第52話 移動
「ご主人様、お早うございます」
「う、うむ」
ベッドの上で昨晩を振り返っていると、先に起きて荷物の整理をしていたサーシャが気付いて挨拶をした。
荷物は、移動するときはサーシャのバッグにドンを入れ、俺がテントを背負っている。
衣服や食糧といったものは、可能な限り異空間に収納しているので2人でも何とかなっている。
食糧は、よく入りきらずにサーシャに持ってもらっているが。素材は二人で分けて持つ。
戦闘のときはテントは放り投げて、終わってから回収に戻ることになる。それがちょっとだけ面倒だ。
荷物持ち……雇うべきなのかなぁ。
「まあ、今はどうにかなっているから良いか。さてサーシャ、まずは換金しよう」
「はい」
意気揚々と魔物狩りギルドに向かうと、ここまで持ってきた素材や魔石を取り出して換金してもらう。
素材で重いものや日持ちしないものは、捨てるか基地で売却してきたので、魔石と帰り道に討伐したものがほとんどだ。
占めて銀貨13枚と銅貨36枚となった。手数料に銀貨1枚を支払い、残金は……銀貨30枚はないくらいかな。
うーーん。微妙。
いや、稼いでるっちゃ稼いでるんだけどね。
出ていく金も多いし、メンバー拡張となると金貨単位で必要だからな。
またどこかに、魔物に襲われてるご令嬢いないかなぁ。いや、前回は大丈夫だったけど、トラブルの可能性も高いからやっぱいいや。
毎月、真面目に報告書も出しているんだから、白髪のガキさんがお金で報酬くれたりしないかなぁ。しないだろうなぁ。
……今度報告書に、特に調べて欲しい事があれば有料で請け負うとか書いてみようかな。
俺にあいつの思考は読めないけど、本当に調査が目的で異世界に人を送っているなら、案外乗ってくれるかもしれない。
まぁそれはそれ、として。
「クロスポイント周辺の情報はないか?」
「どのような情報でしょう?」
素材の買取を終えて、窓口に赴いたヨーヨーは、若いギルド員の女性に質問する。
「危険かどうかを判断したい。エネイト基地付近に、えーと、フェレーゲンが出たのを見たのだが」
「はい」
「クロスポイント周辺ではどうなんだ? 目撃情報などはあるのか」
「フェレーゲン、他の危険な魔物の目撃情報でございますね。少々お待ち下さい」
奥に入っていったギルド員を5分程待ちぼうけしていると、帰ってきたギルド員は分厚い資料を抱えていた。
「これが最近の魔物の情報でございます……貸し出しで銀貨1枚、精査で追加の銀貨1枚を頂戴します」
「精査というのは?」
「ギルド員が随行し、この資料から必要情報を読み解くお手伝いを致します」
「では、たのむ」
貴重な銀貨2枚を払って情報を収集する。
ギルド員は、引き続き受付にいた女性が付き添ってくれた。資料の海から情報を検索してくれるだけではなく、情報の読み解き方や、自分なりに憶測なども話してくれる。なかなかのサービスだ。
その成果を簡潔に述べると、クロスポイント近くではフェレーゲンの目撃情報はなかった。その他いくつかの情報から、はぐれの個体が下流域に至っただけという可能性が高いという。
他の魔物も、山脈や上流域から強力な魔物が下りてきているとは思われない。そういった情報が皆無ということだ。
ただ、中流域の沸き点から出現する魔物の数がやや多く、トラブルも起こっているという話だ。
「数が増えている要因は?」
「それは不明です。ただ、沸き点から出現する個体数には周期があると言われていますから、そういう周期に入ったと考えるのが妥当でしょう」
とのこと。まあ、数が増えているのは飯のタネも増えているということでもある。
他には、クロスポイント付近の魔物についても教えてもらったが、詳細は割愛する。
全体的な傾向で言えば、より群れで行動するタイプの魔物が多い。
少人数パーティにとって、数の暴力はやっかいだ。まあ、この世界、巨大恐竜レーベウスのように、群れよりも怖そうな生き物はいくらでもいそうだけど。
領都であるタラレスキンドまで辿り着いたら、一度パーティを募集してみるチャレンジもアリかなと思っているが、今のところはサーシャとタッグでいきたい。
