第16話 フラグ

俺の今のステータスは、こうなっている。


************人物データ***********

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(10)剣士(3)盾士(1)

MP 14/14

・補正

攻撃 G+

防御 G+

俊敏 G+

持久 G

魔法 G

魔防 G+

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限

斬撃微強

盾強化

・補足情報

なし

***************************


ジョブ3に追加した『盾士』により、防御と魔防のステータス補正が1段階アップした。

ジョブ追加の場合、ステータス補正が重複することは確定だろう。

MPのボーナスも重複することが確定した。『干渉者』+『剣士』だと12だったのに、+『盾士』で14になったからだ。


まあ分かっていたことなのだが、『干渉者』がMP0で、ジョブがなくても最初からMPを持っている・・みたいな可能性を排除できていなかった。

でもこれで確定だろう。MPボーナスは重複する。だから、MPボーナスは俺の強みだ。


魔法職を除いて、普通は初期MPが2くらいのようだ。

かなりシビアな数値だと思うのだが、最初は使うスキルもないからその程度でも問題ないのかも。

スキルも全てのジョブのものが使える。

これもまあ、分かっていたことといえば分かっていたことだ。


「盾強化」は、盾の防御力を上げるのだろうか?

戦闘系ジョブのレベル1スキルによくある、「微強」とかではないのが謎を深める。

攻撃を強くするようなジョブではないから、またスキル構成も違った感じになるのだろうか。


タンク職ってやつかな。

ステータス補正が防御と魔防なのもいかにもそれっぽい。期待できる。

シールドバッシュを強化するスキルとか手に入らないかな。


『盾士』を選んだのは単純な話で、現状で間違いなく盾を使うからだ。

木槍は一応、異空間に新品を1本入れているが、使う予定もないので基本的に剣だ。

後は非常用に魔銃。どちらも盾との併用を考えている。


『干渉者』を除けば設定できるジョブは2つ。

1つは攻撃職、もう1つを防御職とするのも面白いかもしれない。この世界の普通の人が出来ない、攻防一体のジョブ構成だ。


他に送り込まれたという俺のような異世界人のことは少し気になっている。

彼らも『干渉者』を活用していれば、今後の彼らの動き次第ではそこから情報漏洩があったり、利害対立するなんて恐れも・・いや、ないか。

少なくとも今の時点で対立する意味がないし、白髪のガキを信じるなら他の異世界人はまともに暮らせていないらしいからな。


今後、生活が落ち着いた他の異世界人が、同じ異世界人を探すなんてアクションを起こしやがると厄介だが・・まあシラを切ろう、全力で。

今はそんなことより金稼ぎ、ゴブリンハントの時間だ。

鉄壁の剣+盾ジョブ構成を喰らいやがれ!


