第7話 面接

今からパーティのリーダーに連絡して、夕方に待ち合わせるということで一度組合を出た。

組合は結構人が集まっており、中は少し熱気が籠っていたようだ。外に出ると爽やかな気分になる。明日の準備でもしておくか。


少しばかり金に余裕が出てきたので、追加の服や新しい布袋、干し肉などを買い足していく。

歩き回って疲れてきたころに、陽も傾いてきたので組合へと戻る。


「パーティの件で待ち合わせをしていたのだが・・」

「おおっ、君がそうかい?付いてきたまえ」


カウンターに声をかけようとすると、後ろに立っていた男がグイグイと入ってきた。


「あんたが『ブリームティの花々』のエリオットさん?」

「そうだ。とりあえず今日は夕食でも食べながらどうかね?」

「それでいいのか?面接というからてっきり・・」

「はっは、結局応募してくれたのは君だけだったからね!お堅いのはナシでいこう」


エリオットは、戦士然とした長身に、肩まで伸ばしたロングヘア、しゅっとした顔のイケメン風優男である。

風、というのは、よく見るとイケメンでもないのだが、雰囲気で何となくイケメンっぽく見えるという人種である。雰囲気イケメンというのだったか。


エリオットに連れてこられたのは、予想外にもちょっと高級な、レストランといった風情の飯屋だった。


「あの、俺あんまり金ないんだけど・・」

「今日は僕が持つから、気にしないでくれたまえ」

「えええ・・いいのか」

「何、仲間となればこれから長い付き合いだ。遠慮はいらないよ」

「ん? 待って、そもそも臨時パーティじゃないの」

「その通りだが、面接を合格すれば今後も定期的に組んで欲しいという要望だったはずだよ?受付のレディーから聞いてないのかい?」

「いえ、まったく」


あのやる気なし女・・。完全に忘れていたろ。


「そうだったのかい・・ウチはちょっと特殊でね、信用できる相手と組みたいし、そういう相手を毎回見つけるのは大変だからね。定期的に組んでもらいたいのさ。だめかい?」

「いや、俺もその方がありがたいな。登録したばかりで、トラブルに巻き込まれるといやだし」

「そうかいそうかい。予約していた席はあちらだ、さ、行こう」


エリオットに連れられて、大テーブルを囲むように女性が3人座っている個室へと入った。


「エリィ、それが仲間候補かい?」


入って左側に座っている大柄の女性が窺うような視線を向けてくる。

髪はくせのある赤毛ショートで、化粧などしていない。ちょっと、そばかすがある。ザ・女戦士って感じか?


