ場所もある。


「これは疲れるな……」


思わず口から洩れた言葉に、フィーロが良い笑顔を返してきた。イラッとするな。

昼飯後の出発以降は、フィーロも完全にお喋りを封印して、真剣モード。

ただ、俺が戦士団の早いペースに苦戦しているシーンを見ると、嬉しそうな表情を見せるのだ。


しばらく歩き通して、川が蛇行し、見晴らしの良い河原が広がっている場所にて休憩となる。


「休憩か……ふう」

「おっさんみたいだな」

「おいフィーロ、何でさっきからにやにやしてやがる」

「にやにやなんてしてねぇよ」

「してたわ」

「まあなんだ、いつもなら部隊のお荷物は俺だかんなぁ。他の奴らみたいにムキムキってわけじゃないし、そもそもステータス補正の差で『魔法使い』は疲れやすいしよ」

「つまり自分よりも下がいたから喜んでいるのか。趣味が悪いぞ」

「まぁそうカリカリすんなって、頑張れよ」


くくく、と忍び笑いを残してフィーロが水を汲みに行った。ちくしょう。


「隊長、少し距離はありますが、数がいます」

「どこだ?」

「このまま南に下って、次に休憩するあたりですかね。確認できたのは飛びエイです」

「飛びエイか……」


隊長殿が、休憩の間に合流してきた斥候からの情報を受け取っている。

飛びエイね……。いつだったか、倒したと思ったら川に流れていってしまった珍味だったっけ。


「魔法抵抗が強いって話だったけど、土魔法がそこそこ効いたんだったっけ」

「そうでしたね」


誰にというわけでもない独り言に、サーシャが反応して返してくれる。

その後、飛びエイ戦の作戦が示されたが、俺は防御魔法を張っておけという話だった。


************************************


「撃てっ!」


センカの合図で、弓矢組と魔法組が一斉に攻撃を放つ。

フィーロは雷玉のようなものを飛ばし、俺は前回と同様、土魔法・サンドニードルを飛ばす。


「ピギイイィッ!」


飛びエイたちは10匹ほど固まっており、こちらの先制攻撃によって3匹ほど地に堕ちた。


「かかれーいっ!」


藪に潜んでいた隊長班と大剣班の面々が躍り出て、飛びエイの群れに向かう。

危険を察知した何匹かが高度を上げ、緊急回避を図る。どうするのだろうと思っていたら、隊長が勢いよくジャンプして飛びエイを叩き落す。力技過ぎる。


飛びエイは水魔法、おそらくウォータボールを乱射する。こちらに向かって来るものは、手筈通りにファイアウォールで阻止する。魔法を放つ寸前に仰け反るようなモーションが入るので、タイミングは割と合わせやすい。ありがたし。

ファイアウォールを選んだのは、水魔法の反属性だから……ではなく、対魔術用の防御効果が高いらしいからだ。今まで、好みの問題もあってなかなか使ってこなかったが、事前に魔法が飛んでくると分かっている場合には有効だ。


ジュゥッ……


水球が壁に当たり、何かが焼けるような音がして爆ぜる。効果あり。


「おらっ、喰らえ! サンダーアロー!」


前では隊長たちが入り混じって白兵戦を演じているが、フィーロはお構いなしに魔法を放っている。誤射しないのだろうか。

俺の使う防御魔法は、ゲームのように味方には干渉しないなんて便利仕様があるわけもなし、フィーロの攻撃とタイミングが被らないようにしてやらないといけない。弓も同じだ。

誤射の心配をするひまもなく、俺は防御魔法の制御にあっぷあっぷになる。

出したり、消したり。動かしたり、味方の邪魔にならないように小さくしたり。これはこれで、結構大変だわ……。


前線では、奥から更に別の魔物、人喰いカニが乱入してきたりしてやや戦闘が長引いている。まぁ、俺のやることは変わらない。黙々と作業をこなした。10分程して魔物が壊滅、逃げた飛びエイを追う斥候の人以外は、その場で警戒しながら休憩に入る。


