第3話 地道な努力

門の前には人だかりがあり、入街審査待ちをしているようだった。

そういった人々を狙ってか、門の外で屋台を出している人たちまでいた。

覚悟して出たが、意外と平和な雰囲気だ。


(門の近くであれば、魔物も討伐されているのかもな。これは外で寝るパターンもありだな)


もとより今の懐(ふところ)事情では野宿しかないと覚悟していた。

安全なら、門の外のほうが却って都合が良いかもしれない。スラムなんかに行っていたら、そのまま居付いて堕落しそうだ。俺の人間性的に。

しかしそれは許容できない。もう心の火が灯ってしまったのだ……奴隷ハーレム作ろう、という崇高な目標のために。

そんな下種な事を考えながら街道を歩いていたのだが、たまに人とすれ違うだけで平穏無事であった。


(いやいやいやダメだろ……仕方ない、道をそれて進んでみるか)


魔物素材買取りセンターの地図をチラ見したところ、グリーンキャタピラは北東、東向きの門を出て左の森の中に分布しているはずだ!


こそこそ進んでいると、森が途切れ、草原になっていた。そこにもぞもぞと動く緑の物体。


「あ、あれか」


いかにもグリーンなキャタピラだ。


飛び出してナイフをその背に刺す。

抜いて刺す。抜いて刺す。

グリーンキャタピラは糸を吐き、身体をわきわきさせてこちらに圧し掛かってくる。巨大なイモムシなのでちょっと気持ち悪い。糸も、ベタベタしていて気持ち悪い。ただ、動けなくなるほどじゃない。


噛みつこうとするイモムシの顔にナイフを入れ、返り血、というか返りイモムシ液を浴びながら格闘していると、長い長い時間を経てやっと動けなくなったイモムシが力尽きる。


「はぁー、何十分格闘してたか分からんな……攻撃力が皆無だったから助かったけど、皮はぶにぶにして弾力あるし、胴体切れてても生きてるし、体液はとんでもなく臭いしこれは人気がないのも分かる」


仮に戦闘の達人になってもっと早く倒せるようになっても、あの体液を浴びながらの戦闘で銅貨10枚、1000円足らずにしかならないのではな。見付けるのも苦労したし。


グリーンキャタピラだけなら、木の上にでも登っていればやりすごせそうだ。グリーンキャタピラの領域で何泊かしてみるか。

ぶよぶよした皮と格闘しながら、口の下あたりを切り裂いて魔石を確保し、軽くランニングシャツで拭いてから再びグリーンキャタピラを探した。


その日は、陽が傾くまでに3匹のグリーンキャタピラを発見・刺殺した。

あれだけ歩き回って、3匹である。

あれだけ臭い思いをして、3000円程度である。ため息を吐きながら草原近くの登れそうな木を探し、幹に身体を預けて休む。


(本当に安全かどうかは確証はないんだよな……というか、寝返りを打って落ちたら怪我しそうだ。これ、生きて帰れるのかな)


昨日までの自堕落生活との落差に感傷的な気分になりながら夜を迎えた。


身体は疲れているのだが、夕飯を食わなかったからか、興奮状態だからか、意識がはっきりしている。


「……スキルの確認とかステータスの変更とか、しておくか」


************人物データ***********

ヨーヨー(人間族)

ジョブ 干渉者(2↑)旅人(3↑)

MP 13/13

・補正

攻撃 G

防御 G

俊敏 G

持久 F-

魔法 G

魔防 G

・スキル

ステータス閲覧、ステータス操作、ジョブ追加Ⅰ

ステータス証明

・補足情報

なし

***************************


おや。

『干渉者』と『旅人』の後の数字がランクアップしている。


これはレベルかな? グリーンキャタピラを倒したことで上がったか。

だとしたら『旅人』、育ちやすくて良いな。しばらくステータスをこねこねしていると、気になることを見つけた。


「ジョブ」の選択時に、右下に小さく「固定」と表示されるのだ。

ジョブを固定するということだろうか? 何かメリットがあるのだろうか。

固定すること自体がデメリットだから、他に効果があるとすればメリットだと思うのだが。どちらにせよ『干渉者』は今後変えることはなさそうなので、『干渉者』の方の「固定」を選択してみよう。


【本当に固定しますか? 一度『固定』したジョブは変更できません】


はい。

『干渉者』の文字が薄くなり、選択できなくなった。ジョブが固定されたようだ。


************人物データ***********

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(2)旅人(3)

MP 13/13

・補正

攻撃 G

防御 G

俊敏 G

持久 F-

魔法 G

魔防 G

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅰ、ステータス表示制限

ステータス証明

・補足情報

なし

***************************


おお、『干渉者』のスキルが増えている。

ステータス閲覧がⅡにランクアップしたようだが、特に見たところの変化はない。まぁまたステータスをこねこねしているうちに新機能が分かるだろう。

ステータス表示制限は……おっ。なるほど。どの項目を表示するのかが選択できる。


試しに名前を非表示にしてみると……


ん?変化ないな。


他の項目を非表示にしても変化なし。

ということは何か思い違いをしていると考えられる……ん、「閲覧」だから影響がないのか?


『ステータス表示』とか、他者のステータスを表示できる『鑑定』のようなスキルがあるとして、そのときに表示するものを制限できる。


ありそうだな。

とりあえずジョブ、補正、スキルは非表示にしておこう。補足情報も……一応非表示にしておくか。知らない内に、個人情報が記述されているかもしれないからな。


さて、次は旅人を別のものにしてスキルをもう一度確認してみるか……って。


旅人(3)

市民(1)

ごろつき(1)

サバイバー(1)

短剣使い(1)


ジョブが増殖してるっ!?

