第23話 出発までの日々
朝、目を覚ましてサーシャを抱き寄せる。
サーシャは、俺の抱き枕にされるのは完全に運命として諦めたようだ。
口をゆすいだ後、いそいそと自分から近付いてくるようになったのは可愛い。
いや、どうせやるんだろ? みたいな感情だろうけど。
************人物データ***********
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(12↑)剣士(5↑)盾士(4↑)
MP 15/15
・補正
攻撃 F-(↑)
防御 F-(↑)
俊敏 F-
持久 G+(↑)
魔法 G
魔防 F-(↑)
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限
斬撃微強
盾強化
・補足情報
隷属者:サーシャ
***************************
俺のステータス補正は全体的に底上げされた。
やはりサーシャの育成を優先させたせいか、レベルがそこまで伸びているわけではない。
ステータス補正が伸びたのはやはり、ジョブ3が加わったおかげだろうか。
『干渉者』でステータス補正が成長しなかったとしても、ジョブ2と3で通常の2倍の速度で成長できるわけだからなぁ。強いわ。
ただ、サーシャの元々のジョブが『商人』レベル15であったことからも分かるように、この世界の人たちは少なくともレベル10~20くらいは普通にある。
戦闘系はレベルが上がりやすいというのを信じれば、ベテラン傭兵は30~40くらいは軽くあると考えていいんじゃないだろうか。
そうすると、いくら複数ジョブで成長チートができたとしても、レベル1桁でしかない俺は太刀打ちできまい。もうしばらくは雌伏の時だ。
くぅ、早くもジョブ4が欲しいぜ!
ちなみに暇な時間で魔法の練習などして、魔法使いのレベルが地味に上がったり(1だけだが)しているのだが、それはまた別の話。
************人物データ***********
サーシャ(人間族)
ジョブ 弓使い(4↑)
MP 3/3(↑)
・補正
攻撃 N
防御 N
俊敏 G-
持久 G-
魔法 N
魔防 N
・スキル
射撃微強
・補足情報
ヨーヨーに隷属
***************************
こちらはサーシャさんの現在のステータス。
補正はまだアップしない。
思うに、このステータス補正、一定確率で上がるというシステムではなくて、それぞれ表示されていない数値が積み重なっていて、それが一定値を超えたときに反映されるというシステムな予感がする。
複数のステータスが同時にアップすることが多いからだ。そして、一度どれかがアップすると、近い内に別のステータスも上がる。
今のサーシャさんも、ステータスに反映されていないだけで、水面下ではちゃんと強くなっているのではないかと思われる。
「サーシャ、レベルが4になっているぞ。よくやったな」
「そうなんですか? ありがとうございます」
ステータス画面を見ないとはっきり確認できないからな。自覚は持ちづらいかもしれない。
「それよりご主人様、だいぶ遅くなってしまいました。貸馬屋へと急ぎましょう?」
「や、やはり行くんだよな」
「出発までの間に馬の練習をなさるのでは?」
「その通りだ。・・仕方ない、行くか」
昨日、ベッドで格闘しているときはまだそれほどでもなかったのだが、一晩経って、足腰の筋肉痛がやばいのだ。時間差でくるのが辛い。
サーシャは特に足腰を痛めた様子もなく、淡々と着替えの準備を行っている。
彼女が用意してくれた衣服に着替える。
「よくお似合いです」
「ありがとう」
そつのないヨイショを受けながら、気持ちを切り替える。
馬はどこかで習わないといけない。それに、筋肉痛があるということは筋肉が増えているということだ。
ステータス補正は本来の能力にプラスするものだから、地の筋肉も付けていかねばならない。
必要なのだ。頑張ろう。
心の中で自分を奮い立たせる。ついでにサーシャを抱き寄せる。
よし、やる気出た。
「ご主人様、抱き寄せる際は一言頂けると・・」
「すまん、俺の下半身の仕業だから、脳を通してないんだ・・。制御できない」
「何を言っているのか分かりませんが・・分かりました」
サーシャのご主人様への崇拝ゲージは日ごとに削られつつある気がする。
次は無条件でご主人様を崇拝してくれる娘にしよう。
癒し担当が必要だ。まあ、サーシャにも癒されてはいるのだが。
「一度、傭兵組合に立ち寄ってこう」
「はい」
宿で朝飯を済ませると傭兵組合に寄る。出発は5日後との伝言が入っていた。
「5日後か・・ついに日にちが決まったか」