遭遇するはぐれゴブリンを叩き斬る。

ほんとに、スパッと切り捨てるというよりは叩き斬るという感じになってきた。質量で敵を叩き潰すのだ。

先ほどの戦闘場所でゴブリンが鳴き叫んだ最後の警告の音声に気付かれていれば、待ち伏せがあるかもしれないということで、迂回路を通っている。

ただこれも読まれているおそれはあるという。


ゴブリンの群れの主、そのまま「ゴブリンの主」と呼ばれる魔物は、それくらいの知恵があるからだ。


「さっきと同じくらいまで深く潜ったはずだけど、群れの形跡はないねぇ。警戒されていると思った方がいい」


エリオットが剣で藪を払いながら呟く。

さっきの軍勢が群れの主力だった可能性もあるが、だいたい新たな群れをつくるときは主力を集落に残しておくのだという。

少なくとも先ほどと同じくらいの数は残っていると考えるべきだ、と。


さっきはパッチの罠も上手く引っかかってくれたし、今度はこちらから攻めるとなるとさらに危なそうだな・・。

死なないようにがんばろう。


「エリィ、ストップ。風の流れを感じるね・・開けたとこがあるかもしれない」


マリーが何かに気付いた。

そこでエリオット、マリー、パッチの3人が偵察に回り、現在地でトリシエラを俺が護衛することになった。

トリシエラは幹の太い木を選んで登り、上から弓で警戒を続けるようだ。

うーん、やっぱりこのメンバーだと俺が真っ先に死にそうだな、フラグは全力でへし折ってから進もう。


「トリシエラ、俺、この探索が終わったら、結婚しないんだ」

「へぇ、ん? 結婚しないの?」

「ああ。絶対にしない」

「そう。・・だから?」

「いや、宣言しておくことに意味がある。トリシエラも言っておくといいぞ、エリオットと結婚する気はないと」

「エリィと・・ご主人様と結婚なんて考えてないわよ。余計なお世話」


ありゃ。まあいいや。

後死亡フラグって何があったっけ? 改めて考えるとそうそう出てこないな。

「ここは俺に任せな!」とかいうと死にそうだから・・うん。


「ここはトリシエラに任せるぞ、なーに、難しい任務だ」


これでよし、と。


「・・・」


トリシエラは無視を決め込んだようだ。

これだからコミュ障は。

・・うるせぇ! 世間が悪いんだ!


おっと、自爆している場合ではない。ちょっと心細いから、魔銃をいつでも取り出せるようにしておこう。

服の下でバレないように異空間に片手を入れながら、30分程するとマリーが帰ってきた。

慌ててはいないので、こちらに敵が向かっているということはあるまい。


「どうだった?」


小声で話し掛ける。やっと異空間から手が出せそうだぜ。


「エリィはまだ戻ってないかい? 途中で別方向に別れたんだけどね・・」

「ここで落ち合う予定か?」

「だね。あたしは特に収穫なし。でもこの辺に何かあるとは思うんだけど・・半分勘だからね」


しかし今まで、マリーの勘は外れたことの方が珍しい。

多分、なんとなくの勘ではなくって、経験的記憶に基づく根拠ある勘なのだろう。そういう勘はよく当たる。


「あっ、エリィだね。さて、どうかな」


マリーが目ざとく、遠くからこちらへと向かうエリオットを見つけた。

すぐ後ろにパッチが従っている。

さすがにマリー以外は単独行動させないのだな。心配だろうしな。


「エリィ、どうだい? 収穫はあったかい」

「バッチリだ。おそらく集落らしきものを見付けたよ。パッチの罠も、簡単なものだけど置いてきたよ」

「へぇ! いいね、無駄足を踏まずに済んだ。距離は? 遠いかい?」

「いや、それほどでもない。急げば5分かそこらで着くだろう。・・やるか?」

「どうかね」


マリーが残りのメンバーを見渡す。

パッチもトリシエラもコメントしない。

エリオットがやる気なら反対する気はないのだろう。


「・・俺もいいぜ。さっきよりはまともに動いてみせる」


これはフラグじゃないよな? よな?


「よし、その意気だ。巣を丸ごと掃討できれば、ソロでは考えられないような儲けが出る。メスもいるだろうしね。討伐報奨金も弾んでもらえるかもしれないよ。ここが勝負所だ、ヨーヨー君!」

