第54話 設定

「雷魔法かぁ、俺はスキル先行だったかんなぁ」


移動中、周囲を警戒しつつフィーロと魔法談義をする。

魔法使いは火力担当ということなのか、隊列の中央に配置されており、割とお気楽に過ごせる。流石に駄弁りながらはどうかとも思うが、周りからは特に何も言われない。


「スキル先行?」

「え? 知らんか? 複合魔法でさ、こう、自分で出来るようになるんじゃなくて……」

「スキルを会得して出来るようになった、ってことか」

「そうそう、それよ」


思い当たって納得する。複合魔法は、自分で開発したものが後追いでスキルとなるか、素質がありスキルを会得したために使えるようになるかの2パターンがあるという話は聞いていた。

フィーロから雷魔法のコツとか聞きたかったけど、駄目そうだ。念のため訊いてみると、「こう、ドドーン! ババッ! って感じよ、分かる?」と言われて諦めた。


「俺はそういうスキル先行の魔法を習得したことがなくてな……」

「そうなんか。まあ、そっちの方が普通だよ」

「フィーロは雷魔法の素質があったってことだな」

「そうじゃね? まあ、そこまで強いって感じでもないんだけど」

「そうなのか? 強そうだけど、雷って」

「うーん、ビミョー。確かに、速度は速いし、痺れさせることもできるし、支援としては便利なのよ。ただーし、あんたの火魔法のように、エネルギーを爆発させるような段階がないわけよ。だから、威力がそんなにない」

「ほぉ。なるほどな」


魔法的なエネルギーみたいのが少ないってことかな。便利ではありそうだが、複合魔法だからといって強いとは限らないと。

こちらからは、防御魔法のことなどを少し話した。

どうやら、『魔法使い』でも、防御魔法が苦手な者は多いらしい。かくいうフィールもその1人だ。


「『魔剣士』ってのは、防御魔法が得意なのか?」

「いや、どうだろうな。というか、むしろ防御魔法を使うのは珍しいと言われた事があるな」

「へ~」


なんかもう、『魔剣士』ということになっているが、よくよく思い返して欲しい。俺が自分から『魔剣士』だと言ったことは1回もない。あちらの早とちりなのだ。そういう事にしておいてほしい。

しかし、『魔剣士』の魔法ってどうなっているんだろう。一度調べてみないと、ボロが出そうだ。

……というか、流れで『魔剣士』に乗っていたけど、必要あったのかな?

別に『魔法使い』だけど剣も使う、ということでそれほど問題はないはずだ。サーシャと二人旅なんだから、『魔剣士』=貴族絡み=訳ありという勘違いを誘う必要もない。何となく流れでやっているにすぎない。どこかで腰を落ち着けたら、一度その辺の方針を洗い直すか。


「なあ、ウォール系のコツとか教えてくれよ」

「ん? そうだなあ。というか、雷魔法にウォール系なんてあるのか?」

「……聞いたことねぇな」

「出来たとしても、かなり難しそうじゃないか? 普通に基礎4魔法で練習してみたら」

「ん~っ、俺っち、どれも苦手なんだよねぇソレ……」

「雷魔法のスキルが出る前は、何を使っていたんだ?」

「火、かなぁ。でも、雷魔法のスキルを得てからは、専らそれだよん」

「火、か。個人的におススメなのはやっぱり風、ウィンドウォールなんだが」

「ファイアウォールなんて、使い処限られる気がするもんなぁ」

「そうだな」


魔法攻撃に強いっぽいけど、強度がイマイチで視界も遮られるから、一番使っていないのがファイアウォールだ。

物理攻撃に強いし強度もあるけど、視界が遮られるためなかなか上手く使えていないのが土魔法のウェイクウォールやサンドウォール。

物理も魔法もそこそこ防いでくれて、景色は歪むものの視線が通るウォータウォールは何度か使った。

ウィンドウォールは、強度はそんなにないのだけれども、どこでも即座に作れる上に視界に殆ど影響しないというのが最高だ。

そのぶん、魔力を流すのを止めた瞬間に霧散するのが欠点だが。


「属性の得意不得意を除けば、練習しやすいのは水か土だろう。実際にあるもので実践できるからな」

「なるほどなぁ~」

「水と土をやってみて、よりマシな方を練習してみたらどうだ? どの道、雷以外にも使える属性があった方がいいだろ」

「そうかぁ? 1属性を極めるのが普通って言われたけどなぁ」

「そうなのか。まあ、人それぞれだが」


この世界では一点特化が常識なのかな。


「まぁでも、折角の機会だし、やってみようかなぁ。多めに水出せるだけでも、手当付くし」

「ほう」


それから、自分でやったウォール系の練習方法を軽く説明し、その後戦士団での魔法使い系の待遇について話を聞いた。

魔法使い系はやや貴重で、給金が高いらしいのだが、水や火が出せて野営時に協力したりすると、プラスアルファで少なくない手当が付くらしい。陣地構築の必要があったりすると、土魔法使いも相当優遇されるらしい。

……城壁建築アルバイトをしていた俺、戦士団に入れば結構重宝されるんじゃないの? まあそんな普通以上に上下関係に厳しそうな組織で、俺がやっていけるとは思えないが。


「土魔法とか、上から推奨されたりするんだけどねぇ。地味なんだよなぁ」

「まぁな。地味なのは如何ともしがたい」

「だな」

「防御魔法の精度を上げたいなら、暇なとき、こんな風に遊ばせておくのもお勧めだぞ」


そう言いながら、前に出した水球に身体の周辺を周回させて見せた。


「おお、器用だな」

「俺の持論だが、防御魔法は威力を考えない分、発現させたものをスムーズに変形・移動させる能力があればいい」


右手の拳を突き出しながら握り、人差し指を立たせる。その先端で水球を回転させる。


「慣れないうちはこんな風に指先で。それから腕の周り、身体の周りと動かす範囲を拡大させていく」

「ほぉ~」

「まあ、自己流だから本当にそれでいいかは知らんけど」


主に寝る前などに、俺が毎日のようにやってきた練習法である。


「こうか?」


フィーロは水球を出して回転させ……ようとして、破裂して消えた。


「……最初は綺麗に水球を維持するところから、かな」


ちょっと思っていた以上に水魔法がダメみたいだ。フィーロが魔法を発動させたところで、後ろにいたおっさんから「おい、魔力は節約しとけよ」とツッコミが入る。ごもっともな話だ。

そんな雑談をしているうちにも、5体程度の小集団の亜人と遭遇したりもしたが、瞬く間に囲まれて倒されていた。

魔法使いはMPというリソースが限られている分、簡単に対処できないと判断されるような戦闘でなければ警戒して待機するのがお仕事らしい。


「なんだか楽過ぎて申し訳ないな」

「その分、いざってときに活躍するのが魔法使いってもんよ」


そうらしい。

ちなみに、「矢玉は有限である」という理由で、弓使いも基本的には俺たちと同じだ。優先順位的に、魔法使いよりは投入されやすいが。

したがってサーシャも亜人の相手はしておらず、俺の従者ということで後ろをしずしずと同行している。

途中、開けば場所で休憩に入ったところで、サーシャとの関係にも言及された。


「そういや、後ろの女の子とあんたはどーいう関係なわけ?」

「ん、サーシャか? 従者だが?」

「それは聞いたけどー、男女の関係はないの?」

「男女の関係……はないとは言えないな」


恋人ではない。どう反応すべきなのだろうか。


「ふ~ん……もしかしてそれが原因で飛び出したとか?」

「はぁ?」


フィーロは呟くようにそう言ったが、それ以上追及されることもなかった。何だろう……サーシャとの駆け落ちみたいに取られたか。

まあ、いいや。


陽が落ちる寸前、道を夕陽が赤く染めるようになるころに、前方に巨大な壁が出現した。

舗装された道がそのまま真っ直ぐ伸びているが、その左右に壁で囲まれた区画がある。

左の壁は、俺がアルバイトで建設に協力したような、立派な城壁だ。右の壁は、それに比べるととりあえず作った感が出ている。壁の色が一定ではなく、高さも所々が低くなっていてデコボコだ。表面にはツタ植物が生えているが、そのまま放置されているせいで廃墟っぽくも見える。


「間に合ったかぁ~」

「あれがクロスポイント?」

「そうそう。左にあるのが俺たちの拠点。クロスポイント基地。右にあるのがそれ以外。街ってことになんのかね」

「じゃ、俺はここでお別れか」


そんなことを言っていると、前から銀髪の美中年が歩いてきた。隊長さんだ。


「我々はここで失礼する。北、右の壁の中に個人傭兵用の宿などもある。門では魔物狩りのギルドカードがあればすんなりと通れるはずだが」

「お気遣い感謝する。この魔石はこのまま持って行っても?」


分け与えられた魔石の入った革袋を軽く掲げて見せる。


「構わない。……ところで、優れた魔法使いと見込んでお願いしたいこともあるのだが」

「なんでしょう」


おっと。ここにきて厄介ごとか?


