第21話 弓使い



翌朝、目が覚めると全裸の俺と、すっかり服を着て服を畳むサーシャの姿。


「・・おはよ」

「おはようございます、ご主人さま」


服を着たといっても、寝間着として買った薄い簡素な服だ。そして部屋にはベッドと、床しかない。





さて、昨夜はステータスの確認をする暇がなかった。

朝に落ち着いてステータス確認をする時間をとろう。

また服を畳みに行こうとしたサーシャを捕まえてベッドに連れ込み、抱き枕にしながらステータス閲覧を行使する。


************人物データ***********

サーシャ(人間族)

ジョブ 商人(15)

MP 6/6

・補正

攻撃 G-

防御 G+

俊敏 G-

持久 G

魔法 G+

魔防 G

・スキル

大声、目利き

・補足情報

ヨーヨーに隷属

***************************


「ほえっ?」

「えっ?  ・・どうかしましたか?」


腕の中にガッチリホールディングしているサーシャが戸惑いの声を上げるが、羊平もそれ以上に困惑していた。

これは、どう見ても、サーシャのステータス表だ。解放して少し距離を置く。消える。ステータス閲覧をするとまた自分のものが表示されえる。

また捕まえてくっつきながら閲覧すると、今度もサーシャのステータスを閲覧できた。


「サーシャ、これ、何か見えるか?」

「・・? 何か見えるのですか?」


サーシャには閲覧できないらしい。ふぅーむ。ジョブは?


市民(11)

弓使い(1)

学者(1)

商人(15)

薬師(1)


変更できそうだ。これを見るとサーシャはしばらく『市民』のままレベルを上げて、途中で『商人』にクラスチェンジして結構がんばったみたいだな。


「サーシャのジョブって『商人』?」

「!! なぜそれを・・あ、商館で説明されたのですか?」

「いや、まあそんなところ。間違いない?」

「間違いないです」


やっぱりそうだわ。このステータスで正しい。今まで誰かに密着しながらステータス閲覧したことなんてなかったからな、当然。

あ、密着すると他人でも閲覧できるのが「ステータス閲覧Ⅱ」の効果か?

あるいはサーシャが羊平の持ち物、奴隷だからこそ閲覧したりジョブ変更したりできるのか。


新しいステータス閲覧の可能性に鼻息を荒くしながら、宿や店で実験してみたところ、サーシャ以外の赤の他人のステータスに関しては「閲覧はできるが、ジョブ変更はできない」というのが結論だった。

しかも、閲覧できるのはかなり不完全なステータスだ。


************人物データ***********

スオー(人間族)

ジョブ ?

MP ?/?

・補正

・スキル

・補足情報

なし

***************************


こんな感じである。これでは名前と、補足情報がない、ということしか、わからない。

人によってはジョブが見えたりすることもあった。その法則性は分からなかったが。


サーシャは何をしているのかと首を傾げながらも、俺がうまく他人にタッチできるように協力してくれた。

変態だと思われただろうか。

どうしようもないご主人様だ。


「ジョブが変更できるのは、隷属してるからっぽいけどなぁ・・そうすると奴隷ハーレムを目指すのは間違ってなかったな。むしろ正解だ」


宿でぶつぶつと自己正当化する俺を尻目に、サーシャは武器屋で購入した弓の手入れを行っていた。

何故かは知らないが、弓使いジョブを獲得しているくらいだから、きっと弓の才能があるに違いない、ということで勧めたのだ。


「立っている姿を見ると何となく分かる。お前の武器は弓にすべきだ、とな・・」


とか格好つけて言ったけど、あまり納得していたようには見えなかった。

まあ普通に弓使いをやって欲しいならそう言えよ、と思ったのかもしれない。早漏で変態で素直じゃない。

くっ、ご主人さまへの崇拝度が下がっていくのが見えるようだ。


合わせて俺とサーシャの皮の防具も揃えた。

俺については、頭だけ金属製のヘルムも買った。頭を庇う必要がないだけで、かなり前線で戦いやすくなる。

やはり頭を守るのは大事だ。


今日の買い物で銀貨50枚以上が飛んで行き、結果として昨日手に入れたはずの金貨は、既に1枚もないわけだが。これは仕方ない。

巧妙に奴隷を買わせたチェフ・スラーゲーのじじいが悪い。

いたいけで純粋無垢な青年を騙したのだ。俺は悪くない。


昼飯どきとなったので、「ソラマチの酒場」で大盛の定食を注文する。以前、エリオット達との会食場所に選んだ場所だ。

ふむ、やはりここは美味いな。


「ご主人様、ここのパンは凄いですね! 柔らかいです~」


サーシャもすぐにここの味の虜になっていた。

珍しく目尻が下がり語尾が伸びている。

いつか「ご主人様の汁も美味しいです~」とか言わせてぇな。


「午後は北門から出て、ゴブリンと戦ってみたい」

「はい、頑張ります」


サーシャは表情を引き締めた。

そして生ハムとチーズ、それからトマトソースで煮詰めた肉を食べてまただらしない表情に戻った。

守りたいこの笑顔ッ・・!

