1-8 それぞれの放課後

「亡くなってるって・・・・・・マジですか?」


「うん、一カ月前に遺体が見つかったって・・・・・・。ほら、今日の朝もニュースで流れてたよね?どうも、その子だったみたいで──」


「確か学校の校庭で見つかった被害者ですよね?」


そのニュースについてはよく覚えている。

事件が起こった町自体は双海市のさらに横に位置する桜峰(さくらみね)で起きた。

こちらも当初は噂されるほどに話題に上がった事件だ。思い返してみると、ここ最近の惨殺事件が起こり始めたのは、ひと月前くらいからだった気がする。

それ以前にも同じようなことがあったのかもしれないが、少なくとも神月から近い町では何もなかったはずだ。

その辺りから同様のチェーンメールが流行りだしたという書き込みもされていた。


「詳しいことは言われてなかったが、その被害者も酷い死に方だったとは聞いたな。どんな状況だったのか聞いたほうがよさそうだ」


先輩は顎に手をやりブツブツ言っているが、聞くとはいったい・・・・・・。

まさかこの人、一カ月前のことについて調べようとしているのだろうか。


「え~っと・・・・・・先輩の情報源は一体何なので?」


匠が戸惑いながら先輩の言葉に突っ込む。

うん、お前の言いたいことは分かるぞ・・・・・・この人の情報網はどうなっているのか──。

匠をここまで戸惑わせられるのは先輩と茜くらいだろうな。


「ところで姫川先輩たちはどうしたんです?部活ですか?」


瑞穂と茜、汐里の姿がないことに三上が質問を掛けてくる。


「ああ、三人なら友達に捕まってるから来れないと思うぞ?あいつらは友達が多いからな~。それに加えて下級生や上級生にも人気があるから、廊下を歩くだけで視線を集める存在だ。だから次から次へと話しかけてくる生徒が後を絶たん。この前、ファミレスに集まれたことは奇跡といってもいいぞ?」


「ほんとだよね。あなた達も気が気じゃないと思うけど──」


「えっと、気が気じゃな・・・・・・ん?」


四条の言葉に俺たちが?マークを作るのをみて、新聞部の面々は苦笑いを浮かべる。

何か変なことでも言ってしまったか・・・・・・。確かに長い付き合いでもあるので、変な男に捕まりでもしたら闇討ちをしなくもないな、うん。


「姫川さんと日立くんは幼なじみなのよね?小学校から一緒なの?」


「いや、俺と瑞穂は赤ん坊のころから一緒だよ。母親が高校のころからの友達らしくてね、それで家族ぐるみの付き合いになって、いつの間にか俺らも高校生だ。時が経つのは早いね~」


俺は溜息を吐きながら、宙を見上げると、椅子に深くもたれ掛かった。

まあおかげで両親が海外に転勤しているという学生にとっては、のびのびと自由に過ごせる最高の状態にも関わらず、瑞穂が何かと世話を焼いてくるもんだから普通の生活になっているのだが・・・・・・。