「そう構えるようなことではない。現在、戦士団で火魔法の使い手はやや不足している。魔物狩りギルドを通して依頼を出すかもしれない。しばらくクロスポイントに滞在するなら、確認をお願いしたい」

「依頼か。了解した」

「感謝する」


まあ、依頼ってことは断っても良いやつだよね? 戦士団からの依頼を断ると目を付けられるとか……なくもないか。ギルドの職員と相談しよう。


「おうおう、隊長に見込まれたか」


隊長が傍を離れると、少し離れてじっとしていたフィーロが囃し立てる。


「どうだかな」

「隊長は、あんまり大手の傭兵団も自分では使おうとしない人だぜ。見込まれたんだろ」

「そうか。戦士団は魔法使い不足なのか?」

「う~ん、魔法使い系は常に不足していると言えば不足しているな。下級戦士の安月給で苦労するより、色々就職先があるからなぁ。魔法の使い手は」

「火魔法なんて、外で火の種を出すくらいしか役に立たなそうだが」

「いやいや、街で探せば色々あんぞ? それに、戦闘するにしても傭兵団に入ったり商隊の護衛の方が儲かったりする」

「ああ……」


戦士団は、必ずしも人気の職場ってわけではないらしい。


「まっ、そんじゃあまた会うことになるのかもしれないけど、またな! 従者ちゃんも元気で」

「おう」

「はい」


フィーロと、戦士団の一団は左の軍事拠点に入っていった。

俺たちは右、街の入口に並んだ。



魔物狩りギルドのカードを呈示して中に入ると、規模が大きくはなかった入り口の街ターストリラと比べてもこじんまりした街並みが前に広がっている。

そう感じるのは、入り口から真っ直ぐ伸びるメインストリートの幅が狭く、その左右に建つ建物も一階建てのシンプルなものが並んでいるからだろう。


「……行きましょう、ご主人様」


一瞬立ち止まった俺をサーシャが促し、メインストリートをゆっくり進んでいく。


「あれ、魔物狩りギルドじゃないですか?」


道の行き当たり、T字露になっている正面に周りの建物よりも一回り大きな建物があり、正面に見慣れたマークの板が吊るされている。

中に入ってみると、体育館ほどの広々とした空間の奥にいくつかのカウンターがあり、奥では職員らしき人達が忙しそうにしている。魔石でも売ってみようかと手続きをすると、前に5人ほど人がいて、待合席でしばしの待機。


「それにしても、魔物狩りギルドって建物が豪華だよな」

「王家の方が主導されているようですからね」

「ふうむ、王家にどんなメリットがあるんだろう」

「分かりませんが、建物が豪華なのは公的な事業だからという面があるのではないでしょうか」

「うん? なるほど、地方の道路が無駄に立派だったりする理屈か?」


この国には地方を地盤にしている議員などいない……と思うが、似たような何かがあるのかもしれない。


「道路、ですか?」

「いや、こっちの話だ……」

「あ、はい。私が考えたのは、新規事業に乗っかってお金が動き、そのお金で得をする人たちが居たために採算度外視で豪華になっている、ということです」

「うむ。そうかもな」


ありそうな話だ。こういうことが考えられるあたり、サーシャは商人としても優秀そうなのだけども。なんで奴隷落ちしたんだろう……ま、考えても仕方ないか。過去のことだし。


「えー、10番の方どうぞ」

「はいはい」


受付に呼ばれたので魔石袋を持って行く。

隊長どのに分配された亜人の魔石だけで、銀貨8枚強になった。しめしめ。他にも夜に襲ってきたハイエナっぽい魔物の魔石などがある。こちらはあまり金にならなかった。残金は、ちょうど銀貨30枚分くらいかな。


