第19話 ステータス補正の意味
「・・ということで、まだもう少し一緒に仕事することになりそうだ。宜しくお願いするよ」
「ああ、こちらこそ」
エリオットと握手を交わし、すっかり陽の高くなった街をぶらぶらする。
なんだか今日はもう、ゴブリン狩りという気分ではなくなってしまったな。
アアウィンダの件で闇に葬られる危険が低そうなのは朗報だった。
ただ、その流れで他所の街に向かうことになってしまった。
確か遠出するときには、定住証明の解除申請みたいなものも必要なんだっけ? 面倒だな。
だが、ポンと金貨が出せる商家と繋がりができたのは有難いかもしれない。
エリオットに感謝だな。
休みにすると言ってもやることは思い付かない。まずは、どこかで手早く飯を食ってから、図書館でも向かうか。
図書館で、銀貨1枚を払ってさっそく気になっていたことを調べる。色々調べたいことがあったはずだ。
1つ1つ思い出しながら、本を探しては並べる。
「ジョブシステム概論」
「ステータス・スキル詳解」
「ジョブ・スキル各論」
このへんは最初に借りたあの名著『ジョブシステム概論』の筆者の著作である。
これだけで、軽く2時間は経ってしまうだろう。
仕方ない、今日は金に糸目を付けずに調べまくる。
「世界と信仰」
「帝国の栄光とその終焉」
このへんは、世界についての基本知識だ。宗教と歴史が分かれば世界が分かる。
きっと。
あとは凄かったらしい古代帝国について調べれば、周辺地域の地理についても何か分かるのではないかと期待しているところだ。
「観光都市オーグリ・キュレス」
これは、アアウィンダの護衛で向かうことになる都市についての本があったので並べてみた。
観光都市らしい。
大きいのかな?
「キュレス王国貴族名鑑」
つまらなそうだが、今いる国の貴族について軽く調べておこうかと。
国王とか知っておけば、いざというとき、本当に万が一のときに面倒事をスルーするのに役立つかもしれない。
ただ、これどうやら20年以上前の発行だ。
それくらい古くないと一般には普及しないということかな?
取り扱い注意っぽいもんなぁ。
他国への情報漏洩の危険があるし。
さて、まずは依頼関係についてささっと調べ物してみるか。
・・ふむ。
まず、「観光都市オーグリ・キュレス」だが。
これ観光ガイドだわ。観光におすすめの都市ですよ! という意味でこの本の名だ。
まあいい。
オーグリ・キュレスは、「オーグリ」が古代帝国語で「王」を意味するから、キュレス王という意味だ。
一般的にはオーグリ・キュレス港または港都市などと呼ばれている。大きな港がある都市だ。
本当かどうかは分からないが、キュレス王国の中心都市で、最大の人口がある。
王都が少しだけ離れた場所にあるらしく、どうやら行政の中心が王都、経済の中心がこの港都市という区分けのようだ。
ここに行けるのか、とちょっとテンションが上がってきた。
冒頭の数ページでオーグリ・キュレスの説明、歴史を誇らしげに語っているあとは、完全に観光ガイドでしかないので、いくつか気になる観光スポットをメモしておいてこの本は終わりだ。
次いこう、次。
やはりずっと気になっているステータスの説明や、ジョブシステム概論のもっと細かい所を読み込んでいきたい。
・・。
ふう、「ステータス・スキル詳解」のステータスの基本部分と、「ジョブシステム概論」の続きを読んでいるだけで2時間近く経った気がする。
一度入り口で確認すると、やはりそうで追加の銀貨を取られた。
しかし、いちいち出て来なくていい、最後に清算するからといったことを言われて恥ずかしかった。
さて、ステータスである。
重要なのはやはり「ステータス補正」の効果からだろう。
書いてあったことをざっとまとめると、以下の通りになる。
攻撃 攻撃時のダメージを増す。また、力が強くなる。
防御 防御時のダメージを減らす。また、身体が強くなり、骨折などの怪我をしにくくなる。
俊敏 速く動けるようになる。また、運動神経が向上する。
持久 身体を動かし続けることができる。また、疲労が回復しやすくなる。
魔法 魔法で攻撃したときに威力が増す。また、魔法制御能力も増す。
魔防 魔法で攻撃されたときのダメージを減らす。また、一部のバッドステータスが早く治るようになる。
だいたいこんな感じだ。
注目すべきは、全てのステータスに、「また」以降の副次的効果が認められるというところだ。
しかも、副次的な効果といえど、どれも魅力的だ。
この「力が強くなる」などの効果は、戦闘していなくても、常時効果が反映されるらしいからだ。
もっとも、分からないことも多い。
これらの効果は、この世界の学者が頑張ってデータを蓄積して研究したり、一般にこうだと言われていることをまとめたものだ。
つまり、推論の域を出ないものである。しかも、その効果はどこか曖昧だ。
たとえば、「攻撃時のダメージを増す」っていうのはどういうことか?