普通、ゲームなんかで対集団戦の基本は全体魔法とかだと思うんだけど。この世界の魔法って、そういう系統のが少ない……というか、メチャクチャ難易度も高い上に魔力消耗も大きいので、まだ使えないという。
「そういえば、戦士団から傭兵に討伐に同行する依頼とか出ていないのかな?」
普段は少人数の部隊に分かれて行動しているのはこれまで見てきた通りだ。それで対処できない相手がいた場合、そこらへんにいる傭兵を雇うって手もありそうだけど。
「戦士団からの依頼、ありますよ。ただ、まず傭兵組合に回されますから、魔物狩りギルドには回って来ないこともあります。タラレスキンドのギルド本部なら、直接依頼された案件が結構あったりしますけれどね。まだ民間ほど浸透していませんね。それに、そういった依頼は危険性が高いですよ? 場合によっては、捨て石にするために依頼するなんてケースも想定できますし」
「なるほど。傭兵組合って、ここにあるのか?」
「ありますよ、タラレスキンドに本部があって、入り口の街にはそれぞれ支部が置かれているはずです」
「へーぇ……」
魔物狩りギルドが便利なので、使っていなかったな。
「傭兵組合経由ですが、少人数用の依頼の情報を入手しておくサービスもありますよ。多少手数料を頂きますが、魔物狩りギルドとして相応しい依頼のみを厳選します」
「どういったものが相応しいんだ?」
「魔物を狩る内容であること、難易度が極端に高くないこと、などですかね。内容や達成条件が不明瞭なものなども弾かれます」
「なるほど」
一応見てみたいということで、一度該当する情報を取りに行ってもらったが、現在ターストリラで受けられる依頼で相応しいものは見つからなかったとのこと。
タラレスキンドまで行くとそれなりにあるらしい。クロスポイントでも、たまに傭兵を集めて討伐を行うことがあるらしい。
最近はルーキーが集まっているので、あちらからもそれなりの戦闘力がある者に限って依頼を紹介するように要請されているとか。
「問題はなさそうだし、少し充電期間を置いてから、目指してみるか。クロスポイント」
「ご無事をお祈りしております」
職員のおねえさんにニッコリ微笑まれ、こちらも思わず笑顔になった。
「で、ついでに俺に会いにきていただいたと?」
不機嫌そうな面で木剣を構えるのはギルド員のツツム。同じギルド職員でも雲泥の差だ。
「いや、会いに来たつもりはないぞ。摸擬戦をしたいと言ったら、暇なギルド職員が居ると聞いてな」
「はん」
鼻で笑いやがった。しかし、何でちょっと不機嫌なの?
「唐突にいなくなったから、死にやがったかと思ったんだがな」
「ああ。居なくなって寂しがってたのか」
「だーれが! お前なんぞどうでもよいわ。だがサーシャちゃんが来ないのは少しばかり寂しかったな」
「うるせぇ」
サーシャは俺のもんじゃい。大剣サイズの木剣を振り回して抗議する。しかしあっさりと躱されると、普通サイズの木剣でしこたま殴打される。
得物のリーチが不利なはずなのに、距離の取り方が絶妙なんだよな、こいつ。
どうせ見て盗めとしか言わないから、せいぜい盗んでやろうじゃないか。
そうして久々に、ギルドの訓練場の床面と熱烈なキッスを交わすのであった。
************************************
3日ほどターストリラに滞在し、昼はツツムに挑み、夜はサーシャに挑む休日を過ごした。そして、クロスポイントへの出発を決めた。
今回は一応ツツムにも出発することを報告してあげた。
特に反応はなかったが、サーシャとの別れは寂しそうに見えた。ただ相変わらずサーシャはツツムに興味なさげだ。ふっふっふ。
クロスポイントは、ターストリラからまっすぐ西に2日行った距離にある。
途中、完全スルーを決め込んだゴブリンの森の近くを素通りして、カンセン川近くまで進めば着く。
東の玄関口であるターストリラと、領都タラレスキンドを繋ぐ東西の道を進むことになるから、草原地帯よりも整備がされている。戦士団の見回りも多いそうだ。
進行方向の右手、北には草原地帯、先に進むと草原の西に広がる森林がある。左手、南にはゴブリンの森、そしてその先に進むと岩石が並ぶ荒れ地が広がっている。
気を付けなければならないのは、荒れ地にいる魔物が北上してくることだ。なんでもかなり好戦的な亜人の湧き点があるらしく、道沿いにまで出張って襲ってくるのだという。
