第58話 当日
「おーい、こっちだ。ヨーヨー」
「おっ、フィーロじゃないか」
戦士団の任務への参加の日、準備万端で南の戦士団の駐屯地で待っていると、後から入ってきた一団から知った声がした。亜人との戦いの後に少しだけ行動を共にした、というか主に駄弁っていた相手で『魔法使い』のフィーロである。
場所は入り口すぐ近くの広場のようなところであり、作戦参加者と思われる多くの武装した人で埋まっている。
「やっぱり、また会ったじゃん?」
「ああ、フィーロの言った通りになった」
「そっちの従者ちゃんも……いいねぇっ、戦士団の女と違って、妙にゴツくなくって癒されるわぁ~……グェッ!」
後ろからばしりとはたかれて悶絶するフィーロ。女性の団員がいないところで言えば良いのに。馬鹿だな。
フィーロと同行しているのは10人程度の集団だ。ほぼ見覚えがある気がするので、以前同行した隊員たちだろうと推測する。
「今日は隊長殿は?」
「ああ、隊長様はお偉いさんとお話してるよぉ。あの人、偉いから」
「そういえば、貴族なのか? やっぱり」
「そうそう。あれ? 説明してなかったっけか?」
「ないない。戦士団の人間は、何かと貴族が多いな」
「まあ、偉い人には貴族籍を持っている人が多いのは仕方ないっしょ。偉い人なんだし。元貴族というか、貴族家出身者だと、平隊員にもゴロゴロいんぞ?」
「そうなの?」
「俺っちとか」
「……え」
思わずフィーロの顔をマジマジと見る。相変わらずのツンツンヘアー、そしてアホ面である。これが貴族? 俺の中の貴族像が今、崩れた。
「元だよ、元。弱小零細貴族の末席程度よ? でも、そんな顔されるとさすがに傷つくわぁ」
よよよ、と涙を拭く真似をする。うぜえ。
「……貴族も色々なんだな」
「妙に実感籠もってるじゃねぇかぁ、アアーン? まぁ貴族称号持ってる人の子供に生まれただけで、ほぼ平民として育ってきたからなぁ」
「うんうん、フィーロが貴族というのは忘れるわ。というか忘れた」
「だから、出身ってだけで貴族じゃないんだって……まぁいいか。隊長なんかは、まだ貴族籍持ってるし、分家だけど当主になる見込みらしいぜ? すごいだろ」
「えーと、ウルブイネみたいな家名があったよな。そこの当主ってこと?」
「ウルブーネルね。いや、ミドルネームに方角文字があったっしょ。つまりウルブーネル家の分家筋ってこと」
「……なるほど」
何を言っているか分からない。な、何を言っているか分からねーと思うが、ありのまま今起こったことを話すぜ! 「フィーロが頭の良さげな事を話している」だとっ!?
「分かってねーって顔だな。まぁいいや。お家の話なんてどうでもいいべ?」
「そうだな」
後でサーシャに補足してもらうか。サーシャにも分からないことだったら、一般常識ではないのでスルーしてよし。
「あ、でも1つだけ。ウルブーネルってのが、この辺りの領主ってことで良いのか?」
「そんなわけねーべ。壁の中は領主がずいぶん前に支配権を放棄してるし、王家の直接統治だ。各地に代官がいるだけ。ウルブーネル家ってのは、テーバ地方から見て南東方面にある領地の1つ。王家から直接認められた、れっきとした独立貴族家だ」
「まじ? あれ、じゃあなんでウルブーネル領の戦士団に入団しないんだ?」
「隊長が、か? そりゃあ、そんな道が普通かもな、分家筋の跡継ぎ候補なら。でもここ、壁の中はぁ特別よ。各地から戦士として功を立てたい有象無象が集まってる。考えてもみな、いくつかの拠点を除いて民間人が退避した壁の中で、『郷土戦士団』なんてものを普通通りにやって、維持できるか? 人が集まるか? 無理だろ!」
「ははぁ、なるほど。郷土戦士団といえど、郷土に人がいないから外から集めているのか」
「集めているというか、勝手に集まってるとゆーか。テーバの戦士団でやってたっていうと、後々になって地元の戦士団に誘われたり、傭兵団から招かれたりするらしいぜ? 出世の踏み台として利用している奴も多いってことさ。ま、戦士団の方も、それを利用して人を集めているフシがあるから、持ちつ持たれつというか、悪い話じゃねぇけどな」
