第27話 ハングルトン

道はたびたび蛇行しながらも、次第に幅が広くなり、視野は開けてきた。

途中、人影が飛び出してきたのを容赦なく騎兵隊がひき殺していたことに驚いたものの、どうやら亜人種だとのこと。

この世界の「亜人」は、完全に魔物を指す言葉だ。奴隷商会であるチェフ・スラーゲーで見たケモミミ少女や、地球ではあり得ない肌の色をした人種もいるのだが、これらは亜人ではなく、普通の人種である。

魔物だけど人っぽいね、という分類で「亜人」と区分されるわけである。人と亜人の間には越えがたい壁がそびえ立っている。


「東の湿地帯には亜人種が多い。これから遭遇する危険性は増していくよ」


途中で休憩した際にエリオットがそう述べた。

センターの資料にも載っていたので、予習済みではある。が、机上では分からないこともあるだろうから、経験豊富そうな集団と同行できるのが心強い。


護衛がこれって駄目なんじゃないかね?

エリオット達にはもう魔銃を隠していないので、堂々と使用できるのが安心材料ではある。隠していたためにピンチになっても馬鹿らしいし、この前の岩犬は魔銃がなければ、どうなっていたか。その辺のバランスは難しいところだ。エリオットたちと別れた後はどうするか・・。


チョロチョロ出現する少数の亜人種は魔銃を使うまでもなく、先行する騎兵隊に蹴り飛ばされ、少数の鳥型魔物は弓で追い払われていった。

陽も傾き、速度を上げて急いで街壁へと飛び込む。

ハングルトンという街である。


ハングルトンの街壁はスラーゲ―よりも低く、街全体のサイズも小さく感じる。

なんでも、交易路に自然発生的に生じた宿場がルーツの街なのだとか。入植地として計画的に建設され、人が集められたスラーゲ―と比べて小ぶりなのは仕方のないことなのだ。

近年では、街の東に湿地帯が広がっていることを利用して、穀物の栽培が盛んなのだとか。俺たちは西から来たから、その栄えっぷりが分からなかっただけかもしれない。

コメっぽい穀物、もう俺の中で米と認識してしまうが、あれはハングルトンの東で生産されたのかも知れないな。

ありがとう、いいお米です。


「今日は宿泊まりできるよ・・まあ、見張りの当番はあるけどね」


エリオットが嬉しそうに言う。明日は野宿の予定だという。野宿かぁ・・ま、スラーゲ―滞在初期で経験した、浮浪者的野宿よりは快適だろう。たぶん。

一行は街の中心にある広場に面した、立派な宿屋へと入って行く。

貴族が泊まるような宿なので過剰だが、セキュリティーを考えるとここ以外に泊まれる場所がないのだとか。

部屋は、アアウィンダ嬢のスウィートが1つ、騎兵隊の面々で2つ、そして俺とサーシャ、エリオット達で1つを使う。ただしパッチはお嬢様の部屋だ。専属癒術士兼お話相手になっているようだ。

