第6話 パーティ

ふと気付くと、えんじ色のカーペット、お洒落な絵画と背の揃った本棚が見えた。ハッとなって振り向くと、高級そうなソファで白髪のガキが足を組んでいた。


「や、この間ぶり」

「ここは・・夢じゃないよな」

「違うね。君はええと、ヨーヨーくんだっけ。あんまり洒落た名前じゃないねぇ」

「ほっておけよ。今日は何の用だ?」

「前に言っておいたはずだよ、報告をしてもらうと。君の行った世界について、簡単に説明してもらえるかな?」


俺はガキに問われるままに、魔物を狩って暮らすようになった簡単な経緯や、世界について、そしてき点など気になった事象について軽く説明した。


「ふぅーん、やはり想定していた以上に魔物に侵食されているね・・」

「金も武器もないまま放り出されて、どれだけ大変だったか!」

「それはすまなかったね。といっても、最初に転移した拠点は捜索しなかったのかい?」

「え?どういうことだ?」

「あそこはねぇ、逃げ出した犯罪集団のアジトだった場所でね・・。探せば、持ち出し損ねたお宝の1つや2つはあったはずなんだけど」

「ば・・っ!おま!先に言えよ!」

「ははは、そうか、気付かなかったようだね。まぁ今行っても、もう警備団に確保されているはずだから、遅かったね」

「マジかよ~・・無一文から、服売って、街壁の外で野宿して・・本当に死ぬかと・・」

「まあ、そんな頑張っている君に、今回は報酬を渡そう」

「報酬?」

「ああ、さあ受け取ってくれたまえ」


ガキが何かを投げる仕草をしたので受け取ると、金属の筒と持ち手の付いた謎の物体だった。


「これは・・形状からすると、銃に近いものか?」

「そうだね。正確には、そちらの世界で作られた魔銃というものらしいよ」

「魔銃・・銃という概念はあるんだな」

「純粋な銃も少数ながら生産されているようだね。性能としては残念なもののようだけど・・」

「ほぉ~。で、この魔銃というのは名前からすると、魔法の銃、と考えればいいのか」

「そうだね。そこのトリガー代わりの魔晶石を押すと、勝手に使用者の魔力を抜き取って魔法の弾を放つらしい」

「へぇ」

「別口の調査で手に入れたんだけどね、検査も終わったし、君にあげるよ。解析はちょっと面白かったけど、発想は平凡であんまり重要な代物じゃないからね」

「いいのか?」

「ま、正直に言えばボクの想定が甘かった。君以外にも何人か送り込んだけど、まともに生活できているのは今のところ君くらいだ」

「えっ・・」

「異様に魔物も多いし、それ以外もちょっと不自然なところがあってね・・。で、現時点では貴重な情報源である君に、多少の援助をしようと思ったのさ」

「ならもっと、金とか、防具とか欲しいものはいくらでも・・」

「残念ながら、それが限度だね。ボクは基本的にそちらの世界に干渉できない。だから今回はわざわざここに呼び出して、そちらの世界で作られたものを1つだけ与える。これがボクの限界なんだ、勘弁してほしいな」

「そうか、まあ何もないよりは助かる」

「それにしても湧き点、だったかな?これも想定外かもしれないね。明らかに普通じゃないよねぇ」

「そうなのか?俺の元の世界に近い世界では、魔物が跋扈ばっこしているのが普通なんだろう?ああいう、魔物を発生させるものがあるからなのかと俺は思ったが」

「うーん、それはそうだけど、普通はその世界で魔物が発生する要因があって、魔物が跋扈ばっこするわけだよ。でも湧き点というのは・・ねぇ・・」

「なんだと?」

「おっと、このへんにしておこうか。あ、次回以降の報告はわざわざ呼びつけたりはしない。報告のためにちょっとしたものを与えよう・・君が持っていった仮想空間用の端末はあるかい?」

