1-9 メリーさんのメール
「いや~、凄かったわね!ちょっとカビ臭かったけど、年季が入っていて雰囲気もいい感じだったじゃない。こういう季節に肝試しっていうのもアリかもね」
夕方になり瑞穂、茜、汐里の三人はオカ研の部員たちと一緒に家路についていた。
まさか四月から廃墟に行くことになるとは想像しておらず、瑞穂は小さく溜息をついていた。
オカ研の面々は当然として、汐里は見た目に反してホラーなどは得意だったりする。
逆に茜はサバサバした性格から平気だと思われがちだが、三人の中では一番怖いのが苦手な方だ。
先ほども洋館内を歩いていた時は、まだ明るかったにも関わらず瑞穂の肩に隠れて、ずっとビクビクしていたぐらいである。
それもあって匠からはいつもこの件でいじられ、そのたびに喧嘩が始まったりするが、クラスメイト達からは毎度おなじみの夫婦漫才だと面白がられている。
瑞穂にとっては好きでもなく嫌いでもなく、どっちつかずといった感じか。
本物を見るのは嫌だけど、お化け屋敷くらいなら平気というくらいだ。だからこそオカ研や他の友人たちから心霊スポットやパワースポットなど色々な場所に誘われたりするのだが・・・・・・。
「でもちょっと不気味だったわね。まだ春とはいえ、空気が冷たかったというか・・・・・・」
「も、もう私は行かないからな!?ジメジメしてて、たまに変な音とかもしてたし勘弁してくれ!」
茜は未だに身震いしている。茜が言う変な音とは、多分ラップ音のことだろう。
こういう時には音と同時に振動や物がひとりでに動いたりなどのポルターガイスト現象が起こったりというのもあるらしいが、今回いった場所では音以外何もなかったので、木材が乾燥する際に鳴った音なのかもしれない。
「ふふふ、相変わらず茜ちゃんの怖がり方は可愛いですね~。スマホで動画を撮っておけばよかったです」
汐里がくすくすと笑いつつ、そんなことを口にする。汐里は大人しそうに見えて、たまに邪悪な笑みを浮かべる時があるので、あまり敵には回したくないタイプだ。
「大丈夫!動画ならちゃんと撮ってるわ!これを量産して、男子どもに売れば、これがガッポガポ!」
オカ研の部員が親指と人差し指を引っ付けて、金のマークを作った。
「ウフフフフフ・・・・・・これで部費が増える!」
「あんたら!そんなことしたらどうなるか分かってんでしょうね!?てか、いつの間に撮ってたのよ!」
茜はシャーーーーー!っと威嚇をしつつ、二人の部員に迫っていく。
確かにウチの男子たちなら喜んで買うでしょうね、と思いつつ瑞穂は苦笑いをした。
「それじゃ私たちは一回、学園に戻ってから家に帰るからここでね~」
「私も本屋に寄ってから帰るから、ここで」
「私は親に買い物頼まれてるから、ちょっと商店街の方に行ってくるね!じゃあね、瑞穂!」
四人は別れの挨拶をし、それぞれの目的地へと向かっていった。
その姿を見送った後、瑞穂が自分の家の方角へと歩きはじめた時、不意にスマホの着信音が鳴り始める。
「誰かしら?メールなんて珍しいわね」
いつもはトークアプリを使っての連絡なので、メールが届くことは珍しい。
不思議に思いつつ、履歴を見ると一通のメールが届いていた。
件名には何も書かれておらず、アドレス帳には登録されてない者からの着信であった。
瑞穂は訝しげにしながらもメールを開いて内容を確認してみる。
「えっ・・・・・・?」
──次の瞬間、その内容に瑞穂の顔から血の気が引いていく。
『私、メリー。ねぇ、遊びましょう?迎えにいくから、待っててね』
それはチェーンメールとはまた違った雰囲気を纏った、メリーさんからのメールであった。
◇◆◇◆◇◆◇
──同日、夜。
「ふむ。そうか、やはりあのメールは関係があったということか。しかしそれ以外にも共通点があったとはな。いい話を聞かせてもらった!」
東は今回の惨殺事件について、とある筋に情報提供の依頼をしていた。
とりあえず知りたい情報が手に入ったということで、話をしている最中だ。
「ん?いやいや、こちらこそいつも情報を提供してもらってすまない。また何か依頼することもあると思うが、その時はよろしく頼む!それではな!」
話が終わり、電話を切ると東はPC画面の方へと顔を向けた。
そこには一連の事件の記事の他に、数々の都市伝説についての項目が映し出されていた。
当然、そこにはメリーさんについての表記もされていた。
──メリーさん。
ある日、電話がかかってきて、それに出ると『私、メリーさん。今、ごみ捨て場にいるの』という言葉を聞かされる。最初は間違い電話だろうと思い、相手にしなかったが、しばらくすると再びかかってきて、先ほどとは違う場所にいると聞かされる。
それが繰り返し行われ、最後には『今、あなたの後ろにいるの』といわれる。
その言葉に後ろを振り返ると、そこには見たことのない西洋人形があった──というのが有名ではないだろうか。
このメリーさんの正体には大まかに分けて、二種類あるといわれている。
一つは上のように西洋人形という形で現れるということ。そしてもう一つはひき逃げされたメリーという少女の霊が、自分を殺した犯人を捜して、この世を彷徨い歩いているという形だ。
少女の霊の場合は手に鋭利な刃物を持って現れ、振り向いたものを刺殺するという話もあったりする。
まあこれに関しては諸説あるので、はっきりとは言えないが・・・・・・。
「もしかすると被害者全員に同じようなメールが届いているんじゃないかと思って調べてもらっていたが、それだけじゃなかったとはな。洋館か・・・・・・調べてみる価値はありそうだ」
東は顎に手をやり、フフフ・・・・・・と怪しい笑みを浮かべた。
◇◆◇◆◇◆◇
「ふわぁ~、ねみ」
俺は大きな欠伸をしながら、晴天の空を肩ひじついて見上げる。
雲一つない空だ。春の陽気の影響もあって眠気が加速するのが分かる。
「よう、日立。ちょっといいか?」
寝そうになるのを我慢しつつ、硬くなった体をほぐそうと背伸びをしていると、茜が俺の方へとやってきた。
「ん?どうした?何かあったか?」
「うん、聞きたいことがあってさ。昨日なんだけど、瑞穂と連絡とったりしたか?」
「瑞穂と?いいや、何も話してないぞ」
何を聞かれるのかと思ったが、案外普通の質問だった。
歩いて一分も掛からないところに家があるということもあって、わざわざスマホで連絡を取り合うことはない。
「そっか・・・・・・悪いな、変なこと聞いて」
「どうした?喧嘩でもしたのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。昨日の夜に連絡してみたんだけど、返事がこなくてさ。いつもならすぐに返ってくるから、あの後何かあったんじゃないかって心配してたんだ」
なるほどね。そう言われれば今日は瑞穂の姿を見かけてないな。
いつもなら家まで叩き起こしに来るんだが・・・・・・って、お?
