第5話 定住証明証

翌日は、門から南に進んでみる。

南東に伸びる街道にも近いところだが、昨日と同じくらいブラッドスライムに遭遇した。


(街から日帰りできる距離にこれだけ魔物がいるって、問題じゃないの?)


まあ、ブラッドスライムくらいどれだけ発生してもまともな護衛がいれば対処できそうではあるが、たとえば街道に出没して、気付かずに接近してしまって馬車があの硬化した身体の攻撃を食らえば、重大な事故になりかねない。


(もしかしたら、センターに報告しておいた方がいいのかもしれないなぁ・・いや、門番に話せば足りるか?)


火の球を吐くときはぐぐぐと身体を縮こませてからタメがあることを発見してから、羊平は昨日以上にスムーズにスライムの攻撃に対処していた。

陽が傾くまでに門へと引き返し、この日の収穫は8匹であった。


門に近付くと、暇そうにしていた門番がこちらに注視するのを感じた。この南門は、東門よりも通行量が少なく、門番はいつも暇そうにしている。


「どうした、入門希望か?」

「いや、ブラッドスライムの量が多いので、一応報告をしておこうかと」

「そうか、どれくらいだ?」

「一日10匹程度遭遇した。つまり半日で行って帰ってこられる距離だから、ちょっと多くないか?勘違いだったらすまないが」

「いや、確かに多いな・・方角は?」

「昨日はここから西に、今日は南に向かったがどちらも同程度だった」

「そうか・・大量発生の予兆かもしれないな。情報感謝する」


おせっかいだったらどうしようと思って腰が引けていたが、愛想良くお礼を言ってくれたのでほっとした。

大量発生ってのがあるんだな。その時期に外に出ていたら危なかったかもしれない。


ひやりとしたものを感じながら、屋台で水を買って干し肉をかじる。

残念ながら、東門のように出来合いのものを売る屋台はない。屋台の数も少ないが、あっても調理前の自作野菜とか、そんなものばかりだ。通行量が少ないから儲からないんだろう。

水を売っていた屋台のあんちゃんに話を聞くと、門の前で物を売る連中は、だいたい街中での場所代が払えないか、払うと赤字なのでここで売るらしい。

なるほど・・壁の外だから街も税金を取らないのか。


翌日、朝からブラッドスライム狩りに熱中していると、昼過ぎくらいに金属鎧を着込んだ騎士って感じの二人組がブラッドスライムを囲んでいるのに遭遇した。

まさか盗賊の類か?と思って警戒したが、こちらに気付いて目が合うと気さくに話しかけてきた。


「よぉ」

「あ、うん。どうも」

「ソロでブラッドスライム狩りか?珍しいな」

「ええ、まあ。あんたたちは?」

「俺らは定期巡回だ。昨日大量発生の予兆ありとタレコミもあったらしいし、な・・」

「タレコミ・・」

「あ、もしやあんたが情報提供者か?」

「多分そうだと思う」

「そうか、ありがとな。どうやらここ数日で急に増えてきているみたいだからな。定期巡回もしているとはいえ、一日の情報の遅れが問題になるんだ」

「あんた・・貴方たちは街の衛兵ですか?」

「ん?いや、戦士団だ。スラーゲ―戦士団。この辺の街道を中心に、魔物を間引いているんだが、意外と知られてないのか?俺ら」

「あ、すいません。俺、学がないもので」

「ははは、まあ気にするな。これが大量発生の予兆なら、今日明日あたりにはもっと増えて、ブラッドスライム狙いの上位の魔物が流れてきたリとか、ビッグスライムなんかが発生してもおかしくない。気を付けろよ」

「はい」


ビッグスライム・・ブラッドスライム同士が合体したりするんだろうか?

魔法能力なんかも向上していたりすると、今の俺では勝てそうにない。今日は早目に撤退しよう。


その後、少しだけ狩りをしてから街へと戻った。


************人物データ***********

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(4↑)サバイバー(4↑)

MP 13/13(↑)

・補正

攻撃 G

防御 G+

俊敏 G

持久 F-(↑)

魔法 G

魔防 G

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅰ、ステータス表示制限

消化機能強化

・補足情報

なし

***************************


(おっ、持久の補正がアップした)


どうやら、ジョブのレベルが上がれば補正も強化されるようだ。


(『干渉者』のジョブの補正があるのかないのか良く分からないから、複数ジョブの補正効果がどう影響するのかどうかも謎なんだよなあ)


考え事をしているうちに、カウンターでは初日に対応してくれたやさしそうなおばちゃんが魔石の状態を確認していた。


「はい、結構です。買取金額は、手数料を除いて銀貨2枚と小銀貨8枚となります」


小銀貨は、銅貨10枚と等価だ。羊平などは小さくてなくしそうだと思ったが、そのへんのこともあってか、あまり多用されない。今回は銅貨80枚と多いので、小銀貨にしたようだ。


「小銀貨は半分ほど銅貨にしてもらえないか」

「かしこまりました。小銀貨3枚と銅貨50枚にしておきますね」


にっこりと笑顔で対応してくれた。この人がいなかったら初日で心折れていたかもしれない。すばらしい人だ。


「このセンターでは、チップ・・みたいな制度はあるのか?」

「はい?」

「いつもお世話になっているので、お姉さんに銅貨を・・」

「ああ。渡す方はいらっしゃいますが、私はお断りしています。お仕事しているだけですからね」


にっこり。いい笑顔で。もう少し若ければ、惚れていたかもしれん。


「すまん。余計なことを・・」

「いえ、お気持ちは本当にありがたかったですよ」


気持ちよく魔物買取センターを出て、飲み街で豪勢に食う。高いし、あまり興味はないので酒は飲まない。

異世界で潰れたら有り金取られそうだし。


運ばれてきたのは何かの肉を潰したショウガ(のような味の何か)に絡めて焼いた、生姜焼き定食。まったりしたキノコのスープと大盛のごはんつきである。


地球で読んだことのある、異世界に転移や転生した物語などでは、よく日本食に飢えて東の地に向かって見付けたりしていたけれど。このスラーゲ―の街、普通にコメがある。

というか、麦より米の方が主流だ。

パンのようなものもあるが、食い物屋に入って出て来る主食としては、米とパンでだいたい2対1くらいの比率になっている。


外で節制したぶん、貪り食うようにおかわりをしてから、適当な安宿に連泊の予約を入れる。これまでは外で四苦八苦しながら野宿してきたが、ちょっと考えがあるのだ。

連泊で多少安くなり、一泊銅貨43枚。まぁ、安い方だろう。




翌日、羊平は下町にある街の役所出張所に出向いた。実は昨日、街に入るときに、ブラッドスライムの件を報告した衛兵さんが受け持ちだったので「毎回銀貨1枚払うのがきついっす」と軽く愚痴ってみたのだ。


そうしたら、「それなら定住証明証でも発行してもらえば?」と軽く言われたのである。


いわく、定住証明証を所持していれば、日帰りであれば無税で出入りできるらしい。

ただし、登録料として銀貨1枚、そして毎年末に銀貨20枚もの大金を支払う必要がある。

今は12か月中の3月くらいということで、まだ税金にはかなりある。何より外での野宿には限界を感じていたので、ここは素直に従ってみることにしたのだ。


ちなみに、定住証明をしても、長く住みますよ、という程度で、代々街に暮らしている市民の皆さんよりは一段扱いが低い。

ましてやお貴族様などに絡まれれば即首が飛んでもおかしくはない。

身分証としてはそんなに効力が強くないということだ。まあ、今の身分証がない状態よりは、数段マシかもしれないが。


あくまで節税のための手段と割り切っておく。


「こちらに手を置いてくださいますか」


水晶のような魔道具に手を置くと、名前、年齢、犯罪歴が浮かび上がる。どういう仕組みなのだろう。


「はい、結構です。こちらが証明証になります。手数料として銀貨1枚を頂きます」


銀貨1枚を渡すと、銀色の小さなカードのようなものを渡された。

「ヨーヨー 人間」と簡潔な記載があるだけで、簡単なつくりだ。


「街を出る際には事前に解除申請をしてください。そうでなければ、脱税として犯罪となる場合がございます」

「はい。これを用いて日帰りでの出入りをしたいときは、どうすれば?」

「その場合、出るとき、入るときにそちらの証明証を門番、役人にお渡し下さい。そちらで都度、処理いたします」

「はい」


こうして羊平は街からの日帰り旅行フリーパスを手に入れたのである。


(最初っから手に入れてればどれだけ節約できたか・・まぁいい、俺は未来に生きるんだ)


今後は情報収集をしながら、グリーンキャタピラやブラッドスライムを日々狩っていけば安宿暮らしは維持できそうだ。

少し目途が立ったところで、気になるのはやはり装備問題。


さっそく街の武器屋へと足を運ぶ。


「うへぇ、高い・・高すぎる」


剣、槍、弓、と定番の武器を見渡してみるも、基本的に銅貨程度で買えるものではない。安い物でも銀貨数枚はする。

いったんまともな武器は諦めて、「街の道具屋」という名前の雑貨屋で、今後の宿生活に必要な物を揃えていく。

そこで、思わぬものを発見した。木槍である。


(「道具」枠なんだ・・木の槍って)


ちょっと釈然としなかったが、銅貨30枚という武器としては破格の値段である。

とりあえず予備も含めて2本購入した。

きっと戦国時代の農民の竹やりみたいなもんだろう。

殺傷道具ではあるけどまともな武器ではない、みたいな扱いなのかもしれない。


「けっこう作りはしっかりしているじゃないか・・ブラッドスライムを突くには十分だろ」


ご機嫌で夕飯のおにぎりも購入し、少し時間が浮いたので奴隷市場の中を通ってみた。


「働き盛りの力持ちだよ!金貨2枚は破格だよ~」

「この子はまだ若いが、その分仕事を仕込めるよ!文字も読める!」


この前はなかったが、今日はそこかしこで八百屋の呼び込みのようなことをしているのが聞こえる。

時間によっては、こういうことをやっているのかもしれない。


特に筋肉がありそうにも見えない特徴のない男の奴隷の値段が金貨2枚、つまり銀貨200枚である。相変わらず高いな、と思いながら見渡していると、妙齢の女性ばかりを集めた店があった。

何人かのお客がじろじろとそれを眺めている。やはりそういう用途の奴隷は人気があるようだ。

檻の中に入れられた女性たちは座り込み、あまり元気そうではない。そりゃそうか。


周辺をじろじろと見渡してみるが、値札がない。


「お客様、どのような娘をお探しですか?」


いつの間にか初老の男性に回り込まれていた。


「え、えっと見ていただけだ。すまん」

「そうでございましたか」

「1つ質問があるのだが」

「なんでございましょう」

「この娘たちの値段は、どのようにして決まるのだろう?」

「はい。予算の都合を教えていただければ、こちらから予算に相応しい者を紹介するという形です。もちろん、気に入った娘がおりましたらその場で交渉ということで」

「・・特に値段は決まっていないと?」

「いえ、相場はございますが。お客様との相談ということでございますね」


その手の知識のない客を排除するためなのか、あるいはこの市場での出店は、あくまで広告のようなものなのだろうか。こんな美しい娘たちを揃えられる当店にお任せください、みたいな。具体的な話は店舗で伺いましょう、的な。


「そうか、回答感謝する」


初老の男は頭を下げて次のターゲットを狩りに戻った。


(値段が分からないのはちょっと怖いなぁ・・とりあえず金貨出せるようになってから考えよう)


ちょっと現状にしょんぼりしながら、宿に戻った。

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