基本的に見通しは良いようなので、魔法+魔銃で先手必勝といきたいところ。
一応、出発前にもう一度依頼をチェックし、クロスポイントへの護衛依頼などないかな、と思ったりしたのが、それは見つからなかった。
そもそもタラレスキンドとターストリラ間の輸送は定期的に決まった組織が行っていて、十分な護衛を用意しているものだから、臨時の護衛依頼などはなかなか発生しないようだ。
また依頼するとしても、この地で活動する信用のある大きな傭兵団なんかを使うという。
ごもっともだ。
「さて、準備はいいか?」
「はい」
西門で手続きを済ませ、門を出たヨーヨー達は意気揚々とターストリラを発つのであった。
西への道は、混んでいる、というほどではないが人や馬車が行き交っており、たまに通り過ぎたり、追い抜かれたりする。
戦士団が乗った、魔道兵器を積んでいるという戦車のような馬車も通り過ぎたりした。
サーシャの説明を受けながら、そうしたものもあるのか、と感心する。
勝手に、この世界の戦場は雑兵が槍や盾を持って、指揮官は馬に乗って突撃しているというようなイメージを持っていたが、もっと進んでいるのかもしれない。
まぁ、少なくとも防衛施設には魔撃杖のようなものがたんまりと据え付けられているだろうし、防御魔法を利用して鉄壁にするなんてこともやっているだろう。俺にも簡単に思いつくくらいなのだから。
そうなると、弓兵が火矢を射掛けて……程度では落とせない。
地球にはなかったような、魔法を用いたり、逆に対魔法の思想で作られたビックリドッキリメカが開発されていても驚かない。
軍の部隊は北西に陣取っているという話だから、そこを通るときに見られるかもしれないなぁ。
そんなことに想いを馳せることができる程度には、平和だった。
「気配察知」スキルも、通り過ぎる人や馬車以外の物をほとんど察知してくれない。
たまに察知したかと思うと、あっという間に狩られてしまって出番がなかったりする。
そうした犠牲になっているのは、主にゴブリンの森から迷い出てきたゴブリンだ。
ここのゴブリンは、背の低い薄茶色の肌をした亜人であった。物語で出てくる、ちょっと強そうなゴブリン、かな?
そこかしこで魔物が徘徊するテーバ地方では、ちょっとしたアトラクション程度にしかならない。
本当にイベントの1つも起こらず、夜には開けた草原のような場所でテントを張ることとした。
この辺は宿場も整備されておらず、そこら中で勝手に野宿している。
何が起こるか分からないから、夜はドンさんに期待だ。
おやすみなさい。
「ギー、ギッ!」
「おうふっ」
腹に衝撃を受けて目が覚める。
目を開けると、ドンさんが再度腹にアタックをかましながら何かを訴えるように鳴いている。
気配察知を作動させると、うん、周囲にウロウロ何者かが動き回っている様子。ドンさん、仕事してくれるのは有難いんだけど、なんで毎回腹ダイブで起こすんだろうね。眉間に力を入れて意識を覚醒させると、剣を背負って魔銃を構え、入り口から外を覗く。
外は灯り1つない暗闇が広がっており、音も何も聞こえないが……。気配察知はやや離れたところで、こちらを窺うように動きを止めた一団を捉えていた。
「ファイアボール」
攻撃ではなく、視界の確保のために火魔法を放つと、立ち尽くす4つ足の、犬型の生物が見えた。
「魔物か。ハイエナっぽいな」
見た目は犬系で間違いないのだが、犬や狼というよりは顔や模様、雰囲気が何となくハイエナっぽかった。
そんなことを考えつつ、周囲の土を変形させて小さな壁と堀を構築。
即席の防御陣地だ。もちろん、防御魔法、ウィンドウォールの準備もしておく。立て続けに火球を生み出し、ハイエナ達の方へと飛ばす。
それが開戦の合図となったか、ハイエナ達が動き出す。
火球を避けた先頭の2,3頭が何かを吐き出すような動きを見せたのを見て、ウィンドウォールを張る。その判断は正しかったようで、何かがこちらへと飛んできてウォールと相殺した。
「何か飛ばしてきてるな……チッ」
断続的に何かを飛ばしてきて、それを防御しているうちに後ろから勢い込んで飛び出した敵が、ぞろぞろ防御陣地へと接近してくる。