もちろんアアウィンダ嬢の部屋の前で護衛達が順番で目を光らせる。

スウィートの部屋前には、護衛用の椅子まで用意されているというのだからなんとも。

地球にいたころには関わりのなかった世界が広がっていますね。


「3交代だ。女性二人、僕、そしてヨーヨー君とサーシャ君の順番でどうかな」

「異議なーし」


部屋に並べられた大きなベッドにダイブしていたら、エリオットが皆を見渡しながら言った。

うーむ、なかなかのベッドではないか。ただし固い。スプリングが死んでいるのか、そもそもそんな仕掛けはないのか。


「騎兵隊の人らはどうなるんだい」


マリーは隣のベッドに横たわって、おっさんのように嘆息していたが、復活したようだ。


「僕らと同じシフトで出るよ。つまり、それぞれ騎兵隊の人と組んで護衛すると」

「・・そうなるのかい」

「仕方ないよね。もともと私兵連中が信用しきれないから僕らに頼んだ、という面があるんだし。相互監視、だね」

「うへぇ」


マリーは再びベッドに沈んだ。

俺もちょっと気が重い。あの隊長さんとペア?になったら、どう話を持たせればいいんだ。いや黙っていればいいんだが。それはそれで、空気が死にそうだ。


「・・サーシャーぁ~」


同じベッドに静かに腰掛けたサーシャをすかさず捕獲して、癒しを求める。

サーシャは抱き着かれたときの抵抗をしないように事前工作してあるので、困ったような顔しながら受け止めるだけだ。ふっ、完全犯罪。

両腕でガッチリ組み付き、胸元に顔を押し当ててスーハ―する。うーん、ちょびっと汗のにおいがして、イイね。


「はあ~、あっきれた。あんたら、いつもそうなのかい?」


マリーが寝たまま顔だけこちらに向けて嘆息している。寝たままなのでいつもの威圧感はない。


「いえ、いつもというわけでは・・」

「おおむねそうだ」


サーシャの言葉を食い気味にして肯定する。何を隠すことがあろうか? いや、何もない(ドヤ)。


「仲いい所悪いけどねぇ、手早く荷物も片付けて、食堂に集合だよ。ここは美味しいから、期待していていいよ」

「すぐに行きましょう、ご主人様」


サーシャは秒速で俺を振り切って支度を始めた。くっ。



************************************



食事は確かに、美味しかった気がする。イノシシ肉に、何とかベリーソース?みたなものが掛けられた小洒落たメニューであった。

美味いのだろうが、何が何だか分からん味。表現するとするならそんな味だ。周りの連中には高評価だったから野暮は言うまい。

そして手早く身体の汚れを布で落とし、就寝。エリオットに起こされて警護に回ったわけだが。


「・・」

「・・あ、ども」

「・・」


コールウィング隊長はこちらを一瞥して、無言のまま目線を真っ直ぐ前に戻した。

よりにもよって、こいつとかよ!


早々に会話は諦め、全力で頬を噛んで眠気を追いやっていると、意外にも向こうから口を開いた。


「・・昼は活躍したようだな」

「ベっ」


唐突な声かけに驚いて変な声出た。


「・・」

「・・」

「岩犬の件だ」

「ああ。運が良かっただけですが」

「私は離れていたから見えなかったが、魔道具を使ったとか?」

「ああ、はい。まあ」

「魔力の量、飛ばし方にも工夫していたとか」

「・・そうですねぇ」

「魔道具を扱うことが専門の傭兵なのか?」

「あーいえ、専門というわけでもないですけど。初めてああいった・・魔撃杖?を買って浮かれて、色々練習したもんですから」

「そうか。しかし魔力を操ることは容易ではない」

「はあ」

「魔力量を操作したり、軌道を変えたりといったことはかなり難しいそうだ。私は詳しくないがな」

「そうなのですか」

「そうだ。貴様には魔法使いの才能があるのかもしれん」

「・・ありがとうございます」

「ま、今の歳で言われても困るだろうがな」

「そうですねぇ」


普通は5歳から10歳くらいの子供からスタートするんですもんね。後になってから魔法使いデビューは厳しい道だろう。普通は。


「魔法使いは無理でも、魔道具を使う才能は貴重だ。上手く活かすことを考えるべきだな」

「はい」


まあ、魔撃杖でもなく魔銃なんですけどね。魔銃の軌道を変えるのも高等技術なのかな? だとしたら『魔銃士』の素質が高いってことになる。

それは素直にうれしい。

そして魔法使いか・・。たまに空き時間に付け替えて、魔法の練習っぽいことをやってみてはいるんだけど。

このおっさん・・コールウィング隊長の言う事が本当で、魔法使いの素質が高いというなら、やはり魔法職メインでいくことは考えるべきか。


ちなみに今のステータスは以下の通りだ。


************人物データ***********

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(13)剣士(5)魔銃士(6↑)

MP 21/21

・補正

攻撃 F-

防御 G+(↑)

俊敏 F+(↑)

持久 G+

魔法 F-

魔防 G+(↑)