「途中から増えてなかったか? やはり群れが大きいな」

「拡張期だしなぁ」


戦闘中、主に後方警戒をしていた普通班の剣士と槍使いが雑談しているのが聞こえる。

拡張期というのは、湧き点から出て来る魔物の数が増えている時期のことを指す言葉……だったはず。

群れる魔物は、同時に出てきた同種で集まる傾向があるため、拡張期には単に魔物の数が増えるだけでなく、群れも大きくなる。

他の要因、たとえば魔物が繁殖して増えているような場合とは、そういった観点から見分けるらしい。


ジョブを『警戒士』に付け替えて大人しくしていると、少し顔色の悪いフィーロが近くに寄ってきた。

さっきの戦闘中に、一度に魔力を使いすぎたらしい。


「平気か?」

「おーう、まあまあかな……」


心なしかツンツンヘアーも萎れているようだ。大変だな。


「それにしても、隊長たちのジャンプ力、ハンパなくないか?」


戦闘中、空に浮く飛びエイに対し、前衛は何かスキルでも使うわけでもなく、シンプルにジャンプして攻撃していた。隊長だけかと思ったら、皆がそのスタイルで吃驚した。そして、この世界の戦闘職の身体能力の高さに驚愕だ。


「できるだけ魔力使いたくないからねぇ、あれくらいはやるっしょ?」


フィーロはどこ吹く風だ。ああいう光景が日常茶飯事らしい。慣れってすごい。

前に図書館で読んだ、スポーツ経由でジョブが追加されたっていう話からすると、この世界のスポーツってとんでもないことになりそうだ。

サッカー選手のジョブとかあったら、シュートするにもセーブするにもいちいちエフェクトが出る漫画みたいな展開になるのだろうか。


「フィーロにも出来るのか?」

「いや、俺っちは『魔法使い』だから」

「あのピョンピョン集団がおかしいだけか」

「前衛ジョブだったらあんなもんじゃない?」

「そうなの?」


ジョブというより、ステータス補正か。なんだろう、筋力が増えればいいから「攻撃」かな? 運動神経全般が強化されるっぽい「俊敏」かな? 両方か。

あるいはスキルで「身体能力向上」みたいなものがあるのかもしれないが。



そんなこんなで、奥に進むにつれ増えていく魔物集団を蹴散らしつつ、1日目は夜を迎えた。



川から少し森に入った小さな野営地で、慌ただしく飯を食ってテントを張る。

魔物と遭遇しすぎたせいで、到着が予定より遅くにずれ込んでしまったのだ。テント張りでは、黙って付いてきていた荷物持ちの皆さんが活躍した。テキパキと野営の準備を整えると、戦士団の人たちと組んで周囲に散って、食える野草のようなものを採ってきたのだ。

ただの荷物持ちというよりは、こういうサバイバルに必要な技能を持った専門職ということなのかもしれない。

俺はいつもの小テントを持ってきたので、それを組み立ててサーシャと二人で寝ることに。隣に別のテントがあるどころか、すぐ外で毛布に包まって寝る人もいるらしく、当然色っぽい事はなし。


残念だ。


翌朝、戦士団の人に声を掛けられて目を覚ます。

人数がいるので夜の見張りも余裕があり、こうして普通に寝ることができる日もある。

人数の多いパーティの特権だな……。


サーシャと一緒に朝飯の準備を手伝おうとすると、あちこちの火起こしに駆り出された。一通り回って人心地つくと、今度は芋を渡されて皮むき要員を命ぜられた。

ゴツゴツしていて薄紫色の、ジャガイモ風?のやつだ。


無心で皮を剥いていると、ふと周囲がざわつく感覚があって顔を上げた。

少し離れた場所で、隊長が誰かと話をしている。周囲の隊員も、なんとなしにその2人の会話に注目しているように見える。ただ、端で皮むきをしていた俺とは距離があり、会話はとんと聞き取れなかった。


ざわつきの原因が判明したのは、食事後に隊長が切り出した話からだった。


「ここからだと、少し東の方だが。フェレーゲンの巣があった」

「……」


隊員たちが真剣な顔で隊長の話に聞き入る。


「発見されたのは昨夜、1つ東のルートを通っていた部隊が発見した。既にクロスポイントには報告済みで、我が隊にも協力要請があった。巡回ルートからは入りにくい、崖沿いにあったらしい」

「……」

「質問はあるか?」


隊長がぐるりと隊員を見渡すと、大剣班の大剣使いが手を挙げた。


「俺たちに協力というのは、他の部隊と協同するということで?」

「作戦本部から、小部隊は来る。それらと協力はするだろうな」

「発見したっていう部隊は?」

「……」

「隊長?」

「……フェレーゲンの攻撃で半壊だ。戦える状態ではない」


隊長は美丈夫の表情を変えずに、しかしどこか苦しそうにそう零(こぼ)した。それに対して何かを言う者はいない。静まり返っていたその場の空気が、より一層ピンと張り詰めていくのが見えたようだった。


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