ミニサイズの堀と壁を飛び越えてきたハイエナを、剣で叩くようにして押し返す。
即席のミニサイズとはいえ、それなりの距離を飛び越さなければならないため、空中で滞空することになり、先が読める。
「そらっ、おらっ!」
手が足りなくなれば、サンドウォールでなんとか受け流す。牽制兼照明代わりのファイアボールも数を撃たないとならないし、流石にちょっとMPの消耗が大きいか。
ただ、次の手を考える前に、援軍が登場した。やや離れて何かを飛ばしてくるハイエナ達に、次々と矢が刺さる。
「ご主人様、遅くなりました」
「おう」
遠距離攻撃を気にしないなら、全力で打ち込める。
直線軌道で飛び込んでくるハイエナを迎撃していく作業ゲーとなってきたところで、後ろに控えていたハイエナボスが一鳴きし、群れはこちらを振り返り振り返り、去っていった。
「犬系の魔物ってのはどこにでもいるな」
ため息交じりにそうこぼす。この辺に出る魔物についても調べたが、犬系の魔物は色々と居すぎて名前まで覚えていない。
「グーモーですね。魔石くらいしか売れる部位がありませんが、魔石がやや高かったかと」
「ほう。魔石が高いのは悪くないな」
肉や皮が売れる場合、持っていくのが面倒だったり、重量の関係で無理だったりすることがある。魔石は魔石入れの袋に入れておいて、異空間に保管しておけばいいから楽だ。
採取部位が魔石だけで、魔石が高いというのは俺的には嬉しい。
「手早く解体します。その間、警戒をお願いしますね」
「了解」
30分ほどでサーシャは10匹ほど転がっていたハイエナ……グーモーだっけ?の解体を終え、再び床に就く。
おやすみなさ……
「ギーッ!」
ドンッ!
腹に重みを感じてグエっとなる。近くには……犬っぽい影が見える。
「またかよ!」
この晩は、数時間から酷い時は数分の間隔でハイエナ達が襲ってきて、その度に迎撃に追われるのだった。
************************************
「……寝た気がしない」
テントの中で眠い目を擦る。陽はすっかりと昇っている。トータルでは行動に支障ない程度に寝られたとは思うのだが、小刻みに起こされるから、眠いったらありゃしないよ。
おのれ、ハイエナ。
「おはようございます」
一足先に起きて朝食を準備していたらしいサーシャが起こしに来た。サーシャは最近、少し伸びてきたストレートヘアを後ろで結び、ポニーテールにしている。ポニーテール属性はなかったはずだが、革の鎧を着て弓を構えたスレンダーなサーシャに、妙に似合う。女狩人って感じだ。
「ああ、おはよう」
サーシャと仲良くしたい欲求と睡魔を振り切って、朝食を食う。
今日は、団子のような保存食と、魚の干物だ。ここは内陸地なので干物はちょっと高かったが、グルメサーシャのためにも奮発して買い込んだ。
俺もなかなか気に入っている。どうせ塩辛いなら、肉より魚だと思うんだよ。
「ご主人様、少しよろしいでしょうか」
「どうした?」
串に刺して焼いた干物をそのまま齧るという豪快な食い方をしていると、一息ついたらしいサーシャが切り出した。
「先ほど、遠目を用いて確認してみたのですが、付近にはいくつかのパーティがいるようです。1つは戦士団のものと思われます」
「ほう」
「この先は好戦的で徒党を組む亜人が出るのですよね? 合流するなり致しますか?」
「合流? うーん」
正直、考えていなかった。
合同パーティを組むまでいかなくても、危険地帯を抜けるまで協力なんてことは、交渉すれば可能なのかもしれない。
ただ、交渉? 協力? 気が進まん。
ということで、
「こっそり戦士団の後をつけていくか」
「……えっと」
サーシャが微妙な表情をしているが、俺なりに合理的に考えた結果である。
わざわざ知らぬ他人とコミュニケーションを取るなんて面倒なことはせずとも、近くにいて魔物が出れば自然と協力できよう。囮にされるなんて恐れはあるが。
そして一番、囮にするとかしそうにないのが戦士団である。今まで接触した感じだと。
まぁ、今まで遭遇した戦士団の印象だけで信用するというのはすべきではないが、職務上、魔物を放置して逃げる可能性は低そうだ。