「ああ、そうだな・・怖いからって前に出なきゃ、アンタみたいなハーレム野郎にはなれねぇ。ここは男を見せるとするぜ」


あれ? なんかフラグっぽくなってきたような・・まあいい気にすることはない。

運命の女神は挑戦する者にのみ微笑むのだ。

名言だな。俺が今つくった。


「役割は午前中と同じか? 何か特別な作戦を練るのか」

「うーん、遭遇戦になったらここまでと同じで、君は右側の防御と遊撃を頼むよ。臨機応変にね」

「ああ、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応する」


ん? なんかフラグった気がするけど、良い事しか言ってないから多分気のせいだな。


「集落前まで気付かれずに行けたら、パッチの罠を仕掛けながら相手の進路を絞って、できれば先制奇襲攻撃から待ち伏せといきたいね」

「そこまで上手くいくのは望外として、とりあえず罠を張って逆奇襲を防ぐところまではいきたい。ヨーヨー、あんたも出来る限りでいいから気配を消しな」


マリーが俺に注文を付ける。

しかし、気配を消すとか、そういった技術はまともに学んだことがない。

これを機に習っておくか。


「なら突入前に少し時間をくれ。10分、いや5分でいい。マリー、最低限だけでもポイントを教えてくれないか?」


考えてみればエリオットのパーティからは情報をもらいまくり、技を盗みまくりで、特に対価も払っていないな。

申し訳ない。

出世したらなんかすごいものをプレゼントしよう。


「仕方ない。失敗するよりは、ちょっと一旦休憩としよう。ヨーヨー、とりあえず自分の思う気配を消した歩き方をやってみせな。周辺はゴブリンだらけだ」

「そういう設定か?」

「まあね。でも実際、そういう状況でもある」

「確かにな。とりあえず向こうの草むらから歩いてみるよ」


そこから5分、いや多分オーバーして10分ほどマリーの手ほどきを受け、足の運び方、意識の持ち方、呼吸、そういった基本的なことを矢継ぎ早に叩き込まれた。

やはり経験者の知恵ってのは凄いわ。

それだけでもかなり隠密っぽい動き方になった・・多分。


「さて、では改めて出発する。ルート、罠の位置、そして奇襲をかけるポイント。全て僕が当たりをつけてあるから、その後ろを隊列を崩さずに付いてきてくれたまえ。ヨーヨー君?」

「名指しかよ。ってまあ、主に危なっかしいのは俺だもんな。了解。付いてくぜ、リーダー」

「うむ」

「よっ、イケメン。スラーゲ―の女を狂わせる色男!」

「うむ、うむっ」

「馬鹿言ってないで、進むよ」


いつもの、エリオット、左右にマリーと俺、後ろにパッチ、最後にトリシエラ、の矢印のような隊列をキュッと横を狭くして移動しはじめた。


エリオットは今までに見たことのないほどに張り詰めた緊張感を漂わせており、一歩ごとに踏みしめる様に道を拓いていく。

マリーは本当に音がしない。素早く歩いているように見えるのに、重力がどうなっているのか不思議だ。


パッチもトリシエラも、俺よりはよっぽどスムーズに動いている。パッチはもともと身体が小さいし、気配を消されると気付きにくいだろうな。

ジョブで隠密系とかあるのかな?

斥候とかいうジョブは確か本に書いてあったか。


「・・・・」


エリオットが立ち止まり、アイコンタクトでパッチに指示をすると、手早く罠を仕掛けられていく。もう手持ちの残りのものを惜しげもなくばら撒くつもりのようだ。


トラバサミの他にも、有刺鉄線のような長細いものを張り巡らせたり、簡易の落とし穴まで作成していた。

すごいな、パッチ。

どうやら自分達の左右、背後を罠ゾーンにすることで、回り込めないようにするようだ。


しかし撤退も難しくなる。

背水の陣ってやつじゃないか、これ?

ちょっと怖いけど、今更戻れはしない。

エリオットがまた振り向き、口に人差し指を当ててから再び前を向いた。

こちらの世界でも存在した、「静かに」のジェスチャーだ。


少し坂になっているところを登って、下を除くと盆地のようになっている部分がゴブリンの集落として整備されているようだ。

もぞもぞと動く生物の影。

10・・20はいるんじゃないか?


5人は自然と近くに寄って、聞き取れる最低限の声量で最後の作戦会議を開始する。


「数はどれくらいだ?見えるだけでも、20は下らないと思うんだが」

「敵は30から40くらいだね。周辺に出ている分もいるだろうし。スカウトは2体、マージは1体。リーダーや主はまだ見えないね」

「それなら何とかなる数だねぇ。そろそろ僕たちの本気を見せよう。いいかい、パッチが魔道具で先制攻撃して、僕が飛び出す。マリーは遊撃。トリシエラは僕の援護。ヨーヨー君は後ろのパッチとトリシエラの護衛を頼むよ」

「それでいいのか?」

「もちろん、ある程度敵が出そろったらこっちに合流してくれたまえよ。最初は敵の出方を見る」

「そうか。間違って後衛が攻撃されたら全てが崩れるからな。分かった、任せてくれ」

「頼んだよ。僕が敵を引き付けるから、ここぞというときに援護してくれ」


皆が頷いた。

エリオットは集落の中心に躍り出て、マリーはその裏と入口、そして戻ってくる敵を屠るという方針らしい。

エリオットの本気・・この目で確かめさせてもらおう。

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