第三十九話 忍の正体(2)

【霊媒師 中邑 忍】


「忍さんって、れっ、れいばいしさんなんですか!」


「ええ。アタシ子供の頃から霊感が異様に強いのよ。都会での芸能活動を辞めた後、地元に戻ってその特殊能力を仕事にしたってわけ」


「……それで、あやかしの黒猫くんや、ここ美観地区周辺の亡霊たちは、忍さんのことを恐れ慄いているんですね」


「まあね」


 霊媒師と幽霊といえば昔から犬猿の仲。トムとジェリーのような間柄だ。そして霊媒師といえば夜に活動するのが相場。それで忍は夜型人間なのかと望美は妙に納得した。


 それにしてもである。元タレント・女優で現在は霊媒師。くのいちライダー中邑忍、彼女は本当に只者ではないと、望美は改めて思った。


「アタシほどじゃないけど、美咲も子供の頃から霊感が強い方だった。だから黒猫の正体やまほろば堂の実体にも、生前から薄々感付いていたのかもね」


「そうなんだ……」

「美咲が亡くなった今となっては、真相は藪の中ってやつだけどね」


 忍は少年の姿のまま床で気絶している真幌を一瞥すると、カウンター席のヘルメットを無造作に掴んだ。


 空いた方の手で古時計を指差す。


「話し込んでたら、すっかり遅くなっちゃったわね。もうとっくに終電も出たし。望美、付いておいで。バイクでアパートまで送って行くから」


「あ、あの……」

「それとも、ここに泊まって行く?」


 望美が、かあっと頬を赤らめる。


「うふふ。可愛い坊やに添い寝してあげるのも悪くないかもね?」


 意地悪そうにニヤリと笑う忍。


「え、あ、あの、その……」


 望美があたふたしながら視線を泳がせる。


「あ、あの、それよりも……」


 気を取り直し、ぺこりとお辞儀をする望美。


「忍さん、あたしのわがままを聞いて下さって……本当にありがとうございました。こうやって望みも叶えて貰ったし、これで心置きなく冥土へ旅立――」


 忍は「あ、そうそう」と、望美の言葉を遮り釘を刺した。


「これまで言った内容は、あくまでアタシが勝手に喋ったこと。死神との正式な契約じゃない」


「忍さん……」


「だからさ望美。アンタの残りの余命七日間以内に、冥土の土産の契約内容をどう結論付けるのか? ちゃんと考え直しときなさいよ」


(最終章へ)

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