「戦士団から指名で依頼の打診があるかもしれないと言われた。毎日寄るようにするが、分かるようにしておいてもらえるか?」

「戦士団からですか。了解しました。戦士団というのは、クロスポイント在留の郷土戦士団ということでよろしいのですか?」

「ええと、多分。話があるかもと言われただけなんで」

「そうですか……分かりました。手配しておきます」

「助かる」

「他には何か?」

「そうだなぁ、しばらくこの辺で稼ぐつもりだから、魔物の情報が欲しい。目撃情報なんかが有料になっている付近の魔物なんかはいるか?」

「いくつか。また、現在南から魔物の移動が起こっておりまして、無料の広報もご利用ください」

「そうか。気を付ける」

「ギルド内部での公開情報の閲覧については、左手の、衝立で囲まれているあたりに資料が置かれております。持ち出し厳禁となっているので、ご注意ください」

「ああ、あそこね」


入口入って左の方に、簡素な木の衝立で区切られたスペースがある。資料室があるわけではないんだな。


「後、個人向けの依頼の斡旋情報なんかはあるか? 一応見ておきたいんだが」

「それでは、明日までに情報を整理しておきます」

「お、そうか」

「手数料として、銅貨10枚掛かりますが」

「10枚か。頼む」


1000円で情報収集のサービス。高いような、安いような。これで何もありません、だと微妙だな。


「また、依頼を受理される場合は別途手数料を頂くことになりますが」

「なるほど、そういうシステムか。了解した」


ギルドでやることを終えて、宿の位置を聞いて向かう。街が小さいだけあって、宿の数も限られているようで、広場で野宿する者も多いという。

今回は、運良く紹介された宿の2人部屋に空きがあり、すべり込むことができた。



「ふぅー、街に来たときくらいベッドで寝ないと、休まらないからな」

「そうですね。空いていて良かったかと」


定番のベッドダイブを決めながらサーシャとお話タイムだ。


「今後の話だが、何か意見はある?」

「えーと、特には」

「そうか。……まあそれは夕飯でも食いながら、ゆっくり考えるか」

「あの、夕飯に行く際に薬箱を出して頂いても?」

「薬? 良いけど」


嵩張らないし、貴重品の一種として薬類は異空間にしまっている。サーシャは自分用の薬箱を受け取ると、中から錠剤を取り出して小分けにしている。


「サーシャ、結構色んな種類の薬を用意してるよな。何の薬だ?」


日用品についてはサーシャに丸投げしているところがあるため、詳細は把握していない。だが、薬を使うような事情くらいは把握しておきたい。


「あ、ご心配には及びません。ほとんどが日用品といいますか。生理用品ですね」

「生理? え、そういうやつだったの」

「ええ。避妊薬や風邪薬もありますけど……。数が多いのは、その、時期を調整したり、軽くしたり、そういった類の物です」

「そ、そうか。そりゃあ言いにくいことを訊いたな」


時期調整したり軽くできるもんなんだなぁ。詳しくないが、日本にも色々あったのかな? まあ、この世界はスキルを使ったファンタジー薬剤も多いから、そういう意味では地球より発展してるんだよなぁ。


「身体に負担にならないようにな」

「はい。気を付けております。ただ、狩りの途中で辛いときなどは、使うようにしています。事前に予定が分かっていれば、時期調整もしようかと。やはり血の匂いがするとまずいかもしれないので」

「そうだったか。全然気にかけていなかったけど……サーシャの方で色々やっててくれたんだなぁ」

「えっと……そうですね」

「辛い時は言ってくれよ? 無理に狩りに出なくても良いんだから」

「はい。基本的に軽い方なので、あまり気になさらず。ただ、たまに重いときは、薬を飲むようにしています。今のものもそうです」

「そうか。というか、今のも?」

「あ、はい。申し訳ありません」

「いやいや。気にするな。言いにくい事だろうしな」

「一応、影響があっては悪いと考え、戦士団の女性には伝えたのですが」

「そうだったのか」


体調不良に、血の匂いかぁ。これまで、そこまで影響があった記憶はないが。せめて、期間中は近場でしか狩らないといったことも考えるべきか。


「……今後仲間を増やしていくと、そこらへんの対処が大変になりそう」

「そうですね。ただ、数が増えますと交代することも考えられるようになりますし、一長一短では?」

「そうかもな」

「男の奴隷という手も考えられまs」

「それはない」

「……」


それはない。いや、戦力を考えるとそれも考え……うっ。男の奴隷とか鬱屈としていそうで嫌じゃい。


ということで、ちょうど街に着いたこともあるし、しばらく休憩するか。ターストリラでも休んだと言えば休んだ気はするが、連日摸擬戦をして完全には休んでいなかったからな。ここは思い切って連休じゃ!


