第37話 官位

盗賊の死体を片してから、生き残り(足を怪我していたりして逃げられなかった盗賊)が数人いたので縛り上げて連行する。

最寄りの街で換金……もとい引き渡しできないか試すらしい。万が一仲間を連れ戻すために賊が戻ってきたら、すぐに斬り殺すなりしてしまえという命令があった。

死体も賞金首であれば金になる可能性もないではないが、持って行くのが手間だということでまとめて燃やし、道脇に穴を掘って埋めておいた。

そしてしばらく南東へと道を進み、今日宿泊予定だった村へと着いたのだった。


「さて、やはりこの辺の者ではなさそうだの」


村の集会場を借りて、数人の男たちが机を囲む。

一行の主である商人3人とその専属護衛、そしてなぜか俺である。迎撃のため1部隊を受け持ったことで、オブザーバー参加が必要になったらしい。


「流れ者か?」

「そうだな」


商人たちの調べでは、襲ってきた賊はこの辺の者たちではなさそうだという話だった。

そもそも、この辺の盗賊行為をしそうな勢力にはコネがあり、金を払ったりもしているらしい。


「そうなると、生かしておいて金になるかは微妙だの」


土着勢力の犯行なら、取引なりして身許と交換して金を得られるし、領主と仲が悪ければ指名手配されている可能性も高い。

ただ、1つ処に留まらない流れ者の犯行だと、取引が難しいし、領主がどういった扱いをしているか分からない。もちろん、領地に被害が出ていれば賞金首になっていることもあり得るのだが。


「ここの代官なりに任せるか?」

「んむ、雀の涙にしかならんが、無駄に連れ歩くのも面倒だ」


そんな話し合いで生き残りの処遇が決定した。


「……アジトを探ればお宝があったりしないかな?」

「あるやもしれんが、手間だし危険だな」


ヨーヨーの呟きに返したのは、隣で同じくオブザーバー参加のトルス。


「それもそうか」


盗賊を返り討ちにして討伐金と財宝でウハウハ……なんて展開を夢想するが、それは物語のなかのお話か。ため息が出る。

結構危険な目に遭ったと思うのだが、リターンがあるとは限らないのが現実だよなぁ……。

かと思えば、ゴブリン退治をしていたら令嬢を救って大金を得たりもする。わからないもんだ。


「で、今回の被害のことであるが」

「ああ、ハウールが死んで、ゼッタはまともに歩けん状況だ。忌々しい」


商人たちは口々に賊のことを罵ってから、今後のことを話し始めた。


「ゼッタは馬車の空きにでも乗せていく他にあるまい。街に行けば追加で誰か雇えるかの?」

「難しいな……」


足を怪我したらしい専属護衛は馬車に載せていき、可能なら途中で護衛を新規で雇うということで落ち着いた。


「そういえば、今回は何やら魔道具を使っていたと聞いたが」


商人の1人、マートスがこちらに話を振った。


「ああ、そうですね」

「素晴らしい活躍であったとか。いったいどこで手に入れたのです?」

「すみません、詳しくは言えないのです」


エリオットには「露店で買った」というような言い訳をした気がするが、今の俺は貴族家の放蕩息子ということになっているからな。親にでも援助してもらったものと思ってくれればいい。


「それは残念です……」

「魔石を消費するそうですな? 言ってくれれば、その分を補填しますぞ」


ショーンが更に訊いてくるが、ここはどうしたものか。


「いえ、自分の判断で使ったものですし……出来れば少し、危険手当を追加で頂ければそれで」

「しかし、どれほど追加すればいいのか見当もつかん」

「ええと、1発で魔石1つまではいかない、という程度でしょうか。あまり詳しく話してはいけないもので」

「そうなのか……」


魔力を消費すると言えば、使った魔法と併せてどんだけ魔力があるんだ、という話になるので言えない。できれば他人の前で普段使いはしたくないしね。


「狙撃をしていたかと思うと、最後はいくつもの光が重なって発射されたと聞く。いったいどんな仕組みなのか……」

「……」

「ショーン、それ以上ヨーヨーを困らせてもいかんぞ」


どう答えるべきか考え、黙っていると、デントルが助け船を出してくれた。うむ、秘密ということにしておこう。


「申し訳ありませんが」

「そうか。まぁいい、それを抜きにしても魔剣術を使って活躍したと聞く。彼には報償を出さねば」

「はっ」


臨時ボーナス来るかな? 危険手当は契約内にもあるから、多少は出るとは期待していたが。


「まあ、ヨーヨーは形式上私が雇っていることになっているしな、私から銀貨10枚を払おうか」


そう言ったのはデントルである。銀貨10枚、10万円。まさに金一封ってとこかな。ちょっと多いか。


「有難く」

「おお」

「それでいいのか? デントル殿」


ショーンが驚いたように言う。どうやら危険手当などは3人が共通して払うというのが決め事らしい。


「今回はそれで」


デントルはニコリとこちらに笑みかけて頷いた。こいつそこそこ使えそうだから唾つけとこ、という彼の心の声が聴こえた気がする。気のせいか?



会議から解放されて割り当てられた家の部屋に入る。

今回は村人の使っていない客人用の建物をいくつか借り受けたらしい。非専属組は俺が殺したり、賊に殺されたりして数が少ない。それで1つの建物を割り当てられたから、けっこう寛げる広さだ。

しかも付き合いのある村らしく、夜間警戒も免除された。他の護衛たちは喜んで酒盛りしているが、俺は酒が飲めないと断って部屋に引っ込んだ。


「ふぅ~っ……」

「お疲れ様です、ご主人様」


サーシャが床をセットしながら労ってくれる。



翌朝、すっきりとした目覚め。今回の旅のここまでの収穫を確認しよう。報酬の話ではなく、ステータスのことだ。


************人物データ***********

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(15)魔銃士(9↑)魔法使い(7↑)

MP 36/36(↑)

・補正

攻撃 G+

防御 G+

俊敏 F-

持久 G+

魔法 E(↑)

魔防 F(↑)

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明

魔撃微強、魔銃操作補正Ⅰ(new)

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法

・補足情報

隷属者:サーシャ

隷属獣:ドン

***************************


まず、ジョブについてなのだが、『魔銃士』と『魔法使い』となっている。途中で魔銃を解禁して狙撃するときにこの組み合わせにしたのだが、その後変える余裕がなかったのだ。最後の突撃までもうちょっと余裕があれば、再度『剣士』に付け替えたところだったのだが。

まあ、結局『魔銃士』もレベルアップしているので結果オーライである。何故か『魔法使い』は飛び級で2レベルアップである。襲撃以前の段階はレベル5だったことは確認している。攻撃に防御に、と色々と実戦で工夫したことが功を奏したのかもしれない。歓迎すべきことだな。

ちなみに戦闘後のMPは3しか残っておらず、『魔銃士』を『剣士』にしていたら微妙に足りていなかった。あそこまで魔銃を多用し、拡散弾まで使用することになるとは完全に想定外だったが、本当に結果オーライである。


「『魔銃士』のスキルが生えたな」


そう、「魔銃操作補正Ⅰ」のスキルが生えている。「スキル説明」で効果を確認すると、「魔銃の操作につき補正される」という曖昧な説明がされていた。

命中率とかが上がるのか、あるいは魔力を練って送る操作が簡単になるのか、というところか。

ステータス補正で上昇したのは魔法と魔防。まあ、そういうジョブで構成しているからその辺は伸びやすいのだろう。


さて、魔銃をそうホイホイ使っていると嘘がバレそうなので、『剣士+魔法使い』構成にしておこう。


************人物データ***********

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(15)剣士(6)魔法使い(7)

MP 29/29

・補正

攻撃 F-

防御 G

俊敏 F-

持久 G+

魔法 F

魔防 F-

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ

斬撃微強

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法

・補足情報

隷属者:サーシャ

隷属獣:ドン

***************************


こちらの構成にすると、ステータス補正は旅の前から上昇していない。それぞれ伸びるステータス補正の系統が異なるから、2つのジョブがある割には成長が緩やかになるかもしれない。


「んぅ……」


サーシャがもぞもぞとベッドでうごめいている。そろそろ起きるかな? サーシャのレベルはまだ上がらない。

実戦を経験したといっても、そうポンポン上がるもんではないらしい。

俺の場合より成長は遅い気がする……俺は複数のジョブを付けて、本来のレベル以上の動きができるから、それだけレベルが上がりやすいのかもしれない。

だとしたら、『干渉者』って単に複数のジョブが付けられる以上のバランスブレイカーになると思う。

設計ミスかね?

ただ、『遊び人』みたいに、今のところ明らかに使えないジョブというのもある。もともと、異なるジョブ間の格差とかバランスとかはそれほど考慮していないのかもしれない。それこそ、ゲームではないのだから。


「キュイィ~」


器用に扉を開けてドンが部屋に入ってきた。どこか出掛けていたらしい。口に果実を咥えているのを見ると、目的は明白だな。


「あまり出歩くなよ、危ない目に遭っても知らないぞ」

「ギッ」


はいはい、という感じで返事をしてドンは部屋の隅へと座り込んだ。もそもそと果実を食って眠そうにしている。どこで貰って来たんだか。

ドンは夜行性で、しつければ昼夜逆転もできるらしいが、夜の間の警備を任せたいから特に矯正などもしていない。だから生活時間は俺たちの真逆だ。

ただ、寝る前の朝食(俺たちで言うところの夕飯?)と、夕方に起きて来た時の夕飯(朝食?)をやったりするので、それなりに接触はある。

俺たちの夕飯後の食休みくらいの時間には起きているので、そこでサーシャにモフモフされていることが多い。買った直後は不安だったが、本当に言葉は理解しているらしく、注意をすれば宿で粗相をするようなこともないし、本当に頭が良い。少し高いが、これならペットとして欲しいという人も多いはずだ。


そういえば、ケルミィ(ドンの種族である)を連れているとバレた(隠してもいないが)ので、そのことを説明したときに、商人ショーンに「ケルミィは副脳が背中のあたりにある」というトリビアを披露されてちょっと驚いた。

見た目に似合わぬ賢さは、そういう秘密があったらしい。最低でも、人の言葉や感情をそれなりに理解して行動するくらいの賢さがないと護獣に認定されないとのことで、この世界の動物は本当に頭が良いのがいるらしい。


地球だったら、該当する生物はいないんじゃないのか? ……クジラとかなら、それくらいの潜在能力はあるのかな?

あっちでも、クジラは賢いから人権を認めるべき、なんて議論する人がいたけど、この世界でもそのうち護獣に権利を!なんて活動が流行るのかもしれない。

ステータスシステムが人とは違っているので、どういう形になるのかは分からないが。


ぼんやりとドンの食事を眺めながら、とりとめもないことを考える。


護衛の仕事は午後から再開だ。午前中は、ここでも商売を何かするらしい。馬車の空いたスペースには代わりにこの辺の特産品を詰めて、南の方で売りさばくという。

盗賊のときも、この辺の勢力には手を打っているようなことを言っていたし、完全に交易巡回ルートを完成させているようだ。

それだけ用意して、用心しても一回ミスをして魔物なり盗賊に負けでもしたら、根こそぎ持っていかれて振り出しに戻るのか。

この世界の行商人ってのも本当に大変だよなあ。

……前も同じようなことを思ったっけ。あのときはこの世界の農民は大変だなぁ、だったか。楽な仕事はないということだな。頑張ろう。


「ご主人様、そろそろデントル様と合流しませんと」

「おう、すぐに用意しよう」


主要街道から外れたところで盗賊に襲われたわけだが、一行はそのまま海岸線沿いに進むルートを通って、行商をしながら最後は主要街道と合流することになる。


「海岸に近付くと、海から思わぬ魔物が上がってくることもある。注意を怠るなよ」


トルスが護衛隊に気合を入れる。


「この辺はもう王領ではないのだよな?」


歩きながらマーラに訊くと、頷いて肯定した。盗賊戦以降、少しだけ話に応じてくれるようになった。


「そうだ、この辺りはベニオス家の領地、ルグラス地方だな」

「ベニオス家……大きいのか?」

「それなりだ。守護家だしな」

「守護家……」


マーラとの会話はそれきりだったが、それを聞いていたらしいサーシャが後になって補足してくれた。


「守護家というのは、王家から直々にその土地を任された直臣のことです」

「ほう」

「貴族の位階は色々と厄介なので……ただ、守護というとすごく偉いということは知っています」

「なるほど、大名的な感じだな」

「ダイミョー?」

「こちらの話だ」


日本史における守護というと戦乱期に下剋上されていったイメージだが、こちらの守護はちゃんと土地に駐在していてその領地の内政・外交・軍事を司っているお偉いさんらしい。

だから、江戸時代の大名といった感じが近い……のかな。

歴史なんて丸っきり素人だから分からない。


「スラーゲーの領主はどうだったんだ?」

「はい、たしか責武だったかと記憶していますが」

「……なんだそれは」

「守護、のように王家や領地との関係を示す官位……でしょうか。すみません、詳しくはないもので」

「いや……守護とは何が違う?」

「えーと、守護は人々を守護するもので、責武はその地方の武力に責任を負う……といった意味合いだったかと」

「うーん。まあ、貴族の肩書きなんてややこしいものだよな」


あまり深く考えるのはよそう。

いや、貴族の放蕩息子路線でいくならある程度は知っておかないと不自然か?


「そういえば、南方で大勝したっていう何とか家はどうなんだ?」

「え? えーと……すみません」

「いやいや、気にするな。そうだよな、関東民にいきなり『今の熊本知事は誰』とか訊いても分からんよな、普通は」

「? はい」


ヨーヨーの微妙なたとえは異世界人に伝わるはずもなく、サーシャが小首を傾げただけで終わった。後の休憩タイムに周囲の護衛たちに確認してみると、意外と知っている者も多かった。


「たしか責武を名乗っているはずだぜ」

「名乗っている?」

「ああ、まぁ独立したてだからな。正式な任官はされてないんだろう」


(自称とかもアリなんだ……)


微妙な顔をしていると、教えたがりの別のおじさんが話を続けた。


「たしか官位は忠居だったはずだが、小責あたりの官位を欲しがっているらしい。ただ、もともと魔物退治をしたわけでもないから破魔じゃなくて忠居って話だったから、小責は難しいだろうって話だぜ」

「へぇ」


何がなんだか分からなくなってきたので退散した。


とりあえず、守護というのが相当偉い人の名乗りだというのは理解した。同じくらい偉い人として、太守という称号?もあるらしい。守護よりは1ランク下がる名乗りらしいが。

物語などでお馴染みの西洋式爵位制度に例えてみれば、伯爵クラスで偉くて、権威と実力があるランクにいるのが守護家らしい。

そう考えるとちょっと分かりやすいな。伯爵って言ったら、何か偉くて頭が良かったり、逆に良からぬことを主謀したりする人達じゃないか。物語ではだけど。

出てきたら逆らってはいけないということだな。


ちなみに、あまり理解できなかったが、物知りおじさんの話に出てきた「忠居」や「破魔」は成り上がり者用の官位で、良く言えば庶民的な感覚を持っていたりするので付き合いやすい人も多いとか。

これは地味に役立つ情報だ。貴族にコネを持ちたかったら、その辺の官位を持っている人を狙えばよいのだ。


実を言えば「そもそも官位など持っていない」貴族というのもいるのだが、この時のヨーヨーは知る由もなかった。


海岸沿いの街道を進む旅は順調に進み、途中で海産物のバーベキューなんてものもあってなかなかに楽しい感じであった。

雲行きが怪しくなってきたのは、もう少しで主要街道と合流するという、旅の終盤に差しかかったところであった。


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