なるほど、生まれて初めてくらいに獲物を追いかけたり野宿したりと、サバイバルな生活を送ったから『サバイバー』。

で、ずっと大きめのナイフを使って格闘してたから『短剣使い』のジョブが選べるようになったわけか。


確認してみると、『サバイバー』のスキルは「消化機能強化」。

たぶん食べ物を消化しやすくするっていうスキルだろう。サバイバーっぽい。

『短剣使い』のスキルは「刺突微強」。

刺突攻撃をしたときに威力が微かに強くなりますよってとこか。

短剣で刺突って、射程の短さを考えるとそんなに魅力はない。が、要は「刺す」攻撃なら適用されるなら、投げナイフ的な使い方でも威力増加するのかもしれないな。


「とりあえず……『短剣使い』に変えておくか」


************人物データ***********

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(2)短剣使い(1)

MP 12/12

・補正

攻撃 G+

防御 G

俊敏 G+

持久 G

魔法 G

魔防 G

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅰ、ステータス表示制限

刺突微強

・補足情報

なし

***************************


ふむ、『短剣使い』ジョブは、攻撃と俊敏に補正が入ると。

この補正ってのも、具体的なところが知りたいな。帰ったら是非図書館でその辺を調べてみないとな。出来れば図書館が無料だと嬉しいんだけど。


つらつらと考えていると、いつの間にか寝ていたようで、ふと目を覚ますと周囲は明るくなっていた。


「ふわあああぁ……とりあえずイモムシ1匹見つけたら、門に戻ってみるか……」


草原地帯をてくてく歩いていくと、10分弱でイモムシを発見。ナイフでメッタ刺しにして倒した。


「刺突微強の効果は、あるんだかないんだかって程度だな」


ちょっとずつ慣れて来て魔石もサクッと(といいつつ10分程格闘して)回収し、西に向かった。


森を横断して大きな道に合流し、道沿いに進めば町まで迷わずに帰還できる。やはり大きな道では魔物はいなかった。


「おっ、やってる」


門の前ではいくつかの屋台が肉を焼いている。まだ朝のうちだからか、門の前に並んでいる人は前より少ない。


「おっちゃん、肉串1本、いや2本くれ」

「おう。いいけど、なんか臭えなお前」


屋台の小汚いおじさんに指摘された。くそう。


「さっきグリーンキャタピラを相手にしたからね。受け取ったら離れて食うから」

「そうか。そりゃ災難だったな」


何の肉か分からない串を貪り食って、保存の利きそうな小麦粉の団子のようなものをいくつも別の屋台で購入してまた森へと向かった。


「適当に草で包んどけばいいかな……気は進まないけど」


葉が硬そうな木を選んで、団子をぐるぐる巻きにして携帯食にした。


森を横切っている途中、泉があったので軽く水浴びしておく。こういう場所は肉食生物なんかに狙われると聞いたことがあってビクビクしていたが、何も襲ってはこなかった。

というかこの森で大きな動物はぜんぜん見掛けない。


(森の浅いところは、狩人の獲物として全滅してんのかな?)


ほどなくして草原地帯に辿り着き、グリーンキャタピラ狩りの始まりである。

この日は慣れてきたこともあって少し短い時間で倒せるようになり、夕方までには6匹ほどの魔石を回収することに成功した。


帰りに、泉でまた軽く水浴びをしてから団子を食って腹を満たし、森を街道沿いへと移動した。

大きな道沿いには魔物が全然出ないなら、木で寝るにしても街道沿いの方が安全ではないかと気付いたからだ。森が完全に真っ暗になる前に街道に辿り着き、その近くのちょっとした草原に横になった。


ちょっと不用心だが、木の上では熟睡できなかった。せめて木の陰に隠れるようにして身体を休めることにした。




翌日もまた朝早くから目が覚めた。


いや、時間は分からないから早いかどうかは感覚での判断だ。草木に水滴が乗っていて、小鳥が鳴いている、いわゆる朝チュンが聞こえるからきっと朝なのだ。

昨晩、ステータスを確認していなかったことに気付いてまずは確認してみる。


************人物データ***********

ヨーヨー(人間族)

ジョブ ☆干渉者(2)短剣使い(2↑)

MP 12/12

・補正

攻撃 G+

防御 G

俊敏 G+

持久 G

魔法 G

魔防 G

・スキル

ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅰ、ステータス表示制限

刺突微強

・補足情報

なし

***************************


『短剣使い』のレベルが1上がった。選択可能ジョブには変化なし。補正も変化なし。

手軽に強化するとすれば、『短剣使い』も「固定」すればスキルが増えるんだろうなーとは予想しているが……ジョブが増えないうちは1つは遊びが欲しいよなあ。


ジョブが増えるのではと予想しているのは、ジョブ追加のスキルがⅠだからである。Ⅱ.Ⅲあたりまではありそうだ。どうにかしてスキルを強化するのか、あるいは『干渉者』のレベルが上がると強化されるのか。


ジョブ追加がⅡになっても、機能が増えてジョブ数自体は増えないパターンも考えられないでもない。だから1つは固定しない、というのは確定だ。


「地道にいくしかないね」


地道な、努力。

これほど自分に似合わない言葉はないと、ひとりごちて、苦笑する。


グリーンキャタピラの魔石は昨日までで11個集めた。12~13個が採算ラインだから、今日取れるだけ取って一度宿に泊まろう。そう考えるとやる気が出て、俺は今日も森を通って草原へと向かうのであった。




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