「フィーロもどこか外の生まれなのか?」
「生まれはそうだな。だが、もともと弱小貴族家の出身っつったべ。それが、元を辿ればここ、テーバ地方に領地を持ってた小貴族だったらしいのよ。そのツテで、戦士として身を立てる一族はここに来る者が多いって話」
「ほぅ」
フィーロにも歴史あり、だな。こうしてちょっと真面目な話をしていると、フィーロは頭が悪いのではなく、頭が悪く見えるだけなんだなと思う。なんだろう、ノリというか雰囲気というかが絶望的に軽いせいで、どうしても馬鹿にしか見えない。そういう個性なのだろう。
「まだ始まるまで時間掛かりそうだし、いちおう隊員にあんたを紹介しておこうか。顔は覚えているかもしれんけど、名前までは、だろ?」
俺達のすぐ後ろで談笑している隊員たちを振り返ってフィーロがそう言う。名前……覚え切れるだろうか? いや、ない。
「名前は、そうだな。まぁ」
「まぁまぁ、この隊は20人ばかしいるけどぉ、見張りの交代時の便宜なんかのために、よくつるむ集団っつーか、グループ?が4つほどあるのよ。俺と同じグループのメンバーは移動中に魔法使いを護衛することが多い。これさえ覚えればだいたい困らないさ、たぶんだけど」
「そういうことなら」
フィーロは仲間の一団に向かって、身体を潜り込ませるようにして話を遮り、注目を集めた。強引なやり方だ。
「はいはい、注目。魔法使いお世話役の諸君、今回の新入りを紹介しておくぞ!」
「誰がお世話役だ、このツンツンヘアーが」
「調子乗るんじゃないよ、三下魔法使い」
「引っ込め!」
仲間から厳しいやじが飛ぶ。大丈夫か、いじめられてないか? フィーロ。
「はいはい、そこまでそこまで。みんな知ってるとぉ思うけど、こっちが『魔法使い』……あっ『魔剣士』だっけ? のヨーヨー君。仲良くやり給えよ」
「ヨーヨーか。先日はどうも。まだ名乗ってないし覚えていないと思うが、俺はトラーブトスだ。俺達が主にフィーロの坊主と行動することが多いメンバーだ。ヨーヨーと組むことも多いだろうな。よろしくたのむ」
青年から中年に差し掛かってくらいの見た目の、筋肉隆々な男が挨拶してきた。丁寧だ。
「ああ、こちらからもよろしくたのむ」
「私は弓使いのツブラカです。年齢は秘密」
2人目は、妙齢の女性だ。サーシャよりは年上だと思うが、何歳なのかは分からない。外人の年齢って分かりにくいよね。サーシャも外国人顔ではあるのだが、塩顔なせいか親しみがあるというか、まだ分かりやすいんだけど。
黒のロングヘアーを編み込んで、頭の横に流している。この人だけ、ノースリーブ状の金属鎧、勝手にハーフプレートと俺が呼んでいる形状の、戦士団あるあるな装備を着ていない。茶色い、多分皮の鎧だ。親近感が湧くな。
「うちの従者、サーシャも弓使いだ。よければ指導の程、頼みたい」
「その時間があったらね」
「ああ、感謝する」
リップサービスかもしれないが、野営中にでも何か1つでも技術を教えてくれたらめっけもんだ。
「俺も弓使いのセンカだ。他の者より少し大きな弓を使うから、あまり教えることはできないぞ」
3人目は、ハーフプレートに籠手、スカート状の下半身の鎧にグリーブっぽいものを履いた、いかにも兵士な格好の、特徴のない男だ。いや、目立つことが1つだけある。大男だ。2メートル近くあるんじゃないか? というデカさ。大剣とか持ってる方がしっくり来るんですけど。
「そうなのか」
「ああ」
「……」
「……」
微妙な沈黙が流れる。あまり会話が達者な方ではないらしい。空気を読んで、次の者が名乗り出した。
「最後は僕か。えー、剣と盾をやってるケルスメメ。よろしく」
「よろしく」
ケルスメメは小柄な男性だ。おそらく、この中で一番若い。片手剣と小さめの盾を持つ、剣闘士といった武装だ。赤茶色っぽい髪は、地球にいそうでいないような見た目だ。顔も地味で、どことなくアジア系っぽいか。
この4人と、フィールで1つのグループらしい。移動中は中央で護衛する役割が多く、見張りに立つときなどもこのグループの中から一緒に選ばれることが多いらしい。