「ああ、あったなこれ。そういえば、こっちの世界では起動しても展開できなかったんだけど」

「そうなのかい。まあいい、ちょっと貸してくれたまえ」


ガキは端末を受け取ると、手先で弄って何かをしたようだったが、俺には分からなかった。


「ふう、さて、こんなものでいいかな。君の端末を起点として、異空間へのトンネルを起動できるようにしたよ」

「なんだって!?」

「報告書は今後、毎月の1日にその異空間へ提出してくれたまえ。ああ、それ以外にも収納場所として利用してくれてもいいよ」

「その異空間ってのは、使っても大丈夫なものなのか?その・・世界の安全的に」

「大丈夫だよ、暴走してもせいぜい精神ほうk・・」

「ダメじゃねぇか!」

「まあ安心したまえ。ボクの作ったものがそう簡単に暴走しやしないよ。大船に乗ったつもりでいたまえ」

「そうかよ・・その収納はどれくらい可能なんだ?」

「残念ながら、広くはないよ。せいぜい、そうだなあ、広めのロッカーといったところかな?貴重品を置くにはちょうどいいんじゃないかね」

「入れておいて・・無くなる、なんてことはないよな?」

「多分ないねぇ、君以外にはボクくらいしかアクセスできないはずだよ。しかしボクも年頃だから、エッチな本とかそういう類は遠慮してもらえると助かるね」

「そんな物、入れるか!」

「そうかい?隠し場所としてこれ以上はないと思うけど。まあいいや、もし入れていても見なかったフリをするから、安心したまえ・・」

「そうかよ。まあ、金庫代わりとしては便利そうだな。ありがたくもらっておくぜ」


素直に感謝すると、ガキは少し怪訝けげんそうにこちらを窺った。


「なんだかちょっと、何というか・・表情が素直になってないかい?」

「意外と他人に興味あるんだな」

「まあ、ねぇ・・」

「異世界でちょっとした目標を見つけたし、生きるか死ぬかの暮らしをしたことで無気力じゃなくなった自覚はある」

「そりゃあ、ニートの更生とはボクもいいことをしたものだ・・天国にいけるねぇ」

「自分が神のような存在じゃなかったのかよ」

「それは否定したはずだよ。まあ、見方によっては神と言えなくもない、というだけさ」

「分かったよ。それで、今回もまた、後ろの扉から出ていけばいいのか?」

「そうだね。じゃあ次回の報告を待っているよ。できれば後数年くらいは死なないでくれたまえ」

「数年かよ・・心配するな、うっとうしくなるくらいまで生き抜いてやるさ」

「ははは、期待しているとも」


なにやら机の上で作業をはじめたガキを横目に、扉を開けて白い壁を通り抜ける。気が付くと泊まっていた安宿のベッドへと戻っていた。


手には魔銃と仮想空間端末(改)を握っており、ただの夢でないことを証明している。

端末を操作しようとすると妙な挙動をするので、逆らわずに展開してみると端末の上方に黒いもやのようなものが現れた。

手を入れてみると、なるほどどこかの空間に繋がっているようで、手の先が消え、手を引くとまた現れた。


「あ、異空間の中に入れておくと時間は経過するのかとか、基本的なことを訊き損ねたな・・」


ため息をついて、とりあえず持ち金の半分ほどと、魔銃をしまっておく。もう一度展開し、すぐに取り出せることも確かめた。

既にお日様が高く昇っているので、寝坊したらしい。

魔銃のテストも兼ねてブラッドスライム狩りをしようと南門に向かうと「もう野宿は止めたのかい」と、顔見知りの門番に話しかけられ、無事に定住証明証を発行してもらったことを報告した。

門番は定住証明証を持って一度奥に引っ込むと、1分足らずで戻ってきて手続きの完了を告げた。

入るときも同様の手続きをするらしいが、この程度の手続きなら大した負担にはならない。取ってよかった定住証明証である。


人のいない荒野まで移動すると、さっそく魔銃を異空間から取り出して大きな岩に向かって撃ってみる。


何かが身体から抜け出すような感覚がして、筒の先端から光の塊が打ち出された。甲高い音がして、光が撃ち出されるところと相俟(あいま)ってビーム兵器っぽいなと考える。

ただ弾速は遅い。10メートル離れたところから撃たれたとして、注意深く見ていれば避けられそうだ。


「ま、こんなもんかな」


そして、ステータス閲覧でステータスを表示する。


************人物データ***********

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(5↑)サバイバー(4)

MP 11/13

・補正

攻撃 G

防御 G+

俊敏 G

持久 F-

魔法 G

魔防 G

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅰ、ステータス表示制限

消化機能強化

・補足情報

なし

***************************


やはりか。

予想通り、MPが削られている。

魔力=MPということで間違いないだろう。


いつの間にかMP値が増えている気がするが、これも『干渉者』か『サバイバー』のレベルが上がったときに上がったのだろう。

全てのジョブにMPボーナスのようなものがあるとすれば、複数のジョブを設定できる羊平はMPで優位に立てる。


(魔法職とかも、考えた方がいいのかも・・?)