「このまま話を続けたいところだが、もうすぐ昼休みも終わるから教室に戻ろうじゃないか。話の続きはまたということで!」


先輩の声の後に時計を見ると、あと五分で昼休み終了のチャイムが鳴ろうとしている。

掲示板の書き込みについては、一カ月も前のことだし、本人が亡くなってるとなれば話を聞くのも不可能だろう。

被害者の友人に様子を聞くとしても、探すのに骨が折れるし、桜峰までは電車で行ったとしても時間が掛かるため、休日を利用するほかない。


「それじゃ教室に戻ろう。今日の放課後は自由時間みたいだし、のんびりさせてもらおう」


純が一息つきながら椅子から立ち上がり、ドアの方へと歩き出す。

今日は休息日ということで、放課後はどの部活も休みの日になっている。

部活生にとっては週に一回のリフレッシュ日ということもあって、友人たちとそれぞれの時間を過ごすことだろう。


「じゃあのんびりがてらモールにでも行って服でも見ようぜ~。そんで今話題のパンケーキを頬張る!」


「女子かよ・・・・・・まぁ、仕方ねぇからついてってやる」


仏頂面で乗り気じゃないようにしつつも、ちゃんと付き合うあたり良いやつだよなと毎回思う。

さて、これは俺もついていくことになりそうだ──。





◇◆◇◆◇◆◇





とある町近くの山中──白鐘 伊吹は周囲の様子を伺っていた。

これといって何も目立つようなものはないが、近くに古ぼけた洋館があるくらいだろう。

遠くから様子を見る感じでは、人が住んでる気配はない。気になるところといえば、廃墟にしては綺麗すぎるといったぐらいだろうか。


「これといって異常はなさそうだな。連絡では弱くはあるが反応を検知したって言っていたが・・・・・・ん?」


白鐘は人の気配を感じ、茂みの中へと隠れると、声のする方へと視線を向けた。

数は七人といったところだろうか。全て女性の声のようだ。


「ねぇ、ほんとに行くの?」


「ここまで来て何いってんのよ!観念しなさい、観念!」


「町中からそれほど離れてない場所に、こんなところがあるんだね。有名になるのも分かるかも──」


高校生だろうか、数人の女の子たちの姿が見てとれた。その中には見覚えのある少女たちもいる。


(あれ?彼女たちは確か──日立くんの友達じゃないか。こんな所で何を・・・・・・)


そこには瑞穂、茜、汐里の三人が他生徒たちと一緒に歩いていた。

どうやら女生徒たちが向かっているのは、古ぼけた洋館がある方角のようだ。

つい一時間程前にも、同じ方向に向かっている別の者たちを見ている。


(有名な場所なのか?調べようにもこんなに人の出入りが多いとな──。次の機会にしよう。とりあえず今のところは問題なさそうだしな)


白鐘は見つからないように、そっと静かにその場を離れるのであった。





◇◆◇◆◇◆◇





「美味いぞ、これ!食うか?」


授業が終わり、ショッピングモールへとやって来た俺たちは話題のパンケーキ店へと来ていた。

まぁ食べてるのは匠だけで、俺と純はコーヒーを飲んでるだけなのだが・・・・・・。


「いや、いいよ・・・・・・とりあえず落ち着いて食え」


周囲を見回すが、この場には俺たち以外、全員が女性客ばかりだ。

たまにクスクスと笑い声が聞こえてきて気恥ずかしい・・・・・・。

こういう場所でも、匠はいつも平気な顔をしている。変なところで度胸があるんだよな、こいつ──。


「お待たせしました!こちらイチゴとバナナのデリシャスDXパンケーキになります!」


「パンケェェェェーーーーーーーーキ!!」


「うっせぇ!!!」


やたらと時間が掛かるなと思ったら、十枚くらい重なったとんでもない大きさのパンケーキが運ばれてきた。

それを見て、ナイフとフォークを手にホイップクリームをつけた匠が絶叫するのを俺が止める。

食い切れんのか、これ・・・・・・。

そんなことを考えていると、携帯の着信音が鳴り始めた。画面には白鐘からのメールが表示されている。

そこには瑞穂たちを見かけたと書かれていた。そういえば学校を出るときに、オカ研の連中と歩いているのを見たのを覚えている。

どこに行くかまでは知らないが、まあ問題を起こしたりはしないだろう。


「どうした?」


純がカップに口をつけながら聞いてくる。


「ああ、白鐘からだよ。どこでかまでは書いてないけど、瑞穂たちを見かけたってさ。オカ研の連中と行動してたみたいだけど、どこで何をしているのやら」


「茜と水科もいるんだし大丈夫だろ」


「そうそう、大丈夫大丈夫!ところで、純。茜は下の名前で呼んでるのに、汐里ちゃんのことは名字で呼ぶの何でなんだ?」


「何でって・・・・・・普通のことだと思うが?それをいうと姫川のことも名字で呼んでるぞ?」


唐突な匠の問いかけに、純は狐につままれたような顔になる。そりゃ普通のことを聞かれりゃ、そんな風にもなるわな。


「あ、そっか・・・・・・いや、何でもない。忘れてくれ・・・・・・」


匠は苦笑いをしながら質問を撤回する。純は相変わらずの?マークだ。

やっぱり本人は汐里がどんな気持ちを抱いているのか気づいていないようだな。

これはちゃんと協力してやらねばな・・・・・・先は長いぞ、汐里。


「ふぅ~、美味かった。さて!次はゲーセンでもいくか!」


あの量をマジで平らげやがった・・・・・・。

俺は驚愕しつつ、残りのコーヒーをゆっくりと飲み干した。

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