「必要な物を揃えなければなりませんね」
「そうだな」
午前中は数時間分のレッスンを受講し、基本的な姿勢をマスターすることに専念した。出発までには、早足で馬を操るくらいはできないとまずい。
「ご主人様、かなり思い出してきました。私はもう大丈夫だと思います」
「・・そうか」
だろうな、華麗に俺を抜き去ること幾度か。昔に商人だったとき、移動用に馬を使っていたのかなあ。
ソラマチの酒場で食事を済ませ、新作のデザートパスタを食してから街壁の外へと向かう。
デザートパスタって頭がおかしいと日本にいたころに思ったものだったが、まさかの異世界で再会して、食べて・・やはり頭がおかしいと確信した。
サーシャは満足そうに食っていたから何も言うまい。
今日は魔銃を取り出して、サーシャと並んで遠距離でゴブリンを仕留めてみる。
俺の切り札だからな。知っておいてもらわなければ。
キュイインというちょっと懐かしい発射音と共に、細く、弾速を早く調整した魔弾が放たれる。
ゴブリンの胸を射抜いてそのまま膝から崩れ落ちた。
「す、すごいです・・」
「魔銃というものだ。俺の切り札だから、どうしようもなくなったら使う」
「はい」
「どうしようもならなければ使わない。秘密だ」
「承知いたしました、命に代えても」
「命には代えなくていいわ。サーシャの命が危なかったら言っても良いぞ」
「そうですか・・」
腑に落ちない感じだ。この世界の住民は、基本の常識が違いすぎて俺には分からない感性がある。サーシャと話しているとたまに感じる。
「それで、こんなこともできる」
近くまで寄ってきた最後のゴブリンに、拡散弾を浴びせる。手、足、胴体の各部が千切れて吹き飛んでいく。おっと、オーバーキルしすぎたか。
「・・素晴らしいですね」
これは俺にも分かった。ちょっと引いているな。
「今のはちょっと威力を調整しなかったが、もうちょっと抑えて近距戦闘用に使うことがある」
「なるほど・・」
「さて、次はサーシャが、ゴブリンが近付くまでに2体は倒せるようにしようか」
「はい、尽力します」
気合は十分だ。今まで忘れていたわけでもないが、魔銃も使うようになって、少し奥に入っても大丈夫と判断して、ゴブリンを狩り続けた。
先制攻撃から、相手が気付き、こちらに走ってくるまでがサーシャの弓の練習。
近付いてきたゴブリンは俺の剣で殴り飛ばす。
多すぎるときは魔銃を撃って間引く。
夕方まで続けたところで北門へと戻り、長期出張の際の手続きを訊く。
「定住証明は一時解除ってことになるなぁ。ここじゃなくて、役所に行かないと手続きできないぞ」
さっそく役所の支部で受付を済ませ、5日後から1か月程度外出することを伝えた。
お役所としては、一時的に定住証明を解除し、戻って再申請されたら復帰させればいいだけなので、当日手続きをしろと言われてしまった。
それが面倒くさいから前もって手続きしているのだが・・。
「当日、忙しいでしょうけど時間を作るほかありませんね」
「そうだな」
サーシャの頭をなでて荒んだ心を癒す。きちんと流れに沿って撫でないと「痛いです」とか「うっとうしいです」という無言のメッセージを無表情に乗せてくるのでテクニックがいるのだ。
これも初めて知った。女の子は撫でるのもテクニックが必要なようだ。
世のハーレム系主人公や、モテる人々は事もなげに撫でているが、その時点で差があったのだな。道理でモテなかったわけだ・・。
「さて・・、夜もソラマチの酒場で食べようか」
「まだメニューを制覇していませんからね。是非そうしましょう」
食事のときばかりは饒舌になるサーシャさんであった。
************************************
「うーむ・・」
俺はベッドでサーシャのひざ枕を堪能しながらも、唸った。
悩みの種は、ジョブのやりくりである。当初は、『剣士+盾士』の鉄壁コンビでいいかな、と思っていたのだ。
後は魔法の練習をするときは『魔法使い』、魔銃の試し撃ちをするときは『魔銃士』にすれば足りるじゃないかと。
しかし、ここにきて思うのだが、エリオットたちにはそろそろ魔銃の存在を明かすいい機会なんじゃないか。
普段の付き合いと、信頼が置けると推薦してくれたことを考えれば、エリオットたちに悪意がないことはもう何となく分かっている。
秘密にする理由付けが薄い、というのがひとつ。
そして、金貨を手に入れたことは知っているはずだから、その金で高価な魔道具を買いました、と言っても不自然ではない、というのがひとつ。
魔銃の存在を明かしておけば、もっと気軽に任務で使えるし、それに沿った作戦行動も考えてくれるだろう、というのがひとつ。
魔銃を明かすことを前提に考えると、『剣士+魔銃士』だろうか?