攻撃するときに一瞬、スキルのような不思議な力でシステムが敵を追撃してくれるのか。
あるいは、より効率的にダメージが与えられるように、システムがこちらの意識に介入して、身体を操作するのか。
色々と謎は多いが、とにかく攻撃のステータス補正が高いと、同じ人が同じ攻撃をしても与えるダメージが増す。これは間違いないようだ。
逆に言えば、あくまで補正は補正なので、もともとの筋力が弱いヒョロヒョロな人がいくらレベルを上げて高ステータスを実現しても、元が弱いので強くはなれない。
ただし、「攻撃」のステータスの副次的効果で、その人の筋力自体が増す。
だから「攻撃」のステータス補正が高いのに攻撃が弱い、ということは滅多にない。それらを台無しにするほどにヒョロガリだったりしなければ。
気になるのはやはり副次的な効果。
筋力にもいろいろあると思うのだが、どうも瞬発的な出力を上げるのが「攻撃」のステータスで、筋肉を壊れにくくするのは「防御」、その他全体的な筋力をバランスよく補正するのが「俊敏」っぽい。
主要な効果で持久力を上げる「持久」も、一部の筋肉を強化していそうだな。
上4つの補正は、それぞれ別の形で筋肉を強くすると。
なかでも「俊敏」の、運動神経が向上するというのがすごい。
戦闘職の人は、とりあえずこれを上げておけば強くなれるんじゃないのか?
他のステータスも確かに強いが、これは自分では鍛えづらい神経とか認識機能とか、そういうのも改善しそうだし。
そう考えると、『剣士』が人気だというのも分かる話だ。
最初は、剣ってのがやはりオーソドックスな武器だからかなと思っていたが、ステータス補正に「俊敏」があるからじゃないか。
いや、厳密にいえば全てのジョブは、全てのステータスをレベルが上がるに伴って少しずつは押し上げてくれるらしい。
ただ、どのステータスが伸びやすいかはかなり偏りがある。
『剣士』は、俊敏をよく伸ばしてくれる典型職のようだ。
ちなみに「防御」をよく伸ばしてくれる典型職としては紹介されていたのが、『盾士』だ。
その代わり俊敏がほぼ伸びないからか、一般の人気はイマイチのようだが。
集団行動で有用なので、軍隊では人気があるらしい。
前線の最も厳しいところに置かれそうなので、俺は軍隊で『盾士』なんて絶対にご免だが。
『盾士』を使っていることも秘密にした方がいいのかもしれない。すぐに危ない役割を背負わされそうだ。
そして、ステータス補正もそうなのだが、MPボーナスや、スキルを習得するレベル等も含めて・・基本的に個人差が激しいらしい。
『剣士』が俊敏を伸ばしてくれるといっても、2レベルくらいで1段階アップする人もいれば、5,6レベル上がっても1段階も上がらない人もいる。
ステータスにも素質や経験による向き・不向きがあるようだ。
俺はどうだったかな?
