1-10 心霊スポット

「先輩、やたらと興奮していたがどうしたんだろうな?いつも以上に邪悪な笑いがこだましていたが・・・・・・」


昼休みに入り、俺と匠は東先輩に中庭へと呼び出され、学園名物の巨大な桜の木の下へと向かっていた。

『今日の昼休み、伝説の樹の下で待ってます』という、どこかで聞いたことのあるようなグレーゾーン的なトークが送られてきたのである。

これからメモリアルな日々が始まるんじゃないかと冷や冷やするじゃないか・・・・・・。

その後、窓の外から『フハハハハハハハハ!』という珍獣の鳴き声のようなものが響いてきたのを覚えている。

純は陸上部の仲間たちに連れていかれたので、残された俺たちが行くしかなくなったのである。二人しかいないしいいかとも思ったが、後々良からぬ画像などを新聞の一面にされても困るので、渋々行くことにした。

何についての呼び出しかは想像がつくが、どうも新しい情報を入手したらしい。

瑞穂のこともあるので、どんな些細なことでもいいから知っておきたかったというのも本音の一つだ。

悪戯ならそれでいいし、もし何かあるなら──止めなきゃいけない。


「にしても中庭に呼び出しとはね~。あのデカい桜の木って、本当に伝説があるんだろ?詳しいことは知らんが──」


「よく聞いたりするのは死体が埋まっているとか、血を吸うことでピンクになるとかな。これも都市伝説でいわれていたりするけど・・・・・・信じてしまいそうになるな」


メリーさんからのメールを思い出して、内心怖くなってしまうな。

他にも口裂け女やテケテケ、ひきこさんなんかの有名な話は数多くある。実在したら大変なことになるよな。


「お、いたいた!」


匠が先に東先輩の姿を発見する。隣にはいつも通り、四条と三上の姿も確認できた。

いつも新聞部で行動してるように見えるが、二人にもちゃんと友達はいるぞ?

四条はクラスが同じだから確認できるし、三上も数人の友達と歩いているのを見かけたりする。

三上は俺たちと一緒で普通の家庭育ちだが、四条は違ったりする。新聞部では雑用兼副部長だが、こう見えて大財閥のご令嬢なのだ。

だが本人からはそういうことは気にせず、対等に接してほしいといわれている。

最初は恐る恐るコミュニケーションをとっていたが、今となっては普通の生徒たちと変わりなく接している。


「よし、来たな!今回は最新の情報があるぞ!ニュースなんかでは流れていないのがな!」


先輩は腕を組み、高笑いをすると、懐からメモ帳を取り出した。

ニュースで流れてないって、それは規制された情報なんじゃないのか?

果たして高校生が手に入れてもよいものなのだろうか・・・・・・。


「新情報ね~」


「僕らも聞かされてないんですよ。さっきからずっとニヤニヤしてばかりで、傍から見たら不審者ですよね・・・・・・」


「そうよね。四条グループの情報網を駆使しても手に入らないような情報を、簡単に拾ってくるんだもん。どうなってるのかしら・・・・・・」


その意見には賛成だが、四条も四条で自分の立場を十二分に発揮しているようだな。

改めて思うと、俺って凄いやつらと知り合いなんじゃないだろうか・・・・・・。


「それで、新しい情報って何なんですか?」


匠が購買で買ってきたサンドイッチの封を開けながら急かすと、先輩はメモ帳をパラパラと捲りはじめた。


「例の惨殺事件についてなんだが、被害者たちのことで分かっていなかったことの確認が出来たんだ。掲示板に投稿していた学生については、メールが届いたってことを確認できたと思うが、その他の犠牲者たちについては分かっていなかったと思う」


先輩の言葉に俺たちは頷いた。

確かにその点については関係しているかどうかはさておきチェーンメールが流行っていたり、最近になって妙な事件が起こるようになったということぐらいしか分かっていない。


「それについてのことなんだが、双海と神月で起こった事件の被害者は死に方が同じだったということ。そして両者とも殺される前に『メリー』と名乗るものからメールが届いていたということが分かった」


先輩の読み上げる言葉が耳へと入ってくる。それと同時に俺の胸がざわつきはじめた。

瑞穂にメールが届いたということは、他の誰にも言っていない。

あの様子では本人も言うつもりはなかっただろう。他人に迷惑をかけたくないから、自分の中に押し込んでしまうというのが瑞穂の欠点だ。

朝の時点では悪戯メールだろうと思っていたが、被害者たちにも同じようなものが届いていたと聞いたら不安になってくる。


「てことはチェーンメールが流行りだしたのは少なからず関係あるかもしれないってことか・・・・・・」


匠はサンドイッチを頬張りながら、コーヒー牛乳を流し込む。


「共通点はそれだけじゃなかったそうだ。どうも、被害者たちは日付は違うが『とある場所』へと行っていたことが分かった。その場所は双海市の中心から山寄りの場所にあるらしい。あちらの方ではけっこう有名な心霊スポットだそうだ」


「心霊スポットですか?」


「双海にそんな場所があるなんてね~」


四条と三上はスマホを取り出し、操作しはじめた。おそらく、その場所について調べるためだろう。


「それってつまりチェーンメールを受け取った人の中で、さらにその心霊スポットに行った人たちが狙われているってことですか?」


「うむ、そうなるな。しかしそのスポットには、いずれも友人たちと一緒に行ったということだ。だからメールを受け取っていて、その場所へと向かった者の中で被害者たちが選ばれた・・・・・・ということになる。そしてこれが被害者たちに届いたメールの内容だ」


先輩が制服の胸ポケットから、何かが印刷された紙を取り出すと、俺たちの前へと広げて見せた。

そこには三つのメール画面が印刷されている。


「書かれている文章は全て一緒だということが分かると思う。そしてこれらが送られてきたのは、被害者たちが心霊スポットへ行った後らしい。ちなみに他の者たちには届いていないということだ」


文面を一通り読んでみたが、瑞穂に届いた内容とは違うものだということが分かり、一先ずホッとした。

これが同じ内容だったら、最悪だったな・・・・・・。


「その心霊スポットって、一体──」


「もしかして、ここですか?」


三上がスマホを先輩に差し出すと、そこに表示されていた場所を確かめると、大きくうなずいた。


「おお!そうだ、そうだ!この洋館だ」


俺も横からのぞき込むと、黒いページに一枚の写真が載せられていた。

どうやら各都道府県に点在する心霊スポットがまとめられたサイトのようだ。

ここが例の場所か──待てよ、もしかして瑞穂もここに・・・・・・?


「調べてみてもいいかもしれないですね・・・・・・」


そこまで深く関わるつもりはなかったし、すぐにいつも通りの日常に戻るはずだった。

だが今は事情が変わってきている。瑞穂にもこの事について聞いてみないといけない。


「白鐘には伝えるんすか?」


「ああ、放課後に一緒に来てもらおうと思っている。双海に向かおうじゃないか!」


白鐘がどこまで知っているか分からないが、どちらにせよ教えてほしいといわれてるからな。

場合によったら瑞穂のことを相談してみてもいいかもしれない・・・・・・。

そんなことを考えつつ、俺は再度サイトの方へと視線を落とした。


(メリーさんの館・・・・・・か)





◇◆◇◆◇◆◇





「ふぅ、大丈夫・・・・・・だよね」


瑞穂はトイレで手を洗いながら一言口にする。

茜や汐里が心配してくれていたが、メールのことについてはまだ話していなかった。

話したら気持ち的には楽になると思うが、茜はこの手の話が苦手だ。そのことを話して怖がらせる訳にもいかない。


(はぁ・・・・・・なんでこんなことになっちゃったんだろ──)


瑞穂は蛇口をひねって水を止めると、鏡の方へと視線を向けた。


「えっ・・・・・・」


そこには自分の背後に立つ、女の子の姿が見てとれた。

その光景に頭が真っ白になり、体の奥底から恐怖が湧いて出てくる。少女は瑞穂を見ると、ニヤッと無気味な笑みを向けてきた。

一気に寒気が体を走り、身動きが取れなくなる。


(だ、誰・・・・・・!何なの、この子!?まさか──メリーさん?)


釘付けにされたように、その女の子から目を離すことが出来なかった。

──っと、次の瞬間、トイレの入り口から茜の声に呼びかけられる。


「瑞穂?どうした?」


その声にハッと我に返り、声のした方へと顔を向けると、そこには茜と汐里が立っていた。


「瑞穂ちゃん、大丈夫?何かボーっとしてたけど」


「あ、ごめん。考えごとしてて──」


「おいおい、本当に大丈夫か?悩み事とかあるなら言いなよ?」


「うん、ごめんね・・・・・・ありがと」


瑞穂が鏡の方へ向き直ると、そこには自分の姿しか映っておらず、女の子の姿は消えていた。

急いでその場を離れようと、ハンカチをポケットに押し込み、二人のところへと駆け寄っていく。


「お待たせ!それじゃいこっか!」


不安な気持ちを抱きつつ、瑞穂はトイレを後にするのだった。

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