第36話 「スキル説明」

ジョイスマンの太刀っぽい大剣を受け取ったので、さっそく鞘ごと振ってみる。

うん、重量感があって良いな。ただ、長いので扱いに慣れる必要がある。空いた時間で素振りをして身体を馴染ませていこう。

今までの剣は腰の後ろに固定して、予備として運用する。


「思わぬところで装備が充実しましたね、ご主人様」


サーシャは昨夜のスプラッタ・ショックからは抜けたのか、再びかいがいしく世話をしてくれるようになった。


「そうだな、だが護衛が5人も減ってしまったから、その分も俺が活躍しないといけないな」

「無理は禁物ですよ」

「ギーギー」


ドンがお休み前のエサをねだりに来たので、いつものエサに加えて朝食の干し肉もやる。

昨夜の襲撃はドンがギリギリとはいえ事前に警告してくれたおかげで、対処することができたしな。何気にお手柄だ。


「これからも夜の警戒を頼むぞ、ドン」

「私を護ってくれてありがとうございます。ドンちゃん」

「ミュゥ!」


サーシャにモフモフされてご満悦だ。俺も可愛がってやっているのだが、どうしても懐くのはサーシャだ。子供が懐く妻に嫉妬する夫の気持ちが分かった。


「まぁいいか……」


荒んだ気持ちを和ませてくれるドンに感謝しながら、その様子をながめた。



************************************



「出たぞ、犬だ!」


前方で動くものを見付けて、駆け寄る。

……うん、牙犬だな。さっそく太刀で斬り付けると、鮮血が飛び散る。切れ味はなかなかだ。


「群れかもしれん、左右の警戒を厳にしろっ!」


トルスが油断なく指示をする。

結局、あっさりと先発隊が片付けられて逃げたのか、他の個体は出なかった。


「たしかに、なかなかの動きだな」


トルスがにこりともせずに言ってきた。


「そうか? まだこの武器にも慣れていないし、弱いほうだろ」

「……そうか」


トルスが何か言いたげにしながらも会話は打ち切られた。身近にいた剣士がエリオットやマリーだったから、自分のなかで評価基準が上がってしまった恐れはあるな。

珍しいことに、俺以外の護衛メンバーに剣使いがいないようので、比較できないが。

トルスは槍使い、そしてマーラはなんと鎚使いだ。いや、メイス使いというのかな? そのへんの言葉の定義が分からん。


金属でできた棒の先端に、ごっつい尖った打撃部位を備えている。見ているだけで強そうな形状だ。俺の貧しい知識では、斬ったり突いたりではどうしようもない重鎧の中の人を、殴った衝撃で殺すための武器だと聞いた気がするんだけど……。

どういう意図であれを装備してるんですかね。


厚い皮を持つ魔物なんかには有効なのかもしれない。ちょっと訊いてみたいが、マーラは無口のようで会話の切欠が掴めない。まあ俺もあんまり話し掛けられたくない人だから、同族のよしみで質問は遠慮しておくか。



その後もチョロチョロと魔物が現れるようになり、剣の錆にしていった。

この剣を使っていて分かったのは、ちょっとクセが強いということだ。長柄の武器ということで遠心力が働き、身体捌きが難しいというのもあるのだが、それだけではない。


刀身がやや曲がっているので、突きが微妙にやり辛い。どうしても払いのような形になる。“斬る”ことに特化していると言ってもいいかもしれない。

片刃の武器というのも初めて使うので、今までの感覚でいると混乱しそうになる。狙ったわけではないのに峰うちしてしまう。


前の剣の切れ味が悪かったので、俺自身に叩きつけるようなクセが付いてしまっていることも、この剣との相性が悪い。

重量はあるのだが、それなりに切れ味があるから、単純に質量兵器的な使い方をするのが勿体ないのだ。そういう使い方は劣化も早くなりそうだし。


「……まともに戦ったら、どれだけ強かったんだろうなぁ、ジョイスマンの野郎は」


剣で戦っていたら、武器のレンジ差もあって相当苦戦しただろうと思われる。魔銃のことを隠しておいて、異空間とのコンボで奇襲したのは正解だった。

魔銃を手にした頃からずっと、いつか危ないときに使おうとしてきた手段だが、今回初めて使うことになった。

狙い通りの効果だ。ただ、ジョイスマンのタフさが予想外のものだった。もっと魔防の高いジョブに襲われたら、魔銃で奇襲パターンも通用しないかもしれない。

魔法攻撃に傾倒しすぎるのも危険か……。


その夜、問題なく次の宿場に辿り着き、護衛も共に宿屋を利用できることとなった。専属護衛はそれぞれの雇い主の護衛を続けるようだが、そうでない護衛のなかには酒場に繰り出す者もいるようだ。

商人たちは下男に命令して、馬車からいくらか荷物を下ろさせている。この地のお偉方に挨拶がてら、ひと商売するようだ。商魂たくましいな。


酒はそれほど嗜まないので、割り当てられた寝室でゴロゴロし、何気なくステータスを確認していると変化があった。


************人物データ***********

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(15↑)剣士(6)魔法使い(5)

MP 27/27

・補正

攻撃 F-

防御 G

俊敏 F-

持久 G+

魔法 F

魔防 F-

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ(new)

斬撃微強

火魔法、水魔法、土魔法、風魔法

・補足情報

隷属者:サーシャ

隷属獣:ドン

***************************


『干渉者』のレベルが上がり、新たなスキルが生えている。

ジョブ追加がⅢにならないかな~と期待していたのだが、そうはならなかった。ただ、このスキルもかなり気になるぞ。


「スキル説明」


小声でスキルの発動を促すと、表示していたステータス画面にポップが現れて、現在所有しているスキルから1つ選択する形のようだ。

試しに『ステータス閲覧Ⅱ』を選択するように意識してみると、結果が表示される。


『ステータス閲覧:ステータス・システムが導入された対象の、一部のステータス情報を閲覧できる』


なるほど。

スキルの説明だわ。

ちょっと簡潔すぎるけど、レベルがⅠのせいなのか。それでも、今までの情報ナシよりは大分ましだが。


よし、どんどん試してみよう。


『ステータス操作:自分のステータス上、変更できる部分を操作できる』

『ジョブ追加:選択可能ジョブの数が増える』

『ステータス表示制限:ステータス表示系のスキルを受けた場合、表示されない項目を選択できる』

『スキル説明:現在保有しているスキルの説明を閲覧できる』


うん。『干渉者』のスキルはだいたい想像通りだったが、想像通りだということを確認できてよかった。


次は1つだけだが、『剣士』のスキル。


『斬撃微強:斬撃属性の攻撃の威力等を自働で微かに増強する』


やはりそういう効果か。


今更だが、『魔法使い』のスキルについても調べておこう。


『火魔法:火属性の魔法システムを使用許可状態とする』

『水魔法:水属性の魔法システムを使用許可状態とする』

『風魔法:風属性の魔法システムを使用許可状態とする』

『土魔法:土属性の魔法システムを使用許可状態とする』


なるほど。情報少なっ!

いや、魔法のスキルは魔法システムを使用許可状態にしているのだな、というのは何かこの世界の根幹に関わりそうな情報ではあるのだが。やっぱり何かのシステムなんだな。

他に気になっていた効果不明のスキルも、この際ジョブを付け替えながら調べてみる。


まずは『盾士』の「盾強化」。


『盾強化:防御や魔防のステータス補正の効果を、盾にも拡張する』


ステータス補正を防具にも及ぼす的な効果だった。これは説明されないといまいち理解できなかっただろう。ステータス補正が、当然に防具にも影響するわけではないと分かったことは大きな収穫だ。身体に密着している鎧などの防具の扱いについてはなお気になるところだ。『鎧士』みたいなジョブが出ないのであれば、鎧にはステータス補正が及ぶと考えても良いのだろうか。ふうむ。


そして新しく獲得していたジョブ、『警戒士』の「気配察知Ⅰ」。


『気配察知:システムを介し、周囲の動的反応を察知する』


うーん、言っていることはよく分からないが、初の探知系のスキルというのは間違いなさそうだ。どこかで実験してみたい。


最後に、ずいぶん前に獲得していた不本意なジョブ、『遊び人』の「お気楽」。


『お気楽:一部の精神的なストレスの影響を受けにくくなる』


うむ。一応、意味のあるスキルではあった。これがあれば、周囲からのプレッシャーをはねのけ、ますます遊び人道をまい進することができるのだ。……ネタすぎるよ。



宿屋が取れても、最低限の人数で夜の番は付けることになる。このへんは商隊ごとに方針が違うようだが、今回は商品を満載した馬車の見張りも必要だということで、馬車のある宿場の入口付近で番をすることになった。

