第十一話 まだまだ青いよね

「て……店長……さん?」


 望美は恐々と真幌の顔を覗き込んだ。すると。


「ハッ?」


 彼女は真幌の瞳の色の変化に気付いた。


 ――あれ、いつのまに瞳の色が?


 彼の鳶色の瞳が、不思議なことに何故だか蒼色になっている。

 何時もの優しげな笑顔も影を潜め、意地悪そうな表情だ。


 ――伏せている合間にカラコンでも入れたのかしら?


「フッ、まったくしょうがないなあ」


 店主の真幌が望美に向かって言葉を放つ。


「まだまだ青いよね、ウチの若いスタッフくんも」


 投げやりな口調。何時もの温和な彼らしくない。まるで別人だ。

 若いスタッフ。忍のことだろうか、と望美は思う。どう考えても彼女は真幌より年上に見えるが。


「謎解きの続きは、ボクが答えてあげるよ。真幌のもったいぶった説明じゃあ、どうも回りくどくて伝わらないみたいだからね」


 自分のことをボクと言ったり真幌と呼んだりする店長。一人称に統一感がない。実に不可解だ。

 

 ――ちょっと、どうしちゃったの店長さん? さっきから言ってることが意味不明なんだけど?


「だからボク、いっつも真幌に説教してるんだけどね。『理屈っぽくて話が長い。そんなんじゃあ、いくら顔が良くても女の子にモテないよ』ってね」


 首を傾げて頭上に疑問符を浮かべる望美。


「ねえ、まだ分からないの? これまで随分と分かりやすいヒントを出したつもりだったけどさ」

「なんなんですか? どういうことなんですか、店長さん?」


 店長はニヤリと笑みを浮かべ言った。


「フッ。これでも、まーだ分かんないかな、の・ぞ・みちゃん?」

「…………えっ?」


 ヒュッと息を洩らし、ちいさく口笛を鳴らす店長。と同時に――。

 

「えっ?」


 真幌の蒼色に変化した瞳がキラリと光る。

 刹那。彼の体が突然、ぼわっと蒼白い閃光に包まれた。

 

「ええっ?」

 

 眩しくて凝視できない。望美は掌で顔を覆い隠し、目を細めた。

 指の微かな隙間から、蒼白い閃光の煌きを覗き見る。


「ええええっ?」


 全身を光に包まれた真幌の体が、不思議なことに見る見る小さくなって行く。


「ええええええっ?」


 十数秒後、ようやく閃光が収まった。

 望美は自分の掌を顔から離し、彼を凝視した。


 相対的にぶかぶかサイズになった藍染着流し。

 その襟元から、小さく縮んだ真幌がひょっこり顔を出している。


 それはまさに、小学校高学年ぐらいの児童の姿であった。

 髪はいつもの白髪ではなく黒髪だ。

 子供にしては端正な顔立ちの美少年。どことなく真幌自身の面影がある。


「あーっ! きっ、君はっ!」


 絶叫する望美。そこに居たのは――。


「そう。ボクだよ、お・ね・えさん?」


 駅のホームで出会った、蒼い瞳の少年だった。

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