何度か魔銃を発射してみて、一発につきMPを2消費することが確認できた。

今のところ、他にMPを消費する予定もないので、消費2くらいなら使えそうだ。


少し歩いてブラッドスライムを発見すると、10メートル以上離れた位置から魔銃を放ってみる。相変わらずビーム兵器っぽい高温を響かせながら、光の塊、魔弾が着弾する。

ブラッドスライムは気付いていないのか足が遅すぎるのか、まったく避けることなく当たる。

そして赤い液体を吹き出し、すぐに力を失った。一撃である。


「一撃か・・これなら使えるぞ!反撃を気にする必要がないのはデカい」


その後、木槍に持ち替えて突っつき倒す実験もして、木槍でも十分倒せることを確認してから街に戻った。

木槍は射程があるぶんナイフより楽なのだが、なにぶん木製なので耐久性には不安がある。まぁ安物だから壊れたら買い替えればいいと言えば、そうなのだが。

当分は、木槍を主武器、ナイフを副武器、そして切り札として魔銃を隠し持つという方針とする。


今日の収入は、ブラッドスライムの魔石×6で銅貨50枚強。1つ銅貨10枚を切っている。大量発生の予兆が知らされたことで、大量供給が予想されて値崩れしているという。

大量発生があると、行政予算から出される討伐報酬が増えるが、それ以上に市場価値が下がるために、やや値下がり傾向が続くという。そろそろブラッドスライム狩りも卒業すべきかもしれない。そうなると、次はあのゴブリンなのだが・・。

ゴブリンはとかく徒党を組む。ソロで狩るのは何かとリスクがあるのだ。


「あら、ならパーティでも募集すればいいんじゃない?」


少しくだけた口調で話すようになった、魔物買取センターの金髪ロングお姉さん(だったおばちゃん)が言う。


「パーティってどこで募集すればいいんだ?」

「傭兵組合ね。この街の傭兵組合では、個人傭兵の登録やら、臨時パーティの応募にも対応しているのよ」

「なるほど。早速今から行ってみる!」


ゲームのような冒険者ギルドはなかったが、傭兵組合がその代わりをしているのかな。

あるいは「個人傭兵」の部署が独立して、魔物対策として利用され始めると冒険者ギルドが設立されるのかも。

その前段階にあるのかもしれない。


傭兵組合は、今まで利用したことのない北門付近、スラムの入口ちょっと手前あたりにあった。

中に入ると、個人傭兵部門と、傭兵団部門では完全に部署が異なるようで、個人傭兵部門の窓口付近には何人かの強面こわもてたちがたむろしていた。


「個人傭兵の登録と、パーティの勧誘または応募について説明を受けたいのだが」


今度は勢い余ることなく、きちんと相談のための窓口を見つけて、カウンター内にいたマッチョな人に話しかけた。


「登録はこちらの用紙に必要事項を記入して、後程のちほど2番のカウンターでご登録ください」

「あ、はい」

「パーティにつきましては、当組合のサービスという形で、個人傭兵に登録を済ませた方を対象に情報のやりとりのみしております。その結果、何らかのトラブルが生じた場合にはご自身の責任となりますので、ご了承ください」

「なるほど」

「個人傭兵の登録後、ご希望でしたら奥のカウンターで中の者にお申し付けください。条件に合うパーティの応募がないか、確認できます」

「勧誘は?」

「同じく用紙に必要事項を記入して奥のカウンターに出していただければ、その情報を当ギルドで残しておき、問い合わせがあれば後日お知らせするという形になります」

「なるほど」


個人傭兵の登録は簡単に済んだ。「対象とする事業」には「魔物の討伐」、「指定依頼の可否」には「保留」としておいた。

戦争などは関わらないつもりだ。


メンバーを募集しているパーティの情報は、いくつか見つけた。臨時のほうはもちろん、継続的なパーティを募集する方にも、目的が「ゴブリン討伐」が多かったのは意外であった。


てっきり、継続的なパーティはもっと「魔物狩り」など曖昧あいまいな設定にして、色んな依頼を受けるイメージがあったのだが、そればかりではないということだ。

つまり彼らは、ゴブリン狩りのみを目的とするパーティを結成していることになる。


それだけゴブリン狩りが儲かるのかもしれない。

ただ、そういったパーティの多くは3日に1度や6日に1度といったペースで活動しているものが多い。専業ではなく、本業が他にあるということだろうか。

とりあえずは臨時でゴブリン狩りを募集しているところを探すと・・


(明日までに募集しているのは、2つ、か。片方は本日面接ってなっているけど、どういうことだろう?)


「この面接というのはどういうことなんだ?」


カウンターの向こうで資料に目を通している、やる気のなさそうな女性に尋ねる。


「それはですねぇ、人となりを見極めてから判断したいってことでぇ、やりますぅ?」

「じゃあ頼む」


こちらも先方の人となりを見てから判断できる方が安心できる。

カモを探している、とかでなければいいんだが・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る