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限

斬撃微強

魔撃微強

・補足情報

隷属者:サーシャ

***************************


『魔銃士』のレベルが上がって、防御、俊敏、魔防が上昇している。

俊敏は、もう一段階上がればEに突入か。こちらの世界に来て半年も経っていないのだから、こちらの常識で考えればあり得ないほどに早いのだろうなあ。

ただ、Eくらいまでならそこらの人でも普通に持っていそうだから、まだまだ傭兵としては弱い方だろう。精進あるのみだな。


コールウィングは一通り言いたいことを言ったのかそれっきり黙り込み、俺の横に控えるサーシャは最初からお口チャック状態だ。

この人らは奴隷を連れまわしている傭兵をどう思うのか、訊いてみたい気もするが、藪蛇になりかねないのでこちらから話を振ることはしない。

サーシャもそのへんの空気を読んで、自身が空気になるように徹しているのだろう。出来た奴隷である。


後で聞いたことだが、俺たちがコールウィングと組まされたのは、傭兵組のなかでは一番信用の低いメンバーだったかららしい。

騎兵組のなかで、コールウィングが裏切るとは思われないため、この組み合わせだけは主にコールウィングが俺たちを警戒する役目だったわけだ。

当然、怪しいことはしていなかったはずのなので信用を損ねることはなかった・・と思いたいがどうだろう。まだこの世界のことは知らないことの方が多いからなぁ。



************************************



朝になって他の護衛達も起き出すと、警戒役を交代してトイレを済ませる。

仕方のないことだが、トイレでもコールウィングとかち合わせて気まずい時を過ごした。

当然のことながらサーシャの朝のお勤めはなし。

辛い朝だ。

仕事なのだから仕方ないが。


「サーシャぁ~」


とりあえず、女子トイレから出て来たサーシャをひしっと捕まえて香りと柔らかさを堪能する。

今日も朝食を済ませたらすぐに出立の準備をして、馬上の人となってからは気の抜けない時間を過ごすことになる。

サーシャ分を補充するなら、今しかないのだ。


「おい、廊下で抱き合うな。邪魔だ」

「・・はい」


コールウィングに小突かれて合体状態を解除する。

おのれコールウィング。


「ご主人様、時間がありません。手早く準備を済ませてしまいませんと」

「そうだな」


真面目なサーシャに、せめてもの抵抗として手をつないで部屋に移動する。

個人的な荷物をまとめ、馬車への物資の搬入作業を手伝ったり、警戒役を任されたりしながら準備を完了する。

途中、物売りがウロウロと馬車の周りをうろついていたので、剣を抜き身にしつつ視線を向けると慌てて去っていった。

すっかりこの物騒な世界にも慣れてきた感がした。


「さぁ~て、今日、明日は対魔物という意味では正念場だ。沸き点の近くを掠めるルートになる。昨日も岩犬の襲撃を受けたが、ああいった思わぬ相手との戦闘も十分にあり得る。くれぐれも皆、気を引き締めるように!」


エリオットが出発前に傭兵組への演説をぶつ。

皆、緊張しすぎてはいない、引き締まった顔をしている。俺もきっと、キリッとした顔をしているはずだ。見えないが。


「ぼや~っとしているじゃないよ、ヨーヨー!」


マリーにバシッと背中を叩かれた。どうやらこのキリッとした内心は顔に反映されていなかったもよう。


「はあ、すいません」


俺の配置は今日も馬車の右隣で、馬車と並走する形だ。

ここから東へと進むたびに、交通量も増えて道もしっかりしてくる。

馬車は基本的に左通行なので、広い道路になると右側には結構余裕がある。その代わり、他の馬車とすれ違う時などに警戒する必要がある。


ただ、今日は魔物が出やすい地域ということで、最優先はやはり魔物への警戒だ。

昨日、遭遇した牙犬を中心とした犬系の魔物、それにカイケラドスといった鳥型の魔物が中心に、亜人種も出てくるという。そして夜、野宿の際にはフクロウのような見た目のハルプアドンが脅威だ。闇夜の狩人、などと格好良い二つ名まで付けられているヤツだ。