複数ジョブを設定すると、どのジョブがどれくらいの影響を与えているのかが見えなくなるな・・。
まあ、いいか。
上4つのステータス補正の効果はどれも欲しいし、魔法系ジョブも使っていきたいと思っているから「魔法」と「魔防」も上げていきたい。ということが分かった。
全部上げたいという当たり前の結論。ステータス補正、大事。
それが分かったわけでも良しとしよう!
あまり重要ではないが、面白かったのが、ジョブの発生について。
ジョブシステムを人類に授けた神様は新たにジョブを授けることがある、らしい。
これは昔から言われていたことだが、それをある学者が「ケウィルトス」職の発生のときに観察・研究して証明した。
ケウィルトスとはこの国で大人気の球技だ。
この国というか、周辺世界で大ブームを巻き起こしたらしい。大昔に。
ボールを持って敵陣に運べれば勝ちという、アメフトやラグビーっぽい競技だ。今でも人気が高い。
ケウィルトス・ガスムというのが正式名称?で、古代帝国語で「進む、倒す、勇敢な」「ボール」という意味だ。
ケウィルトス・ボールと呼称するが、長いので現代語に直して略称で呼ぶ人も多い。
「勇敢な」と球技を組み合わせて、「勇技(ゆうぎ)」だ。
どちらで呼ぶかは国・地域、そして個々人で異なり、両派は地球での「きのこ・たけのこ戦争」のような長く苦しい争いを続けている。どうでもいいか。
まあそのケウィルトス・ボールについて、それが流行して広まっていくと、ある時点から『ケウィルトス選手』というジョブが獲得されるようになった、という。
ケウィルトス・ボールそのものがそれより少し前に開発されたもので、それまでそのような競技はなかったのだから、神はその流行を見てジョブを追加したことになる。
ということで、「ジョブは新たに作られる」ことは広く認められていった。
ただ、その解釈として、「神が人の世に合わせてジョブを作っている」のか「運命をも司る神は最初からそういうスポーツが流行ることを予見してあったので最初から設定されていた」のかは論争を巻き起こしている。
個人の見解としては前者を支持したいところだ。運命が最初から決まっているなんて世界観は個人的には嫌いだ。
それに、ある時点から急に獲得されるようになったなら、前者の方が自然だろう。
でも神の全能性を信じている人からすると、受け入れがたいのかもしれない。まあどっちでもいいんだけどね。
そんなわけでジョブシステムは新たに付け加えられたりもするし、逆に削除されることもあり得そうだ。
ジョブ獲得の条件も変動しているのでは? なんて説もある。
それも個人的にはあり得そうだと感じる。
ちなみに、『ケウィルトス選手』のジョブが新設されてからしばらくすると、戦場でそのスポーツの技術を使おうとする馬鹿が出てきて、なんと『ケウィルトスの戦士』なる職業が発生したらしい。
熱心なケウィルトスファンの戦士は、周りに反対されていてもすぐこれを取ろうとするとか。
アホだな、アホ。
さて、最後に「世界と信仰」「帝国の栄光とその終焉」を読もうと思ったのだが、もう流石に疲れてきた。そろそろ4時間経ちそうだし、これは後日でいいか。
一応ペラっと読み飛ばして、この国で信じられているのは多神教であり、帝国時代からの宗教であること。その中の創造神とかいうのが主神級として扱われて祭られていることを確認した。
戒律とかはそれなりに緩そうだ。
異世界から来たとバレても殺されないような教義だと助かるのだが。まあ・・バレなければ良いだろう。
本をカウンターで返し、外に出ると陽が傾いて、街が赤く色付いていた。
日本の都市よりは綺麗だな~、この街も。夕陽が映える。
その分、生きるのは大変そうだけどな。
まだ宿を取るのは早いか、などと考えながらまた街をぶらぶらと歩きだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます