第2話 呼び出されるは勇者を殺す勇者
ティアルド王国、ティアルド城玉座の間。そこには大勢の人間がいた。王はもちろん、その側近と兵士に加え、アマルティアでは存在しないブレザーの学生服を身につけた少年少女たちが集まっていた。
少年少女たちは一様に混乱していた。なぜなら、彼らは本来別の世界の人間だからだ。いつも通り学校へと通い、今日もつまらない授業を受け、部活動に精を出すという日常のサイクルを繰り返すはずだったのだ。それが一転、目の前には見知らぬ、いや、ファンタジーのような鎧に身を包んだ兵士に玉座に座っている王様らしき偉そうな人がいるのだ。混乱しないはずがなかった。
「よくぞ来た。異世界の者たちよ。我はゴーラン。このティアルド王国を治める王である」
玉座に座っていたゴーランは立ち上がり、その王様然とした言葉によって騒ぎ立てていた少年少女を静かにさせた。
「まずは非礼を詫びよう。君たちにとっては突然見知らぬ土地に呼び出されたのだ。そして我々の事情とはいえその事情に関係のない君たちを巻き込もうとしている。申し訳ない」
混乱は治まらない。しかしそれでもゴーランの殊勝な態度に怒りは治まった。ならば話だけでも聞こうと少年少女たちは話を聞いた。
「君たちに頼みがある。ここに呼んでしまった時点でほぼ強制のようなものだが、それでも敢えて頼みたいことがある。攫われた我が娘、メリアノーザを助けてやって欲しい」
再びざわつく少年少女たち。その誰もがまるでロールプレイングゲームの世界のようだと思った。そして少年少女たちは思う。異世界に呼び出された自分たちはこの世界ではきっと特別な存在であるのだと。
「娘を攫った者は非常に凶悪だ。我々の世界、アマルティアは複数の国がある世界とはいえ、かの者のせいで一つの国が滅んだ。そして奴は我が娘に目をつけ、我々の前に現れてこう言ったのだ。「メリアノーザ様と婚約したい」とな。当然娘もそれを望むことはなく、我々も無理だと断った。しかし奴は娘を我々の目の前で連れ去っていってしまった。何度も奴の下に兵を送ったがやつの力の前では我が兵も力が及ぶことはなかった。ゆえに君たちを呼び出したわけだ。君たち異世界人ならばきっと奴を倒すことができる勇者になれると信じているからだ」
少年少女たちは息を飲む。自分が勇者になれる。特別ではなかったごく普通の人間から特別な勇者となることができる。そのことに喜びを感じざるを得なかった。
「とはいえ、君たちがどれだけ戦えるのかは我々はまだ知らない。ゆえに二か月。君たちには訓練の期間を与えよう。その間に力をつけ、娘を攫った者を倒すのだ。もちろん、褒美は与えよう。何でもは難しいが、元の世界に帰すのは当然のこと、多額の金額、極上の女や男、可能な願いを叶えてやろう。その願いは戦いに向かった者全員に与えられる。つまり一人でも奴を倒すことができれば全員に褒美が与えられる」
ゴーランの演説が巧みなのか、それとも少年少女たちが単純なのかはわからないが、それでも少年少女はもはやその気になっていた。己が勇者となって敵を討つ。そんな小さな子供が憧れることを自分がなるのだと胸が高鳴った。もはや意見するものはいなかった。
「さぁ、異世界の少年少女たちよ。剣を手に、憧れを胸に、その命を燃やすのだ! 君たちは今、勇者の称号を手にする時が来たのだ!」
少年少女は歓声を上げる。中には「俺たちが勇者だ!」と叫ぶ少年もいた。
「倒すべき者の名は魔族リドル。かつて魔王と称された者の後継だった者だ。油断はしてはならぬぞ。奴は強い。だが君たちなら勝てるはずだ。そして改めて頼もう。娘を頼む」
その言葉を最後に王は玉座の間から去っていった。少年少女たちは未だ興奮冷めやまぬ様子で王が去っていくのを見届けた。
「…………」
しかし一人だけ、冷めた目で周りを見る少年がいた。理由は知らない。誰もわからない。それゆえに少年は周りからは疎まれることとなった。
その後去った王の代わりに王の側に控えていた側近が今後の予定を話し始める。誰もが興奮している中でその少年だけが現状に不満があるかのようにやる気がなさそうに話を聞くのだった。
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