うん、ハーレムで夜の狩人(意味深)を目指す俺には負けられない相手だな。


コールウィングに活を入れられていた騎兵隊の配置も終わり、今日も東への旅がはじまる。


ここからは湿地帯を迂回するため、東ではなく北門からの出発となる。時間が出来たらまた米でも買いに来よう。グッバイ、ハングルトン。


「一匹向かったぞ、任せて良いか!?」

「おまかせ・・をっ」


馬から飛び降りながら切り掛かり、袈裟切りで亜人に止めを刺す。

相手は人型で知能もあり、苦戦しそうな相手であったが、いかんせん武器の質が悪すぎる。

石器のような剣を正面から叩き折ってやると、こちらの一方的な戦いになった。


街を出てから、出だしは好調であった。

しかし、陽が高く昇ってくると、魔物も活動的になるのか、散発的に襲撃を受けるようになっていた。

特に亜人種が多い。ベンベンスタという、鱗の生えた半魚人のようなヤツだ。

スラーゲ―周辺にいるゴブリンと同じく、3~5匹程度でチームを組んでいることが多いが、大半は先行する騎兵隊に蹴散らされている。

それでも3,4チームまとめて掛かってくると、こちらも一度足を止めて応戦することになる。無視して突破してもいいのだが、確実に護衛が排除して進んだ方が事故がない、という判断だ。


足を止めて応戦していると、1,2匹程度はすり抜けて馬車を狙ってくる。それを排除するのが役割だ。

1対1なら、流石に遅れは取らない・・と思う。武器の差がなければどうか、分からないが。


「死体は捨て置け! 先を急ぐぞ」


ベンベンスタの魔石を取り出している暇もなく、再び馬上の人となる。

まあ、そもそも魔石が小さかったり、見つからなかったりする魔物らしいので、それほど惜しくはないという感じだ。

魔物の死体を放置すると、他の肉食獣や魔物を呼び寄せることになってしまうので、処理が必要となるが、先を急ぐのでまとめて穴に捨てるだけだ。


「ゴブリンが出たぞ!」


それからまた何十分か走ると、前方から警戒の声が飛ぶ。

ゴブリン狩りなら任せろ! と勢い込んで剣を抜くと、道脇から飛び出しから飛び出してきたのはゴブリン・・じゃない、なんだこれは?