そうこう話していると、ちょうどいいタイミングで瑞穂が教室の中へと入ってくるのが見えた。
だがいつもとは違い、どうも元気がないように感じる。
瑞穂の姿を確認し、茜が本人のもとへと駆け寄っていく。
「瑞穂!大丈夫だった?怪我とかしてないよな!?」
「あ、茜。おはよう」
パッと見た感じ外傷なんかは無いみたいだが、いつもの元気は感じられない。
「何ともなさそうで良かった・・・・・・」
「昨日は返事できなくて、ごめんね。ちょっと考え事してたから、携帯みれてなかったんだ。でも、もう平気だから!」
茜の問いかけに瑞穂は大丈夫の一点張りのようだが、あれは絶対に大丈夫じゃないな・・・・・・。
瑞穂が席につくのを見計らい、俺は席を立った。
「よう、瑞穂」
「勇くん、おはよう。今日は一人で起きられたんだね、えらいな~」
「お前な・・・・・・まあいいや。大丈夫か?なんか疲れてるっぽいけど──」
「え、なんで?大丈夫だよ?」
俺の問いに軽く笑みを浮かべ、そう一言口にする。
だけど赤ん坊の時から一緒に過ごしてきた俺には、それが無理に作った笑顔だということがすぐに分かった。
何か問題を抱え込んでいるときは、いつもそうだ。
「嘘だな。ほら、何があったのか言ってみろ」
机の椅子に腰かけて、瑞穂の顔を見据えた。
最初は視線をそらそうとしていたが、やはり俺には隠し事が出来ないと悟ったのだろう。
しばらくしてゆっくりと口を開いた。
「あはは、やっぱり勇くんには隠し事は出来ないな・・・・・・。えっとね、メールが来たんだ・・・・・・」
「メール?昔の友達とか──って、そんなわけねぇか」
メールという言葉を聞いて、例の事件のことを思い出す。瑞穂の感じからして、ただのメールではないな。
「まさか・・・・・・例のやつか?」
俺の言いたいことを察して、瑞穂は小さくうなずいた。今、流行りのチェーンメールが届いたってことか。
「そのメールだけど、見せてもらっていいか?」
「うん、待ってて──」
瑞穂はカバンの中からスマホを取り出すとメールを表示させ、机の真ん中へと置いた。
内容はこれまで見てきたチェーンメールとは少し違った文面になっていた。
一カ月前に死亡したといわれる男子学生が掲示板に書き込んでいた内容に近いものを感じる。
こちらも血濡れのメリーではなく、単にメリーとだけ書かれているが、これまで見てきた中では一番簡素だ。
「メリーさんからのメール・・・・・・か」
「うん。これが気になって、あまり眠れなかったんだ・・・・・・」
悪戯とはいえ誰もが知っているであろう都市伝説の幽霊だ。気になる人は気になるだろうな。
何もないとは思うが、しばらく瑞穂の様子にも気をかけておこう。
「一人で寝るのが怖いなら、一緒に寝てやるぞ?」
「もう、バカ!」
「うんうん、それでこそ瑞穂だ」
出来るだけ怖がらせないように冗談交じりにバカなことを口にすると、少しではあるが調子を取り戻したようだ。
すると姿は見えないが、明らかに匠であろう声が階段の方から聞こえてくる。
ホント、心配事とは無縁のやつだよな・・・・・・。
「じゃあうるさいやつが来たから、席に戻るわ。あんまり一人で抱え込もうとするなよ?何かあったら言えよな」
俺の一言に瑞穂はうなずき、ありがとうと口にする。
その言葉をしっかりと聞いて、俺は自分の席へとつくと、先ほど見せてもらったメールを思い出す。
何かまでは分からない・・・・・・けれど、どうも引っかかるものを感じる。
「何だろうな、この違和感──」
──そんな気持ちを他所に、今日も学園のチャイムが鳴り響いた。
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