「てっきり、新しい女を連れてくると思ったけどね・・」

「はっは、それもいいが、応募してくれたのが彼だけだったからね!」

「そりゃあ、ゴブリン狩りごときの臨時パーティで面接する人なんていないでしょう・・あんたもよくこんなところ受けに来たもんだ」


ジト目で睨まれる。普通はないのか、こういうこと。あの受付の女、それくらい説明なりフォローなりしてくれても良かったのに。


「ちょうどゴブリン狩りを始めようと思っていたところでね。ゴブリン狩りで面接ってのも面白そうだから、応募してみた」

「・・酔狂だねえ」


ハッと馬鹿にしたような笑いも漏らしたが、女戦士の雰囲気と合っていて嫌な感じは受けない。


「先に紹介するとしよう、左から、今話していたのが『剣士』のマリー、それから、『癒術士』のパッチ、そして・・トリシエラさ」

「ん?トリシエラだけジョブの説明がないのはなんだ?」

「・・うるさい」


トリシエラと呼ばれた切れ目のボブカット美人が照れたように目をそらす。するとイケメン風男子がこちらを手招いて、小声で話す。


「トリシエラは『性術士』さ。僕のわがままでなってもらっているから、あまりいじめないでくれたまえ」

「は、はぁ!?性術・・っ?」


思わずぞわっとして飛退くが、エリオットはさわやかな笑顔で追撃してくる。


「おや、『性術士』のジョブを知らないのかい?見掛けによらず、初心なんだねぇ」

「いや、ジョブの勉強はしていなくてな・・すまない、あんた・・トリシエラも、馬鹿にするつもりはなかった。すまなかったな」

「いや、いいけど・・」


トリシエラは真っ赤になって俯いている。

性に関する魔術師なのか、性の術を極める人なのか・・。

どっちにしろエロ関係なんだろうな。この恥ずかしがる反応からしても。


「それにしても、ジョブって初対面で言ってもいいものなのか?」

「人それぞれじゃないかね?僕は特に気にしないけどな!」

「そうかい・・じゃあ一応言っておくか。俺は『サバイバー』だ」

「『サバイバー』!渋いジョブを使うねぇ」

「珍しいのか?」

「うーん、ジョブの選択肢に出ることは多いみたいだけどね。選択する人は少数さ」

「そうか」

「しかし、ステータス補正はそう悪くないという話だし、魔物狩りをするには便利なスキルも色々あるらしいじゃないか。期待できるね」

「レベルは高くないから、あまり期待しないでくれ」


女性3人は、こちらの話をじっと聞いているだけであまり混じってこない。面接だからか、エリオットがリーダーだからか。


「自己紹介が遅れたな、俺はヨーヨー。訳あって無一文になって、それから魔物狩りをして暮らしている」

「それは大変だったねぇ!いつからなんだい?」

「ここ最近さ。つい先日までは、グリーンキャタピラを狩ったり、ブラッドスライムを狩ったり・・。ブラッドスライムの情報を入れたのも、俺なんだ」

「グリーンキャタピラは臭いからねぇ・・。じゃあ、ゴブリンは初めて?」

「そう。初心者でも入れてくれるか?」

「そりゃ構わないよ。武器は?」

「槍だ。後は・・まぁおいおい説明していくよ」


魔銃は出してもいいのだろうか?とりあえず最初は木槍を使おう。


「前衛ならありがたいねぇ。僕とマリーは剣、トリシエラは弓を使うよ」

「そういえば・・エリオットのジョブは?」

「僕かい?僕は『華戦士』さ」

「『華戦士』・・。」

「珍しいジョブだろう?ジョブ獲得条件は秘密さ!」

「前衛向けのジョブなのか?」

「そうだねぇ、まぁ普通の『戦士』のカッコいいバージョンと思ってくれればいいさ!」

「かっこいいんだ・・」


ナルシストなのが条件だったりして。


「それで、俺は合格なのか?不合格なのか?」

「君たち、どう思う?」


エリオットは女性陣に話を振る。


「あたしは良いと思うけどね。あたしらより弱そうだから、襲われることはないでしょ」

「私も構いません」


これは今まで喋っていなかった、真ん中のパッチだ。『癒術士』・・だったかな?回復系統のジョブか。水色っぽいショートで、地球にあり得ない色なのでちょっと目を引く。剣士マリーと並ぶと小柄なのが良く分かり、小動物といった感じだ。受け答えが真面目っぽい。


「・・別に良いけど」


性術士のトリシエラは大人しい、というか暗い感じだ。

ジョブはアレなのに、まったくビッチっぽくない。

ずっと俯いているせいで、サイドテールにした茶色い髪が後ろに見えている。

美人だし、ジョブからいってエリオットの恋人か?


「トリシエラは、エリオットと付き合っているのか?」

「はっは、彼女らは全員僕の奴隷さ」

「・・えっ」

「・・エリオット様」


パッチが咎めるように声を出す。どうやらバラすのはもっと後の予定だったらしい。


「まあまあいいじゃないか、彼は合格したんだし、もう話してしまおう」

「はあ」

「僕たちは、僕と奴隷たちで組んでいるパーティでね。ただ、ゴブリン相手だともう少し数が、特に前衛が欲しい」

「なるほど」

「ただ、彼女たちのような魅力的な女奴隷を連れているというのは、何かとトラブルの元でね・・。面接方式にしたのも、彼女たちと上手くやっていけるか、おかしな気を起こすような人でないかを見たかったのさ」

「まあ、そういうことなら手は出さないけども。まさかパーティに3人も奴隷がいるとは・・よくあることなのか?」

「戦闘奴隷を使う人は少なくはない。個人傭兵なんて、信用できる仲間を得るのが一番大変だからね。その点、きちんと隷属魔法を掛けた奴隷ほど、安心できるパーティはいないと言える」

「なるほど、隷属魔法か・・」


予想だが、主人を攻撃できないとか、命令には従うといったことが魔術的に強制されているというところか。厳しくしなくても、裏切らないことを担保できるのだから、地球の奴隷とはまた別の文化が発展しているのかもしれない・・。


「ただ、戦闘奴隷として使うにはやっぱり男性、年齢も高めの方が多いね。僕みたいに若い娘を戦闘奴隷としてもいるのは、かなり珍しいんだろうねぇ・・」

「それで警戒していたわけか」


これは罠とかではなさそうかな。

罠だとしたら、わざわざこんな変な設定にする必要が感じられない。まあ、最低限の警戒は続けるが。

それよりもこれは好機かもしれないな。


「実は俺も、奴隷ハーレムを目指していてな。是非話を聞かせてくれ」

「はぁ?アンタバカだねぇ・・」


マリーには呆れられたが、エリオットは目を輝かせて頷いてくれた。


「おお、同志だったのかい!まだ奴隷はいないのかい?」

「ああ、無一文になったときに、成り上がって奴隷ハーレムを築こうと決めたのさ。だからまだ全然金が足りないというところだ」

「そうかい。僕としては、1人は『性術士』にして・・おっと、トリシエラが睨んでいるから何でもないさ」

「奴隷ってのは、裏通りにある奴隷市場でやりとりするのが普通なのか?」

「うーん、僕は店舗に行くけどね。市場は掘り出し物があるという話だけど、基本的に質が悪かったり、ワケありだったりして大変だからねぇ」

「そうなのか」

「少し割高になっても、きちんとした店で取引をした方が教育もきちんとしているし、病気もないし、安心できるかなぁ」

「参考になる・・値段はどれくらいなんだ?たとえば・・」


3人娘をちらりと見て、ちょっと失礼な話題だったかなと思う。


「彼女らは金貨数枚じゃ足りないよ。ただ、パッチとトリシエラは小さいころに引き取って育てたから、当時はそれほどじゃなかったけどね」

「子供だと安いのか」

「旬の年齢よりはそりゃ安いさ。老人よりは高いがね」

「やはり金が要るな・・」

「ま、僕のパーティはゴブリン意外にも、色々やっているから、ぜひ参加してくれたまえ」

「ああ、ありがとう」


一定の手続きをすれば、傭兵組合を通して、相互に伝言を残すことができるらしい。今後も声をかけてくれるように話をしておく。



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