「ベンベンスタ・・じゃないか。でも似てるぞ」


人型のベンベンスタと比べて、首がなく、身体はなんというか、横が薄い。魚に手足を生やして二足歩行にしてみました、というような奇抜な見た目。

細長い手製の木槍を構えてこちらをギョロリと睨む。その眼もどことなく魚っぽい。

強そうには見えないが・・。


初見なので慎重に間合いを図りながら、盾を使ってカウンターの形で斬り込む。

魚の鱗のように見えるキラキラした皮膚は、案外柔らかく、斬り付けるとざっくりと裂けた。


「キイイィッ!」


奇妙な魚人が金切り声を上げ、それを聞いた後ろの2匹は明らかに怯んだ。

その隙に最初の魚人に肉薄して木槍を奪うと、力任せに投げる。

転がった魚人の眼を剣先でぐりぐりとえぐり潰す。うむ、これでいいだろう。

魚人2と3は横からマリーの襲撃を受けて切り身となった。

いやズタズタに力任せに切り裂かれただけだが。


「なんだったんだ、こいつら」


切り身となった魚人を剣で突いてみるが、反応がない。やはりきっちり死んだようだ。


「ん? 聞いていただろ? ゴブリンだよ」

「ゴブリン・・? スラーゲ―で見たのとずいぶん違う」


マリーは手早く魚人の頭を切り取ると、首の骨の後ろあたりから小さな、透明なかけらを切り取って見せた。


「ほら、見えるかい? 透明だろう。無属性だ」

「無属性・・か」


魚人の魔石のようだ。小さく、形もゴツゴツとしていて歪だ。スラーゲ―のゴブリンが持っていた魔石に近い。


「そう・・小さい無属性の魔石を持つ、亜人型の魔物をゴブリンと呼ぶのさ」

「そうだったのか・・」


たしかに、スラーゲ―のゴブリンも、フィクションのゴブリンとは少し違っていた。

全身に毛が生えていたし、どちらかというと猿人類的な雰囲気を持っていた。

顔が醜悪で、小さめの人型亜人、人と交配するといった情報が一致していたので、これがこの世界のゴブリンなのだろうなと何となく受け入れていたけれど。

あれは「スラーゲー近くに出る種類のゴブリン」の情報だったのだろう。なんでそんなややこしい定義にするんだろうね。


「ふふ、まあスラーゲ―から出たことがないなら、あれだけがゴブリンと思っても仕方ないよ。1つ学んで、賢くなったね」

「ああ、そうだな」


からかうように言われたが、全くその通りなので言い返しはしなかった。やはり俺はこの世界の常識をもっと知っておくべきだな。


「じゃあ、この辺に出ると書いてあったゴブリンってのは、こいつらのことか?」

「センターの資料かい? まあ、十中八九そうだろうねぇ。この近くの沸き点からはゴブリンは出ないはずだし」

「ん? じゃあ、こいつらはどこから?」

「湿地帯に生息している亜人種さ。ベンベンスタもそうだが、普通に繁殖しているのさ」


本当に、至る所に魔物がいるな、この世界。

このゴブリンなら俺でも十分対処できそうで、それは安心だ。


「ヨーヨー君、そちらは終わったかい? 思ったよりも魔物が出て進みが遅いから、出来る限り先を急ぎたい」

「いつでも出れるぞ、エリオット」


魚人ゴブリンは小さく形が歪な魔石しか持たないうえ、持っていない個体もいるそうなので儲けにならない。軽く掘った地に埋めて放っておく。

その後も何度か牙犬やベンベンスタ、魚人ぽいゴブリンと遭遇しつつ、陽が傾き出す頃には宿泊予定地である開けた土地に到着した。

周囲は簡単に柵が張られているが、ところどころ壊れている箇所があり、これで魔物を防げるのかどうかは疑問だ。


「この地の戦士団が定期的に、柵は直しているらしいんだけどねぇ。その度に破られるようだよ」

「まじッスかぁ・・」


そんな有難くない情報を聞きながら火を起こして、宿泊地の各所に配置していく。

中央のたき火の上では、あり合わせの食材で作った即席スープが煮られている。今日の夕食は温かい物が食えそうだ。

昼飯が小休憩を兼ねて保存食を流し込んだだけだったので、ありがたみを感じる。


「今日の当番はどうなるかね」

「君はまた、コールウィング隊長と組んで・・」

「・・」

「ぷっ、冗談だよ。そんな顔はやめたまえ。今日はまた違う組み合わせにになるはずだよ」

「そうなのか?」

「ここは一番の難所ともいえる場所だからね。交代して見張り、というよりは、基本は起きていて、交代して少しずつ仮眠を取ると考えてくれたまえ」

「ほう」


キツいな。こっちの世界に来てから、かなり無茶をしてきたと思うが、移動しながら常時寝不足状態の強行軍はこたえる。

これがこっちの旅の普通だとするなら、そうそう旅行なんて行こうなんて思わなくなるだろう。

そのうち金に余裕が出来たら、旅もいいかと思っていたが・・いや、傭兵なのだから金稼ぎを兼ねて各地を回るというのはアリか。


俺の順番は1番目に仮眠を取る、遅番?ということであったので、とっととテントを作って毛布に入る。


寝袋代わりの軽い、薄い毛布なので、正直寒い。

だが、俺にはサーシャ枕がある。とりあえず手招きをして近付けると、ギュッとしたまま毛布に包まる。うん、温かい。


昨日からの過酷な移動で疲れ切った身体は、サーシャの呼吸音と心臓の音を聞いているうちに意識を夢の中へとすぅっと落とした。


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