だめだ、童貞を捨ててからというもの、妙にサーシャがかわいく見えて仕方がない。


抱くと情が移るっていうのは、本当だったんだな・・。

不思議なことだ。

そのまま気付いたら、これまで頼んだことがなかった聞いたこともないスイーツをデザートに頼んで与えていた。


「ありがとうございますぅ♪」


とろけるような表情でスイーツをぱくつくサーシャの表情をデザートにしながら、この後のことを考える。


「サーシャは弓を習っていたのか?」

「はい、少しは。剣、槍なども一応基礎は習っております」

「そうなんだ? でも『弓使い』だけ獲得したんだ」

「!? なぜそれを・・」


スイーツを頬張る口を手で押さえ、驚いている。あ、しまった。


「えー、これも俺の能力でな」

「は、はい」

「でもそれなら、『弓使い』の素質があったということかな。動く相手に当てることは出来そう?」

「うーん、どうでしょうか。動かない的にしか撃ったことがないので、分からないです・・」

「そうかぁ、まあ練習あるのみだね。ゴブリンくらいなら、俺がフォローすれば危険はないと思うから」

「はい」

「落ち着いて当てることから始めてみようか」


ということで、午後は北門から出て、門が見えるような近場でゴブリン探しだ。

さすがに近すぎて影も見えなかったので、少し奥まった森に入ったりして探していると、2人組で歩くゴブリンを見付けた。

駆け寄って一匹を迷いなく斬り伏せる。もう一匹の攻撃を適当に受け流しつつ、サーシャの待っているところに駆け戻る。


「矢を撃ってみろ! 俺には当てるなよ」

「分かりました、撃ちます!」


それから10秒くらいゴブリンの相手をしてから、矢がゴブリンの肩に当たった。


「キツいか?」

「動くので狙いが・・」


苦戦しているようだ。

俺はゴブリンを当てやすい角度に誘導してから、相手の武器に剣を合わせてつば競り合いにする。

3秒ほどしてゴブリンの腹に矢が当たり、ギィイィと苦痛の声を上げる。そのまま力で抑えつけ、その間に頭、首へと矢が刺さってゴブリンはついに膝を着いた。

意識が混濁しているようなので、剣で頭を殴って楽にしてやる。

鈍器的な剣の使い方にも慣れてきたと思う。


「よし、一段落だな。・・大丈夫か?」


振り返ると、サーシャが肩で息をして座り込んでいた。


「おいおい、どこか怪我でもしたか?」

「いえ、申し訳ありません・・。生き物を殺したのは、初めてだったので」


なるほど。

俺はそういう意識が希薄なようなので気にしてなかったが、精神的負担が大きかったのか。

まあ慣れて貰うしかない。

歩み寄って、そっと肩を抱く。身体全体が、小さく震えていることに気付く。

怖かったのだろうか。


「よくやったよ、サーシャ。偉かった。ちゃんと自分の命を守るために戦えたんだ。何も悪いことはない。偉かったよ、偉かった」

「はぁ・・ふぅ・・」


力を入れずに包み込むように抱き、背中をトントンとしていたら次第に息が整い、震えが止まってきた。


「もう大丈夫です、ご主人様・・。失礼しました」


サーシャが俺の胸をそっと手で押してきたので、ホールド状態を解除した。あんまり負担が大きいようだったら、考えないといけないか。


「今後も、辛いときはちゃんと言うように。無理だけはダメだ、却って後で迷惑になることもある。いいな? ちゃんと俺に伝えろよ」

「はい、分かりました。でも大丈夫です・・覚悟ができました。戦えると言ったのは私です。甘えてはいられません」

「そうか」


無理しないなら、期待しよう。1人が2人になるだけでも、やれることはかなり多くなると思う。


「じゃあ、今の感じで何度か戦ってみよう。目標は、動いている状態のゴブリンの、頭に狙って当てられることかな。撃つ速さよりも正確さを狙ってみて。誤射されるのが一番困るから」

「はい」


複数の集団に挟まれないように、十分に警戒しながらその後も3匹のゴブリンと2回戦った。

大ナイフを取り出し、解体も簡単に教えた。魔物の解体は商人時代に近くで見ていたこともあるらしく、それほど抵抗はないようだった。安心した。

全てノーマルゴブリンで8匹。魔石その他の素材も全て込みで、銀貨1枚弱という収入だった。


「まあ、こんなものかな。今日の収入はサーシャにやろう」

「そんな・・」

「俺には女の子に必要なものとか分からないから、それで工面してほしい。足りなければ言って」

「・・はい、ありがとうございます」


生理用品とか、何をどうすればいいのか分からんしな。丸投げだ。

サーシャは銅貨の入った布袋を大事そうに拝領すると、服にしまった。


夜はまた、サーシャが気に入ったようなので「ソラマチの酒場」だ。

夜は酒場としての活動がメインなのでちょっと酒臭いが、そこは我慢だ。

飯は相変わらず美味。サーシャがパスタのような麺料理のどれかで悩んでいたので、俺が悩んでいた片方を頼み、サーシャとシェアをして食った。


「麺も美味いな~、あの店」

「はい、ご主人様」


基本はクールというか、ちょっと表情に乏しい感じのサーシャなのだが、食事の後だけは満足そうな笑みを見せてくれる。

キュンときた。


宿に戻って二人でイチャイチャしたあと、ステータス画面を確認する余裕もなく眠りに落ちた。


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