************人物データ***********
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(12)剣士(5)魔銃士(5)
MP 21/21
・補正
攻撃 F-
防御 G
俊敏 F
持久 G+
魔法 F-
魔防 G
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限
斬撃微強
魔撃微強
・補足情報
隷属者:サーシャ
***************************
こいつの強みは、遠距離・近距離どちらの攻撃にもスキルでボーナスが入る(斬撃微強・魔撃微強)のと、どちらのジョブも「俊敏」のステータス補正が高いので、身体の動きが良くなる・・と思われることである。
確実に元の世界にいたときよりも動けているのだが、まだレベルが低いし、少しずつステータスが上がることもあって、ジョブのおかげで劇的に動きが良くなった! という実感はまだあんまりないんだよな。
しかしサーシャもジョブのレベルが下がったときに「身体が重い」と感じていたから、Fくらいまでステータス補正があるなら、それなりに違ってくるだろうことは確か。
************人物データ***********
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(12)、剣士(5)、盾士(4)
MP 15/15
・補正
攻撃 F-
防御 F-
俊敏 F-
持久 G+
魔法 G
魔防 F-
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限
斬撃微強
盾強化
・補足情報
隷属者:サーシャ
***************************
ただ、とはいえ『剣士+盾士』の鉄板コンビの方が、全体的なステータス補正は高いんだよな。攻撃の『剣士』と防御の『盾士』で、弱点を補い合っているのかもしれない。
うーん、基本はこのコンビで、魔銃を撃つときに余裕があれば魔銃士をセットする、ということで良いかな。一周回って戻ってきたわ。
「あの~、いつまでこうしていれば宜しいのでしょう」
サーシャがひざ上で盲目する俺を眺めて、手持ち無沙汰にしている。
「まあ慌てるな。これはひざ枕という」
「ひざまくら、ですか」
「そうだ。商館では習わなかったようだが、奴隷の基本的な仕事の1つだ」
「そうなのですか」
「そうだ。俺が流儀を教えてやろう」
「はい、どうすれば?」
「まずひざ枕中は強いて何かをする必要はない。ただ、母性をもって主人をあやすのだ」
「母性ですか? お母上のようにするということでしょうか」
「ひざ枕中は無礼講とする。男には無性に甘えたくなるときがある。そのために開発されたのがひざ枕なのだ」
「そうですか・・」
「やることがなくて暇なら、頭でも撫でていてくれ」
「撫でるのですか」
「そうだ・・すぅー」
俺は寝返りを打ち、サーシャの下腹のあたりに顔を埋めた。
「う~、嗅がないで下さい!」
「これもひざ枕の作法だ。止めるな」
「作法・・」
どうやら完璧にサーシャを丸め込めたようだ。
「まあいいでしょう、それよりもそろそろ出ませんと・・」
「む、ちょっとのんびりし過ぎたか」
大仕事になるアアウィンダの護衛任務は明日出発だ。今日は食糧など、直前に揃えるべきものを揃えて荷物を整理し、ここでの準備を完了させるのだ。
遅い朝飯を食べてから、少しだけ壁の外に出てゴブリンを相手にする。
「ふっ! ハァッ」
サーシャはかなり弓の扱いが堂に入ってきた気がする。
遠慮がなくなって、弓の勢いも急所に刺さればゴブリンを即死させることができる程度になっている。
ただ、最低限の技術はあるものの、やはり腕の力そのものが足りないようで、よっぽど良い所に当たらないと一撃では倒せない。
「ふむ、良い感じだな。やはり弓の才能があったように思えるな」
「光栄です、ご主人様。確かに弓は初期ジョブでしたし、一通り習った武術の中では一番好きでした」
「そうか、そうか」
「できれば馬に乗りながらの射撃も練習しておきたかったのですが・・」
「そんな施設はないもんな、あの牧場。まあそれは旅をしながら確かめていこう」
「そうですね」
サーシャは少しは戦えるようになってきたことが嬉しいのか、やる気が満ち溢れている。何やら拳を握って燃えている。
「そう気負うなよ、エリオット達は本当に頼りになる。俺たちはそのフォローをする気でいればいいのさ」
「はい」
口では素直に頷くが、やる気になると視界が狭くなるタイプかもしれないな。
気を付けておこう。
この5日間もみっちりとゴブリンを練習台に弓を撃ちまくったおかげで、レベルが1上がって、彼女の今のステータスは下のようになった。
************人物データ***********
サーシャ(人間族)
ジョブ 弓使い(5↑)
MP 3/3
・補正
攻撃 N
防御 N
俊敏 G(↑)
持久 G(↑)
魔法 N
魔防 N
・スキル
射撃微強
・補足情報
ヨーヨーに隷属
***************************
地味だが、俊敏と持久の補正がG-からGにアップしている。
商人時代は俊敏がG-だったから、運動能力は商人時代よりも向上しているはずだ。
燃えるサーシャの頭を軽く叩いて、街壁の中へと戻る。午前は馬術の最終確認、そして午後は食糧など直前に用意すべきアレコレを買い込まなければならない。慌ただしい一日を過ごした。
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