流石に武装をバラすために混ぜたりするそうだが、それも「このグループとあのグループを半々ずつ」みたいな組み方をするため、グループ内で一緒になることが多いという。
「ヨーヨーも基本的にはこのグループに入るってことだぜぇ。短くて3日間、仲良くやろうや~」
「おう、あまり人付き合いが良い方ではないが、よろしく頼む。後ろにいるのが従者のサーシャ。真面目な性格で簡単な飯も作れる。基本的には俺と一緒にいることが多いが、遠目のスキル持ちだから警戒にも使えるはずだ」
「ほう、遠目ですか。なかなかレアなスキルですね」
声を上げたのは同じ弓使いの女性、ツブラカだ。ちなみに弓使いと言っているのは得物を紹介しただけのようだから、ジョブが『弓使い』とは限らない。
「レアなのか」
「レアですねぇ、低レベルで出ることもあるらしいけど。その子、斥候系のジョブに適性があるのかもしれません」
「ふむ、なるほど」
遠目なんてスキル、偵察に使えと言わんばかりだしな。
「弓の腕は俺から見てもなかなかのセンを行っていて、動く的にも当てられている。ただ、攻撃力が不足がちだから、出来れば溜め撃ちなんかが欲しかったんだが、まだなんだ」
「溜め撃ちがないのですか。それは多少難儀するかも……。無理に答えなくてもいいけれど、まだ低レベルですか?」
「そうだな、歳が行ってからジョブ変更をしたから、そこまで高いわけではないと思う」
「そうですか。まだ若いし、それでジョブ変更したというと、10台か……1桁もあり得ると。それなら威力が出ないのも仕方ないと思います」
「こちらも答え難かったら構わないが、ツブラカのジョブは『弓使い』なのか?」
「ふふっ、秘密です。でも、有名な派生職と言っておきます」
「ほう……」
なんだろう。サーシャが知っていたのは、『弓戦士』と『狙撃手』。なんとなく『弓戦士』かな?勘だけど。いや、何となく狙撃手っぽくはないなって思っただけなんだけれども。
思い切って情報公開してみたが、あまり得る物がなかったな。まあ、任務中に仲良くなって情報収集してもらおう、サーシャに。俺は狙ってそういうことするのが苦手な子だから。コミュ障というわけではない、と思ってるんだけどね。
「後で弓を見せてくださいね。出る前に、少し腕を見ながら基本を教えてあげましょう」
「おお、ありがたい」
突如参加することになった戦力の確認も兼ねているんだろうけど、素直にありがたい。サーシャには、こういう機会にどんどん技術を吸収して、強くなってもらいたい。現状でも、成長率という点ではなかなかのものだけどね。
「お? 団長がこっち向かって来てるぞ」
フィーロが広場の前方を見やって叫んだ。大きな声を出さなくても聞こえるっての。隊長と偉い人との話は終わったのかな。そう心の中でつぶやいていると……。
「だいたい集まったようだから、説明を始めるぞ!」
広場の中心で先日見た偉そうな人……たぶんエスケープみたいな名前だったはず……が、声を張り上げる。するとざわついていた一帯が一斉に静まり返り、張り詰めたような緊張感が走る。流石に訓練された軍隊だと感心する。
「今回、参加するのは中部隊4、100名近い人員を動員しての大規模な作戦だ。失敗は許されん。それぞれの隊でミーティングを重ねていることと思うが、隊内だけでなく、部隊相互の連携も重要となる。ここ、クロスポイント基地を拠点として、連絡を取り合うこととなる。ここにいる全員が作戦の概要を把握し、今作戦の成功のために最善、全力を尽くせ」
そこから、部隊の動きと作戦の流れについて説明が長く続いた。正直、戦士団で使われているらしい略語や専門用語も入っていて分からないことだらけだ。真面目な顔をして聞いておくが、全然頭に残らない。馬耳東風状態である。いや馬の耳に念仏か? どう違うんだっけ。という具合に現実逃避していた。
分かったこととしては、戦士団はすごく頑張っているということ。
そして、支援体制もかなりしっかりしているので暴走するなよということくらいだ。敵の数が多かった場合や、強敵がいて危険がある場合には功名心に逸って無理をせず、支援を要請せよということだ。5人程度の小部隊が支援部隊として散っているので、それを集結させることもできるし、後ろから援軍を送り込むこともできる。虎の子の騎士部隊も随時投入するという。