やはり、小さな宿場は必ずしも治安が良いとは言えない、ということか。この辺はまだ王家の直轄地のはずだが。あまり関係ないか。

チラホラと他の商隊の見張り番も見える。


夜の番は最初の順番で、トルスとコンビになった。サーシャも一緒だ。馬車の見える位置でひと塊になって眠い目をこする。


こういう経験豊富そうな現場の指揮官からは、情報収集しておいて損はない。


「なあ」

「……なんだ」

「護衛の中に、『警戒士』はいたりするか?」

「なに……?」

「斥候系のジョブだと思うんだだけど、知り合いに獲得した奴がいてね。実際どうなのかなと」

「ああ」


トルスはチラリとサーシャを見て、納得した表情を浮かべた。

違うけどな。


「そういえば、斥候系は弓使いだと取りやすいと聞いたことがあったな」

「そうなのか」

「さあ。聞いた話だがな。どちらにせよ、我々の中に『警戒士』というのはいなかったはずだ」

「護衛役にこそ便利な気もするけど」

「そうかもな。ただ、偶然だが今回の商人たち3人は、いずれも2人ずつ専属を抱えている。それは場合によっては、2人で雇い主を守らなきゃいけないってことだ。そうすると純粋な戦闘職以外を連れていく余裕がない」

「あー……なるほど」

「もっと規模の大きな商隊だったら、いるものなのかもな」


トルスは『槍使い』系だとして、マーラは何なんだろうね。『鈍器使い』とかか。物騒だ。


「逆に訊いても良いか?」


マーラのジョブに想いを馳せていると、トルスにそう問い掛けられた。


「ん? 構わんが」

「あんたらは何者だ?」

「……」

「貴族出のお坊ちゃんじゃないのか」

「……貴族? なぜそう思う?」

「色々だ。まず『魔剣士』というジョブ。私の知る限り、貴族の十八番だ。若いのに傭兵5人を一方的に殺れる力量からしてレベルも相当あるはずだ、成り立てとも思えん。そんな若い頃から『魔剣士』を育てられるのも貴族くらいだ。それとその、後ろの君だな」

「……サーシャ?」

「ああ。個人傭兵と、その戦闘奴隷って感じにはとても見えんよ。顔の造りは薄いがよく見ればそれなりに整っているし、華奢だ。それで戦闘奴隷というのは不自然だな。そういう目立たない風貌で腕が立つというのは、貴族に付けられた腕利きの使用人ってのが相場だ」

「いや……いや、それを知ってどうすんだ?」

「どうもしない。言いたくなければそれでもいいが、もうちょっと上手く隠すことだな」


トルスが肩を竦めて口を閉じた。


……言いにくい! この雰囲気で「全然違うけど」は言いにくいよ!


まあいいか。自分達が多少不自然であることは自覚していたが、他人の目からどういう風に見えるのかを知ることができた。……色々と斜め上だったけど。

それに、貴族家の放蕩息子とでも思っていてくれれば、無用な争いを避けてくれる気もする。使えるものは使っておこう。一言も肯定はしていないから嘘はついていない。不幸な行き違いがあっただけだ。


「……ご主人様」


サーシャが微妙な表情を浮かべている。“とりあえずそういうことにしておけ”と念を込めて目線を送っておく。あんまり伝わってなさそうだけど、サーシャなら余計なことは言わんだろう。不幸な行き違いがあっただけなのだ。


これから、戦い方もちょっと気を付けないといけないかもしれない。俺は『魔剣士』ということになっているし。

今後も危険があれば迷わず使うつもりなので、魔銃の存在をそこまでして隠す必要もなかったかもしれないが、まぁ、乗り掛かった舟だ。それに『魔剣士』ということにしておけば、剣を使いながら魔法を使っても不思議がられないだろう。


『魔剣士』の使う魔法は、以前港で師匠ことピカタに聞いたことがある。基本は『魔法使い』とそう差はないように見えるらしいが、詳細は分からないとのこと。剣に炎をまとわせたり、剣を振って魔力を飛ばすといったことが得意らしい。剣が発動のキーとなるような魔法なら使えるということかな。

一般的に言われているのは『魔法使い』系よりも破壊力が高いという。


……実戦でウォール系とか試してみたかったのだが、『魔剣士』が使うと不自然だろうか?

