最終章 あなたの望みを叶えます

第四十話 完全敗北

 余命六日。

 

 逢沢望美はアパートの布団の中で、ぼんやりと天井を見つめていた。昨夜は深夜まで店長の過去についての話を聞いた後、中邑忍のバイクで送り届けて貰ったのだ。


 窓から朝日が差し込み、雀の鳴き声も聴こえ始める。

 結局、夕べは一睡も出来なかった。


 呟く望美。


「亡くなった奥様の願い……か」


 店長の蒼月真幌が死神の片棒を担ぎながらも、まほろば堂を守り続けている理由。


 その真相こそが真幌の亡き最愛の妻、美咲が死神と交わした契約内容。彼女の冥土の土産だったのだ。


 色々と謎が解けてすっきりとはしたが、新たな闇が望美の胸に覆い被さってしまったのだ。


「あたし……全然かなわないや……」


 店長への淡い恋心。最初から期待はしていなかったが、流石にこれは絶望的だ。


 完全敗北。店長の心に、小娘である自分の入り込む余地なんてどこにもない。


「思い切って告白しないで……本当によかった……」


 望美は布団を顔に被せ、深いため息を付いた。

 

 刹那、枕元のスマートフォンに着信が入った。

 LINEの通知だ。布団から顔を出し、確認する望美。

 

「あ、店長からだ」


【店長】『お疲れ様です。急で申し訳ございませんが、体調が悪く熱もあるので本日は昼の営業をお休みします。望美さんも休暇を取ってください』


 昨夜の忍のハイキックが相当堪えたのだろうか。それに黒猫に憑依された後は、回復に掛かる身体への負担も相当なものらしい。


 望美はすぐさま返信した。


【望美】『店長大丈夫ですか? あたしお見舞いに行きます』


 すぐさま真幌からも返信が。


【店長】『いえ、お気持ちだけで結構です。それに今日は例の冥界監査がある日なので、美観地区周辺には絶対に近寄らないでください』


「店長……」


 望美は以前、真幌に言われたことを回想した。


 従来は客である生霊を、不当に雇用していることが神様にバレてしまうと色々と面倒なんだ。たしか、そう言っていた筈である。


【店長】『ですので、この機会に望美さんもゆっくり休んで。今日一日、例の冥土の土産をどうするか、しっかり考え直してくださいね』


 望美は不貞腐れた顔で渋々、LINEのやりとりを締め括った。


【望美】『了解しました、お大事になさってください』


 *


 家に閉じ篭っていても悶々とネガティブになるばかり。

 望美は考えをまとめようと外出した。


 寒空の下、コートの襟を立てながら岡山市街をあてどなくさ迷い歩く。

 しかし、これと言ってめぼしい考えは浮かばなかった。


「あたしの冥土の土産、結局どうしよう……」


 *


 日も沈みかけた頃。

 気が付けば望美は実家の前に立っていた。

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