「で、話を戻すけど」

「はい」

「街に着いたところだし、サーシャも丁度そういう時期だし、しばらくゆっくりしよう」

「私でしたら大丈夫ですが……」

「俺が休みたいのもある。色々魔法で試したいこともあるし、ここでもギルドの摸擬戦に挑戦するってのも一興だ」


ターストリラのツツムと違って、美人で優しい教官がいるかもしれない。

期待だ。


「お金は大丈夫ですか?」

「亜人で儲けたし、しばらくは大丈夫だろう。サーシャ、ここでついでにやっておきたいことはあるか?」

「そうですね……特にはありません」

「じゃあ今日は宿で休むこと! いいな」

「はい」


サーシャが薬を頼むくらいだから、多分今日はキツかったんだろう。俺の果てしない欲望も今日は鎮まらせて、ゆっくりと休ませよう。

その後はゴロゴロしながら魔法のアイディアを考えたりして過ごした。

少しして腹が減ったので宿の食堂を探し、野菜炒めの定食を頼む。サーシャはキノコのステーキ。おしゃれだ。


「あ、そういえば」

「ふぁい?」

「食べながら聞いてくれ。俺の設定について考え直そうと思ってたんだけどな」

「……もぐもぐ」

「何か、ノリでホラ、『魔剣士』とか貴族の子みたいなことになってたろ? どうなのかなって」

「……ご主人様、その話は一応、個室でなさった方が良いかと」

「それもそうだ」


手早く食事を片付け、部屋に戻ってサーシャの意見を聞く。


「私は正直、特に何かを変える必要性は感じませんが」

「そうか。そもそも何でそういう設定になってるんだっけな……」


天井を仰ぎ見て記憶を探る。


たしか、以前は魔法を使えることと剣を使うことの違和感がないように、『魔剣士』って設定にしてたっけ。いや、最初はジョイスマン殺害で魔銃を使ったことを胡麻化すための方便だったか。

そこから『魔剣士』なら貴族関係者じゃないかと誤解されて、それが案外便利だったからそのまま使ってたんだっけ。

……うん、考えてみるとこれはどっちでもいいな。

どっちでも、というのは『魔法使い』で剣も使うと説明するか、『魔剣士』であると説明するかという点で、だ。もう魔法を使うことを隠すつもりはないので、どっちのジョブで魔法を使っているかの説明が付けばいい。


『魔法使い』だと説明すると、剣を使うのはやや奇妙だが、あり得ないわけではない。嘘がないので妙なことにならないのが利点。

『魔剣士』だと説明すると、魔剣士の使うスキルに詳しくないので嘘がバレる可能性がある。ただ、バレたから何かと言われると、問題はなさそうだ。『魔剣士』に憧れているから名乗っていたとか、適当な理由を付ければ済む。そして利点というか、備考としては貴族関係者との推定が働く。


そう考えてみると、2つの違いは貴族関係者との推定を働かせるか否か、だ。それ以外の部分は割とどうでも良い。

……クロスポイントの戦士団には『魔剣士』と誤解されてしまったのでそれでいくか。ここを離れたら、その辺はぼやかしておけばいいか。前に適当に誤魔化したときもあった。それで問題ないだろう。


さて、次。

何を隠しておくべきか、だな。


まず絶対に隠しておきたいのが、転移者であること、『干渉者』持ちであること。これはどっちも繋がっていると考えられる。

これがバレると、どう反応されるか分からないし、他の転移者や、その情報を得た者による転移者狩りみたいなものがある可能性が考えられる。手駒にするパターンと、脅威なので排除するパターンのどちらかで。

その関連で、異空間も出来るだけ隠しておきたい。他の転移者も異空間が使えるようになっているのか分からないが、用心は必要だ。それに空間魔法は希少らしいから、妙なことを招きかねない。


後は、切り札としての魔銃、か。ジョイスマンへの奇襲で役に立ったから、保険として魔銃を隠すのは止めがたい。

ただ、今後戦士団の依頼などで他人と共に行動するとき、魔銃を隠すために使えず、その結果窮地に陥る、なんてことは絶対に避けたい。

……他に対人用の切り札を作って、今後ある程度信用できる相手と行動する場合は解禁する。これが理想かな。


「うん、なんとなく整理できた」

「ご主人様? 大丈夫でしょうか?」

「ああ、いや、すまないな、1人で考え込んで。現時点での俺なりの方針は出来た。しばらくは『魔剣士』で通すが、基本は適当にいく」

「それでいいのですか?」

「ああ、そこはあんまり重要じゃない気がしてきたからな。大事なのは、サーシャ、俺の妙な能力、ステータスを見る能力とか、異空間を使えることだ。それは最大限の秘密だ」

「はい」

「……前も言ってたか、これ。まあ、引き続き秘密ということで。魔銃を持っていることは、出来れば隠さないようになれるようにしたい。今のところは隠し気味で切り札と考えておいてくれ」

「はい、承知しました」

「よし、今日はもう就寝しよう」


……おやすみー。




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