騎士、というのは封建社会の支配階級としての騎士とか、戦場のエリートとしての騎士という意味ではなく、文字通り騎乗して戦う者を表わしている。騎兵部隊だ。
この世界、「馬」に該当する生物が色々居るのは知っているから、騎乗戦闘用の馬というのがどういう生物なのかはちょっと興味があるが、残念ながら広場にそれらしいのはいない。かなり前に見た、大型の馬車を引っ張っていたコモドドラゴンみたいなやつだったら、騎兵というよりはドラゴンライダーっぽいよな。
ジョブとしては『騎士』という騎乗戦闘用のジョブがある。だから「騎士部隊」と呼称される。他にも、非戦闘用のジョブとして『騎手』がある。紛らわしいが、こちらは戦闘用スキルがなく、その分純粋に騎乗を助けるジョブになる。騎士部隊はこのどちらかなんじゃないだろうか。
いつぞや、一通り騎乗は練習したはずだが、どちらも獲得できていないので俺にその素質はないものと思われる。
「作戦の開始は昼の鐘と同時とする。各隊各自、準備を怠るなっ! 散会!!」
エス……エム?さんが演説を終え、説明会もお開きとなったようだ。再びガヤガヤとうるさくなった広場を後にして、フィーロに付いて歩いていった。
門の外へと出て、道外れの草原に集まるフィーロ達の一団。そこに混じって待っていると、キラキラと銀髪で陽を反射させながら美丈夫が登場した。まごうことなく隊長殿である。
「また会ったな、ヨーヨー殿。今回の作戦中、この部隊を率いる、アルメシアン・ヘ・ウルブーネル上級戦士だ」
「はい。今回はよろしくおねがいします、アルメシアン隊長」
アルメシアン隊長は手を握って胸に当てる仕草をしたので、同じようにして返す。
「無理をして戦士団風に返す必要はないぞ、ヨーヨー殿」
隊長はそういってニヒルに笑う。そんな表情も嫌味ではなく格好良い。くっ、これが真正のイケメン補正……。
「今回の作戦に参加する内で、我が隊の魔法使いはそこのフィーロだけ。ヨーヨー殿の魔法の腕、大いに頼らせてもらう」
「はっ」
「皆も聞け。今回の任務は、広域を探索しつつ、調査と討伐を兼ねる複合的な任務だ。隊形も普段とは異なってくる。抜かるなよ」
アルメシアン隊は、俺たちを入れて22人。戦士団の人だけだとちょうど20人いるようだ。
持っている武器から判断すると、前衛が14人。大剣が2、槍が4人。大きな盾を持っているのが3人。残りは剣士かな?そうでない人もサブウェポンとして剣は佩いているので、特に特徴がない人を剣士に分類しているだけだが。
後衛が6人。弓が5、魔法使いが1人。もちろん魔法使いというのがフィーロだ。思ったより後衛の人数が少ない。全周囲を警戒する必要があるし、それを考えればこの程度になるのかもしれない。
なお、見た目がファンタジーな人も混じっている。たとえば大剣の人はトカゲ人間っぽい見た目だし、剣士の人は獣成分の方が多いタイプの獣人だ。狼が二本足で立っているという風な見た目。
盾持ちと槍持ちを中心に防御線を作り、内側に弓持ちと魔法使い2名を配置。身軽な格好の数人は斥候職らしく、交代で周囲の情報集を行いながら進軍する。アルメシアン隊長も中央でどっしり指揮するのかと思いきや、一番前で斬り込み隊長をするらしい。いいのか、それで。
「隊形と連携の確認をして、その後は作戦開始時間まで休憩とする。隊形確認から始めるぞ!」
隊形確認といっても、俺は隊の中央で護衛役の人にお守りをされながら進む役どころだ。スイッチの必要もなく、特に確認することはないように思う。これは、作戦中は本当に固定砲台と化しそうだぞ。まあ、危険が少ないから別に構わないっちゃ構わないんだけれども。
普段は斬り込みスタイルだから違和感を感じるな。
「隊長、ヨーヨーの従者、サーシャが遠目のスキルを習得しているとか」
またも専門的な言葉の羅列に意識を軽く飛ばしながら頑張っていたら、こちらに話題が飛んで来た。なんじゃ?