「戦士団が出発したら、俺たちも出よう。サーシャの遠目で確認できる程度の距離で。できるか?」
「はい、やってみます」
あまり乗り気ではなさそうだが、やってくれるようだ。
戦士団が魔物を討伐してくれそうだから、安全度も高まる。その分、魔物素材の収入は少なくなるはずだが、移動期間は移動と割り切ろう。
************************************
「戦士団が動くようです」
サーシャの報告を聞いて、腰を上げる。もともとそれなりに距離は開いているらしいので、少しゆっくりとしたペースでスタートすれば、追いついてしまうこともあるまい。
「……ご主人様」
「どうした?」
「戦士団の後ろから、他のパーティが追随しているようです」
「……」
考えることは同じようだった。
戦士団の向かう方角によっては計画倒れになるところだが、目論見通り西に向かってくれた。一安心である。
途中、東に向かうパーティとすれ違いながら、コソコソと戦士団の後方を進む。
「他の追随パーティはどれくらいの距離にいるんだ? 戦士団は気付いていないのか」
「割と近くにいますね。これは、完全に気付いているかと」
「そうか」
戦士団の後ろにいるのは、何となく裏技っぽいなーと思って一応コソコソしている俺と違って、堂々とやっているわけだ。図太い。
「それで戦士団に追い返されたりしないんだな」
「そのようですねぇ。しかし、万が一目を付けられたリ、ギルドに苦情が行けば一大事です。私は避けるべきかと」
「そうだな」
やんわりと、俺のコソコソ作戦も止めるように言われた気がするが、気にしない。
近くで野営して、向かう先が同じなら、これくらいの距離感になってしまうのは普通にあるだろう。もしギルドにチクられても、十分に言い訳はできる。
戦士団の進行ペースは速く、置いて行かれそうになるが、時々魔物に対処して立ち止まるので、何だかんだで良い感じの距離を保つことができる。
ずっと戦士団を見ているのはサーシャのMP的にも厳しいので、30分に1回ほど確認するようにする。
そろそろ昼飯かな、戦士団が昼飯抜きで進んだらキツいな、などと考えていたころ、サーシャが声を上げた。
「襲われてます! 囲まれていますね」
「戦士団が、だよな?」
「ええ。後ろの追随していたパーティも巻き込まれていますが」
「マジか。どうしよう」
サーシャは小高い場所に陣取って状況を確認する。
「……亜人、ですね。50以上はいるかと」
「戦士団達は?」
「戦士団が20前後、それ以外が10いかないくらいです」
「不味いじゃねぇか」
いや、どうなんだろう。戦士団が情報に疎いとも思えないから、これくらいは通常の任務なのだろうか。
……しかし、30人程度で50超を相手取るとすると、勝てたとしても負傷者が出るのは間違いないだろう。手助けして怒られるなんてことはない……と思う。
最悪を想定してみよう。この状況で最悪なのは……戦士団が負けるか、途中で撤退して、残った魔物がこちらに襲い掛かってくることだ。
それを避けるには、今すぐ全力で逃げ出すか、助太刀して戦うか、だろう。……ふむ。
「やるか」
「はい」
サーシャが気合いの入った顔になる。問題は、どこまで解禁するか。
「サーシャ、すまないが、近付きながら観察してくれ。本当に危ないなら魔銃、拮抗しているなら魔法を使う。優勢なら剣で斬り込む」
「お任せ下さい」
小走りになりながら、前方へ突撃する。
……結構距離あるな……。
息が切れてくるころに、俺にもはっきりと敵の姿が確認できた。
土色の肌をして、服などは着ていない。上半身の方が下半身と比べて膨らんでおり、首がなく前にずいっと突き出た頭部があるという、二足歩行の生物。漫画や映画のクリーチャーっぽい。手には骨の棒だか槍のようなものを持っている。
あれがこの地域にいるという亜人、だろうな。
ここまで来て、サーシャが判断を伝えた。
「拮抗、ですね」
「了解」
左手にウィンドウォールの小さいバージョン。ウィンドシールドを準備。
右手に持った剣を上に掲げ、その剣先から3つの火球を生み出して発射した。
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