魔法系統は同じスキルでも何ができるかの個人差が大きいようだから、何かと言い訳を付けて使ってしまっても案外バレないかもしれない。

足元を泥状にするバシャバシャ(正式名称わすれた)は流石に無理か。


一方的に気まずい空気にしばらく耐えていると、交代の時間となって後番の者たちが現れたので、バトンタッチした。

なんだか妙に疲れたぜ。


翌日から、順調に旅程を消化し、オーグリ・キュレス港からひたすら南下し続けた。全体的にはやや東に流れ、南東に進んでいる形だ。

途中、魔物に遭遇することも増えてきたが、主要街道を通っていることもあり、数は少なく十分に対処できる。牙犬や亜人が多かったが、スライムなんてのものにも遭遇した。ブラッドではない通常スライムである。魔法の基礎4属性と同じ4つの属性がある。そのため、属性スライムとも呼ばれている。

ブラッドと異なり身体の一部を硬化させたりすることもなく、より危険度は低い。

ただ、身体は流体で弱点が核しかないため、危険は少ないが倒すのに時間が掛かる。ということで、通常はスルーして相手にしない。核が魔石なのだが、魔物狩りとしては弱点の核を壊すと売れないというジレンマを抱える。

放っておくと進行の邪魔になりそうなやつだけ排除して、先に進む。動きが遅いので、放置しても背後から攻撃される危険は少ない。


やがて、大きな街道から外れて東寄り、海岸に沿って進むルートに入る。潮風の匂いがしてちょっとワクワクする。

地球では海で遊んだことなんて数えるほどしかないが、それでも海を見るとなんかテンションが上がってしまうのが日本人だよな。いや、内陸の県出身者だけかな?


「ん?」


左右の雑木林から人が飛び出すと、何かが飛んでくる音がした。

盾を掲げて警戒すると、俺とトルスとの間にトスンと刺さる、細長い物体。

弓矢だ。


「っ! 敵襲!」


トルスが叫び、警戒を促すと同時に、人が更に飛び出してきて矢を放ってくる。左右前方の雑木林からも疎らな弓矢が降ってくる。


「数が多いぞ、密集隊形!」


咄嗟に魔力を剣に伝わせて、展開する。

なんかいつもよりスムーズだぞ? もしや、剣が杖代わりを果たしているのか。


嬉しい誤算がありながら、剣先からあふれる魔力で壁を作る。風属性のウォール系の魔法、ウィンドウォールだ。風の壁が飛んできた矢を乱し、弾き飛ばす。

ちょっと魔力消費が多いな、出力を弱めにしよう。矢を弾き飛ばすことはできなくなったが、それでも軌道が乱れ、明後日の方向へと飛んで行く。


……ちょっと流れ矢が怖いけど、これくらいなら継続して使えそうだ。

後ろではデントルが馬車の進行方向を操り、横にしていた。


「後ろに下がるぞっ!」


トルスに言われ、ウィンドウォールを張りながら馬車の後ろまで後退する。

他の者の動きを確認すると、後ろの馬車2つは道の左右に平行に並ぶようにして左右の攻撃を防ぐ壁になろうとしている。デントルが横にした馬車を正面の壁として、ちょうどコの字に並べて防御陣地を作っているようだ。下男たちは馬を馬車から解放して囲みの中に誘導している。持久戦の構えだな。

他の護衛達も応戦しながら囲みの中へと退却してきて、商人の1人が弓を持ち出して来て配っている。非常事態ではこうするという取り決めがあるのだろう。スムーズに対応しつつある。


「トルス、俺はとっておきの魔道具がある」

「なんだと?」


リュックの中から取り出す……フリをしながら、異空間から魔銃を取り出す。

結局バラす時が来たか。仕方ないか。


「魔石を食うんでな、できれば使いたくはなかったが」

「どうするつもりだ?」

「態勢が整うまで、牽制が要るだろう。これで応射してみる」


手を振ってデントルの方を示し、俺は前方の馬車の壁の左端から前を覗く。

盛んに弓を放ってくるが、馬車が壁となってこちらに有効打を与えられていない。

中央の男が指示をして、曲射して弓を届かせようとし始めたが、なかなか上手くいかないようで怒っている。


「思いのほかすぐに使うことになった」


1人そうごちながら魔銃を構え、距離、速度重視で射撃してみる。

甲高い音が響き、相手の頭っぽい男の胴体に当たる。周りで何か叫びながら動揺しているのが分かる。


「うーん、即死とはいかないようだな。まあ仕方ないか」


連続で魔撃を放ち、前方に陣取っていた男たちに半数ほどが当たった。慌てて左右の雑木林に避難するのが見えた。

左の雑木林からこちらに矢が飛んでくるが、馬車に隠れたりウィンドウォールで逸らしたりしてやりすごす。相手からすると厄介だろうな。

そのとき、後ろから軽く肩が叩かれてビクリとする。


「ヨーヨー、どうなっている?」


トルスだった。集まってきた護衛達と商人、下男たちも弓を持って各方面に散って戦っている。


「とりあえず何人かは当てたと思うが、よくわからん」

「相手の姿が見えないが?」

「魔道具に驚いたのか、雑木林に逃げた。まだその中から撃ってきているぞ」

「……そうか」


トルスは厳しい顔で頷いて、何事か考えている。


「それより、ここからどうするんだ?」

「デントル様たちと話は付けた。防御陣地を維持したまま、迎撃を続ける」

「ま、それが無難だな。だが、俺が賊なら後ろに回り込むが」

「そうだな、私でもそうする」


コの字型に展開したため、後ろには馬車の壁がない。奇襲するくらいだから伏兵もありそうだし、後ろから襲ってくるはずだ。


「後ろからかは分からないが、こうして膠着した以上、どこかで白兵戦に切り替えてくるだろうとは思う」


トルスが弓矢を絞りながら、予想を話す。手を離して矢が飛んでいく。


「そのときが問題だ。敵の方が数も多そうだしな」

「トルス、弓を使えないやつを何人か集めてくれるか?」

「構わないが、何をする気だ」

「そう時間を掛けず、急襲してくるってことだろ? 多分後ろから。ならその機会にこちらから逆撃するまで」

「……いいだろう」


トルスが後ろに下がってデントルに話し掛ける。俺の隣ではサーシャが威嚇射撃を行ってくれる。何事か話し、トルスがこちらへ走ってきた。


「許可が下りた。ヨーヨーは下がって、迎撃部隊を指揮してくれ」

「俺が指揮するのか? 専属でも何でもないんだが」

「間に合わせの部隊だし、こういった場合は強い奴が仕切るほうがまとまるのだ」

「……そうかい」


いつの間にか強い認定されてしまった。魔銃という武器が強いのは認めるが、後は奇襲専門みたいな男なんですがねぇ……。


「奴隷……サーシャはどうする?」

「ここに置いておく」

「ご主人様?」

「サーシャ、弓使いのお前はここに必要だ。俺は斬り込み部隊だから、弓の援護は必要ない」

「……はい」

「ではな」


サーシャの背をぽんぽんと叩いて、デントルの方へと向かった。


「私も迎撃組だ、よろしく」


ごっついハンマーを手にして待っていたのはマーラだ。相変わらずの威圧感。声と名前からして女性なんだろうけど、ずっとフルヘルメットを装着しているせいで確信はできない。

他にも4人ほど参加者が集まる。

何か声を掛けるべきかと悩んでいると、後ろを警戒していた下男が叫び声をあげた。


「来てる、来てますって! 10人以上はいますよ!」


振り向くと、こちらへバラバラに駆けてくる賊の一団。


「よし、好きに暴れろ!」


冷静に考えると酷い掛け声をかけて駆け出す。右手をホルダーにかけ、魔銃を抜き放つ。

近い順に3,4人の胴体を撃ち抜いてから剣を構える。


「ぐ、クソ! 魔石が切れたんじゃぁなかったのかよ!」


賊の1人が悔し気に叫ぶ。やはり、魔銃は警戒されていたらしい。

双方が駆けているので、一団との相対距離は一気に近付く。そこで剣に魔力を流す。

剣先から浮かぶ炎の球を、敵へと投げ付ける。


「うおぉっ!?」


驚いた先頭の男が上半身を反らして躱そうとした隙をついて、剣を振り上げる。重い感触がして、鮮血が舞い散る。

骨は断てなかったが、防具は斬り裂けたらしい。突然のことに驚いている左隣のやつを惰性で斬って、構える。飛び込んできた男に剣先を合わせて、身体全体を使って突く。

うまいこと飛び込んでくるエネルギーを利用したカウンターになったようで、剣先が喉に刺さって力を失くす。


「ば、馬鹿な」


何かを言い掛けた敵に斬りかかるも、剣を合わせて防御されてしまう。相手が飛び掛かってくるが、ウィンドウォールを軽く当てると驚いたようで、その隙に強引に体当たりで身体ごと弾く。さらにできた隙に渾身の袈裟切りにする。腕が飛び鮮血が吹き出る。うむ、なかなかの手応え。