「ふむ、そうか。では中央、本隊の警戒はある程度任せても良いか?」
「……ご主人様」
「えっと、サーシャに斥候系のことをやらせた経験はないんですが、遠くが見えるだけで良いのであれば構いません」
ややしどろもどろにながら返すと、隊長殿が安心させるように笑いかけてきた。これがイケメンスマイルか……!
「心配せずとも良い、斥候役は周囲に展開する者達が行う。中央、フィーロと護衛の者達の位置で、周囲を見渡して置いてくれれば良い。視力が良いというものは、単純なようで案外とここぞという場面で頼りになる」
「そうですか。魔力に限りはありますが、可能な限りで遠目で警戒するように指示しておきます」
「ああ、宜しく頼む」
話はまた隊員同士の決め事の確認に戻った。
断片的に理解できることから繋ぎ合わせて見ると、要は担当地域をくまなく調査することが任務の目的になるから、偵察を強化するらしい。
普段であれば、進行方向を中心に先遣隊を派遣しながら進む形だが、今回はスピードを落とす代わりに、フィーロのグループ以外の人達が3方を囲んで各方位に偵察を入れる。うちのグループ以外が大変すぎないか、これ?
「細かい情報の集約と整理はセンカたちに任せるぞ、上手くやれ」
「承知」
大男の弓使い、センカが深く頷く。彼は頭脳派なのか。
「センカはもともと、狩人や魔物狩りで生計を立てていましたから。こういう任務では中心になるんです」
女弓使いのツブラカさんが解説を入れてくれた。し、知っているのかツブラカ! と言いたくなるな。
「私と、ケルスメメも補佐をします。警戒は頼みましたよ、魔法使いさん」
「……ああ」
どこまで本気か知らないが、俺には実は『警戒士』もあるからな。中央で早期警戒システム役を担うのは結構理に適っている。まさか知られていることはないと思うけど。
あっ、そういえば。
「説明し忘れていたが、俺達にはもう1人……1匹? 仲間がいる。サーシャ、ドンを出してくれるか?」
「はい、眠っていると思いますが」
サーシャが背負っていたリュックを地に下ろし、中からモサッとした毛玉を持ち上げて出す。ドンは今起きたところらしく、眠気眼で半目を開けている。
「それは、賢獣か……」
隊長殿が呟く。護獣じゃなかったっけ。別の呼び方もあるとか、護獣屋が言っていたような、言ってなかったような。
「ケルミィ族のドンです。戦闘力は高くありませんが、夜間警戒を任せています」
「へぇ、可愛い」
「もさもさしてるね」
小柄なケルスメメ少年とツブラカが顔を綻ばせる。少し離れた位置にいる別グループの女性も目を輝かせている。人気者だな、ドン。
「護獣は戦士団で仲間に入れたりしないのですか?」
「いや、するぞ。使い様によっては人以上の働きをしてくれる存在だからな。だが、ケルミィ族とは珍しい」
「そうなんですか」
隊長殿も興味ありげにしているが、女性陣とケルスメメ少年でたらい回しにされているのでモフモフできない様子。モフモフしたいだろう? ふっふ。
「確か、夜行性で特に知能が高いのだったか?」
「護獣はいずれの種も知能が高いのでは?」
「程度というものがある。理解力という点で、人の子供以上の能力があるのは稀だ。ケルミィ族は知能という点では大型賢獣に勝ると聞いたことがある」
「へぇ」
たしかに、俺の言う事を、それを言ったニュアンスとか行間を含めて理解していると思われる行動を取ることがある。なるほど頭が良かったのか。ただのモフモフな存在ではなかった、と。
「だが、戦闘能力という点では期待できぬし、日がな寝て過ごすのが好きな性質から、あまり戦士団向きではないとされている。警戒能力で敵を察しても、主に知らせないことも多いと聞く」
「……そうなんですか? ドンは、何度か危険を察知して夜に起こしてくれましたけど」
「ほう。優秀な護獣なのだな、そなたは」
隊長殿は、やっと回ってきた順番に頬を緩めてドンを軽く撫でている。ドンはされるがまま、また眠り始めている。
「……まぁ、あまり起こしてしまうと夜に響きます。カバンに戻して置ききましょう。それで、夜間の見張りの補助としては、使えるのではないでしょうか」
「そうだな。見張りを任せてしまうわけにもいかないが、夜の無聊(ぶりょう)を慰めることにはなろう」
「はい」
さて、次は連携確認か。ここからが俺にとっては本番、かな?
本当に中央で固定砲台するだけなら、連携も何もないという可能性が無きにしも非ず。どうなるかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます