第4話 スライム

「ひい、ふう、みい・・はい、グリーンキャタピラの魔石15個、お預かりします。こちらが銀貨1枚と銅貨30枚になります」

「たしかに」


グリーンキャタピラの魔石を売っ払い、現在の所持金は銀貨2枚と銅貨50枚程度である。

あれっ増えてなくね?と思うが致し方ない。

ちょうどタイミング悪く、グリーンキャタピラの魔石の相場がやや下がっていたのが痛恨だ。


グリーンキャタピラの次に弱いのはゴブリンらしい。ただ、ゴブリンは道具を用いるし、集団戦も得意だ。

そういう意味では、ブラッドスライムの方が狩りやすい、らしい。


「グリーンキャタピラの相場が回復するまで、ブラッドスライムを狙って見るか?」


そう考えて二階の資料室でブラッドスライムについて詳しく調べてみる。資料室は、基本は無料で開放してくれるという。

混んで来るとお金を取って、整理券で時間制を取ったりするらしいが。


さて、ブラッドスライムであるが、不定形の定番「スライム」の亜種である。

まず、スライム系統に共通する特徴として、魔石が壊れるか、体積を著しく失うと活動を停止する。

ブラッドスライムは体内に赤い液体を充満させており、この点が身体のほとんどを同じような粘性物質で構成される通常のスライム種とは違うところだ。身体に傷を付ければ液体が流出するため、体積を失わせて活動休止にする方法がはまりやすい。


ただしブラッドスライムが怖いのは、身体の一部を尖らせ、武器のように扱うことと、個体によっては魔法を扱うという点だ。通常のスライムは身体で包んで窒息死であるとか、溶解液を飛ばすなどといった攻撃がメインで、身体を変化させるといってもせいぜい鞭のようにしならせて叩くといったところだ。

しかしブラッドスライムは尖らせて付いてくる。

直接攻撃の攻撃力が高いのだ。魔法は、だいたい火魔法で、炎の球を飛ばしてくることが多いらしい。土魔法を使う個体もいたとかで、油断は禁物だ。


攻撃力に乏しかったグリーンキャタピラよりずっと魔物らしい魔物だ。これは気合を入れて戦うべきだな。


残念なのは、不定形の魔物なので採取できる素材がないということ。

いや、普通のスライムはそれはそれで素材として利用できるらしいのだが、ブラッドスライムのほとんどを構成する赤い液体は特に使い道が知られていないらしい。

なのでお金になるのは魔石しかない。ないのだが、魔石を壊さずに倒すのが手間がかかる。これもグリーンキャタピラ同様、「手間の割に儲からない」系のモンスターだ。ま、しょうがないけどね。


魔石は1つ銅貨11~12枚は確保できて、大きさ次第で15枚程度まで跳ねることもあるらしい。スライムってのは魔石の大きさがかなりまちまちらしいので、ギャンブル性がある。


さて、ブラッドスライムは身体を尖らせて攻撃してくるということで、中古の金属盾を1つ購入してみた。

銅貨50枚也。銀貨を消費せずに盾を手に入れられたのは幸運だったと思う。

いかにも安物な代物だけど。

野宿続きで辛かったので、宿も個室に宿泊して、ぐっすり回復してみた。銅貨50枚也。


残るお金は銀貨1枚と銅貨50枚強・・頼むぜブラッドスライム。君に決めた。


出発は昼過ぎ、街中の露店でできるだけ安くて重い食事を摂り、携帯食として冒険者っぽい干し肉にも手を出した。

ブラッドスライムの生息領域は荒野なので今回は水筒に水も入れていきたいし、背負えるタイプの大きめのリュックも欲しい。


服も何枚か欲しいし、夜眠るように寝袋なり、毛布なりも必要だ・・。

と消費していくと、銅貨がほとんどなくなった。

余裕があれば防具も揃えたいけど、全身の防具が揃うのはいつの日っすかね?

泣けてくるわ。


今回は南門を出て、南西の荒野へと出掛ける。ちょうどグリーンスライムと真逆の方角だ。

さて、今のステータスを見てみよう。


************人物データ***********

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(3↑)短剣使い(2)

MP 12/12

・補正

攻撃 G+

防御 G

俊敏 G+

持久 G

魔法 G

魔防 G

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅰ、ステータス表示制限

刺突微強

・補足情報

なし

***************************


変わり映えしないね。

『干渉者』のレベルが1上がりました。


ただ、上がったタイミングが、宿でグースカ寝て起きたら上がっていたので、グリーンキャタピラを倒したことで上がったわけではないのが少し気になる。

ちなみに、そのあたりも調べるために図書館に赴くと、「入館料は銀貨1枚」とか言われたので逃げた。素直にないと言えば同情して貸して・・ないな。うん。

お金持ちになるまで調べ物は封印だ。


南西には道らしい道がない。岩だらけの荒野を、上がったり下がったりしながら進んでいく。

ほどなくしてグネグネ動く赤い生物を発見。あれがブラッドスライムか。動くのを見るとキモいな。


大型ナイフでサッと一突きして飛び退くと、赤い液体をまき散らしながらブルブルしている。

こちらに飛んできたと思うと尖った触手を伸ばしてくる!

盾でしっかりと防ぎ、またナイフを1刺し。距離を取る。


数回繰り返した所で動きが鈍り、一気にメッタ刺しにして止めを刺した。


「攻撃が怖いけど、グリーンキャタピラより防御力は低いな」


倒すとぐったりして、唯一の固体である魔石が浮かび上がってくるので、魔石の回収は楽だ。うん、悪くないかもな、ブラッドスライム狩り。


ブラッドスライムは鈍足のようで、奇襲されるおそれがないのはいい。サクサクと探索しながらとにかく西に進んでみると、1日目にして10匹近いブラッドスライムに遭遇した。


遠くから針のように身体の一部を飛ばしてくるのに慌てて転んでしまったり、慣れてきてつい油断していたら火の球を飛ばしてきて足が燃えかかったりといったトラブルもあったが、概ね順調に魔石を集めていた。

それにしても数が多い。グリーンキャタピラ探しの苦労は何だったんだ。


ただ、ブラッドスライム狩りにも辛い点はある。

まず荒野なので、森のある北西と違って身を隠せるところが少ない。水も現地で補給できない。水たまりのようなものはあったりするのだが、濁りすぎていて飲む気になれない。

まあ、生水は飲むなって話だから今まで森の泉で水を補給していた方がマズかったのかもしれない。

南門の前には水も売っている屋台があったから、それを利用しつつ、とにかく節水するしかない。水浴びどころか水で身体を拭くことすらできない。


仕方なく汗でベタベタになりつつも南門近くへと帰還し、南東への街道傍に生えていた木の陰に毛布を被って寝る。


(こっちへの遠征は長くは続けられんな・・)


意識が落ちる前にステータスをチェックしてみる。


************人物データ***********

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(3)サバイバー(3↑)

MP 12/12

・補正

攻撃 G

防御 G+

俊敏 G

持久 G+

魔法 G

魔防 G

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅰ、ステータス表示制限

消化機能強化

・補足情報

なし

***************************


ジョブは、『短剣使い』を『サバイバー』に変更している。レベルが上がれば、このサバイバル生活に役立つスキルがあるかもしれないと思ったからである。

金が出来たら、短剣も卒業するだろうし。

そうすると、1日でレベルが2も上がっていた。


(ジョブによって上がりやすさがあるのか、あるいは戦闘以外でも経験値が入っているか。両方かな?)


毛布の中で落ち着く体勢をもぞもぞと探りながら思案する。

『サバイバー』だから、こういう野外生活をしていると勝手に経験値が入るのかもしれない。

そうだとしたらしばらくは『サバイバー』で固定でもいいかもしれない。

『サバイバー』には「攻撃」の補正が入らないようだが、ブラッドスライム狩りに、そこまで攻撃力は必要なさそうだし。


(それにしても壁外で寝るのはやっぱり怖いな・・早く宿生活ができるようになりたい。それにしても、他にも生活困窮者が街壁の外で泊まっていてもおかしくないけど・・俺以外に見たことがないな)


羊平は知らないことだが、お金がないといっても、羊平のように壁外で魔物を狩って暮らすなんて人はほとんどいない。

まさに羊平が陥っているように、入街料との兼ね合いでカツカツになるし、危険も多い。

それよりはスラムにでも寄って、その日暮らしをするほうが格段に安全で、確実にお金も稼げるのである。

羊平は、ゲームのような世界だからなのか、なんとなく魔物を狩って生計を立てることに拘ってしまっており、この世界の常識もないためにこんな生活になっていた。


(まあ、この調子なら明日、明後日とブラッドスライムを狩れば少しは余裕ができるだろう)


そして動き回って疲れた身体は、劣悪な環境でも羊平の意識を眠りへと誘った。


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