「ウガアアアアア――!」


隣で雄叫びが響く。見るとマーラが叫んだようだ。周囲の敵が一瞬竦んだように見え、そこにハンマーの鉄槌が下る。文字通りの鉄槌が敵の骨を折り、頭を砕く。怖すぎるだろ、この化物。

他の味方も次々に飛び込んで乱戦模様。といっても、どちらも小集団の戦いなので、地味で戦争映画の1シーンのようにはならないが。

周囲の敵を一通り斬ったので、生死の怪しい奴に止めを刺しながら他の人への加勢を考えていると、奥から雰囲気のある剣士がこちらへと向かってきた。


「……名のある武人と見た、勝負せい」

「あん?」


男はそれ以上問答せず、こちらへ飛び掛かってくる。

うおぉ、速っ!


適当に乱射するファイアボールで意識を反らし、突きで威嚇し、ときに敵の死体を盾にしつつとするが、凌ぐだけで手一杯。強い。まともに相手をして敵う手合いではない。


大剣を振り回して一瞬の膠着状態を作ると、手放して魔銃を手にする。


「むっ、それが先ほどの魔道具……」


魔銃を放つと、まるで先読みしたかのようにそれを躱す。

どうなってんだこいつ。

大作宇宙オペラの戦士を思い出すぜ。


「強力な道具だが使い方が単純なのがざ――」


などと口走っているところで、拡散弾を放つ。

点ではなく、面での攻撃。至近距離からの発砲を躱す術はない。

それでも射線の中心からは身を捩って逃れたが、一部の銃撃を足に食らう。

一瞬怯んだ隙を見逃さず、拡散弾を連続で放っていく。


ズジュン、ズジュン、ズギューゥンッ……


「が、ぼ……」


剣士は血を吐いて倒れる。その頭に予備の剣を振って殴打し、止めを刺してから周りを見る。

だいたい賊は片付いたようだ。こちらの人員も1人やられている。治療をする余裕もなく息絶えてしまったようだ。


「……なんだその出鱈目な魔道具は」


マーラが呟く。一足先に戦い終えて、こちらの最後の殺戮シーンを見たようだ。


「まあ、とっておきだからな」

「まさか、この前の夜もその攻撃で?」

「どうかな」


肯定すべきか、否定すべきか咄嗟に判断がつかなかったので誤魔化しておいたが、これは間接的に肯定したことになっちゃうのかな? まあ真実だし、いいか。

前方では敵が撤退を始めたらしく、それぞれが追撃しようとしていたが、トルスがそれを抑えているのが聴こえた。

深追いして罠だったなんてことになっても大変だし、態勢を整えることを優先したのだろう。


「お疲れ様」

「ご主人様」


サーシャも弓を持って周囲を見渡していたが、こちらをみると安心したように息を吐いた。

もともと戦った経験も多くはないし、対人の経験といえば皆無だ。緊張したのだろう、当然だな。

サーシャの足元にはドンもいて、あちこちを警戒しているような素振りをみせる。


「ドンも助けてくれたのか、ありがとうな」

「ギッ!」


何となくドヤ顔を決めていそうなドンの様子に、周囲の危険はないらしいと判断して、1人と1匹の頭をなでて労う。まあ、どちらも俺になでられても嬉しそうではないが。


「こっちはどうだった?」

「散発的な弓の撃ち合いでした。おそらく、1人だけ倒せたと思います」

「おっそうか、良くやったな」


少し注意深く観察してみたが、精神的ダメージを負っている様子もない。サーシャはもう、殺す怖さは乗り越えたのかな。

ドンはこれで索敵能力が高そうだし、サーシャと組ませれば優秀な狙撃部隊として運用できそうだ。


「とりあえず怪我がなくて安心したよ」


サーシャのほっぺをぷにぷにしてイチャモードに移行しようとしていたら、いつの間にか接近して来ていたトルスに話し掛けられた。


「おい、報告は?」

「ん? あー、10人強くらいの部隊が後ろから出てきた。全て倒した」

「……それだけか?」

「何を言えばいいんだ?」


トルスははぁとため息を吐きながら、リーダーは失敗だったかと小さく呟いた。


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